460:最終決戦が始まりました!
■アズーリオ・シンフォニア 42歳
■第487期 Aランク【節制の塔】塔主
私は十八・十九階層に下り立った。広々とした大聖堂にはすでに最終防衛線の部隊が並んでいる。
=====
節制の天使ミカエル(★S)、座天使(A)30
三頭竜ファウスギドラ(★S)、ホーリードラゴン(S)5、ホーリードラコ(C)25、ドラゴンライダー(B)25
千剣竜ライナルエッジ(★S)、ソードドレイク(A)15
雷鷹ビョルンド(★A)
ロイヤルナイト(A)30、ロイヤルウォーロック(A)30、ロイヤルビショップ(A)30
=====
階層の中央にクァンタの眷属である地竜ライナルエッジとドレイク部隊。
その周りを飛竜たちが囲み、後方には私の眷属であるファウスギドラ。
さらに後ろにミカエルの天使部隊。最後尾、階段の付近にロイヤル部隊に守られた私が陣取るという布陣だ。
私は【隠遁の杖】と【高揚の戦旗】の効果をすでに発動している。
【隠遁の杖】は私と触れているものを不可視とする効果。姿はもちろん、左手の戦旗も見えない状態となっている。
【高揚の戦旗】は戦場に掲げることで自軍全体に指揮向上とステータス微向上の効果がある。
「ミカエルよ、指揮は任せるぞ」
「ハッ!」
そうこうしているうちに敵攻撃陣が十八・十九階層に上がって来た。
まず飛び出してきたのは妖精女王、火の鳥、弓使いの三体……先ほどと全く同じ形だ。
やはりビョルンドの<魔導戦車>を一番警戒しているということだろう。
しかし――
(<制圧節義>!)
私は弓使いの影に向かって限定スキルを放った。そこにいるのは分かっている。
弓使いの足元から立ち昇る幾本もの光は天井まで上り、弓使いを囲う。
それは光の檻となり、移動も出来ず、あらゆる攻撃行動が不可能な封牢となる。
捕らえたのは弓使いではない。その影に潜む者が対象だ。
弓使い自体はすぐに光の檻から抜け出したが、影から現れた黒衣の女性は完全に捕らえられた。
これであの妙な黒幕は使えん。ビョルンドの<魔導戦車>を防ぐ術はない。
とは言え……ただの一度で半分以上も魔力を消費するのは頂けない。さすがは限定スキルと言えばその通りなのだがな。
私は急激な消耗による倦怠感に苛まれながら、マジックバッグから魔力回復薬を出し一気に飲み干す。
最低でも三本は飲まねば……と思っているところで敵陣に動きがあった。
さすがにこの状況を看過出来ないと思ったのだろう。敵攻撃陣が全て十八・十九階層に現れ、黒衣の女性を守るべく布陣しようとしていた。
当然だな。このままでは黒衣の女性はビョルンドのいい的だ。
実際、捕らえた直後から<魔導戦車>の砲撃は始まり、黒衣の女性は避けながらも衝撃によるダメージを受け続けている。
細長い円柱状の光の檻。その中はろくに身体を動かすスペースなどない。
せいぜいしゃがむか跳ねるかくらいのものだ。いかにあの魔物が素早くても無駄なこと。
しかも『戦闘不可』の効果により武器も構えられず、スキルも魔法も使えない。限られたスペースで回避するか耐え続けるしか出来ないのだ。
おそらくそういった状況は黒衣の女性から伝わっている。だからこそそれを守ろうと動いた。
私の狙いもそこだ。
確かに<影魔法>を操る黒衣の女性も脅威には違いないが、もっと狙いたいのは――
(<制圧節義>! ……くっ!)
