88:ドロシーさん、事件です!
■サリード 21歳
■Dランク冒険者 パーティー【旋風六花】所属
「は? また?」
「今度はEランクの【凝視の塔】だとよ」
「知らねえな」
「498期らしいぜ。隠れて二年半も生き残ってたマイナーな塔らしい。今年の後期でEに上がったんだと」
ほー。んでそのマイナーな塔が昨日攻略されて、また攻略者が分からないってか。
ギルドでも分からねえし衛兵でも分からねえと。
こりゃ事件だな。同じやつらの仕業だとするならFランク挑戦者だ。それならFランクの塔にもEランクの塔にも入れる。
「ん? だったらバベルの受付で分かるんじゃないか? 職員にカード見せるだろう。【落葉の塔】を攻略した日と【凝視の塔】を攻略した日、どっちにも探索してたFランクパーティーが犯人だ」
「馬鹿。それがどれだけいると思ってんだ。百じゃきかないぞ」
あー、なるほど。それもそうだな。じゃあ事件は闇の中ってことか。
探してるってことはまだバベリオの中にいるんだろうし。
もったいねえな。どんな理由だか知らねえがせっかく攻略したのに名乗り出ないなんて。
金目当ての傭兵団だってちょっとは酒場で飲んだり娼館で遊んだりしてるだろうに。それもないんだろうな。
俺には理解できねえな。まぁ誰にも理解できないから事件扱いなんだろうけど。
■ドロシー 23歳 ドワーフ
■第500期 Dランク【忍耐の塔】塔主
【忍耐の塔】はDランクでも人気の塔や。
七美徳でもあるし、今バベルで一番人気と言ってもいい同盟【彩糸の組紐】の一塔でもある。
罠が多くて苦戦するというのも人気の要素の一つ。
侵入者は適度に困難な塔であればあるほど入りたがる。その分攻略した時の評価が高いから。名声の為やな。
朝一から数十ものパーティーが続々と入り、その様子を監視するわけやけど正直一人で全てを見るのは難しい。
やっぱ話し合い、相談しながら運営するってのが理想やな。それはランクが上がれば上がるほど、人気が出れば出るほど思い知らされるんやろ。
そこいくとシャルちゃんとこは羨ましいよな。エメリーさんにクイーン四体と会議しながら運営してるみたいなもんや。
神定英雄はともかくクイーンはやっぱりずるい。
【女帝の塔】の強みなんは分かるけど配下を強化して話し相手にもなれるってずるいわ。うちにも一体欲しい。
と、そうして心の中で愚痴っていた時、画面に妙なやつらが映った。
「……なんやこいつら」
冒険者だろう五人パーティー。前衛が剣士と槍と短剣(おそらく斥候)、後衛が杖持ち二人。
何を喋るでもなく黙々と歩みを進めている。かなり速いペースで。
その姿は意気揚々という感じではなく、腕をだらんと下げて無気力なように見えるんや。厳しい塔を探索攻略している風にはとても見えん。
でもそれはよくよく見たから気付けたもので、パッと見では普通のパーティーと変わらんと思う。
場所は三階層『廃坑迷路』の終わり。もうすぐで四階層『沼地』というところ。
正直、気付くのが遅すぎたと舌打ちした。
侵入者の多いうちの塔の監視は基本的に『最前線』を見ている。
今の最前線は五階層『罠の回廊』。シャルちゃんとこの四階層をいじった時とほぼ同じものや。
Dランクから五階層ごとに往復魔法陣を設置する必要がある為、一度五階層に到達したパーティーは、朝、五階層からスタートする。それが数組いて、その誰にも五階層突破を許していない。
だから五階層ばかり注視していた。だからヤツらを見逃していた。
雑多な連中に紛れて一階層から攻略してきたヤツらを。
(こいつらひょっとしてノノアちゃんの言ってた……いや人数も違うしランクも違うか……)
ふとこないだノノアちゃんが報告していたヤツらが頭をよぎる。
何も喋らず、何も反応せず、何も探索せずに帰ったという四人組。しかし別人だろう。
そんなことを考えているうちにヤツらは四階層『沼地』に到達した。
足元が悪く進みにくい階層。毒の罠がそこら中にあり、隠れていた毒グモや毒蛇が襲い掛かる。侵入者からすればじりじりと消耗する階層や。
しかし五人組はまっすぐ進む。毒を受けても無視。魔物が襲って来ても一撃で切り伏せていく。
もうそれだけで異常だと分かる。
Dランクパーティーが毒耐性の装備を全員分持っているわけがないし、一撃で仕留める膂力もおかしい。
うちは急いでみんなに通信をした。
◆
「――というわけや。なんかおかしい。フゥ、ファムでちょっと見てくれんか?」
『うむ』
『ターニアさん、こっちからもお願いします(わかりましたわぁ)』
とりあえずファムで様子を見てもらったけど……これくらいしかできないってのが正直なとこやな。
画面を繋げて情報共有はするけどだからって手助けが入るわけでもない。
同盟者が同盟相手の塔に入ることはできるが、魔物の貸し借りや戦闘の手助けなどはできないはず。それは始めにもらった冊子にも書いてあった。
『わ、私のところに来たあの人たちとは別人です、でも……雰囲気はそっくりです』
『……これは確かにおかしいですわね。Dランクの強さではないのは分かりますが』
『いや身体つきも装備も腕の振りも、どう見たってペーペーだぜ? DかEランクのやつらが無理矢理強くなってるみてえな感じだな』
アデルちゃんの横でジータさんはそう言う。ジータさんの見立てでは強さ以外はランク相応だと
どういうこっちゃと首をひねったところで、今度はフゥの画面からゼンガーさんの声がした。
『うーむ、ひょっとするとアンデッドかもしれませんぞ』
その言葉に全員が驚いた。アンデッド!? と。
『動きが不自然でしょう。動かない身体を無理矢理動かしているような。儂が創界教の司教だったころ各地を浄化して回りましたが、ちょうどこんなグールやらゾンビがたくさんいましたぞ』
「ホンマか、ゼンガーさん!」
『フッツィル様がファムで探っていらっしゃるのでそれ次第ですが、もしヤツらに闇の魔力を感じるようであれば――』
『当たりじゃゼンガー爺。ヤツら闇の魔力に包まれておる』
『こちらでもターニアさんが確認しました。間違いないです』
くそっ! どうなっとんねん!
