表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7


「んで、これは記念撮影するか?」

「いえ、結構です」


一つ目の浄化地点まであともう少しという所で現れた第二モンスター。今度は一体なんだ!?と目を輝かせて窓の外を見た私の顔は、しかし次の瞬間にスンとその表情が削げ落ちた。


「チェンジで」


思わずそう言っても仕方がない、私が思っていたファンタジ〜とは掛け離れてるその姿。

黒光りする硬そうな身体、飛び出る二本の触覚、ワサワサと動く無数の腕、その巨体の割にまるで棒切れのような二足歩行の足……


どこからどう見ても、二本足で歩くイニシャルG。


いや、私と(ほとん)ど変わらない背丈の奴はどこからどうみてもファンタジー以外の何物でもないし、あんな奴が現実世界に居たら間違いなく辺り一面自主的な禁止区域になる。

しかし、そうじゃないんだよさっきまでゴブリンとかだったじゃん。大御所RPGモンスターだったじゃん。なんでリアル昆虫デカいバージョンなんだよぉおお……!急にリアリティを求めてくるなよ異世界!!


何度横目に見ても、そこに居るのは変わらない。


「殺れ、(ちり)も残さずに」


ピッと親指を立てて首をかき切る仕草をした私に、だろうなとでも言わんばかりに肩を(すく)めた夫が「仰せのままに、聖女サマ」とキザったらしく胸に手を当ててそちらを見もせずに特大の火柱を一つ造り上げる。


私は「ギャシャアアアア」と悲鳴を上げるその生物から視線を外し、御者台で「浄化の炎だ……!この目で見られるなんて……!」と感動の声を上げている少年神官へと「後どれくらいで着くの?」と訊ねたのだった。






ぽっかりと大きく開いた穴。まるで世界を飲み込まんとするように黒い(もや)がそこから溢れ出て、辺りが暗く沈んでいる。その言いようのない不気味さに思わず隣に立つ夫の腕をギュッと掴めばこちらに向く視線。

直ぐにまた視線が()れたが、「俺が居た魔界の方がもっとおどろおどろしかったぜ?一面荒れた大地だったし、毒ガスがあちこちから吹き上げていた」と下手な(なぐさ)めを告げる。


確かに以前聞いた前世の彼が居たという魔界は、魔物が行き交う殺伐とした荒地であちこちで血と血で争う魔物同士の戦いが絶え間なくあり、それに敗れた死体がそこかしこに点在しているという。

まさに地獄絵図なその場所……人気スポットはマグマ温泉で名物は毒団子だったか。新しくアイドルグループを作ろうとして道半ばで勇者(自身の呪いにより今世の父)に倒されたという。……それでいいのか魔王サマ。


馬鹿な事を思い出したことによって私の恐怖心は一気に和らいだ。噂に聞いていた魔界よりも色んな意味でまだマシな現状に、私は大きく息を吸って更に自分を落ち着けた。


「あ、この黒い(もや)を深く吸い込みすぎると体の中に(とど)まり手足の先から黒くなっていき死にますので、深呼吸などはお勧めしませんよ」

「そういう事はもっと早く言ってくれないかなぁあ!?」


少年神官の言葉に噛み付くようにそう言い彼の方を見れば、自分はちゃっかり口元に布を巻いていた。そんな軽装備で大丈夫なのかという心の声が聞こえたのか、「これは大神官様に浄化の術式を織り込んで頂いたものなので、問題無いです!」と元気な返答を返してくれた。あれ、私貰ってない気がするんですけど……!?


わたわたする私の姿を見て、夫が「お前は俺の魔力で護っているから大丈夫だ」と呆れ気味に言った。おい、どこに呆れる要素あった?当たり前だろってか、なにそれ好き。


「それでは聖女さま、どうぞ浄化の儀式を」


(うやうや)しくその場で胸に手を当てて礼をした少年神官の言葉に私は一つ頷いて、一歩一歩と大穴に近づいた。肌にまとわりつく様な生ぬるい風が大穴からじんわりと流れ出ており、その嫌な空気に思わず顔を(しか)めてしまうのを根気で押さえつけながら、私は教えられたようにふんわりと微笑んだ。そのまま教えられたように瞳を閉じ両手を組んで、姿も知らない神様とやらに祈りを捧げる。


……そもそも、”ふんわりと微笑む”って何なんだろう。なんかそれっぽくやってるけれどもこれ出来てるのかな?この大穴がなんか違うやり直しってなったらここで私百面相ぐらいしないといけないんだけど……あ、なんか生ぬるい風から熱が消えてきて爽やかな風になってきたから良いんじゃない?後ろで「聖女さま……!光り輝いておられますっ!」って少年神官の声が聞こえるけど、私光ってんの?え、人間電球になってるの?マジで?


フッと身体から何かが抜けていき、それと一緒に地を踏む力も抜けた。そのまま崩れ落ちそうになった私の腰を支えたのは力強い腕。


「お疲れさん」


珍しく労いの言葉を掛けてくる夫を見上げて笑いかけようとしたが、その後に続くように言った「まぁ、まだ一つ目だけどな」という台詞に思わずこいつの足を踏みつけた。


そんな事分かってんだよ、いちいち言うんじゃねぇ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