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本編

数年前、ラエラ国の皇太子が病により急死した。当時第二皇子であったユンロン皇子が皇太子となり、王宮内も安定し穏やかな時間が流れていた。


「スグリ。今日も来ていたのか」

穏やかで優しい声が前方にいる少女に届いた。

「ユンロン様。はい。父と」

ゆっくりと振り返り深々と頭を下げた。長く美しい髪が動きに応じて揺れる。ラエラ国第一皇子・皇太子ユンロンとラエラ国一の将軍の娘スグリ。

「陛下はヨギ将軍をとても信頼されている。ゆえに何かあるたびにお呼びになる」

少し困ったような表情をうかべ、腕いっぱいに抱えている書簡に目を落とし、ため息をついた。

 「その書簡は……」

不審そうにスグリは書簡に目を置く。政事に関するものではなさそうだ。

「妃候補とされる者たちから皇太子への文だ。目を通すのがやっとで、返事どころではないが」


皇太子となり、政事に携わる事が多くなり妃を選ぶどころではない。また、現在一部の官吏から様々なことで不満が出てきているため、対処をしなくてはならない。様々な理由をつけて妃選びを後回しにしているのだが。少し疲れたように笑うユンロンをきづかう。


「お体にお気を付けください」

スグリの言葉に深くうなずき自身の部屋へと戻っていった。後ろ姿に少し苦しくなるスグリだった。


 少し疲れた表情をしているラエラ国国王。ともにいるのはヨギ将軍だけ。

「タオロン様のおっしゃることもまた一理あるとは思います。皇子として国の軍に興味をもたれるのも分かります。しかし……あまりお勧めはいたしません」


現在第二皇子であるユンロンの弟皇子・タオロン。国境警備を視察したいと王に願い出たようだ。タオロンはいつも、兄にとってかわって皇太子になる機会をうかがっている。しかし、ユンロンのように武芸に秀でているわけでない。政にも興味をしめしていない。ただ支配者となりたいだけなのだ。ユンロンとタオロンは全く似ておらず、どちらかといえば問題を起こすのはいつもタオロンだ。


「スグリをつけます。陛下、御心配なさらぬよう」

将軍の言葉に力なくうなづいた。


 タオロンの国境警備の視察に同行することになったスグリは心なしか曇った表情をうかべていた。比較的安全な場所を選んではいるが、ここ数日国境付近で見慣れない者の姿がいくつか確認されていた。

「森や湖に囲まれている為、他国から侵攻は少なく、大規模な戦闘が行われることはありませんが、山賊や少数による攻撃はときおり受けます」

現地の監督を任されている将兵が丁寧に説明している。一通りの案内が終わり、用意された部屋でタオロンがくつろいでいると。

「騒がしいな。確認してこい」

スグリは音もなく姿をけし、近くにいた将兵を捕まえた。どうやらスグリの不安は的中してしまったようだ。

「タオロン様。確認できるかぎりではありますが、50人ほどの山族が門の前にて戦闘態勢であるとのことです」

スグリの報告に立ち上がり、剣を腰に帯びた。

「実戦をこの目で見られるとはな」

うれしそうに外壁へと向かった。


 スグリたちが到着したころには、戦闘は始まっており矢が飛び交っていた。どうやら目視できないところに伏兵がかなりひそんでいる。報告よりも人数がいるのかもしれない。タオロンを囲むように戦うスグリたち同行者。

 一時間ほどの戦闘。

 被害はほとんどなく無事終わると思い息を付いた瞬間。タオロンの叫び声が響いた。振り向くと肩に矢が刺さり苦しむタオロンの姿があった。スグリは目を疑った。矢をタオロンに届かぬように全て剣で払いのけたというのに。

「スグリ。お前の方から飛んできた矢だぞ。どうしてくれるのだ」

痛みで顔をゆがませながら大きな声でどなった。

「申し訳ございません」

何度も繰り返し頭を下げる。

「王宮にもどったら覚悟しておけ」

他の同行者の手をかりながら部屋へと戻り治療をうけた。傷はあまり深くなく、跡もほとんどわからないようになるという診断だった。


翌朝。

「こんなところに来るのではなかった。すぐに帰るぞ」

あわただしく用意をしていると、一人の兵士がスグリに声をかけた。

「少しお時間いただけませんか」

兵士の震える声にだいだいのことを察した。

「タオロン皇子のお怪我のことですが。……あれは御自身でされたものにございます。折れていない矢を見つけ……。他の同行されている方もご覧になっていました」


一介の兵士が密告のようなことをしたとなれば、タオロンはただではおかない。


「お話くださりありがとうございます。このことはこちらで……」

うなづき兵士は持ち場へともどっていった。今回の視察に同行しているものはスグリ以外みなタオロン側の官吏。スグリ一人が騒ぎ立ててもどうにもならない。


「ツヅキがいてくれれば」


声に出てしまうほどに、ツヅキを求めていた。暗い気持ちで砦を後にすることとなったスグリは、ユンロンや父に迷惑が掛からないことだけを祈っていた。


「よくもどった。報告は受けておる。怪我の具合はどうだ」

王宮ではタオロンの帰りを待ちわびていたかのように国王とユンロンが出迎えた。

「ご心配をおかけいたしました」

申し訳なさそうに頭をさげるタオロンの肩に王の手が置かれる。

「スグリ。そなたのことはヨギ将軍に任せてある。さがれ」

冷たくわずかに震えているユンロンの声がスグリにふりかかる。

「申し訳ございません」

ひざまつき首をたれた。けして顔を見ることも見せることもせず屋敷へと戻った。


 屋敷に戻ると父親のヨギ将軍がまっていた。

「報告はうけておる。このたびはごくろうだった。しばらく屋敷からでぬように」

言い残すとすぐに背を向けてしまった。

「申し訳ございませんでした。父上にご迷惑を」

「すまないとおっしゃっておられた」

父親の予期せぬ言葉に驚き、唇を強くかみしめるスグリ。こらえるようにうつむきヨギの横を通り過ぎ自室へといそいだ。

自室には、スグリの側近であり第一の部下ツヅキがいた。

「おかえりなさいませ。部隊に問題はございませんでした」

今回ツヅキに隊のことをまかせ同行していた。

「わかった。今日は疲れた。誰も通すな」

すっと通り過ぎ寝台に腰かけた。音もなくツヅキは部屋をあとにした。


「ユンロン様……」

小さく震えつぶやいた。あの日に誓ったこと。守れていないのはスグリのほうだ。


「兄上の死により私が皇太子となる。……タオロンを頼めるか」


病弱だったが、優しく聡明だった亡き第一皇子。当時スグリはユンロンの許嫁だった。スグリのことも妹のようにかわいがっていた皇子は病床でユンロンに後を託していた。王妃が将軍の娘。父親は王の側近にいる。ヨギ家だけに恩恵が集中するのではと貴族が不満を言うのは目に見えていた。