アンデッドがバベルの入口でカード見せて入ってきたっちゅーんか!?
どんなアンデッドやそれは!
『こ、これ職員さんとかに言ってなんとかしてもらう事できないんですか!? こんなのおかしいじゃないですか!』
『無理じゃろうな。アンデッドが塔を攻略しちゃいかんなどどこのルールにも書いておらぬ』
『で、でも明らかに人為的ですし、きっとどこかの塔主の人が……』
『仮にそうでも【神の裁定者】が出ない以上、神に許されているということですわ』
『そ、そんなぁ……』
そうや。塔主は同盟者以外の塔には入れないし、自軍――召喚した自塔の魔物を送り込むこともできない。
今回のこれが許されているっちゅーことは、この五人のアンデッドはどこかの塔の勢力ではないっちゅーことや。
殺したか元々死体だったのか、それをアンデッドにして操っているって感じやろか。自分が召喚したアンデッドじゃないからセーフと。
……あとは塔主とは無関係でアンデッドを操作するやつがいるのかもしれんけど……そっちのが考えにくいか。
『アンデッドを操るアンデッドはおりますが人が操るというのは聞いたことがないですな。人がアンデッドを生み出す、ならば分かりますが』
『例えば召喚したネクロマンサーに死体を与えてアンデッド化させて操るというのは?』
『仮にそれが″塔の勢力″と見られなくても、塔の攻略ができるほどの頭と力を与えることはできないでしょう』
ゼンガーさん曰く、人が故意にアンデッドを生み出す場合はあるそうや。ほとんど禁術めいたものらしいけど。
でもそれはただアンデッドに暴れさせるだけ。人を見つけ次第襲い掛かるような代物らしい。
せやから結論的には『どこかの塔主が限定スキルなりを使って死体を操って送り込んでいる』っちゅうのが一番しっくりくる。
『でも塔主戦争以外の手段で攻撃しているっていうのには違いないですよね? これが許される意味が分かりませんよ』
『攻撃ではない、偵察だ……という言い訳なのでは? 例えばアンデッドを操っているのではなく事前に命令をしていて今はそれを監視しているだけ。ならば偵察と変わりません。アンデッドはもはや犯人の意思とは無関係に自動的な攻略しているだけなのですから』
『そんなっ』
『そして他塔への偵察が許されないのであればファムで覗き見しているわたくし達も同罪ですわよ』
悔しいけどそれはその通り。許されている現状、そこに理由を結びつけるしかない。
抗ったところでどうこうできる場面でもないしな。
『ドロシーさん、あれらが今のペースのまま攻略してきたとして、大丈夫ですの?』
「まだ三の鐘半(13~14時)やろ? 正直ギリギリやけど、大ボス部屋は抜けられんはずや」
大ボス部屋の扉を開けるとグランドタートルの横腹で塞がれて部屋に入れんようになっとる。
もしグランドタートルを斃して部屋に入れても、クリスタルゴーレムとミスリルゴーレム十体。Bランクパーティーでも斃せない陣容や。
「ゼンガーさん、グール五体とミスリルゴーレム十体やったらさすがに勝つよな?」
『普通のグールでしたら一体でもいいくらいでしょう。本当にあれが普通のグールで、何も仕掛けてこなければ、ですが』
何が考えられる? 仮に妙な塔主が変なことを企んでいるとして……いや【限定スキル】絡みやったら可能性は無限大や。あらゆる最悪を想定しておかんと。
くそっ! どこの誰だが知らないけど、絶対許さんからな!
ゼンガーさんが現役のころは教会などの整備も不十分だったということですね。
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