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Qub  作者: ソノ
《サキヤミエリア》編
10/80

Q9 散策

 最愛の猫もろみは家でお留守番。

 

 出ていく時、無愛想な表情のままちょびっとだけ名残惜しそうにしとねの足に寄り添う姿がたまらない。

 

 垂水寝たるみねしとねはモンシェールクレアに向かっていた。

 

 歓楽街の入り口まで続く、この長い国道を愛車で走っている時間が彼女は好きだった。徐々に近づくにつれて強まっていく昂揚感もたまらないのだが、国道を挟んで両脇に点在する老舗旅館や飲食店、もしくは商店などを横目で確認していくのが楽しみだった。


 露天風呂付きの宿や美味しそうな居酒屋などが多くあるので、行ってみたいのだがなかなか予定が合わずで、「いつかは訪れたいしとねリスト」に店名が増えていく一方だった。

 

 中には巨大ダルマに出会える露天風呂付きの旅館「輝夜館かぐやかん」と、鴨と和牛の専門店「たけとり」には絶対に行きたいと思っている。

 あとは地元で九十年以上続いているとされるジンギスカン専門店「しろくまちゃん」というお店も捨てがたい。

 

 しとねはお酒が大好きで、特に日本酒をがばがば飲む。休みの日なんかは一日中飲んでいる時さえあるくらいだ。最近はそれが原因で体重が増加傾向にあるためか、ジムに通うことは怠っていないのだが、それでは不十分になりそうなので抑えないとなあと思っている。


 ちなみにワインも二本開けるくらいの酒豪なのだ。

 ワイン片手に自分で大量に揚げた鶏皮をひたすら食べるのが至福の時だ。


 「思っているだけだけどねえ」と、しとねは軽く息をつく。

 

 体型は今の彼女にとってはキープしないといけない大切な任務である。

 モンシェールクレアのキャストとしてあり続けるためには。


 

 ともあれ今日は全力を出し切れる最高の一日が始まるわけだ。

 

 しとねの出勤開始は午前11時30分からなのだが、まだ午前9時前。

 今日は少し早めに到着するようにしていた。


 理由はモンシェールクレア周辺の探索だった。他にどのようなお店や見どころがあるかどうかをリサーチしたくなったのだ。


 あわよくば素敵な料理屋なんかがあれば帰り際に食べられるし、足湯なんかがあれば出勤前に血行を良くできるんじゃないか、そう思い立ったわけだ。

 

 モンシェールクレアの裏手にある関係者専用の駐車場に愛車を停めたしとねは、改めて自分が所属している建物をまじまじと眺めた。


 外観は中世ヨーロッパの建造物のような雰囲気を全面的に押し出しており、名画にも描かれているような天使たちが壁面や入口の柱に彫られている。


 また中に入れば世界が一転し、アジアンテイストな内装になる。

 床や壁が落ち着いたブラウン色で、証明も白熱灯のランプシェードが自然な暖色を作り出し、店内に木のぬくもりを演出し、高級感溢れる空間へと導いてくれる。

 微かにエスニックなお香と静かに流れている民族音楽のような音色が来店する男たちの勇み込んだ気持ちを心もち穏やかにしてくれる。

 

 しとねは口元を緩めて、むふむふと誇らしげに口ずさんだ。

 

 まだ出勤まで時間はある。

 よし、存分に徘徊しようじゃないか。


 

 モンシェールクレアや他の店舗が建ち並ぶ歓楽色が最も集まっている場所から離れて、しとねは国道沿いを歩いてみることにした。


 この辺りは駅前に比べて殺風景な感じだった。手入れされていない広大な畑やすっかり風化した看板などしかなかった。

 建物もあまり見当たらず、国道にはひっきりなしにトラックや車の往来が繰り返されている。

 

 このまま進んでいっても駅に着くまで何も無さそうだったので、しとねは思い切って逆側の通りに渡って何やら怪しげでごみごみした路地裏に入ってみることにした。

 

 そこは閉店した中華料理屋にスナック、カラオケ店が建ち並んでいた。人が住んでいるのかいないのか、それすらもわからないような人気のない通りだった。

 

 《失敗したかな》

 

 しとねが落ち込みそうになった、その矢先にレトロな喫茶店が現れた。

 看板には「三つ葉の珈琲館、クローバー」と書かれていた。

 

 《四つ葉じゃないんかい!》

 

 しとねは頭の中でハリセン片手につっこんだが、そういうのは嫌いじゃなかった。


 それに彼女のグルメ勘が言っていた、「このお店は当たりだよ」と。

 

 むふむふと頷き、彼女は店に入った。

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