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Qub  作者: ソノ
《サキヤミエリア》編
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Q12 邂逅②

 あてが外れたかもしれない。

 

 こういう路地裏には隠れた昔ながらの喫茶店なんかがあったりするはずだと、意気揚々歩いてきたのだが、ほとんどがシャッターを下ろしている状態で、本来あったはずの健全な生活臭が荒廃しているような気がした。


 ひと昔前はこの辺りも活気があったのだろうか。

 そう考えるだけで侘しい感情が芽生えてくるから嫌になる。

 

 ――このまま進むべきだろうか。

 

 久形くがたはいつも知らない土地で店を探す際には勘だよりになる。

 携帯で調べることも当然あるが、こういった地方での探索になるとやはり自分の足で稼がないと実りある結果にはなかなかならないというのが久形の持論だった。

 

 もう少し行ってみようか。

 

 望み薄だが、ここまで来て引き返すのも体力的にしんどかったし、しゃくだったのでとりあえず進んでみることにした。

 

 路上には缶ビールの空き缶や煙草の吸殻が散乱していたり、ブロック塀には「自衛官を求む!」と書かれたポスターがほとんど破れかけていたり、スプレーでアートや罵詈雑言、卑猥な言葉が吹きつけられていた。

 

 ――だめだこりゃ。


 もう引き返そうか、やっぱり。


 するとだ、黒猫がひょこっと現れた。

 丸々と太っていて全く鳴こうとはせずに、ひたすらじっと久形を睨んでいた。

 

 ふてぶてしい奴だなと思いながらもその猫の醸し出す独特な空気感は嫌いじゃなかった。

 

 猫がのっそのっそと歩き出した。


 久形も妙に気になりついて行きたくなった。



 猫の歩く速度に合せていくとだんだんイライラしてきた。このままだと送迎車の時間に間に合わなくなってしまうのではないかと徐々に不安にもなってきた。

 早々にひと段落できる場所を探さなくてはいけない‥‥。


 そして救いと驚きは一変にやってくる。


 レトロな雰囲気漂う久形好みの喫茶店が目の前に現れた。


 「三つ葉の珈琲館、クローバー」という看板を見つけて、腹立つ黒猫に感謝してやろうとした矢先、久形は目を疑った。


 喫茶店の前を歩いていく見慣れた女性を見つけたからだ。


 それはまさに彼が本日お会いする予定の女性だった。


 「あめさん‥‥」


 「真宵まよいあめ」とはキャスト名である。

 当然彼女の本名は知らなかったが、あの幼い顔立ちと小さな体には似つかわしくないふくよかな胸。

 

 そして何よりあのちょこちょこした可愛い動き方。


 間違いない、間違うはずがない、惚れているのだから。

 

 久形はしばし狐につままれていた。

 


 ‥‥意識がどこかへ飛ばされていたのだろうか。

 久形が再び現実に目を向けた時にはもうここまで案内してくれた猫の姿もなく、彼女との距離もかなり離れてしまっていた。

 

 なにゆえ彼女がこんな場所に?

 モンシェールクレアにいるはずでは?

 見間違えか?

 いや、それはない。自分が見間違うはずがない。

 

 疑問に疑問が積み重なっていき、久形はおかしくなりそうだった。


 そうこうしているうちにあめさんはこの路地の先まで辿り着き、右に曲がって姿が見えなくなってしまった。

 

 久形は慌てて携帯で時刻を確認する。

 

 確かにまだ時間はそれなりに残されていた。あめさんの出勤時刻から計算してもまだ違う場所にいても一応は辻褄が合う。

 

 久方は手土産の袋の中身が割れないように気をつけながら、彼女のあとを追い始めた。

 ちなみ袋の中身は彼女が欲しがっていた電動ハンドブレンダーセットだった。


 

 **********************************

 真宵あめさんこと、垂水寝たるみねしとねは上手に距離を取りながら尾行を続けていた。


 すでに男は路地先の右手に曲がっており、あとはしとねがどうするか――。

 

 《これ以上は危険かもね。右に曲がってどんなことが待っているやら》


 しとねはブロック塀に肩を寄せて、覗き込むように曲がり角の先を窺った。


 《え、まじで‥‥?》


 体が硬直していくのがわかって、彼女は息を呑んだ。

 ややして慌てて覗き込んだ先へ駆け出した。


 路地裏の先にはブロック塀しかなかった。


 行き止まりだった。

 そしてここにいるはずの男はいなかった。壁には「ゴミの不法投棄はやめましょう!」とうたったポスターがほぼほぼ色褪せていた。


 《しまった、また余計な好奇心が‥‥もう!》


 この場所に踏み入れた時点でしとねは尾行の手順を最後の最後で誤ってしまったのだ。


 そう気づいた時にはもう手遅れだということも彼女にはわかっていた。


 ありえないことがよく起きるのだ、そういう深みに嵌る際には。

 

 男は立っていた、しとねのすぐ後ろに。

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