62:初バトルは速攻で終わるそうです!
■ピスタチオ 23歳 犬獣人
■第500期 Fランク【猟犬の塔】塔主
「くそっ! 何がどうなってやがんだ! ウェアウルフ(C)、しっかりしろっ!」
『グルルゥ……』
塔主戦争は成立し、その日はすぐに訪れた……までは良かった。
俺は眷属であるウェアウルフ(C)を筆頭に全ての戦力を【弱き者の塔】へと差し向けた。
空っぽとなった【猟犬の塔】、その最上階で俺は一人、画面を見つめていた。
なだれこむコボルト(E)たち。指揮官であるハイコボルト(D)も散る。
最初に入ることのできる部屋は三つだった。まずはそこの″鍵″を集めつくし、即座にウェアウルフの元に″ヒント″が集まる。
それをもって新たな部屋を開け、また″鍵″を探すと、その繰り返し。
油断はなかった。
事前に情報も得ていたし、塔主戦争に際してギミックやヒントを弄るにしても限界がある。それを踏まえた作戦も持っていた。
一つ目の問題は、情報の集積地であるウェアウルフにそれを処理するほどの知能がなかったということ。
いくら眷属となり知力が増したといってもウェアウルフはウェアウルフだ。
集団戦での作戦行動などはとれても謎解きができるほどの知能はない。
散文的に集まるヒントを、どう活用すれば攻略につながるか。そういった情報処理能力がなかったのだ。
俺が考えるしかなくなる。しかし俺の目耳には画面越しの″絵″とウェアウルフ越しの″言葉″しか入らないのだ。
これではいくらコボルトがヒントを集めてもそれを活かすことができない。
俺が直接乗り込めば多少はマシになるかもしれない。
しかし、もしそこで罠にでもはまり俺が死ぬようなことがあれば……攻略どうこう関係なく終わりだ。そんな手は打てない。
二つ目の問題は、【弱き者の塔】が塔主戦争用に行ったと思われる改装が予想以上に難易度を上げていたこと。
ギミックの多すぎる塔構成。だからこそTP的にも大きく変更することなどできないと思っていたのだ。
確かに「微妙に変えているだけだな」と思うところや、事前情報のまま変更していないというところもある。
ヒントの位置が変わっていたり、鍵となる数字が変わっていたりというのも見られた。
しかし正解したと思って開けた部屋に入るとスライム(F)が大量に降ってきたり、部屋自体が毒のトラップになっていたり、屈んでヒントを探しているとギロチンが落ちてきたり……直接的に殺しにきているのだ。こんな罠は事前情報にない。
塔主戦争なのだから当然と言われればその通りなのだが、下手に情報を得ていた分、動揺するし被害も大きくなる。
三つ目の問題は回復手段がないということ。
トラップにかかり、ダメージを受けても回復ができない。俺の召喚できる魔物に神聖魔法が使えるヤツなんていない。
いや、AランクやSランクの魔物であればいるのだが、Fランクの俺にそんな魔物を召喚できるはずもない。
それに罠にかかるのは指揮官級が多いのだ。
スライムにしても毒にしても、正解だと思って開けた部屋に入って、すぐに発動される。
当然被害は部屋の鍵を開けた者になるわけで、コボルトに数字を合わせるだとか絵柄を組み変えて並べるとか、そんな繊細な作業ができるはずもない。ウルフ(E)など以ての外だ。
知能の高い指揮官級が行うしかない。そして罠にかかると……。
せめてポーションの類を持たせるべきだった。
【弱き者の塔】がスライムしかおらず、ダメージを与えるようなトラップが存在しないと端から決めつけてしまっていた。
その結果が今のこの状況だ。
俺の唯一の眷属、ウェアウルフが毒で死にそうになっている。
じりじりと近づく死を、俺は画面越しに見ることしかできない。
「ちくしょう……ちくしょう!!! 弱者のくせによおおお!!!」
■ノノア 15歳 狐獣人
■第500期 Fランク【世沸者の塔】塔主
『一体なにがしたかったんじゃ、こやつは』
『アホすぎて逆に笑えないわー。こんなんよお今まで生き残れてたもんやな』
『頭が悪すぎてこちらの想定をことごとく下回っていましたわね。ある意味意表をついていますわ』
『ノノアさんの塔を嘗めすぎですよっ! 全く!』
「ア、アハハ……そ、そうですね……」
一緒に観戦している皆さんから厳しい声が続々と。
皆さん、塔を通常営業しながらも、同時に通信をつないでずっと一緒に見ていて下さっています。
本当に心強い。私一人で塔主戦争に挑むとなっていたら不安と恐怖で押しつぶされていたかもしれません。
しかし塔主戦争が始まって早々、辛辣な意見が出始めました。
まず、なぜ塔主の方が乗り込んでこないのかと。これは戦力情報を集めていたフゥさんから。
『脱出ゲーム』を攻略するには
① ヒントや鍵、情報を集めること
② それらを精査し答えを導くこと
③ 謎を解きつつ正解ルートを探し出すこと
これが大きな流れとなります。
加えてここは『塔』なのですから、魔物と罠に警戒するのが当然、となります。
コボルト(E)にできるのは①しかないですし、ウルフ(E)は①すらできません。
ハイコボルト(D)やウェアウルフ(C)にしても②や③を行うのは無理だと思われていました。
塔主戦争用に知能の高い魔物を召喚するか、塔主自らが前線に出るか、この二択しかないという予測を皆さんはしていたのです。
