457:厳しい戦いが続いています!
■シャルロット 17歳
■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主
【節制の塔】十四・十五階層は溶岩と霧の階層。行軍しにくいことは一目で分かります。
画面で見ている私たちも全体的にぼやけて見えていますし、こちらから何か指示を出すというのも難しいでしょう。
必然的に現場判断が多くなると思いますので……ハルフゥさんに頑張ってもらうしかありませんね。
階段を上ったところで攻撃陣は布陣し直しますが、とりあえず風魔法を試し、周囲の霧はある程度晴らすことが出来ると分かりました。
ターニアさんかオルフェウスさんの役目になりますかね。
階層中が霧掛かっていますので遠くまで見通すということは出来ませんが、攻撃陣の周りだけでも見やすくなれば助かります。
そうして、さあ階層の攻略を始めようと思った時――早くも敵は先制攻撃を仕掛けてきたのです。
霧の中、溶岩の中から出てきたのはファイアリザード(B)やファイアドレイク(A)の群れ。これも【赤の塔】と同じ魔物です。
溶岩の熱さを苦としない巨躯の魔物たち。それが最序盤でいきなり襲い掛かって来るという事態。
『防衛陣を! 前衛部隊は前へ!』
『おう! ランスロット部隊が前だ! バートリ部隊はフォローに動け!』
『ハッ!』『おお!』
『後衛部隊は水魔法で対応を! 飛行部隊はまだ索敵と地上部隊の支援に留めておいて下さい!』
『ハッ』『了解です~』『ハッ!』
ハルフゥさんは入口から動かず迎撃することを選択しました。
下手に前に出ると溶岩と霧が厄介ですからね。安全な入口で出来るだけ削ろうとしたのでしょう。
それは正しい選択だったと思います。しかし……固まったことが仇になったのだと、すぐ後に分からされたのです。
遠くから聞こえた音は「ドオン!」という轟音。
それは【赤の塔】の六階層でも聞こえたあの音でした。
私たち塔主にはそれが分かりますが、攻撃陣の皆さんは話に聞いただけで実際に体験したわけではないのです。だから余計に戸惑ったのかもしれません。
【戦車】の限定スキルと思われる長距離・高火力の攻撃。
それは遠くから聞こえたと思ったら、霧の中から突然現れ、次の瞬間――「パアン!」とヨギィの上半身が弾け飛んだのです。
「ヨギィ!!!」ノノアさんの悲鳴が響きました。
ピンポイントで狙われたのでしょう。ヨギィの危険性は六階層で散々見せつけてしまったので、敵からしても警戒対象だったと思います。
だからと言って、ランスロット部隊の後ろ、バートリさんのすぐ隣にいた少女姿のヨギィを遠くから狙い撃つとは……どれほどの命中精度だと言うのですか……!
しかもあの威力……ヨギィの上半身を消し飛ばしただけでなく、衝撃で隣に居たバートリさんをも少し吹き飛ばしていました。
バートリさんのほうに怪我はないようですがヨギィは……。
『ウリエル部隊回復を!』
『ハッ!』
ああ! あの状態でも生きているのですか! さすがスライムですね……。
ノノアさんも急いで眷属伝達したらしくヨギィが生きていることは確認出来たようです。ホッとした表情を浮かべていました。
しかし大ダメージには違いないようです。回復しきるまでは動けないと。
『チッ! ランスロット、ハルフゥを守れ! バートリはデカブツの相手だ! 俺が前に――うおっ!』
遠距離攻撃はヨギィを狙っただけでは終わりません。
ジータさんは「次はハルフゥさんが狙われる」と瞬時に判断したのでしょう、ランスロット部隊を本陣の守りに据え、ご自分は前に出ることで攻撃を防ごうと思ったようです。
その予想は的中したのですが……予想以上に威力が高かったのでしょう。
特大剣で防げはしたものの、その攻撃は大柄なジータさんを吹き飛ばすほどのものだったのです。
攻撃は連続して放たれます。
ハルフゥさんを狙うものはランスロットさんが防いでくれましたが、その周囲のジェネラルナイト(B)やブラッディナイト(B)は射線にいるだけで壊されていくのです。
ウリエルさんを狙うこともありました。
しかしそこは大天使の中でも防御力に秀でているというウリエルさんです。盾で防ぐことは出来ていたようです。
とは言えそれでノーダメージというわけでもなく、周囲に被害も出ていました。
どうしたものかと見ているこちらは戸惑っていたのですが、ハルフゥさんは先に答えを出していたようです。
『スカアハさん、もうその位置で構いません! 早く障壁を!』
攻撃陣から30mほど前方で地面から黒い幕がせり上がりました。スカアハさんの<影の障壁>です。
ハルフゥさんの言い方からして、本当ならもう少し前方までスカアハさんを進ませてそこで発動させたかったのでしょう。
しかし事は一刻を争う。なるべく早く発動させねばということで比較的近い位置になったのだと思います。
遠距離攻撃をしている魔物が遠くを飛んでいることは、その攻撃の角度などから分かります。
その魔物から攻撃陣を隠したわけですね。
とは言え、身を隠すだけでは何も解決しません。ハルフゥさんもそう思ったのでしょう。
『ターニアさん! クルックー部隊と共に迎撃に向かって下さい! クルックーは全力で構いません!』
『は~い』『クルゥ!』
『目的の敵は飛行系魔物一体だと思われます! 両肩に筒が付いているそうなのでそれを見つけ次第落として下さい! スカアハさんはフォローを!』
『了解』
