レディ・コップ
「昔の刑事ドラマの『正しいことをしたかったら偉くなれ』ってセリフも、マジで偉くなろうとしたら正しくないことをしないとって、皆んなで笑ってたらしいっすよ?」
超エグいっすというのが、江古田の川口市での外国人問題への感想だ。東京都内での外国人問題の話題に対して、埼玉県警への芸術的なスルーパスだった。
「いや、その皆んなって誰よ」と、それに三島がつっこむ。
「敗戦後の日本の占領統治に、アメリカのGHQだけじゃなく、連合国、西側も東側も、いわゆる三国人を利用していたからね。二十一世紀になっても、特別永住者が存在することや、特別永住者から日本国に帰化できていることなんか、どっちも異常だと思うよ」と、三茶はプレーリードッグのような歯を見せた。
「いくつも名前を変えられる通名なんて、名前の違うパスポートを何冊も貸金庫に預けている映画のスパイそのものですよ」という三島。
「そこで貸金庫に繋げますか。……秘密の貸金庫にアクセスするのは、同じスパイか、財産目当ての宗教団体や反社というのもありですか?」と御茶ノ水も乗っかった。
「インコ真理教の公証人役場の事務長を拉致監禁した事件も、その大田区の役場にあった公正証書の原本をすり替えようとしたことでは、貸金庫の盗難と同じ構図だしね。江古田」
「広島の警察署でも、八千万円消えたらしいっすから」と、三島の攻めを軽く躱した。
「広島もなあ。外地からの引き揚げ者、復員兵だけじゃなくて、東京大空襲や、広島、長崎の原爆での戸籍乗っ取りや、登記関係のおかしな話が多いからね。『犬神家の一族』なんて、その話そのものだよ」と、三茶は窓際の椅子から立ち上がった。
「イギリスの植民地支配は、中国人やインド人を間に入れたり、グルカ人傭兵を使ったり、人種・民族・宗教の対立を利用して行われてきたわけ。そうして行われた欧米列強の植民地支配が、今の世界の国境線になっているんだよね」
そして、三茶は、壁際の本棚から取り出した二冊の本を両手に掲げた。
「ちょうど二十年前に初版が発行された『エコノミック・ヒットマン』の初版の副題が、この”途上国を食い物にするアメリカ “で、大幅に加筆された第三版の副題が、こっちの”米中の覇権が交錯するグローバル経済のダークサイド”なわけ。
要するに、中国の一帯一路政策は、アメリカの政策の焼き直しなわけ。中国は、アメリカよりもいい条件を提示しているだけなの。それが空手形になるかどうかは、世界貿易戦争で、中国がアメリカに勝つかどうかというだけでね」