光の檻は敵集団の中にいたヨグ=ソトースを捕らえた。
めまいで倒れそうになる身体を戦旗で支えながら、私はしてやったりとほくそ笑んだ。
震える手で魔力回復薬を飲むが……さすがに連続で使っては回復量もたかがしれているな。
しかし無理矢理にでも飲まなければならない。せめてメイドを封じる分くらいは回復させねば。
ともあれ目標であるヨグ=ソトースを封じることは成功した。
<魔導戦車>で上半身を吹き飛ばしても生きているような化け物だ。その上、物理も魔法も効かないとなればアレ一体でこちらが全滅することもありうる。
だからこそ優先して封じなければならない。一度封じさえすれば私の視界内にいる限り効果は継続するのだから。
出来ればメイドが来る前にもう一体か二体、封じておきたいところだが……どれほど回復出来るものか。
<制圧節義>を使った直後にメイドがやって来るというのが一番危険だ。
デルトーニたちと連絡をとり、メイドの現在位置を確認しながら使うべきだろう。
■アデル・ロージット 19歳
■第500期 Bランク【赤の塔】塔主
階段を上る前に集めた情報で敵の陣容は分かりました。
大鷹とミカエルの部隊がいるのは分かっておりましたが……これほど竜を抱えているとは思いませんでしたわね。
三つ首の巨大飛竜、ホーリードラゴン(S)とドラゴンライダー(B)が乗ったホーリードラコ(C)の部隊。
地上には全身を剣のような鱗で纏った巨大地竜とソードドレイク(A)の群れ。
ここだけ見ればまるで五竜王の塔ですわね。
ハルフゥはエメリーさんを待たずに仕掛けることを決めたようです。奥の手は奥の手のまま残しておくということですわね。
前階層でもやったようにターニア様、クルックー、アタランテ、スカアハで攻め込み<影の障壁>を使うのと同時に向こうの手の内を探ろうとしました。
それ自体は何も間違っていなかったと思います。
前階層で全く対処出来ておりませんでしたし、もう一度やる価値はある。成功すればかなり有利に戦えますしね。
わたくしたちも反対しませんでしたし、きっと上手くいくと思いこんでいたのです。
「スカアハさんっ!」
しかし――肝心のスカアハが光の檻で閉じ込められたのです。
もちろん作戦は中止。ハルフゥは即座に攻撃陣を十八・十九階層に上げ、指示を出しました。
スカアハを守るように布陣するようにと。
シャルロットさんが眷属伝達で確認したところによると、あの光の檻は身動きがとれないばかりか、武器を持つこともスキルや魔法を使うことも出来ないようなのです。
出来ることは細長い檻の中で上下の回避行動をするくらい。戦闘自体が出来ないものと思ったほうがいいでしょう。
考えるまでもなく限定スキルですわね。【傲慢】が使った『平伏』に近いものでしょう。
最上層まで使わなかったところを見るに、この階層限定で使えるものだと思います。しかし強力なものには違いありません。
なるほど……だからシンフォニア伯は自信を持って塔主戦争を仕掛けてきたわけですか。
エメリーさんがいても、固有魔物を大量に抱えていても、それを封じさえすれば勝てると……。
問題は対象が一体だけなのか、何体にも掛けられるものなのか。効果時間などの制約はあるのか。
エメリーさんが【節制の塔】を駆け上がっている現状で無駄撃ちのような真似はしないでしょう。
となれば最低でもエメリーさんに使うつもりではあるはずですが……。
そんなことを考えているうちに、今度はヨギィが捕らえられました。
スカアハ、ヨギィを狙い撃ちということは、どこに配置しようが無駄ということですわね……狙った相手を確実に封じられると。
おそらくシンフォニア伯にとって脅威と言える魔物がスカアハとヨギィということでしょう。これまでの戦いを見ていれば当然とも言えますが。
現時点でもエメリーさんが封じられていないところを見るに、やはり最上層以外では使えないという結論でいいでしょう。
しかし攻撃陣の誰もが狙われてもおかしくありません。
スカアハ、ヨギィときて次に狙われるとしたら……ハルフゥ、ペロ、ウリエルあたりでしょうか。
「ど、どうすればいいんですか、これ! ヨギィが! スカアハさんも!」
「落ち着け、ノノア。対処など出来んしせいぜい守ることしか出来ぬ。しかしスカアハもヨギィも簡単に死ぬようなタマではない。そうであろう?」
「そ、それはそうですけど……」
「ハルフゥはすでに指示を出しておる。塔主は塔主らしくサポートに徹するのじゃ。こっちが騒いでは向こうの思うつぼじゃぞ」
「は、はいっ、分かりました!」
フッツィルさんの仰るとおりですわね。わたくしたちは冷静に対処しなければなりません。
攻め込んでいるのはこちらなのです。せっかく築いた優位性を失うわけにはいきませんから。
『飛行前衛部隊は突貫! 大鷹を絶対に落として下さい! 前線を少し上げます! 後衛はバフと防御を切らさないように!』
まず斃すべきは大鷹である。ハルフゥはそう判断しました。
光の檻はどうにも出来ないが、長距離攻撃は大鷹さえ斃せば防ぐことが出来る。
警戒すべき限定スキルを一つに絞る、その為に飛行部隊を突っ込ませました。
妖精女王(★S)、麒麟(★S)、セイレーン(★S)、フェニックス(★S)、ヘルキマイラ(★S)、竜人将パルテア(★S)。
六体ものSランク固有魔物、それを大鷹一体に向かわせたのです。
明らかな過剰戦力ではありますが、大鷹に辿り着くまでにホーリードラゴン(S)の群れを通り過ぎなければなりません。
大鷹の近くには三つ首の飛竜もいますし、ミカエルの天使部隊もいる。それを考慮すれば決して過剰戦力とは言えないでしょう。
『クルックー、こっちは抑えますから前は任せますね~。鳥を片付けたら三つ首をお願いします~』
『クルゥ!』
どうやらターニア様、麒麟、パタパタはホーリードラゴンを抑え、大鷹と三つ首をクルックー、ヘルキマイラ、パルテアに任せるようです。
ターニア部隊とクルックー部隊に分けていたのが効きましたわね。
しかしそれだけで勝てるなら苦労はしません。
敵戦力は明らかに強力で、三つ首のすぐ後ろにはミカエル部隊が支援に回っているのですから。
目標はあくまで大鷹一体のみ。無理を忍てでも最初に斃さなければならないのです。
わたくしは眷属たちに声を掛けつつ、画面を見続けていたのです。




