巻き貝の家
地中海の巻き貝のような、
かわいた粉っぽい、
すこし不純なグレイがかった白色の部屋があった。
出窓から、
うらうらと微力の日光が差している。
そして、昼下がりに朝食の残り香がするような、
曖昧に濁ったばつのわるさがずっとある。
かちかちと鳴る時計も、
バルコニーの雨ざらしのガーデンテーブルも、
興醒めしたようにただ存在し、
幼いころの私が、
呆けた顔をして立っている。
おとなの人は、7頭身だった。
私は、上を向いても首あたりまでしか見えなかった。
彼らの発することばは、神秘的な怪異のようで、
ちいさい脳内でめちゃくちゃに変換されて浸透してきた。
おかあさんの作るこうちゃは、
冷めていて不思議なかおりがした。
後々、このかおりがなんのかおりだったか思い出せず、
センチメンタルな気持ちと焦燥に駆られることになるのだろう。
おかあさんが、
サーモンピンクのえぷろんを翻していなくなると、
また部屋が粉っぽくなる。
白い天井が、壁が、
劣化したわごむのように、いまにもぼろぼろと降ってきそうだ。
地中海の巻き貝のような、
かわいた粉っぽい、
すこし不純なグレイがかった白色の部屋があった。
無知と諦観の波打ちぎわに、打ち上げられた巻き貝に、
私は
子供に戻れない、ゆえんを見た。
夢うつつ、あるいは熱にうなされたとき、
私はほんとうにこの家を見ます。