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07:私なりの「塔主」としての向き合い方



■シャルロット 15歳

■第500期 【女帝の塔】塔主



 プレオープンまでの間、私が創り上げた【女帝の塔】は第三階層だけです。

 TPはそこだけに注ぎ込みました。もちろん多少は残していますけど。



「姿勢や立ち振る舞い、表情の作り方などもそうですが、私生活から淑女らしく、女帝らしくあらねばなりません。食事、睡眠を正しく摂り、清潔さは常日頃から意識しませんと」



 そんなわけで、三階層の四分の一くらいは私のための部屋となりました。もちろんエメリーさん用の寝室などもあります。


 中でもお風呂には拘りがあるらしく、大きなお風呂と給排水用の魔道具を完備する事でかなりのTPを使ってしまいました。

 こんなの貴族や王族でも使わないと思うんですけど、エメリーさんは「【女帝】に相応しいお風呂ともなれば当然です」と言います。



 また、住居区画の手前、三階層の中央付近には玉座を設置しました。

 エメリーさん曰く「女帝ならば玉座に腰を据えてドンと構えるくらいの気概でいるべきです」と。

 玉座に座ってあれこれできるように、宝珠(オーブ)の台座も動かしました。



 これだけのTPを優雅な暮らしに使ってしまってプレオープンは大丈夫なのかと心配したのですが……。



「プレオープンに関してはわたくしにお任せ下さい。ご安心を。お嬢様の元には何人たりとも向かわせませんので」



 との事です。

 いやまあ、エメリーさんのステータスとか分かっているのでFランクの侵入者が束になって掛かっても問題はないとは思うのですが……果たしてこれでいいものかと思案してしまいます。



「お嬢様がまず為すべき事は、慣れる事だと思います」


「慣れる、ですか」


「はい。絶え間なく命を狙って来る賊。それをわたくしはことごとく斃していくつもりです。お嬢様は宝珠(オーブ)でその様子をご覧になるのでしょう」



 その光景を見るという覚悟。それが塔主としての日常だという事実。これに慣れろと。


 恐ろしい。怖い。逃げ出したい。

 でもエメリーさんは私を守る為に戦ってくれる。


 私は塔主として、【女帝】として、それを見なければならない。それに慣れなければならないのです。



 そうして迎えたプレオープン開催日。

 私は玉座に座ったまま宝珠(オーブ)に手を乗せ、入って来た侵入者の様子を映し出します。

 塔内の様子はいくつもの『目』によって何枚もの透明な板――画面――に表示されるのです。


 まずは先んじて五人パーティー。私より少し年上と思われる男性たち。

 彼らがFランク相当の侵入者なのでしょうか。

 やはり何もない一階層と二階層に訝しみながらも徐々に迫って来るようです。



「ではお嬢様、行って参ります」


「ご武運を」



 そう言って送り出しました。私の唯一無二の神定英雄(サンクリオ)を戦地に。


 せめて女帝らしい振る舞いをと言葉を選びました。内心は「行かないで」と言いたいくらいですがおくびにも出せません。



 エメリーさんは侵入者たちと少し言葉を交わすと、腰の裏に二つ着けたマジックバッグから剣を四本出しました。

 あのマジックバッグ。私も初めて見た時には驚いたものです。次々に武器やら何やら出てくるのですから。

 あれほど小さくて容量のあるマジックバッグなど、この世界には存在しないのではないでしょうか。


 エメリーさん曰く、転移門や大通りを走る乗合魔導車など、こちらの世界の方が発達している魔道具などもあるそうですが、一方でマジックバッグなど元いらした世界のほうが発達している部分もあると。