「私はタオロン様の許嫁になりとうございます。あの方を止められる鞘に」

言動・素行が悪いタオロンは何かと問題をおこし、皇太子になろうと必死だった。タオロンが王の器ではないことは陛下も気づいていた。第三皇子から第二皇子となったことで一歩皇太子の座に近づいたことになる。何をするかわからない。スグリにできることをする。それはユンロンを守るために。

「すまない。……そなたのことを守ると約束したのに」


優しく穏やか。品行方正、容姿端麗。武芸にも秀でている。聡明で臣下・民からの信頼があついユンロン。スグリはタオロンの許嫁となれば地位も確保され続ける。愛しい存在を手にすることができなくとも、守ることができればそれでいい。と言い聞かせている。


それに、タオロンのことだ。形ばかりの夫婦になるだろう。スグリは傷つかない。

「ユンロン様。どうか、あなたの思う良き王とおなりください。私は一兵士として、お仕え申し上げます」


 ユンロン様を守るため。この方の思う未来のため。けして私は負けてはならない。より強く。この方の刃となるために。


「まったく兄上もなぜあのような戦うことしか能の無い者を好むのか。見たであろう。生き生きと闘う姿を。まったく。野蛮だ」

自室で部下に投げかける。

「タオロン様のおっしゃるとおりにございます」

部下の同意に満足そうに笑う。

「父上が将軍を信頼されているからあの娘を許嫁にしてやったのだ。身分に合わぬことだというのがわかっていない。許嫁だからと口うるさく、あとをついてくる。これで少し顔を見なくすむ。……そのうちここから追い出してやる。慕う兄上とともにな」

低い声で笑い、酒をあおる。

「私こそがこの国の王になるにふさわしい」

タオロンの笑い声が王宮に響いた。


 三日月が輝く。曇りのない空。月明りだけで手元がたりるほど。優しく風に木々が揺れる。

ヨギ将軍は一通の文を書いていた。

「借りを作るのはあまり好まぬが致し方あるまい。あの子を守るためにも」

この国を守るあの方のためにも。と小さくつぶやいた。

目を伏せ老兵が静かに動き出す。


 スグリは屋敷から出ることは許されず、自室か隣接されている鍛練場で一日を過ごす日々が続いた。心を落ち着かせるため体を動かす。目に見えない敵を想像し、右・左と動く。流れるような動きに部屋の隅で見ていたツヅキは息をのむ。

 どんな戦場であれスグリを見つけ出すことができるのは、この戦闘とは思えない体の使い方が目立つためだった。あまりにも独特であり、男であるツヅキがもっていないしなやかさから生まれているものだ。見慣れたもののはずでも息をのむ。

「落ち着かれないのは分かりますが、めったにいただけない休暇だと思ってお体をお安めください」

息をつくスグリに進言した。

「わかっている。……しかし、体を動かしていないと嫌なことばかりが頭を駆け巡る」

少し震えている手を握りしめている。苦しそうにもがく主に何もできない自分に強くこぶしをにぎり、かたわらに居続けるツヅキは誰よりも苦しそうだった。


王宮は騒がしかった。刺客が立て続けに現れたのだ。どれもユンロンを狙うモノばかり。

「皇太子の警護を増やせ。警備を怠るな」

陛下のげきが飛ぶ。前皇太子は病でなくなったが一部では毒をもられてのではないかという説もあり、再び皇太子を失うことは民を混乱に陥れるやもしれない。王宮に緊迫した空気が流れていた。

「山賊の件もまだ片付いていないというのに」

攻撃されたのは隣国であり大国でもあるイチョンに面した砦。森・険しい山脈の為めったに攻撃されることのない場所だった。故にタオロンの視察場所になったのだ。なぜあのような場所で。どこからやってきたのか……。



ーーーーーーーーーー

 いつものように鍛練場で稽古をつけていた。ガタと扉は開き老人が入ってきた。

「父上。どうされましたか」

一人の若い男が駆けよる。

「リュイシン。そなたには前もってこの文を読んでいてほしくての」

一通の書簡を差し出す。

 ここはラエラ国隣国イチョン国。王トウ・シュイライの統治のもと流通の要として大きな影響力をもつ大国だ。

 王から絶大の信頼をうけているのがこのリュイシンと呼ばれた若き将軍。

 ソン・リュイシン。

 イチョン国の由緒ある将軍家の次期主。父親に促されるまま書簡に目を通す。読み進めるうちに表情が険しくなる。

「……なぜこのようなことを我々が」

文を送ってきたのはラエラ国の将軍ヨギ・トカク。

国境の森や山、湖をうまく活用した戦法で国を守り続けている敵国の将軍。

「わしとあやつは旧知の仲じゃ。何度か危ないところを助けてもらってたこともあった。互いに貸し借りをしあったのう。あまりあやつはわしをたよりにはせんなんだがな」

懐かしむように笑う。

「互いに前線を子に託してからは会うことも文のやり取りもなくなっていたが……。久々に届いた文がこれじゃ。おもしろいと思わんか」

いたずらっ子のような笑みを浮かべる老人に深くため息をつく。

「まあ。ラエラと手をつなぐのも悪くは無かろう。あの自然の要塞。我らにはない戦術を用いておる。国境警備が大変な我が国からすれば学ぶことも多々あるであろう。それに最近動きがうるさいしの」

おかしな動きを把握していることを盾に、まともなことをいって息子からの痛い視線をさける。

「旧友からの久しぶりの文。貸しをつくろうということですか。そのような個人的な思いに国を巻き込まないでください。父上。我らだけで十分」

厳しい言葉に肩をすくめる。

「王にはわしから話をしておく。そなたには重大な役回りを与える故心してかかれ」

言い残すと鍛練場を後にする父親の背中を見つめ、ため息をついた。

「せめて面白いことがおこればまだ割に合うと思うのだが……」

面倒なことに巻き込まれたと嫌そうな表情をしている。


ーーーーーーーーーー


 スグリが謹慎となってからどれほどたったのだろうか。一日屋敷にいる為感覚がおかしくなっていくのを感じながら、鍛練場に通い続けていた。相手役はツヅキが務めていたが、仕事ゆえ屋敷にはおらず、一人でゆっくりと体を動かしている。

「スグリ。入りますよ」

落ち着きのある声がかかる。

「母上」

動きを止め、一礼する。にこやかにほほ笑む女性。スグリとどことなく似ている。

「落ち着きましたか。ここばかりではなく屋敷の他のところにも足を運べばよいのに。本当に殿によく似ている」


年頃の娘が好むような色鮮やかな着物を身に着けることなく、動きやすさのみを求めた簡易的な衣服。戦場を意識し一日を過ごす一人娘に困ったように微笑む。傷だらけの体。なかなか授からなかった待望の子が、己が戦うすべを手にする必要もないのに、兵士となる事を選んだ。

 自分が守りたいと思うものを守るために。

 スグリはとっさにいつもの小言がくると身をこわばらせた。謹慎しているのだからこれを機に戦うことをやめろと説得されるに違いないと。しかし、実際は違った。


「自分が守りたいと思うものを自身の手で守る事はとても難しい事。そしてとても素晴らしい事。ちゃんと守れているの? 守るために自身を犠牲にすることは間違っている。それは守れたとは言えない。自分も守る事が本当の意味で『守る』という事よ」

