91:無難なところでとりあえず脅しておきます!
■シャルロット 15歳
■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主
「しかし本当にこんな時間に動くんか? 塔に攻め込ませるのは朝一なんやしアンデッドを動かすのも朝のほうがいいんとちゃう?」
「貴族が日の上る前から起きて、墓地の土を掘り起こして、とかできるとお思いですの? 前日の夜に用意しておいて帰ってお風呂に入り明日を楽しみにしながらぐっすり寝るに決まってますわ」
「うーん、そう断言されるとなんも言えんけどもやな」
「自信があれば不用心だろうがリスクがあろうが関係あるまい。現に今まで何回も成功してきたんじゃろうし」
今は塔の営業が終わって、六の鐘(21時)が鳴る前といったところ。バベリオの大通りはまだ賑わっているでしょうね。
場所はバベリオ1階、【世沸者の塔】の中、その入口で皆さんが集まっています。
今までの計四回の襲撃(ノノアさんへの未遂も含む)が三日置きだったので、一昨日・昨日はファムでの監視に留め、今日は来るだろうとこうして見張っているわけです。
メンバーは塔主五人と神定英雄三人。フルメンバー。
ですが実際に敵の前に立つのは、私・アデルさん・エメリーさん・ジータさんの四人です。
これも話し合いました。全員で敵前に出るのは危険だと。見張りと予備戦力の意味でも残しておくべきです。
それにフゥさんとゼンガーさんはなるべく近寄らせたくない。どちらも対【死屍の塔】の切り札みたいなものですから。
ドロシーさんとノノアさんはどうせ悪口を言われるでしょうからね。私が気分悪くなるだけです。
「むっ、出てきたぞ」
【死屍の塔】の転移門付近にいるファムからの情報でしょう。フゥさんが知らせてくれました。
私は即座に付与魔法をかけます。私と皆さんにも。周囲の魔力を乱す効果を期待して、用心の為に。
標的は24階の転移魔法陣を使って1階に。その姿はおそらく隠され、ファムでしか捉えることはできないのでしょう。
しかしこちらにはもう一人、捉えられる人がいます。
「エメリーさん、お願いします」
「かしこまりました」
即座に【世沸者の塔】の転移門をくぐりバベルへ。エメリーさんを追いかけて私とアデルさん、ジータさんが続きます。
エメリーさんはとんでもない速度で透明の何かに近づき、バサッと外套をはぎとりました。
「っ……! なっ……!?」
そこで初めて私の目にも見えました。塔主総会でも見たことのある顔。
人のよさそうな紳士に見えますが、これでアンデッドを操る貴族主義者だというから驚きです。
彼――グロウズさんは外套を失ったことに戸惑い、その目は背後のエメリーさん、そして近づく私たちに向けられ、さらに目を見開きました。
「き、貴様っ……!」
「あ~らあらあら、これはグロウズ・ヘルニーノ侯爵閣下ではございませんか。ごきげんよう」
前に出るのはアデルさんです。これも事前に言われていました。貴族相手なら任せろと。
グロウズさんはアデルさんを無視してエメリーさんに詰め寄ります。
「貴様っ! それを返せっ! 亜人の分際で無礼にもほどがあろうっ!」
しかしアデルさんが間に入ります。エメリーさんは我関せずといった感じで下がりつつ、ちゃっかり外套をマジックバッグに入れていますね。
「まあまあ、神に選ばれし神定英雄を亜人呼ばわりとは。それこそご無礼ではなくて?」
「黙れ! メルセドウが! 貴様のような小娘はひっこんでおれっ!」
「主語が大きいですわねぇ。わたくし、アデル・ロージットと申しますの。お初にお目に掛かりますわ」
「聞いておらんっ! いいからそこをどけっ! これ以上無礼を働くのであれば――」
「おおっと。無礼を働いたらどうなるんだい? 侯爵閣下」
「くっ……! ジータ・デロイト……!」
横からジータさんが口を挟みました。威圧すごいですね。
そして逃げるようにその目は私に向けられます。
「ええいっ! そこの平民の小娘っ! すぐさまそこの亜人から私の外套を持って来いっ! 命令だ!」
「? あなたの命令を聞く理由はないですよね?」
「き……貴様、平民の分際でっ! 私は栄えあるエルタート貴族であるぞっ! その命を聞けぬとは貴様それでも王国民か! 恥を知れっ!」
「私はあなたと同じ国出身というのが恥ずかしくてたまらないのですが」
「なんだと貴様あっ!」
本当に。こんな人がエルタート王国を名乗らないで欲しいですよ。
他国の人に「エルタート王国ってこういう人ばっかの国なんだ」って思われちゃうじゃないですか。
見かねたアデルさんが割って入ります。
「その栄えあるエルタート貴族の侯爵閣下はこんな夜分に何用なのです? まさかお忍びで夜遊びですの?」
