伍
始めに言おう。
あの後、1週間の間に更に3つほど浄化した私は大分疲れていた。
あの祈りの儀式とやらは、私の中に覚醒した聖女としての力を大分使うものらしく、初めての時に比べれば少しこ慣れてきた所ではあるがそれでもとてもしんどいのだ。少年神官曰く、「歴代の聖女さまは一つの地点を浄化されると7日お休みが必要な程にお疲れになるのに、聖女さまは一晩で回復なされるなんて……!聖女さまは凄いです!!」とキラキラとした目で見つめられるぐらいどうやら私は規格外らしいのだけれど(言わずもがな嫁いだ家系のお陰だと思われる)、それとこれとは話が別なのだ。
流石に休憩させてくれと年甲斐もなくひと暴れした私は、少し引き攣った顔の少年神官の勧めで近くで行われているお祭りに夫と共に来ていた。少年神官はというと「僕はこの街の神殿にご挨拶してきますので、どうぞお2人で楽しんできてください」と送り出してくれた。……なんて出来た子だろう。お土産を買おうと心に決めた。
そこで、もう一度言う。
私は慣れない土地(異世界)と慣れない作業(浄化)で心身共に大分疲れていた。
「だから、これは不可抗力。そう、不可抗力なのよ!」
「んな訳あるか」
スパーンと頭を叩かれた私は、それでも手に持つそれを手放さない。
『おおっとォ!!29番!まさかのペア相手からの妨害もものともせず、48個目かんしょぉおおく!!』
またひとつ綺麗になった皿を塔のように積んであるそれに新しく乗せる。可愛らしい顔を盛大に引き攣らせた女の子が新しく持ってきてくれたステーキ肉を、夫が「お前まだ食うのかよ……」と文句を言いつつも食べやすいサイズに切り分けてくれた。それをまた食べて食べて食べまくる。
少年神官に送り出されてやってきた祭り。その中の催しである大食いチャレンジのいたる所に貼られたポスターを見た私は、天啓を受けた。
あれ?これに出れば合法的に大量に食べられるんじゃない?しかも1番いっぱい食べたら賞品も貰えるとか一石二鳥じゃん、と……
ここが一つのターニングポイントだった。
『第59回!豊穣祭大食いチャレンジの栄えある優勝者はァアア、エントリーナンバー49番!飛び入り参加のマユミだァアアア!!』
観客の大歓声の中、呼ばれた私は壇上へと上がった。後ろで「マジかよこいつ、本当に優勝しやがった……」と呆れ返って呟く夫の声が聞こえる。
『こちらが優勝商品である、”水の街 マリータイム”の豪華宿泊券です!』
司会の男から手渡された小さな封書を私がまるで掲げるように両手で頭上まで持ち上げれば、ノリの良い観客たちが一斉にわぁあああ!と歓声を上げる。
それに気を良くしたのか、司会者が7なにか一言どうぞ」と言いつつマイクを向けてくるので、少し考えた私は封書を持つ手を下ろしつつ「我が胃に収まらぬ肉はない」とドヤ顔で言えば、一瞬の間の後に再度上がる歓声。それを背後に、私は会場を後にした。
夫に勢いよく頭を叩かれたのは言うまでもない。
「お前、いつになく食欲増してね?」
はぁあああ……と盛大なため息を吐きつつ横目でこちらをチラ見する夫に構わず、私は先の大食い大会での賞品をさっさと売り払って手に入れたお金で買った戦利品を両手に抱え込んでいた。意外と高く売れたから今の私は小金持ちだ。ひれ伏せ愚民ども!はっはっはっは!!
……え?新婚旅行なんだから有名観光地の方が良いんじゃないかって?そんなの腹の足しにもならないし、1文無しじゃお土産も買えないからね。少年神官や義両親達にもせっかくだから何か買ってあげたいし。
内心言い訳しながらも、私は先程買ったばかりのチョコバナナを頬張る。異世界っぽいものも確かにあったが、祭りといえばやっぱりチョコバナナとかき氷とたこ焼きだ。流石にたこ焼きは無かったが、変わりにクラーケン焼きはあった。平たくパリパリに焼かれたクラーケンはイカせんべいのように美味だったと言っておく。
その後、主に食べ物を食べる方面で祭りを盛大に満喫した私達は少年神官の紹介で領主館に1泊させて貰うことになった。彼は神殿の方に泊まるそうで、格式ばった晩餐を乗り切った私としては肩肘張らなさそうなそっちの方でも良かったとは思ったが、やはりこういうのは大人の事情とやらの関係で今後も難しそうである。
そして久々のフカフカベットで眠った翌日、少年神官と合流した私達はまた新たな仕事場へと向かうのだった。