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「いやぁ、真由美(まゆみ)ちゃんが居てよかったよ!」


「また何処(どこ)か違う所に行っちゃったんじゃないかって心配したんだ!」とニコニコと笑顔を作りながら安堵の息を付いたのは、何故(なぜ)か急に現れたお義祖父さん。


お義祖父さん曰く、私達を送り出した後に、迷い込んでいない安心安全な2泊3日の異世界旅行をお義祖母さんと一通り楽しみ家に帰ったらしい。そして今日、近所のスーパーに大根やらクチナシの実やらを買いに行こうと歩いてたら気がついたらここに居たという……


というかお義祖父さん、クチナシの実とはまたレアな物を買いに行こうとされてたんですね……え、自家製たくあん?あ、はいそうですか。本当にたくあん好きですね。


「そういえば、大介(だいすけ)くんは一緒じゃないの?」


キョロキョロと不思議そうに辺りを見回しながらそういったお義祖父さんの言葉に、私は「実はかくかくしかじか……」と事情を説明した。((ちな)みに、お義祖父さんの台詞にあった”大介くん”とは夫の名前である)


それを聞いたお義祖父さんの第一声が「なんだぁ……真由美ちゃんも迷子仲間かぁ……」という、なんとも遺憾な内容だった。少しイラッとしたが、しかしその後にはにかんだように「でも初めての迷子仲間が出来て、心強いなぁ!」とヘラッと笑うその顔になんだか毒気が抜かれてしまい、私は「本当に、心強いですね……」と思わずつられて笑ってしまった。


「それにしても、お義祖父さんは一体どこから入ってきたんですか?」

「うーん、よく分からない」


「いっつもそうなんだよねぇ……気がついたら違う場所に居るっていう……」と言いつつ、2人してお義祖父さんが入ってきたであろう岩と岩の隙間に視線をやってみても、その奥は何も無いただの岩壁。

「お狐さん(お義祖母さんの事)がいうには、僕は時空の歪みに遭遇しやすい体質らしいんだけど……よくわかんないや」と困ったように苦笑するお義祖父さんにそういうものかと私は1つ頷いた。この家系の人間に深く突っ込むなどということは無い。


「まぁ、ここで待ってたらお狐さんか大介くんか……どっちかが迎えに来てくれると思うから、のんびりしてようよ」


危機感が全く足りないのほほんとしたお義祖父さんの姿に、よくこんな感じでこれまで生きてこれたなと思わず脱力してしまう。お義祖母さんが大切に(まも)っていたんだろうな。

しかし確かに彼の言うとおり、ここにいる私たちでは現状の打開は無理な為に焦っていてもどうしようも無い。


はぁあ……と大きなため息を吐いた私は、「……”しりとり”でもします?」と思いついたままに提案したのだった。






夫とお義祖母さんが慌てたように飛び込んできたのは、私がお義祖父さんをしりとりで”ま”攻めをしまくって彼が59個目の”ま”から始まる言葉を考えるのにうんうん唸っている時だった。


お義祖母さんの顔を見て、ハッと思い出したお義祖父さんが「マリモ!!」と叫んだことにより一瞬時が止まった。ピタリと立ち止まったお義祖母さんから立ち上る目に見えてヤバいオーラに、私はそっとお義祖父さんから離れて夫の元へと向かう。


「本にソナタという者はーーーー!!!」というお義祖母さんの怒りの絶叫を背後に聞きながら夫に近寄れば、無言でガバりと抱きしめられた。


なんだどうした、という台詞は震える夫の体に引っ込んでいった。代わりに出てきたのは「……心配かけたね」という当たり障りのない言葉だった。はぁああ……と大きなため息を吐いた夫が「2度も急に消えんじゃねぇよ……」と消えりいそうな声で呟きつつ、更に腕に力を込めた。


だいぶ心配かけちゃったなぁとポンポン背中を叩きつつ「なんだよ、私の事大好きかよ」と少しの照れ隠し気味にそう言えば、(しば)しの沈黙の後夫はそっと体を離した。それを少し残念に思ってしまい、私は思わず手を伸ばし掛けた。しかし、それよりも早く彼がぶっきらぼうに言ったのだ。


「……大好きに決まってんだろ、バーカ」


顔が一気に紅くなったのが分かった。


口から出るのは「は、ちょ、うぇえ!?」という、最早言葉になっていないもの。顔を背けた彼の耳も紅くなっているのが目に入ったと思ったら、まるでそれを隠すかのように勢いよくぐしゃぐしゃと頭を撫で回される。……いや、撫でるというか掻き回すというほうが正しいか。


後ろではお義祖母さんによる説教が聞こえる中、私たちの間には青い春のような甘酸っぱい空気が流れたのであった。




洞窟の中でお義祖母さんお義祖父さんと別れた私は、夫に導かれて地上に戻った。その道中に彼から聞いた話によると、お義祖母さん曰くお義祖父さんが意図せずにもこちらへと渡ったことで時空が歪んでしまい魔物が現れてしまったのではないかという事だ。そしてお義祖父さんが渡りきったことにより時空が戻り本来魔法が使えないというこの山の性質により、私が穴へ落ちる際に咄嗟(とっさ)に夫が使用しようとした魔法が弾かれ不発してしまったという……

天然トラブルメーカーは確実にお義祖父さんじゃない?


その後、怒れるお義祖母さんと夫により魔物は物理的に倒され私達をお迎えに来てくれたらしい。……そりゃそんな大変な思いをして第一声が「マリモ!!」だったらお義祖母さんが怒る訳だ。お義祖父さんどんまい。


地上では顔を真っ青にした少年神官が居て、私の顔を見たとたん「聖女さまぁああ!!よかった、よかったですぅう!!」と涙や鼻水やらを垂れ流しながら抱きついてきた。うんうん、心配かけてごめんね。ほら、お鼻チーンして。


グズグズと泣きながら「すみません、こんな事になるなんて……!!こんな事態、初めてで……!僕が安易に魔物は出ないなんてお話しなければ……!」という少年神官の話を彼の頭を撫でながら、「大丈夫、大丈夫だよ」と相槌(あいづち)を打ちつつ聞く。いや、本当にうちのお義祖父さんがごめんね。君のせいじゃないんだよ……マジで。


そうしてパパパッと浄化を済ませた私達は、さっさと山を降りることにした。

下山の時は、登山の時と違い夫と少年神官が同じ(くつわ)は二度と踏まないとばかりに全方向に注意を払ってくれた。私的にはお義祖父さんと仲良く”しりとり”していたら夫が迎えに来てくれたのでわりとお留守番感覚だったから、こんなに心配掛けてしまって逆になんだか申し訳ない。


その日の夜は疲れていたのか、ベットに入ってからの記憶があまりない。しかし、意識が途切れる直前に額に柔らかな何かが当たったような気がした。


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