凛とした声が響く。

そっとスグリの頬を撫でる。慈愛に満ちた母の顔から将軍の妻の顔へと変わっていた。

「なすべきことは分かっていますね」

厳しく道を示す。

「はい。母上」

すっと一礼する。


 私のなすべきこと。それは、何があろうとユンロン様の味方であり、民を守る事。そのためにすべきこと。それは。


「私が私であることを示し、おのれのしたいことを明確とする。何があろうと目をそらすことなくすべてを受け止める。私が選んだ道で何が起ころうと、何が待っていようと」


 臣下がせわしなく動き回っていた。隣国より使者が来ることになったのだ。急なことである。準備に多くのものがかりだされていた。スグリも警備として、出ることになっている。

 謹慎がとかれたのだろうか。

 久しぶりの仕事。担当はツヅキだった。

「スグリ様には当日、この場所をお願いしたく」

そういって示された場所は、主賓席だった。

「将軍より、ここにせよとのことにございます」

少しばかり表情が暗くなるスグリ。

目立つ場所だ。

できれば隅のほうがよかった。周りの目もある。

「わかった。ほかには。」

不満を声に出さないように少し高めの声でこたえる。

「いつものようにとのことです」

変わらないツヅキ。

「責任者はお前であろう。指示を」

あくまで自分は何も口出ししないということを明言しておく。担当がツヅキであるということは上に立つということ。従うが道理。

「……では。もうお戻りください。この場でお伝えすることはもうありません。詳細は後程いつものように」

少しばかり震えているように感じる声色。表情はなに一つをして変わっていない。幼いころより感情を殺していたため今では、何を考えているのかわからないほどに表情が動かない。

一呼吸置きうなづいた。きびすを返し、指示を出すツヅキに少し寂しさを感じながら屋敷へと戻った。


 ユンロンは怒っていた。


これから起きるであろうことに。

対面する陛下もいつも以上に困った顔をなされている。人払いを済ませる父親の姿にいつも漠然と不安を感じていた。自分が把握していること以外にも何かあるのではないかと。

「そなたも気づいておるだろう」

静かにつぶやく。そのことを否定したいかのように。

「私が把握していることをおっしゃってるのであれば。少々度が過ぎるかと」

前もって確認をとる。このこと以外のはずはないと思っているが、かみ合わなければいらぬ心配をかけさせてしまう。

陛下は複雑な表情を浮かべている。


タオロンには少し嫌気がさしてつつある。

血のつながりがなくともいつも丁寧に接してくれていた兄を思い出す。自分もそうなろうと心がけてきた。兄上の母君、正妃にたいしても。だから、スグリをそばに置かせていた。ちがう。そばにいてもらっている。すこしでもタオロンの動向を監視するために。


「今回の訪問、何らかの形ばかりの同盟を結ぶことになるだろう。あちら側も大国を相手にしておる。眠っていたものが起きたようじゃ。しかし、その同盟も宴で終わる。責任を取らされるのは……」

口をつぐんだ。


やはりと血が頭に上る。必死で抑え声を殺し息をゆっくりとはく。


「父上はそれでよいと」

自分でも驚くほど冷たい声だった。

自分で自覚している以上に怒っているのだと感じた。

「この方法はとりとうない。失いたくない者だ。しかしそうせねば、友人の大切なものを奪ってしまいかねない。……本当に王とは無力だ」

陛下の消えそうなつぶやき。ユンロンの前にいるのは一国の王ではなく、ともに歩み支えてくれた友人を思う、どこにでもいる一人の人であった。


 今すぐにスグリに会いたい。逃げてほしい。手放したこの手が憎い。自分の立場が恨めしい。押し上げる感情はどこにもぶつけることはできない。静かに呼吸に集中する。再び開かれた瞳にはわずかな悲しみを残し、月をうつした。その月は、あの日二人で見上げた満月だった。


使者が到着した。現れたのは若き将軍ソン・リュイシン。

「このたびは突然の訪問お許しください。少々込み入っておりまして」

にこやかにほほ笑む。対応するユンロンも同様にほほ笑む。

「遠いここまでありがとうございます。将軍の武勇、耳にしております」

「そのように言っていただけて光栄にございます」

にこやかに会話は進むが、お互いの目は笑っていない。静かに火花が飛んでいる。


「これからもよろしくお願いいたします」

「こちらこそ」

先ほどよりかはにこやかに杯が交わされる。スグリはその様子をこっそりと眺めていた。

「無礼者!」

とたんにざわつく場内をスグリが走り出す。

「どうされました」

兵士が一人の女性を囲む。体格のいい兵士たちが一人また一人と集まれば、女性の顔が悪くなっていく。

「もうしわけ、ございませ……」

青ざめてがたがたと震える女性をスグリはあわてて兵士たちを押しのけ近づく。兵士を一人つけ。

「こちらへ」

スグリが女性に声をかけ、宴の場内から宮中へと姿を消した。その姿をにやりと眺めている男がいた。

「何があった」

「この者が不用意に来賓の方々に近づいておりました」

「私は何も……」

「失礼します」

 軽く体をさわり、隠し持っていないのか確認した。

 特別何もない。給仕の一人だ。手違いを起こしたのかもしれない。

 何も起きていないが、念のためにそのまま兵士をのこし宴が終わるまでその場で、付き添うよう指示を出し、持ち場に戻った。

「申し訳ございません。おそばを離れてしまい」

リュイシンに頭を下げる。

「かまいませんよ。ヨギ・スグリ殿。貴殿のことはわが国でも噂に上がっております。とても腕がたつと。噂の通り迅速な動きでした」

少し意地悪そうな表情を浮かべていた。深く頭を下げた状態で、声をわずかに大きくした。

「リュイシン様にそのようにおっしゃっていただき光栄にございます」

少しいらだちを込めた声だった。

我ながらに子供のようなことをしていると自覚している。含みのある言い方にある人物を思いうかべてしまったからだ。

「他国の援助なしでは太刀打ちできなかった昔を思うと、ヨギ将軍にはとても感謝している。かの者がいなければ今も、自国の力で民を守ることができなかったかもしれない」

ユンロンがとても優しい表情を浮かべ、仕事をこなすスグリの横顔を見つめている。

リュイシンはスグリに以前から興味を持っていた。

女将軍ということ、ヨギ将軍の娘ということ。

想像を超えていた。同じ将軍として尊敬の念がわきおこっていた。それと同時に、手元に置きたいという感情も。

「確か。スグリ殿はユンロン殿の許嫁であったとか。今はタオロン殿の許嫁と。……お忙しいですな」

意地悪な笑みを浮かべている。自覚のある言い方である。スグリも気づき表情を抑えることに集中した。

「自分の立場をわきまえろ。ということであれば、何かを言われる覚えはありません。これはあくまで、わたくし自身の問題なので」

それでも声にだしてしまっていた。

自分のことを言われていたとしても、明らかに含みのある言い方に、ユンロンのことが浮かんできている。リュイシンもその言い方に気づいている。それさえも面白いと思ってしまうほどに興味がわいている。

