プロローグ ご褒美
歪なほど暗がりに溶け込む赤のライトが部屋全体を怪しく輝かせている。
部屋はそれほど広くはないが、大きな拘束器具や椅子、あるいは足枷用具、目隠しアイテムなども完備されている。
店の部屋数は全部でニ十あり、こういった趣向がなされているのはここだけだった。
この手の演出は好みが分かれるようで、見にくいから嫌だ、気持ち悪い、といった意見がある一方で、エキゾチックでいい、非日常を味わえて最高!という意見も半数はあるようだ。
垂水寝しとねは裸のまま大きなベッドに仰向けになって、天井に張り巡らされた鏡に映る自分の姿を見つめていた。
現実なのに、現実じゃない感覚に襲われる。
欲求に抗えない人が見る夢の中に迷い込んだのかしらとも錯覚してしまう。
そして横には同じく裸一貫、肩で息をしている顔なじみの男性客。
よく見ると額から汗が噴き出ている。
夏だから、汗かきには辛い季節だろう。でも満足げに微笑んでいる。そういう男性の表情を見ていると、しとねは嬉しくなっちゃうのだ。
天井に映る裸男女の光景。
しとねは思う。
うーん、なんて恥ずかしい、でも幸せ。
彼女にとってこのひとときが何よりのご褒美なのだ。