5.それぞれの夜。
ここで一区切り。
もしよければ、あとがきもお読みください_(:3 」∠)_
「本当に、甘えて良いのかな……?」
――帰宅後。
自室でベッドに寝転がった美鈴は、スマホに表示される二宮寿人の名前を見てそう呟いた。連絡先を交換したからといって、あちらから頻繁に連絡があるわけではない。本当に必要最低限で、朝の挨拶を送り合うなどといったものもないのだ。
寿人に下心なんてない。
ただ本心から、美鈴の心配をしてくれているのだった。
「…………」
そう考えながら、スマホの液晶を見ていると。
自然、彼とのトーク画面を表示。そして、感謝の言葉を打ち込んでいた。
だがそこで、美鈴はふっと我に返る。これではまるで、自分が彼に依存しているようではないだろうか。さらには、彼の言い分を肯定しているようでもある。
「わ、私は無理なんてしていません! それは、本当で……!!」
そこまで考えて。
彼女は誰に宛てたわけでもない言い訳を口にして、枕に顔を埋めた。
顔がとにかく熱い。火が出るよう、とはよく言ったものだ。羞恥心に苛まれる少女は、先人の言葉のセンスに感心することで意識を別に移そうとする。
それでも、隠しきれない気持ちが湧き上がってきていた。
これは感謝のそれなのか。それとも――。
「…………ううん、そんなのじゃない」
首を左右に振って。
美鈴は改めて、自分の中に生まれた感情を否定した。
何故なら、自分はそんなに弱い人間ではないから。今までだって、両親を始めとした周囲の期待に余さず応えてきた。
だから、これからもきっとできるはず。
先日の一件はやはり、少しばかりの気の迷いでしかないのだ。
「私、弱くないもん……」
だから、いじけたようにそう口にする。
その口振りがすでに、年不相応に幼いものだと彼女は気付かない。部屋の明かりを消して、大きく息をつきながら少女は眠りの中へと。
自分は、彼のことを許さない。
そんな対抗心を秘めながら、目蓋を閉じるのだった。
◆
「茜ー? そろそろ飯できるから、手伝ってくれー!」
「はーい!」
俺は週三のバイトを終えて帰宅すると、夕食を作ってから妹に声をかけた。
テレビを見ていた妹の茜は、いつも通り手際よく食器を運ぶ。
「あにき、今日はなに?」
「おう! お前の大好きなチャーハンだぞ!」
「マジで!? あにきのチャーハン大好きだ!!」
大皿に山盛りのそれを乗せて運ぶ。
茶碗の用意ができたちゃぶ台の上に置けば、今日の夕食の完成だ。茜は手を合わせ、元気よく「いただきます!」と口にする。そして、大皿から茶碗にチャーハンを移して食べ始めた。
満面の笑みで頬張る妹に、俺はホッとひと安心。
次いで自分の分を取って口に運んだ。
「ねぇ、あにき!」
「んー? どうした、茜」
「今日は、なにかあったのか?」
「どうしたんだ、藪から棒に」
そんな最中に。
妹は口元に米粒を付けながら、そう訊いてきた。
首を傾げると、茜はまだ上手く表現できないなりにこう言う。
「だって、なんだかあにき、今日はずっと優しい顔してる!」――と。
それを指摘されて、俺は思わず呆気に取られた。
そして、改めて納得するのだ。
「あー、そうだな……」
良いことがあった、というのは変かもしれない。
だが、どこか安心するようなことはあった。
妹に説明するには、まだ少し難しいのかもしれない。
そう思って、俺は曖昧にこう答えたのだった。
「もしかしたら、嬉しかったのかもな」
彼女が少しだけ、自分を頼ってくれたような。
そんな一連の出来事を思い出して……。
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