「そっ、そんなわけなかろうっ! これは――」
「最近は物騒ですわよ? なんでもアンデッドが街中を徘徊しているという噂で」
「っ!」
「中にはアンデッドがバベルに乗り込んで攻略してるんじゃないかって噂もあるほどですの。怖いですわよねぇ。この分では近々創界教のお歴々が動き出してもおかしくありませんわぁ。そう思いませんこと?」
「……!」
創界教――ゼンガーさんが生前に司教を務めていた世界で一番大きな宗教です。
バベリオの街にも教会はあるでしょう。まぁ都市長さんはバベルの神様の神官のようなポジションなのかもしれませんが。
塔主にも当然、創界教の関係者が幾人もいます。
その中でも一番有名なのは――【聖の塔】の塔主、アレサンドロ・スリッツィアさんでしょう。
創界教の総本山、神聖国家ペテルギアの枢機卿。ランキング2位のSランクです。
グロウズさんもそれを思い浮かべたに違いありません。
アンデッドの対処となれば教会が動くのが常。もし本当にアンデッドの噂が流れているとすれば……【聖の塔】が動き出してもおかしくはない。
そして何らかの方法で自分の仕業だとバレれば、それは【傲慢の塔】を含めて粛清対象にされかねない。
いや、その前に同盟から外されるだろう。とかげの尻尾きりのように。
そうなればAランクで七大罪の【傲慢の塔】という後ろ盾がなくなる。いずれにせよ【死屍の塔】は破滅だ。
……と考えるはずだとアデルさんが言ってました。貴族とは後ろ盾なくしてイキれないものだと。
「くっ……覚えておけっ!」
捨て台詞を吐いてグロウズさんは帰っていきました。転移魔法陣の方へ。
とりあえず墓地に向かわせることを阻止できて万々歳です。
私たちは【世沸者の塔】へと戻りました。
◆
「いやー、いい見世物やったな!」
「アデルさんカッコよかったです!」
「話には聞いておったがあれは酷いのう。あんなのが五人も集まっておるのか……シャルの心中察するわい」
いやもうほんと恥ずかしいと言いますか、ごめんなさいと言いますか。私には溜息しか出ません。
なんでこんなエルタート貴族ばかりが集まってしまったのですかね。バベルに。
故郷のカイルスの街はいいところだったのですよ? 悪い貴族の噂なんて聞きませんでしたし。
「しかしあれで本当に『まだ自分の仕業だとバレていない』と思っておるのかのう? どう聞いてもアデルが『あなたの仕業と分かっていますよ』と言っておったじゃろ」
「リアクション的には前者っぽかったけどなぁ。認めたくないだけかもしれん」
「ア、アデルさんの言葉の真意に気付けないほど混乱していらっしゃったとか……」
「別にどちらでもいいですのよ。気付こうが気付くまいが」
グロウズさんが『自分の仕業だとバレている』とした場合、もうこれ以上私たちの塔へアンデッドを差し向けるのはやめるでしょう。むしろ墓地にも近づかないはずです。
そして私たちを完全に敵と見なし潰そうとしてくるはずですが、おそらく塔主戦争申請くらいしか手立てがない。
私たちはそれを無視して、自力の強化に邁進すると。
そして『自分の仕業だとまだバレていない』とした場合ですが、じゃあ私たちが強襲した意味は? となってしまいます。
透明な不審者がいたから、メルセドウ貴族の嫌がらせ、思いつくのはそれくらいでしょうか。それにしたって脳みそお花畑だと思いますが。
アンデッド操作が自分の力だとはバレていない。ならばまだ動かせる。まだ偵察は続行できる……とはいかないでしょう。【聖の塔】の影がちらつくから。
仮に【傲慢の塔】の五塔同盟が【聖の塔】一塔と戦ったとして、私は【聖の塔】が勝つと思っています。
それくらいの差がある。それくらいSランクは強大だと。
まぁ【聖の塔】なんて神聖属性特化でしょうからそれだけで【死屍の塔】の天敵みたいなものだと思いますしね。
「わたくしたちはアンデッドを止められればそれで勝ち。あとは適当に無視しつつ徐々に力を蓄えていきませんと」
「ですね。私もそう思います。しばらくはTPを溜めつつ、調査とお勉強ですかね」
「わ、私ももうランク維持とか言ってられませんっ。頑張りますっ」
「地道な塔運営やな。うちは早くグランドタートルの穴埋めをせな」
「わしも課題が多いからのう。一つずつ片付けていかねば」
しばらくは自塔強化ですね。
でも一月後には新年祭のパレードがあるのですよね。
そこで塔主が大集合すると思うので……あの人たちと会わなければいいんですけど……。
速攻で潰したいんですけどね、まだ戦力的にままならない感じです。
面白そうだなと思ったら下の方にある【評価】や【ブックマークに追加】を是非とも宜しくお願いします。