「リュイシン将軍はいたくスグリのことがお気に召しておられるようだ。やはり、武を極める者同士なにか感じるモノでもあるのだろうか」

ユンロンの声。

穏やかな声でその場の空気がかわる。


「今日は皇太子殿下のご様子が明るくかんじるな」

「とても穏やかな表情をされておられる」

臣下たちがその様子に安堵している。


その声をききながらユンロンにおどけたようにリュイシンが問いかける。

「ユンロン殿がとても晴れやかなご様子が珍しいようですな」

「ここしばらく政で動き回って、大忙しでしたね。こうやってゆっくり食事ができるのもリュイシン将軍が参ってくださったおかげだ。宴ではあるがゆっくりすることができる」  

お互いにこやかな笑みを浮かべている。とても穏やかな時間になっている。

スグリは時折、ツヅキと目を合わせる。何かあれば、誰よりも先に動く。そのためにも、最も信頼することができるツヅキとのつながりが大切である。


 順調に宴の時間が過ぎていく。何事もなく。舞が始まった。幾人かの女人が現れる。中央で舞をまう美しい女性。あれは。

「どこかで見たことが」

小さくつぶやく。リュイシンはその声を聴きていた。少し意識して踊り子を見るようにした瞬間。

短刀がリュイシンめがけて飛んだ。

「止めてくださり、感謝する」

短刀が落ちている。ツヅキがすでにとらえ、身柄を確保していた。

「私は、その女に命じられて行ったまでだ。この宴を失敗に終わり、戦とするために」

わめく女の言葉に、ざわめく。より強くツヅキが抑えこむ。

「わたくしは何も、存じ上げません。ユンロン皇太子。私は何もしておりません」

武器を手放し、頭を垂れる。思っている言葉を素直に伝える。

それしかできない。

しかしそれで十分だと思った。ユンロンになら伝わる。この場にいる大半の臣下にはわかるはずだ。


「黒幕が簡単に名乗り上げるわけがないだろう」


タオロンの声が響いた。

「お前は自分の立場を考えて、誰か用意した。この企てが成功しようと失敗であろうと、同盟はなくなる。それが目的であろう」

あざ笑うように言い放つ。

「そうして戦を起こし、自らの地位を高めるためであろう」

「私なら、こんなにも簡単に黒幕を話すようなものに、おのれの企てなど頼まない」

立場など関係なく答える。タオロンが絡んでいることは確かだと確信した。だからこそ、ユンロンが巻き込まれていることが許せない。許してはいけない。

「そういって、自分で自分を関係者から外していると考えることもできる」

見下した目をむけている。

何をいっても自分を追い出したかっていることが伝わってくる。へたに逆らっても上げ足がとられるだけ。それで終わってしまう。だまるスグリにあざけ笑うタオロンの間にツヅキが割り込んだ。

「タオロン様。スグリ様はこの同盟に関する規定もなにもお知りではありません。戦も好む方ではありません。許嫁であるタオロン様であれば、スグリ様がどのような方がご存知のはずです」

目を合わせないように頭をさげている。

「よく知っているとも。先日の視察のとき、嬉々として山賊と応戦していた。私がけがをしていることにも気づかないほどにな。許嫁のことぐらいよく知っている」

ケガを負った腕をさする。冷たくツヅキを見下ろし、笑った。

「そなたも、共犯か。自分の仕えるモノがすることならもちろん一番の側近であれば、知っていたであろうな。すべて、おぬしらの自作自演か」


ツヅキまでも巻き込まれている。


「タオロン。口をつつしめ」


叫んでいた。

「この女が言っていることが嘘であろうと真であろうと、関係しているのは私のみ。私の部下を巻き込むな」


自分の未熟さに腹がたつ。

託された思いをかなえることもできない自分が嫌だ。自分を信じ、そばに居続けてきたツヅキを愚弄するなど許さない。


「ユンロン様。私をとらえ、調べてください。この件について、調査するよう指示を。タオロン様が納得されるまで、ここにいるすべての臣下が私の無実を確信するまで、お調べください」

スグリの言葉に、唇をかみしめ、答える。

「そうしよう」

ユンロンの声が響く。これでいい。

「場を壊すようで申し訳ない」

リュイシンの声が割り込む。

「この状態でわかることは、狙われたのは私だ。そして、実行犯はその女。黒幕とされているものがスグリ殿」

確認するようにゆっくりと。

「ならば、私にすべて一任していただけないでしょうか」

ざわついた。タオロンが目をみはる。ここでリュイシンが入ってくることなど考えていなかったようだ。

「どういうことですか。リュイシン将軍」

ユンロンは比較的落ち着いている。知っていたのだろうか。表情が違って見える。

「そのままですよ。私に一任し、彼女の処分を私が決めるのです。あなた方に一切の口出しはさせません」

にこやかにほほ笑んでいる。有無を言わせない微笑み。

「リュイシン様。それは。それはいくらなんでも」

スグリの目が見開く。自国で起きたことである。いくら被害者が他国の将であっても、この問題をまかせるわけにはいかない。私の問題を持ち帰らせるわけにはいかない。そんなことをすれば弱みとして使われてしまいかねない。

 この将が弱みとして漬け込んでくるようなことはしないと思うが。

「被害者である私が決めて問題があるのですか」

ゆっくりと立ち上がり腕をつかみ、胸にだきよせる。突然のことで驚きされるがまま。

「このままもらっていきますか」

次の瞬間、担ぎ上げられた。ツヅキが声を荒げる。

「ふれるな」

短刀を首に構える。

「ますます私の国に持ち帰りたい案件になりましたね。このようにあなたを思う部下がいるということは、あなたをかばいかねない。公平なものにはならないでしょう」

冷たい目で見降ろす。二人の間に静かに火花が散る。

冷静をとりもどし、ストンと一回転し着地した。スグリが自ら捕縛から逃れた。

「やめろツヅキ」

短刀を下げる。刃にスグリの手が触れる瞬間にツヅキが短刀を片付けた。一歩ゆっくりとさがり、頭を下げる。

「……リュイシン様のおっしゃることはわかりました。申し訳ありません。疑いをかけられている私が口を挟むことでは、ありませんでした」

スグリも頭を垂れる。そのまま部下にスグリを連行させる。

「丁重に扱うことを願います。彼女が濡れ衣であった時、そちらの問題となりますので」

 ユンロンの言葉にふっと笑って。

「承知した」

 その会話を背中に。

「ツヅキ。父上をお願いします」

すれ違う瞬間つぶやいた。

ツヅキはひざまづく。

その後ろ姿を見ることなくうつむいたまま。

門のそばで深々と頭を下げる。ユンロンに向かって。


その姿にけして敗北はなく、ただ凛としていた。


胸の苦しさと引き留める言葉を押し殺し、リュイシンに別れの言葉をかける。

「この件はこちらも調べさせる。リュイシン将軍」

深く頭を下げる。

「このようなこととなり申し訳ない」

リュイシンはにこやかにほほ笑んだ。

「かまいません」

頭をあげさせる。二人の間にやわらかい空気が生まれる。それまでの張りつめた空気がすこしだけ緩んだ。臣下たちも安堵の息をはく。

その光景にツヅキは違和感を持っていた。まるでこの流れが作られていたかのように。二人の間にのみ流れているもの。ふと将軍が文を出していたことに気づいた。そして将軍とソン将軍もまたつながりがある。

