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PAGE 5

 あれから、幾つばかりの愚痴と涙が、彼女からこぼれただろうか。何事もなく晴れた気持ちで、終われる日もあった。当然、雨の日もあった。

 初めて彼女が家に来た日から、今日でちょうど一ヶ月が経つ。契約が終了する日の今日。彼女は、ソファで何も考えてないような顔をしていた。


 笑っていたら彼女らしくない。泣いていたら、清々しく別れられない。彼女らしさを今のうちに、目に焼き付けておこうと思う。

 取扱説明少女ということも忘れるくらい、家に馴染んだ。彼女、は気分が良くなり、饒舌になることもあった。

 すぐにへそを曲げて、負の言葉をぶつぶつと喋り出すこともあった。おもてなしを無視することもあった。


 時計、車、薬、カメラ、買ってから一度も使ってないジューサー。などなど様々なものの説明を、彼女はしてくれた。

 取扱説明少女の取扱説明書は、出番は少なかった。しかし、彼女を知ることの出来るバイブルとして、それなりの効果を発揮してくれていた。


「セルフタイマーにしたいんですね? それならまず、カメラを起動して、上の方にあるスパナのようなマークを押してください」

 彼女と過ごした思い出の証を、スマートフォンのカメラで閉じ込めたい。だから、セルフタイマーにする方法を教えてほしい。そう彼女にお願いした。


 たぶん、これが最後の説明になってしまうだろう。楽しそうに説明をする彼女は、とても可愛かった。

 一人が好きで、一人で暮らしていた。なのに、自分では何も出来ていなかったことに気付いた。彼女のお陰で何か変われた気がした。


 もっと苦手なことに、挑戦しなくては駄目。彼女の説明に頼っていてはよくない。対処法は自分で見つけていかなくてはいけない。

 色んなことに気付かせてくれた、彼女の隣に移動して静止する。すぐに、ファンシーなシャッター音が鳴り響いた。


「お時間になりましたので、帰らせていただきます。一ヶ月間、どうもありがとうございました」

 ずっと聞き続けた常套句に、感謝の言葉が付け加えられていた。、なんだか変な感じがした。

 写真でも無表情だった彼女が、説明中でもないのに朗らかな顔をしている。彼女らしくないところに、ほっこりとした。

 【ありがとう、すてらさん】心の中でも身体の外でも、その言葉はまっすぐ前を向いていた。


「ありがとうございました」

 最後にぎゅっと、勢いよく抱き付いてきた。そんな彼女に、気難しさは一切なかった。少女という言葉が、似合う普通の女の子にしか見えなかった。



 分厚い取扱説明少女の取扱説明書は、引き出しの奥の方に、大切に大切に保管してある。

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