欠片
家に たどり着くための道を歩きながら
欠片を創っているんだ
手の平に乗るくらい 小さい欠片
あなたの壊れた欠片を 新しい一部にする
どんなに傷ついたって
どんなにこぼれたって
あなたは歩くでしょう?
たまたま 同じ道だったから
僕も たまたま この道だった
僕が先にいたけど 止まっていた時
あなたが後ろから来て
あなたの 動かない腕
動かない首 動かない肘
動かない片足 動かない目
亀裂の入った 心臓
砕けた時に 散った欠片を
拾うことさえせず 振り返ることさえなく
ひたすら
片足を引きずりながら 見える片目を開けて
震える鼓動に息切れして
見据えた前から顔を動かさず
歩く あなたに
何か 出来ることがあればと
大きなお世話だろう
こうした 一人で戦える人に失礼かもしれない
だけど同じ道だったから
僕らが歩く 破片だらけの道を歩いていたから
失くした欠片は 僕が創るよ
僕が横で何をしていたって
何回話しかけたって
あなたはこっちを見ずに歩くでしょう?
僕が 見向きもしないあなたの腕に触れても
あなたは気にもしない
隙間の出来た破損個所を 採寸する僕の手は
あなたに鬱陶しかっただろうけれど
振り払われはしなかった
同じ道を歩きながら
僕は 一つ また一つ もう一つ
破片だらけの道の あなたの横を歩きながらね
あなたの砕けた箇所に
新しい欠片を 創って
添えて 埋めて あなたの体の動きが楽になるのを
『楽そう』になるのを
見るのが 嬉しかった
家に たどり着くための道を歩きながら
欠片を創っているんだ
手の平に乗るくらい 小さい欠片
あなたの壊れた欠片を 新しい一部にする
まだ 一緒だね
まだ 同じ道を
決して振り返らない ひたすら歩くあなたは
いつの間にか 破損が減って
動きがなめらかになっていた
僕らは 同じ家に帰ると思う?
もうすぐ 僕は
辿り着いてもいいんじゃないかと思うんだ
僕は あなたの役に立てたかもしれない
欠片を創るだけだったけれど
僕は満足だった 僕は誰かのためになった気がした
人の形さえ残さないほど 崩れた僕が
惰性で歩いていた道に あなたが来てくれたことで
僕は 勝手に そう思ったんだろうが
僕が生きていていいんだと どこかで感じて
あなたの体に 欠片がピタリとはまるたび
僕は嬉しかった
繰り返して 僕は家が見えた気がするんだ
僕の目にはね
「僕の目にもだよ」
足を止めたあなたが 揃った両目で僕を見て そう言った
「家が見えるね」
僕らは 家の待つ道を歩く
初めて 互いの言葉を交わしながら
誰かのために
自分のために
生きている感覚が 通う
破片だらけの道が終わる
僕らの前に
休める家が
僕らの家だよ