素早く機動力と攻撃力に優れた迎撃部隊を派遣しました。障壁を越えて仕留めに行けと。
クルックーとスカアハさんも、もう隠すつもりもありませんね。私たちもこの期に及んで「姿を見せるな」とは言いません。これ以上ないほどの迎撃陣だと思いますし。
ターニアさんとクルックーを先頭に、ヘルキマイラ、マンティコアフレイム、マンティコア五体が障壁を越えていきました。
その様子は私たち塔主しか見ることが出来ません。
ターニアさんは風魔法を使い、霧を晴れさせながらの飛行なのでとても忙しそうです。
一方、攻撃陣は長距離攻撃から目隠しをしてそれで終わりというわけではありません。
多くのドレイクとリザードがすでに近くにいるのです。バートリさんの部隊だけで守りきれるはずもなく、徐々に押し込まれる様子が見て取れました。
そこで、ハルフゥさんはもう一つの手札を切ったのです。
『ペロを巨大化させ前衛に出します! 周囲を空けて下さい! 本陣の守りはランスロット部隊とします! ジータさん、フェンリル部隊を前衛でお願いします!』
『おう! バートリ、道を空けさせろ! ペロに凍らされるぞ!』
『オルフェウス部隊はペロのフォローを! ウリエルさん! おそらくペロは集中砲火をくらいます! 回復は怠らないように!』
『ハッ』『了解!』
ペロを壁役として使いつつ、周囲の溶岩をも同時に対策するということですね。
溶岩地帯でペロの冷気が有効かどうかというのは、【赤の塔】ですでに試しています。
ペロの周囲の地面は凍り、溶岩は完全に冷めると。少し離れれば効果は薄れていくようです。
20mも離れれば溶岩の熱さが勝るでしょう。ペロのほうで冷気の量を調節も出来るらしいのですが。
いきなり現れ周囲を凍らせるペロの存在は敵にとって脅威に映るでしょう。
ハルフゥさんが仰るように敵の攻撃が集中するのは間違いないと思います。そもそも巨体で的も大きいですしね。
しかしペロの耐久力は図抜けています。
例え火属性の攻撃を受けても、バフと回復が入った状態のペロは早々落ちることもないでしょう。
足取りは遅い。それでもペロの速度に合わせて攻撃陣は前に出ました。
敵の攻撃を押し返し、スカアハさんの障壁を抜けるつもりです。ペロを利用して一転攻勢とするつもりなのでしょう。
一方、逸早く障壁を抜けていた飛行部隊は、すぐに長距離攻撃を放っていた魔物を発見していました。
それは雷を纏った大鷹。その翼の根元に二本の筒が付いていたのです。
有翼の魔物が率いる鳥部隊の中に、その大鷹を見つけていました。
大鷹は当然のようにターニアさんたちを狙いました。ドンドンと連続した音が鳴り響きます。
ターニアさんとクルックーはそれを避けつつ接近します。さすがの速度だと言わざるを得ません。
しかしターニアさんの風魔法も、クルックーの火魔法もまた避けられました。相手も相当な速さ。
大鷹は逃げながらも迎撃。ターニアさんたちも避けながら攻撃と慌ただしく動きましたが、どちらも決定打には欠けます。
普通に戦えばターニアさんたちの圧勝のはずですが、鳥部隊が立ちはだかりますし、やはり例の攻撃が厄介なのです。余計に避けないと衝撃だけでダメージになるので。
しかも大鷹は本格的に撤退し始めると同時に、ターニアさんたちの後方、ヘルキマイラ部隊に狙いをつけたのです。ターニアさんとクルックーを落とすより戦力を削ることを優先させたのでしょう。
連続して放たれた攻撃はヘルキマイラに大ダメージを与え、マンティコアを次々に落とし――マンティコアフレイムの右前足と右翼を吹き飛ばしたのです。
「チッ! くそっ!」
シルビアさんの舌打ちが聞こえました。マンティコアフレイムも決して遅いわけではないのです。回避行動はしていました。
しかし敵の攻撃が速すぎる上、狙いが的確すぎるのです。
ターニアさんは防御に、クルックーは回復に回されることとなり、結局は大鷹を上層に逃がす結果となってしまいました。
その後、スカアハさんの援護も入り、ターニアさんの獅子奮迅の活躍もあって鳥部隊はほとんど壊滅できました。
ヘルキマイラは何とか無事なようでしたが……マンティコアフレイムはダメージを受けすぎました。光と消えていくのを見送るしか出来ませんでした。
マンティコアも三体がやられ、残りは二体を残すのみです。
空の戦いはこれで終わり……ではありません。
敵には元々この階層に配置されていた飛行部隊もいたのです。
ファイアドラコ(C)とレッドワイバーン(A)の群れ。そしてワイバーンに騎乗しているのは亜人系の魔物、ドラゴンライダー(B)です。
ドラゴンライダーに混じって一体、赤い騎士が乗っています。おそらくこれが指揮官でしょう。
大鷹を追っている最中にも邪魔をしてきていた飛竜部隊が、再びターニアさんたちを狙ってきたのです。
対するはターニアさん、クルックー、ヘルキマイラ、マンティコア二体……質で言えば圧勝ですが数では大きく劣っています。
スカアハさんが影に隠れながら近づいているので大丈夫だとは思いますが……それ以上に地上部隊が危険ですのでそちらに注目せざるを得ません。
ペロを先頭にして進む攻撃陣は障壁を越え、リザードやドレイクを斃しながら進みます。
百体ほどの魔物の群れ、その最後尾に小屋ほどの大きさもある巨大な赤獅子が見えました。
燃える鬣はそれこそ溶岩のようで、歩けばその周囲には溶岩が広がると……それはまるで――
「まるでペロの対極存在ですわね」
アデルさんの言葉に誰もが納得していたのです。