『ウェアウルフでも解ける謎だと思っておったのか、画面越しに解けると思っておったのか、戦場に出るのが怖かっただけか……わしにはよく分からん』
『その全部が正解かもしれへんで。いずれにせよアホや』
ということらしいです。私にはそこまで推測できません。
それと指揮官であるウェアウルフが毒をくらい、それを治さずに放置したことについてもかなり辛辣なご意見が。
『ありえませんわ。百歩譲って、警戒せずに部屋に入ったのは今までの流れや市井の情報を得ていたからかもしれませんが、状態異常対策を何もせずに塔主戦争に挑むなど……本当にありえませんわ』
『なんで毒になった段階で自塔に戻さなかったのですかね? 回復手段がないなら塔主が手持ちの回復薬を届けるしかないじゃないですか。みすみす眷属を見殺しにするだなんて……』
『手持ちにもなかったのかもしれんぞ。保険をかけるほどの頭がなさそうじゃからのう』
『それはもう塔主戦争以前の問題やん。塔主としてどうかって話やで』
……狐耳が痛いです。私も以前は『常備薬』など持っていませんでしたし。そこにTPを使うFランク塔主は多くないとも思っていますが。
ポーションの類はTPから購入できますが――もちろん市販品を持ち込むこともできます――営業時間内ではTPを使うことができません。
厳密に言えば、侵入者がいる状態でTPを使った操作――魔物を召喚したり、罠をいじったり、塔構成をいじったり、アイテムを購入したり、といったことができなくなります。
だから事前に常備薬を用意しておく必要がある。営業時間内に病気にでもなったら大変ですからね。まぁ塔主が病気にかかるのかは知りませんが。
ともかくお相手のピスタチオさんはそうした準備もしていなかった。
攻め込ませる戦力は近接物理の魔物だけ。魔法もなければ回復もできない。なのにアイテムも持っていない。
これが皆さんに言わせると『論外』だそうです。お厳しい。
おそらく私が弱者だと油断して下さったのでしょう。
だからこそ私は生きていられる。弱者と侮ってくれたことに感謝したいくらいです。
私は油断できるほど強くはないのでずっと気を張っていました。皆さんは早々に気楽な感じでしたが。
しかし時刻はもうすぐ五の鐘といったところ。
さすがに大丈夫でしょう。私の心にも少し余裕が生まれます。
『申請があった時点で勝ちは確定みたいなもんじゃったが、ここまでくると万が一も考えられぬのう』
『攻塔戦の防衛側で戦えるんならウチらの中でも最強やろ、ノノアちゃんトコは』
『知恵者の同盟で小型・人型の大戦力、でもなければ限られた時間内に【世沸者の塔】の攻略など無理に決まっていますわ』
『しかもそれが二階層分ですからね。謎解きの答えを知らなければエメリーさんだって無理だと思いますよ』
その謎解きはほとんど皆さんに考えて頂いたものなので、ホント足を向けて寝られないです。
でも頭が良くて、尚且つ強い塔をお持ちの皆さんにそう言って頂けると私も安心できます。
だからと言って攻塔戦の防衛側限定で塔主戦争を受ける方なんて限られちゃうでしょうけどね。
私はそれ以外に戦う術がありませんし。
『ウチとしては二階層に行って欲しかった気持ちもあるけどなー。ノノアちゃんには悪いけど』
『反応は見たかったですわね。侵入者がどう動いてどう探索するか、参考になったでしょうし』
『二階層の謎解きは鬼畜じゃからのう。それこそわしらでなければ突破はできぬじゃろ』
『ですね。でもいずれノノアさんもEランクに上がるでしょうし、そうなれば四階層分が脱出ゲームになるんですよ? もう絶対に攻略不可能じゃないですか』
『新階層の謎解きギミック考えるのは楽しそうやなあ。今のうちから揉んどかんと』
「アハハ……」
何とも心強い。
でも先日総会があったばかりですし半年後の総会で私がランクアップするかも分かりません。
討伐TPも稼げないですしね。ひたすら滞在TPを稼ぐしかないのですから。
と、そんな先のことを考えるより今のことを考えなければ。
もうすぐ五の鐘。勝ちは揺るぎません。
その後は神様から報酬を頂いて、夜には皆さんで祝勝会ですね。
五人で街に繰り出すのは初めてです。というか私は塔主になってから街に出ていないので……少し怖いですが。
報酬と言えば斃した【猟犬の塔】の魔物を召喚できるようになるんですよね。一度だけ。
やっとスライム縛りから解放されます。
やっぱりウェアウルフですかね。
二階層のクイズ扉の先の大ボス部屋……そこにウェアウルフ置いちゃいますかね。Cランクなんてすごいですし。
ああ、やっと塔主らしい『楽しみ』が生まれた気がします。
それもこれも全て皆さんのおかげです。今日の祝勝会で改めてお礼を――
――カラァン――カラァン――
『はーいしゅ~~~りょ~~~! ピスタチオくんさようなら~~~!』
『ぎゃあああああ!!!』
『【世沸者の塔】の勝ち~~~! ノノアちゃんおめでと~~~パチパチパチ』
「あ、ありがとうございますぅ!」
こうして私の初めての塔主戦争が終わりました。
色々と考えさせられることが多かったのですが、今はただ皆さんと喜びを分かち合いたいと思います。
ピスタチオさんはあくまで前座ですので速攻で退場です。お疲れさまでした。
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