馬に飛び乗り宴の場を部下にまかせ屋敷に戻る。

「スグリは逃れたのか」

将軍のその言葉にツヅキはすべてを理解した。

すべてはタオロンの行為とかぶせ、スグリを国外に出すための一芝居であると。理解し怒りを押し殺した。


馬に飛び乗る。少し一人になりたかった。


理解したうえでこれが最善であることもわかっていた。だからこそ。なにもできない自分にいらだっていたのだ。無意識に以前の呼び方をしそうになる自分は、動揺してしまっていたのだ。スグリも気づいていた。だから屋敷でしか呼ばない父親といったのだ。気を使わせてしまった。それが何よりも嫌だった。


「姫に迷惑をおかけすること。不必要な気を使わせることだけはさけたかったのに」


自分がふがいなかった。歯がゆく、情けない。

気が付くと国境付近まで馬を走らせていた。


 拘束はされなかった。国の中にいる間は国民に知られないように配慮されていた。

ユンロンがそう願ったようだ。

配慮一つ一つがまるでスグリを守っているようだった。

スグリが戻ってくることができるように。

そうユンロンは願っていた。

そして決意していた。

スグリがこの国で将として、一人の国民として暮らすことができる国とすることを。スグリが守ろうと思うに値する国にすることを。それがスグリにはどこまで伝わっているのか。


「お前は本当に大事にされているな」

くだけた話し方になっている。

リュイシンはスグリを気に入っている。同じような種類だと。そしてとても惹かれていた。話に聞く程度での認識でしかないにもかかわらず。

「部下を見ればわかる。ツヅキだったか。あれはとてもいいな。あれくらい上官を慕い、信じてくれる部下が俺もほしいよ」

ぼそっとつぶやいた。

「ひどいですよ。我々だってあなたをとても尊敬しています。まあ、今回のようなことがもしあなたにおきたとしても、かばうことはないと思いますが」

そばにいる男どもがわらう。

この言葉の心意をスグリはよく理解できた。

かばうまでもない。信じているからこそ。帰りをただ待つのだ。

ツヅキの信用も信じている。

彼があの時前に出たのは、単純に自分がまだ未熟だから。弱いから。まだ守られる立場にいるのだ。ツヅキにとってスグリはそうなのだ。それに痛感した。

「国についたら、ひとまず屋敷にきてもらう。あまり国でも大ごとにしたくないからな。それに、この同盟について俺が一任されているから。この件も俺しだいだ」

リュイシンの言葉をちゃんと聞くことなく、遠ざかる祖国に目を向けていた。


 国についた。

特に騒ぎ立てられることなく、国内を通りすぎていく。聞こえてくることは。

「お嫁さんつれさってきたの?」

というものだった。

国民一人一人がリュイシンのことをとても身近に感じていることがわかる。慣れたように話をしていく。

スグリはただ見ているだけだった。

国が発展していることはわかる。時間が遅いわりに、人が多く、とても賑わい、明るかった。

国土としても、生活形態としても、まだまだスグリの祖国は遅れていることが感じ取れた。

流通の要となっている、こことは大きく違う。ほんの少しだけ、寂しく感じた。そして、もう二度と戻れないのではという不安が駆け巡った。一番怖いことだった。

「この屋敷の一室にいてもらう。特に監禁みたいなことも牢獄に入ってもらうとかしないから。部屋に基本いてくれればいい。あの襲撃はまあ大体検討はついているからな。証拠固めに時間がかかるかもしれないが」

リュイシンの言葉に疑問をぶつけた。

「なら私をここに連れてくる必要はなかったのでは」

リュイシンが困ったように笑った。

「必要はある」

それだけ答えた。


その言葉で、スグリは理解してしまった。あの襲撃を利用し、私はあえて祖国から出されたのだと。


今、自分が国にいることがまずいことになっているのだと。気づけていなかった自分が愚かで恨んだ。こんなにも自分は使えないのか。

屋敷の中をついてあるく。スグリに割り当てられる部屋は屋敷のなかでも奥の部屋のようだ。屋敷の間取りを頭にいれていく。どこに出口があり、どこならでていけるのか。

「兄様。おかえりなさいませ」

一室から少女がでてきた。ほそく、今にも消えてなくなりそうなほどはかなげな少女。

「ああ。少し騒がしかったかもしれないな。休んでいるところを起こしたか」

優しい声色。

確かに横になっていたのだろう。長い髪が乱れている。そっと髪をすくい上げるしぐさがとても様になっている。ふとスグリの存在に気づき、頭を下げる。

「ご挨拶が遅れ申し訳ありません。リソンと申します」

礼儀正しく、少し高い声。スグリとは正反対の、将軍の娘。

「ヨギ・スグリと申します」

深く頭を下げる。

「妹ですよ。もしよろしければ話し相手にでもなっていただけたら」

「何をおっしゃっているのですか兄様。私のようなものにお時間をさいていただくなど」

恐れ多いと首を振る。二人の会話がつづく。仲がよいようだ。年はスグリと大差ないように見える。二人の間を抜けるように、スグリは部屋に通された。

「ここがお部屋となっております。基本的ここにいてくだされば」

部下の言葉に静かにうなずく。そして思い出したように続けた。

「大ごとにしたくないっておっしゃってたので、たぶんこの国にいる理由がいろいろでっち上げられると思います。まあ、乗っかってください」

言い残し、さっさと姿を消した。


いい部下であると思った。リュイシンに対してとても敬意を持っている。それは盲目的なものではなく、確かな確信があるといったもの。

私も彼らにとってそうであったのだろうかとふと振り返る。

真っ先に浮かぶのは、ツヅキだった。幼いころからそばにいた。いつも私の一歩後ろに。それが嫌だった。私はツヅキと対等でありたかった。けれど。それはツヅキに私の横に立ってほしいというものではなく、私がツヅキに追いつきたかったのだ。何があっても、私を守り、導いてくれた。


「失礼いたします」

その声に我に返る。聞き覚えのある声だ。

「はい」

姿勢を正すと、リソンだった。

「ごめんなさい。先ほどはあのようなことを言いましたが、ほんとは、お話してみたくて」

かわいらしい子だと思った。リュイシンに似ている。

「いえ。私でよければ」

同じ将軍の娘でも真逆である。リソンは守られて咲く華。スグリは戦って咲く花。同じ「はな」でも両者の咲き方は違う。

「兄様がスグリ様の事をいつもすごい方だと」

スグリの顔が曇る。高い評価はうれしい。しかしこんないたいけな少女に話すようなことはスグリにはない。

「高い評価、たいへん光栄にございます。ですが」

言葉を濁す。土のにおいと花のにおいがする。きっとこれは花を摘みに行ったにおいだろう。スグリのような泥臭さとは違う。この少女にたいしてスグリのどんな話をしたんだろう。

