表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

大統領の検視官

「先週号の中庸公論見た!? マーティン・マクフライ事件のアメリカ陰謀論否定と、外田飛車夫の矮小化の記事! 売文新聞の傘下に収まってからは、CIAのプロパガンダの垂れ流し! 嗚呼! 大正デモクラシーよ、何処!」


 叫びながら部室に飛び込んできたのは、外国語学科ロシア語専攻三年の三島桜。その踊りださんばかりの喜びように、御茶ノ水、三茶、江古田の三人は呆気にとられた。


 大日本帝国科学大学人文学部外国語学科ロシア語は、敗戦後、ハルピン学院の学生・教職員を受け入れる形で設立された。東亜同文書院と愛知大学の関係と同様だ。


 三週間前の核ミサイル発射のシーケンスの大切り(大喜利)大会では、旧ソビエト・ロシアのネタで場を盛り上げていた。


「三島先輩。……どしたんすか?」


 ロシア語部門の設立以来、関係の深い警視庁公安部からの内々定がでている三島に、江古田の腰は低かった。一種ヒラメのようでもある。


 (しかし、いつ見ても「ハルピンパイセン」とはえらい違いだな……)


 御茶ノ水は、ハルピンパイセンこと三茶を見やった。三茶の「ハルピン」は、『涼宮ハルヒの憂鬱』というライトノベルが元ネタらしいが、よほどのオタクでなければ御茶ノ水の世代には通じない。毎年毎年生まれてくる新しい作品だけでも処理しきれないからだ。


「江古田クンはどう思う?」と、小さな頭に大きく見える三島の縁なしメガネが光った。


 『マーティン・マクフライ事件』とは、一九七十年代に発覚した、アメリカの航空機製造会社のマーティン・マクフライ社製大型旅客機の受注をめぐる世界的な大規模汚職事件。西ドイツ、イタリア、日本、オランダ、サウジアラビア、イランが関与した。


 『外田飛車夫』とは、事件当時、現職の民自党衆議院議員で、元総理大臣、最大派閥外田派の領袖(りょうしゅう)だ。受託収賄と外国為替及び外国貿易管理法(外為法)違反の疑いで逮捕された。国民的人気のあった叩き上げの党人政治家だった。


「……JFK大統領の暗殺事件文書も死人に口無しで、非公開の間に書き替えられたと思うわけよ。その点、大晦日の目黒の外田邸の炎上は、マーティン・マクフライ事件の証拠隠滅というわけ。……まあ、外田元総理クラスになると、マーティン・マクフライ事件なんて、小さな事件になるかもしれないけどね」


 三島は、江古田の「よく知らないっス」を受けると、立板に水とばかりに喋りだしていた。


「……いや。三島先輩の陰謀論。ヤバくないっすか?」


 押され気味の江古田が少し仰反ると、三島が鼻を鳴らした。


「江古田はさぁ。『首富倶楽部』って、バブル時代の少女マンガは知らないと思うけど。……ヤバいのよ、これがまた。女子高の上級国民の生徒会のお話なんだけど、警察庁長官の娘が、広域暴力団のトップの娘とか、カルト教祖の娘とズブズブなわけよ。……わかるでしょ。なんとなく」


「……ヤバいっすね」と、江古田が答えた。


 これが陰謀論じゃなきゃ、何が陰謀論だという話は、大なり小なり何処でもある。


 兵庫県庁舎の建替え一千億円を巡るクーデターからの兵庫県知事選挙。そして選挙結果を受けての県議会での百条委員会が、いま一番注目を集めていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