 聞けば使用しているマジックバッグは侍女のお仲間が造られたとの事です。武器もまた別の侍女の方が。


 そんな身近に居るような方に造れるものなのでしょうか。

 異世界とこちらの事情が違いすぎて私も未だに驚く事が多いです。



 そこからはあっという間でした。

 エメリーさんが動いたのも剣を振るったのも見えません。

 気が付けば前衛の三人の首が飛んでいました。


 血は噴水のように後衛の二人に降り注ぎ、恐慌状態になった二人は逃げていきます。

 エメリーさんはそれを追いもしませんでした。


 三人の死体は塔になじむように消えていきます。同時にTPが沢山入りました。



 私はそんな事は気にせず、ただ、歯を食いしばってエメリーさんの様子を見続けます。



 走り去った二人の様子を見て、後続でぞろぞろと入って来た侵入者たち――いくつかのパーティー――も慌て始めました。



「お、おい、どうするよ。あの様子普通じゃねえって」

「こんなトコで退けるかよ! 神定英雄(サンクリオ)一人しか居ない『無の塔』だぞ!?」

「あれ一人さえ斃せばあとは塔主だけじゃねえか! 楽勝だろ!」



 どうやら引き返すのは僅か。いくつもの集団がエメリーさんへと向かってきます。

 確かにエメリーさんさえ斃せば――斃せずとも足止めして階段へと抜けられれば、そして三階層に来さえすれば私は何もできずに斃されるでしょう。即ち侵入者の勝ちです。


 しかしエメリーさんが抜かれるとは私には思えません。


 躊躇せず、迅速に手早く、簡単に見えるほどの手際で殲滅していきます。

 それもマジックバッグを使い、剣から槍、ハルバード、大剣、短剣、果ては投擲武器など、色々と試しながら戦っている様は余裕さえ感じます。



 最初にエメリーさんのステータスを見た時に驚きました。そこで色々とお話しました。

 ステータスの高さ、スキルの多さ、色々と不可解な点が多すぎたのです。


 しかし不可解に思っていたのはエメリーさんも同様だったようで。



『まずこの世界のステータスがわたくしの世界のものと表記の仕方が違います。まぁ魔力が低い所などはわたくしらしいとは思いますが』


『低いって……B+って相当高いんですよ?』


『この表記ですとF-が最低でS+が最高という事でしょうか』


『そうです』


『だとすると【体力S+】【器用S+】はまだしも【筋力S】【敏捷S】というのは高すぎる気がします。侍女の仲間にはわたくしの倍ほどの膂力を持った者や、倍以上の速度で動く者などもおりましたので』


『はあっ!?』



 それが本当であれば、そういう人のステータスはS+どころの騒ぎじゃありません。

 と言うかお仲間にそんな方々がいるなんて……異世界の侍女というのは本当に理解できません。

 結局は『エメリーさんの強さをこの世界の基準で考えた場合のステータス』なのだろうと一端結論付けました。



『それと身体年齢が若返っているのも不可解な点です』


『あ、その御年で亡くなったわけじゃないんですね』


『ええ、わたくしは140歳で死にましたので』


『140!?』


多肢族(リームズ)という種族はそのくらい生きるのです。この世界でも長寿の種族はいるはずですが』



 数は少ないですが、エルフやドワーフといった種族だと人間よりも長寿らしいです。獣人だとさほど変わらないそうですが。

 いかんせん周りが人間ばかりなので人間基準で見てしまいます。



『おそらく身体年齢は20台後半から30歳くらいでしょうか。全盛期に近い身体で召喚されたのかもしれません』


『そうなんですか……』


『しかし記憶やスキル、マジックバッグ内の武器などは晩年のものです。そこがまた不可解な所です』



 それは確かに不可解ですね……と考えても答えなど出ないのでしょうが。

 ともかく肉体、ステータス、武器、スキル、その全てが最高の状態であるのは間違いなく、だからこそアジャストする必要があると言います。


 晩年のイメージを持ったままでは頭と身体で差異が出る。

 スキルと武器を使うにも改めて訓練が必要だと。


 それから毎日自主訓練をしていたようですが、今、神定英雄(サンクリオ)として侵入者と戦っているのも、その延長なのではないかと。

 実戦訓練のように身体とスキル、武器の扱いを試しているのではないかと思うのです。


 見ていて安心感のある戦いだとは思います。

 エメリーさんに傷一つつく要素がないですし、【体力S+】だからでしょうか息切れすらしていません。

 それでも次々に侵入者は襲い掛かり、血しぶきは上がり続けます。



 私はそれを見続けるのです。歯を食いしばって。





■エメリー ??歳 多肢族(リームズ)

■【女帝の塔】塔主シャルロットの神定英雄(サンクリオ)



 想像以上にこの神定英雄(サンクリオ)の身体は動く。これは重畳です。

 ある程度の感触を確かめたのち、侵入者の波が途切れたのを見計らって三階に上がりました。



「おかえりなさい」



 そう仰るお嬢様のお顔は、顔色も悪く、無理矢理笑顔を作ったとすぐに分かるものです。

 口元はひきつり、目尻には涙を溜めていました。


 わたくしは「ただいま戻りました」と言うと同時に抱きしめました。


 侍女としてあるまじき態度だとは思います。ですがこれが必要だと思いました。


 お嬢様は私の胸に顔を埋め、声を殺して泣いていました。わたくしは優しく頭を撫でます。


 主として、淑女として、女帝として。

 泣いてはいけない。甘えてはいけない。わたくしを心配してはいけない。

 そんな強い気持ちがあったのだと思います。



 これから先も持ち続けなければいけない【女帝】としての矜持。


 しかし今日だけは泣くのもよし。甘えるのもよし。

 今夜は一緒に寝た方が良いのかもしれませんね。主を支えるのも侍女の務めですから。




この世界においてシャルロットさんはある意味「異端者」です。

それを理解し支えるのもまた侍女の務めなのでしょう。


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