「兄様は、スグリ様のように強く、聡明でお美しい方は他にはいないと」

一つ一つの言動が優雅だ。口元を隠しながらほほ笑んでいる。

「戦術にもたけていらっしゃる。無駄のない戦をされると。それによって兵士の命も守られていると」

嬉々として話をしている。どうやらリュイシンの話をきくのが楽しいらしい。自分の戦いの総評。

 このような可憐な女性に話すようなことではないのだけれど、とスグリは思いながら。母親が望む姿はこうだったのかと思う。

「お屋敷の中は見られましたか? 兄様の指示で鍛錬場が隣接してあるのです。といっても。兄様の部屋に直結しているので、そこに入ると必ず兄様が顔を出されます」

「入られることがあるのですか?」

「ええ。兄様の隊の方が使用される際に案内するために。使用許可は基本いりません。皆様自由に使用されていますわ」

 スグリはリュイシンに対して親近感がわいてきた。

 鍛錬場。

 基本的に部屋から出ないようにと言われている。

 ましてや自分は、こちらに来た理由が理由である。他者とかかわること自体ないようにと決めていたのだが。

 スグリとしては体を動かすことができるのあれば、それを望む。そうすれば、頭の中を空っぽにすることができるから。


 スグリはとても穏やかに過ごしている。

 リュイシンと一緒であれば、街に出ることもあった。

「よろしいのだろうか」

「いいだろ。君にかけられているよくわからないものは、正直俺は興味がない。そちらの国の問題だ。こちらとしては同盟を結べなかったが、少なくとも、そちらが攻めてくるということがないのであれば、一方だけを見ていればいいからな」

 この国が気にしているのは、スグリの祖国の反対側にある大国。そちらからの侵攻の恐れがあるということで、同盟の話が出ていたわけだが。

「君と何度が手合わせをさせてもらったが。そちらが敵にならないことを心から願ったよ。まあ。君とあの部下が一番の手練れなのだろうけれど。それに準ずるぐらいの兵となるとさすがにこちらも困る。人数ではこちらが勝るだろうが、一人ひとりの能力の高さでは正直厳しいものがある」

 二人は何度か鍛錬場で手合わせをしている。

 スグリは他の部下とも手合わせをしているのだが。


「負けるとはふがいない」

 の一言である。

「無理ですよー。あの角度で飛んでくる蹴りはよけれませんって」

「お前たちまで負けたら、こちらの兵力がその程度だとなってしまうだろ」

「そうはいいますけど」

 そんな会話をしていた。


 スグリ自身、楽して勝てたわけではない。誰に対してもだが、一筋縄ではいかないと考えて考えて。

 勉強になっている。

「私の容疑はどうなっているのでしょうか」

「あ。これなんかどうだ?」

 スグリの言葉など聞こえていないのか。店先に出ている髪飾りを手に取って、スグリに重ねてみた。

「ああ。似合うな。なあ姉さん。これ色違いでほかにあるかい?」

「色違い? これになるけれど」

 そういって店主が出されたのは、飾りに使われている石の色が異なるもの。

「ううん。こっちのほうが似合うな。この色はリソンっぽいか」

 ぶつぶつ言いながら。

「両方買う。でこっちは包んでくれ」

 先に手に取った方を返し、二個目をスグリに差し出した。

「……これは?」

「リソンとおそろいになる。君が来てから、リソンが本当に楽しそうでね。君とは話があうようで、部下たちが姉妹みたいだと言っていた。兄である俺よりも君によくなついている」

 少し拗ねたような口調で。

「それにこちらに来たんだ。お土産だど思ってくれ」

 そういって髪飾りを束ねている部分に差し込んだ。

「ありがとうございます」

 少し戸惑いながらも、スグリは髪飾りに触れた。

 石の色は赤。スグリの色である。どこにいてもわかるようにと戦場では赤い布を腕に巻いている。


 スグリとおそろいであることに、リソンはたいそう喜んで。

「兄様がいないとお外に出られないのかもしれませんが、兄様は少し遠くにいてください。それで私ともお出かけしてくださいませんか? 髪飾りも髪もおそろいにして」

 飛び跳ねて、スグリに抱きついた。


 その夜。スグリは庭に出ていた。

「抜け出そうとしているのか」

 屋敷の構造も見張りの時間も習性も。全部頭に入っているスグリは祖国に帰るための準備をずっとしてきていた。

「リュイシン様は、私を罰するつもりはないのでしょう? 私がここに来たのは、祖国では私がいない方がいいから。私がいない間に事をすまそうとされている」

「わかってんならそうさせてやれよ」

「それはできません」

「なんで」

 振り返り、にっこりとほほ笑んだ。

「私が私であるためです」

 その表情と声は、とても悲しいものだった。

「そうか。……聞きたいことがある」

 リュイシンも庭に降りた。

「君の耳にはけして向こうの事を知られないようにしていた。部下たちに徹底していた。なのに君が知っているのはなぜだ」

 隠していた。

 スグリが国を出る必要性については気づかれていたしても。それが必要なことなら、賢いスグリの事だ。納得まではしていなかったとしても、ちゃんと全うしただろう。ここに居るという役割を。

 スグリの祖国では、スグリの一件を理由に、将軍家の地位をはく奪する動き。ユンロンを廃嫡する動き。タオロンの勢力の拡大。と事は起きている。といってもまだ机上での話。被害者は一人だけ出ている状態。

 ことが全部片付いたら、スグリが国に戻る手筈だというのに。

 スグリは笑みを崩さずに、髪飾りを外して、月にかざした。

「私は将軍です。祖国の事です。知っていてもおかしくないでしょう」

 髪飾りは赤く光っている。

「……あの子を使ったのか」

 リュイシンがスグリの胸倉をつかんだ。

「君を姉のように慕っていて、君との時間を本当に楽しんでいたのに!」

「世間話をしていただけです。拷問で聞き出したわけではありません」

「それでも! 自分が話したせいで、君がここを出ていく。それをあの子に言えと?」

「言わないでしょう。誰のせいでもありませんから。私は私の意思でここから出ていく。祖国に戻る。それだけ」

「……君を行かせるわけにはいかない」

 そっとつかんでいる手に手を重ねて。

「あなたでは私を止めることはできませんよ。あなたも私も。主人のために生き、主人のために武を習得したのですから。それ以外のために使うなどできない」

 そのまま手が離れていった。

「ありがとうございました。とても楽しかったです」


 スグリがそのまま屋敷を出て。

 森も山も谷も池も。

 全部抜けて。

「……ただいま戻りました」

 国境を超えた。


「侵攻が始まりました! 国境に向けて兵に動きが!」

 スグリが屋敷をでてすぐだった。

 リュイシンはそのまま。

「出陣の準備を」

「兄様……」

 不安そうな顔をしている妹に兄の顔に戻る。

「大丈夫だ。またいつもの日常に戻るよ」


 国境を超えた。

 その情報がツヅキの耳に入っていた。

「あちらも始まったのか。……あの方ならば問題はないはずだ」

 まるで言い聞かせるかのようにつぶやいている。

 ゆっくりと息をはいて。

「我らがスグリ将軍がいないなか。自分が指揮を執ってきた。将軍が戻られるまで、我らのすることはただ一つ。あの方が守るこの国の、この地を、この民を守ること。それだけだ。あの方が戻られた際に、不甲斐ないと言われないように」

