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Qub  作者: ソノ
《サキヤミエリア》編
12/80

Q11 邂逅

 結果的に「三つ葉のクローバー」は大当たりだった。

 

 まず何と言ってもコーヒーが最高だった。アイスコーヒーをしとねは頼んだのだが、点滴式の水だしコーヒーで、酸味とフルーティさが凝縮されていた。

 爽やかでいて深みのある味。

 

 シロップも自家製でフレッシュもちゃんとしたミルクを提供しているところも見逃せないところだ。

 

 しとねは思う。

 近頃の喫茶店やカフェはシロップとフレッシュに対して誠実さが足りないよねと。


 アイスコーヒーはブラックで飲む人も多いだろうけれど、ちょっとシロップを入れるとよりコーヒーの味がわかるようになるからお勧めなのに。

 でも市販されているものではダメで、グラニュー糖から作ったシロップでなければ意味がない。


 手間は少しかかるかもしれないが作り方は簡単なので、ぜひその手間を省かないでほしいのだ。


 しとねは強く思う。

 本当にそれだけでアイスコーヒーの概念が変わって可能性が広がるのに!と。

 

 小腹も減っていたのでミニホットケーキも注文したのだが、これも当たりだった。

 ふわふわで昔ながらのホットケーキを踏襲しており、トッピングされている生クリームがこれまた自家製で、雑味のないほどよい甘みが美味だった。


 メニュー表を見ればそれ以外にも魅力たっぷりなラインナップが揃っていた。


 厚切りトーストでサンドされたベーコンエッグサンドやふわふわ卵焼きサンド、明太子カルボナーラ、ドリンクだと淹れたてのエスプレッソから作るアイスカフェラテや生フルーツを惜し気もなく使った特製ミックスジュース、などなど。


 《くわあああ、これは通い詰めねばならん》

 しとねはすでに次回何をオーダーするかシュミレーションを始めていた。

 

 店内とマスターの雰囲気も抜群だった。


 ドアを開けるとほっこりするような懐かしさとレトロな奥深さもあり、広々とした空間に安心がもらえる。


 マスターも必要以上には語らず、もくもくと一人で調理から接客までをこなしている。

 他に店員はいないのでモーニングの時間帯はてんやわんやでマスターも機嫌が悪くなるらしい。


 ぜひその時間帯も訪れたいとしとねは思った。

 

 店を出る際、スタンプカードをもらった。

 十回来店するとランチがなんとタダになるみたい。

 

 しとねはまた崎邪見さきやみ温泉へ来る目的が増えたことにご満悦で店を後にした。


 *******************************

 

 天国から地獄、ではないが、途端に恐怖が芽生えたらどうだろうか。

 

 せっかく至高のコーヒーのおかげで幸福感に満たされていた心身が、いきなり悪寒と冷や汗に苛むことになることほど不幸せなことはないのではないか。

 

 しとねは口を尖らせたまま深く息を吐いた。

 

 《あーもう、何で視界に入っちゃうのかなあ。しかも超ド級だよ、レベル‥‥》

 

 店を出た瞬間、しとねの目の前を男が通り過ぎた。


 長身で痩せ形、長髪で見え隠れした目は見開いていて、飛び出すのではないかと懸念するほど血走っているように見えた。

 

 しとねには昔から不思議なチカラと体質が備わっていた。

 

 チカラは簡単にいえば超能力というやつだった。


 具体的に何ができるかって?


 例えばライターくらいの火を一瞬起こせたり、氷が二個作れたり、軽いものを数センチ動かす、など本当にささやかな気配り程度のことしかできない。


 しかも一日に一回しか使えなくて、使うとものすごくお腹が減るから絶対使わないことにしている。

 

 一方で体質を説明すると、危険察知能力というか、危険人物かどうかが見てわかる。

 その基準は人に危害を加えるかどうか。


 そういう人間に出会ってしまうと彼女は背筋から体全体に冷たい電流が流れるような感覚に襲われる。それは決して見た目で判断しているわけではなく、第六感が反応するのだ。

 それはほぼ100%的中してしまう。


 過去にも彼女が恐怖を覚えた人物たちは全員あとで何かしらの傷害事件を起こしていた。

 中には殺人事件になったケースもあった。

 

 だからしとねには確信がある。

 

 私の目の前を歩いていったあの男はきっと何かをしでかす。

 いや、もうすでにしてしまっているかもしれないと。

 

 ――しかも、この体の震え方に汗の量からして、かなりやばいね‥‥。



 男は路地裏の奥へと向かっていた。

 これ以上あっちの方向に行っても何もないように思えたが‥‥。

 

 《些細な好奇心ほど厄介なものはないんだから》

 

 気になると、とことん追い求めたくなるのも垂水寝しとねの体質なのかもしれない。

 

 あんまし近づかないようにね、ちょっとだけだから。

 

 しとねは男の後ろ姿をおそるおそる追い始めた。

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