 ツヅキの声が響く。


 あの方のようにはできない。

 あの方はいつも笑って、我らを連れて行ってくださる。


 自分にはできないと思いながら。ツヅキは言葉で伝える。

「皆に聞く。今。ヨギ家は立場が悪い。我らが当主は沈黙を貫いておられる。それに我々も倣うまで。だが。もし。ここにいるもので。当主にたいし不信感や忠義が揺らいでいるものがいるのであれば、ともに黙っている必要はない。自身の意思を主張せよ。それがここを離れることになったとしても。止めることはしない。それがスグリ将軍の考えだ。あの方は、いつだって我らを受け入れ、我らを尊重してくださった。故に。どの道を選ぼうと。あの方は受け止めてくださる」

「ここにおります」

「お帰りをお待ちします」

「ここをでてどこにいけと? 我らのあるべき場所はここです」

 飛び交う言葉に、ツヅキは手をあげて止めた。

「無粋な質問だったな。失礼した。謝罪する。……誰一人かけることなく皆であの方のお帰りをお待ちする」

 地響きのごとく野太い声が響き渡った。

「……あの子は本当に良い部隊を作りあげた」

「当主……」

 一斉に首を垂れた。

「ありがとう。これからもスグリを頼む。……不穏な動きは続いている。みな気を抜かぬよう」

 言葉をここで遮られた。

 馬鹿にでかい音が響き、門が破壊された。

「決起集会か? それはこちらに対する叛旗の準備か」

 タオロンが兵を率いて入ってきたのだ。

「これはこれは。ご一報くだされば、出迎えましたのに」

 いつの間にか、当主の側に奥方が出てこられ、恭しくお辞儀をしている。

「ふんっ。心にもないことを。修練場で集まり、野太い声で一致団結か? なんだその武装は? 貴様らはユンロンについているようだが、あれは廃嫡される。あれにつくということは泥船だ。こちらにつかないか?」

 一方的に話を始める。

 こちらの都合などお構いなし。いつだって自分勝手だ。

「我々は陛下の命にしたがうのみ。陛下よりユンロン皇太子の廃嫡について正式な発言は出ていない。口を慎まれよ。タオロン様」

「老兵が何を言うか。将軍の地位は娘にやっているのに当主はまだだったな。これを機に全て娘にくれてやったらどうだ? ああまあその娘はいないがな」

 スグリのことを話題にだされ、空気が固まっていく。

「あれは今ごろどうしているのだろうな。あの一件あれからこちらに報告は上がっていない。こちらも報告していない。切り捨てたのだろうな。もういらないと」

 全員戦闘態勢にはいった。

「ああ。あれが許嫁であったなど、汚点だな。そんなものを側に置いていたとは」

 汚点。

 その言葉が引き金だった。

「これ以上。我が娘を愚弄するな」

「口をつつしむのはどちらだ」

 そういって当主に向けて剣先をむけた。

「無礼だぞ」

 そういってにやりとわらって。

「この者たちをとらえよ。反逆者だ。違法者だ。敵だ」

 その言葉に、控えていた兵士たちが切りかかってきた。


 ヨギ家修練場はいくつかある。

 そのうち人里離れているところにあるのがこの場所。

 そこに集まっている。

 不穏分子として適当なことをいってまつりあげる。

 なんとも稚拙で、整合性のないことを。

 それを押し通すのである。

 勝てば、自分が正しいのだと言い切ろうと。

 だが。

 わざわざこの修練場を選んだのは、民の被害を出さないため。

 また、この争いを穏便済ませるため。


「ここならどれほど騒いでも、届きはしない」

 ツヅキは息をはいて。

「誰一人としてかけることなく」

 そう繰り返した。


「……そうか始まったか」

「陛下、ご決断を」

 タオロンがこれまでやってこられたのは、陛下が温情を持たれていたから。

 一度子を失うつらさを身に受けている陛下にとって、たとえ害をなすものであっても、穏便に済ませたかった。取りたくない方法だった。

 ユンロンがそうであるように。タオロンにも求めたのである。

 兄を支え、兄と共にこの国を導いてほしいと。

「タオロンを幽閉とする。以下のものをもってそう判断した。ユンロン。すまない。兄であるお前にこんなことをさせたくないが、皇太子として。我らが将軍を守ってくれ」

「……承知いたしました」

 二人の間に積まれている書類は全て、タオロンの悪行が記載されている。

 臣下への態度から、民からの不信感。スグリの同行した警備の場での自作自演。あの山賊たちもタオロン一派が雇ったモノ。宴の場もそうであった。女の刺客であれば、スグリが対応する。これまでの慣例にのっとればそうだ。だからこそ。二人で会話をさせる時間も、身体チェックで見逃したということにもできる。適当にそれらしい理由を付けられる状況をつくって。

 陛下からの信頼がもっともある将軍家を遠ざけ、文官を近づけさせる。自分の一派が陛下の眼にとまれば自分を押し上げてもらえる。

 穴だらけの策。

 けれど、証拠をしっかりと固め、有無を言わさない状況にしなければ、ただ部下がしたと逃げるであろう。そしてまた繰り返す。

 その間、スグリが被害にあわないように。

 この国一のスグリの信用がなくなれば、軍部の信頼はがた落ちとなる。

 なにより。

 ともに子を失う痛みなど味合わせたくなかった。


 ユンロンは急いで修練場に向かった。

 兵を引き連れようとしたが、軍部にはほどんど人が残っていなかった。

「……まさか」

 タオロンが連れて行ってしまっていたのだ。

 王命とうそぶき。ヨギ家を討つと。

 軍部のほとんどがヨギ家に恩を持っているが、すべてではないし、末端の兵士になると関わりもほとんどない。王命であれば逆らえないと従うのみ。

 それ以外は、脅迫まがいの手法で従っている。

 自身の。家族の。

「残っているもので、最低限だけ残しついてこい」

 ほんの数人だけ残し、可能な限り兵士を集め。

「大儀は我らにある。容赦はするな」

 そう激を飛ばした。


 ユンロンが付いた時。

 戦場と化していたが、ツヅキの部隊は誰一人として落ちてはいなかった。

 多勢に無勢と思われたが、質が違う。

 また、連携のよく取れている。

 場数が違う。圧倒的に差を感じた。

「ここに王命を預かった。タオロン。そなたを幽閉とする」

 ユンロンの声高らかな宣言に、一同手を止めた。が。

「そんなの嘘だ。耳を傾けるな。この男はあの娘と一緒になり、軍事に必要経費だと金をつぎ込み、他国の戦にかりだそうとしていたのだ。あの同盟はそうだ。あれは、そなたたちを戦力として派遣するためのものだ。他国の民のためにお前たちに死地へ行けといったのだ。それもこれも、あの戦いに狂ったように身を投じているあの女の願いだ。この男は将軍家のいいなりだ。傀儡だ」

 と好き勝手なことを言い。

「このものこそ、陛下に仇名す不届き物だ」

 剣先をユンロンにうつした。


 そこからは無駄な戦いだった。

 どう考えでもタオロンのほうが不利であった。

 確かに人数は圧倒しているが、大儀も名分も意味も意思も。何もかもぐちゃぐちゃで。わからないけれど戦わないと家族の命が。それが命ならばと。不毛な時間が過ぎていた。

 しかしいくら質も戦力もツヅキたちが上回っていても、疲弊はする。

「さあ押し切れ!」

 タオロンはそれを狙っていた。

 質よりも量なのだろう。

 気を失っている者にも戦えと蹴とばし、無理やり意識を戻させて。

 時間の無駄である。

 そう思いながらも、ツヅキたちは、死者を出さないように気をつかいながら戦っている。

「誰一人かけることなく」というのは相手も含めてである。

 スグリ直下の配下でなくとも。

 また適当なことをいってタオロンが集めたのだろうかと考え、頭を抱えたくなるユンロン。どこまでも軍部を馬鹿にしているのかと。

 処遇を考えなければとこの後の事にも施行を巡らせながら、ヨギ将軍の横についた。

「遅くなって申し訳ない。……陛下がやっと頷いてくださった」

「……つらい選択をされましたね。そのようなことを決断させてしまった。我々臣下にも罪がございます」

「やめてくれ。そなたが悪いなどありえない。さあ。奥へ。何かあってはそれこそスグリに顔向けできない」


「私がどうかしましたか」

 凛と響く声。懐かしい声。


「……どうしてここに」

「ユンロン様が何度も暗殺されかけていると聞きました。それをほっておけと? そんなことをすれば、私は私ではなくなります。……ご命令を」


 ユンロンたちに背中を向けた状態で、切りかかってくる兵士たちをいなしていく。


「……戦闘不能にせよ」

「承知いたしました」


 その命の通り、スグリは次々と兵士たちを昏倒させていった。

「姫!」

 舞うように軽やかな足取り。

 そして。

 赤い腕章。

 どれほど入り乱れていようとも。

 砂埃で視えなくなっていようとも。

 必ず見つけることができるようにとつけている腕章を見逃すわけがなく。

 ツヅキが駆け寄った。

「遅くなって済まない。みな動きがいいな」

 部隊の者に目を向けている。

「……お言葉を」

 そういった戦場でありながら、膝をつき、頭をたれた。


「命を受けた。みな命を落とすな。奪うな。そして」

 どれだけ怒号が飛び交おうと。

 この声だけは聞こえる。

 この声だけは届く。


「大義名分など考えるな。さっさと終わらせて、食事にしよう」


 この暖かさは伝わる。

 スグリの部隊はより一段と戦意をあげて。

 先ほどまでの時間が嘘だったように、決着はついた。

「なぜだ。……なぜ帰ってきた」

「決まっている。ユンロン皇太子が何度も刺客に襲われたと聞いた。ツヅキがいるのだ。成功するはずなどないであろうに」

「まだお前にあの一件は片付いてなど」

「終わっている。すべて片付いている。お前を陛下のもとに連行する。そのためにきた」

 そういって哀れみの視線を向けて。

「すまなかった。本当に」

「戻りが遅くなり申し訳ございませんでした。おそばを離れた事。お許しください」

 先にスグリが謝罪した。

 その様子にふっと笑って。

「構わない。おかえり」

 そう優しく微笑んだ。


 結論として。

 陛下の決断どおり、タオロンは幽閉。城下にと言われていたが、出したところで民に迷惑であるとなり、小さな小屋に幽閉されることになった。

 また、タオロンに手を貸した者たちも、一部地位のはく奪による城下への追放、一部降格となり臣下たちも一新された。

 茶番劇のような戦いに巻き込まれた兵士たちは。

 ヨギ将軍の口添えもあり、減給という形で終わったようだ。

 全てが終わり。

 国内のいざこざも片付き、落ち着いてきたところで。

「挨拶にきたいとのことだ」

 ソン・リュイシンが来訪することになった。

「こちらも無事おわってね。ラエラ国が背中をとるようなことがあれば、こちらは終わっていたよ」

 軽口をたたいているが、傷が見える。

「こちらの都合に巻き込んでしまい申し訳なかった」

 今回の来訪は友人のもとにきたという程度のものらしく、前回のようなおもてなしはない。食事をして和気あいあいと話している。

「妹に手紙を書いてくれ。会いたがっていたが、あの子は体が強くないから、ここまでくるのは怖くてな。姉に会いたいと言っている」

「……私もきちんとご挨拶ができておらず大変心苦しく思っていました。手紙出させていただきます」

 警護として同席しているのはスグリとツヅキだけ。

「で帰る前に一つ願いをいいだろうか」

「何でしょう。かなえられることであれば」

「そちらの者と手合わせをしたい」

 帰国の見送りの時に言いだされた。

 指をさした先にいたのは、ツヅキだった。

「スグリ殿の側近であろう? その腕前。確かめたい」

 

 こちらも結果として。

 決着はつかなかった。

 そもそも勝敗がつくと思っていなかったスグリが制限時間も設けたのである。

「お戻りの時間もあるでしょう。国境までは他のものが警護に当たりますが、超えてしまうと何があるかわかりません。遅くならないうちがよいと思いますので。長引かせないためにも」

 どちらとも手合わせをしているスグリだからこそ、そう言えるのである。

 そして制限時間により強制終了となった。

「ああ。終わってしまった。なかなかいいな。うちにこないか」

「……自分はスグリ将軍の部隊に属しておりますので」

 その返しに、満足そうに笑って、スグリの書いた手紙をしっかりと持って帰っていった。


「お帰りなさいませ」

「ああただいま。すまなかった。あと」

 そういって笑って。

「ありがとう」

 ツヅキの手をとって。

「私を待っていてくれて。彼らを守ってくれて」

「それが役目にございます」

 将軍の地位を賜ったあの日に二人できた場所。城下が見渡せる場所。

 ここで誓った。

 何があっても守ると。


「ツヅキ」

「はい。スグリ様」

「私と共に生きてくれるか?」

「側にいるとお約束いたしました」

「……それは部下としてだろ? 私はお前に伴侶として生きてほしい」

「……それは」

「恥ずかしいことに。こちらに戻る一番の理由がお前だったのだ。ユンロン様が襲われるとお前が必ず守る。それが当然で当たり前なのだが、怖いと思った。私の知らないところでお前がいなくなるのが」

「それはけしてございません。この命は姫のためにございます」

「その言葉どおり。私にくれないか?」

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