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新米女帝の塔づくり!~異世界から最強侍女を喚んじゃいました~  作者: 藤原キリオ
第二十四章 女帝の塔は節制同盟と戦います!
470/486

449:初手『ヨギィ』です!



■アズーリオ・シンフォニア 42歳

■第487期 Aランク【節制の塔】塔主



 【節制の塔】は城、神殿、街といった塔構成が使いやすい。必然的に屋内階層が多くなる。

 とは言え天使なども召喚可能な為、天井高を必要とする場合も多い。

 上層はほとんどが連結階層だ。今回の塔主戦争(バトル)は六~二十階層を使用するが、全十階層と変わらない。



 敵攻撃陣は一階層から転移魔法陣を使い、六階層『罠の通路』から探索を始めようとしている。入口で陣形を整えているところだ。

 七階層までは侵入者が入っているから情報も得ているはずだが、この六階層は侵入者の斥候対策が主な目的となっている。

 ほとんど一本道の城内通路。そこには多くの罠が仕掛けられている。


 単純に足元のスイッチで発動するものもあるがそれだけではない。

 通路を塞ぐように定期的に炎の壁を創るような火炎放射の罠であったり、定期的に毒を噴出するような罠もある。斥候が<罠察知>で見つけたところで無意味な罠だ。



 それに加え、裏道のようなものも完備しており、そこは私の魔物専用の道となっている。

 侵入者が歩く通路、その左右の壁を隔てて裏道が通っており、例えば眷属がそこから罠のスイッチを操作することも出来るし、壁に開いたスリットから通路に向かって魔法を飛ばすことも出来る。

 侵入者が気付いても迎撃が出来ず、こちらが一方的に攻撃できるという構造だ。


 もちろんそういった特性を全て使ってしまったら客足が遠のくので通常であればほどほどに留めておくが塔主戦争(バトル)となれば全てを利用する。

 敵の斥候がロイヤルジェスター(A)なので多くの罠は見破られるだろうが、大部隊で進軍している以上、通路では縦に長くなるし罠のスイッチを踏むこともありえる。

 <気配察知>で裏道の魔物に気付くかもしれないが、だからといってどうも出来ない。壁に阻まれ近づくことも出来ないのだからな。



 ただ今回に限っては、私がこの六階層に求めているのは斥候を削ることではない。もちろん出来ればそれに越したことはないが主目的は別にある。

 罠で足取りを遅くさせた上で、敵の情報を得るということだ。

 裏道にはスリットから魔法を放つための部隊が各所に控えているが、そのために【節制の天使ミカエル】(★S)も潜ませている。


 言うまでもなくミカエルはうちの眷属筆頭だ。本来なら私の隣に控えさせるか大ボスとして君臨するはずの魔物。それを六階層から使う。


 ミカエルの<人物鑑定>で敵固有魔物の情報を得る。それが第一。

 そして共にいる座天使(スーロン)(A)の<悪意感知>、ロイヤルジェスター(A)の<気配感知>で限定スキルが使われているか確認できれば尚良し。隠れている魔物がいればそれも見つけておきたい。

 今回はまずそういった策をとっていた。



 敵攻撃陣は布陣を整えたあと、通路をゆっくりと進み始めた。かなり遅い足取りだ。それだけ警戒しているのだろう。

 やはり足元や壁にある罠のスイッチには気付くらしい。それもまた当然だがな。

 固有魔物同士が声を掛け合いスイッチを回避しているがそれがどこまで続くか、これは一つ見物だな。


 ただ炎の壁や毒が蔓延している箇所はやはり苦戦している。どうしても足が止まるのだ。

 炎が消えたタイミングで通るしかないのだが、停止している時間は数秒。たった数秒で全軍が通り抜けることなど出来ず、少しずつしか通り抜けることは出来ない。

 結局、行軍は遅々となり、それは私の狙い通りでもあった。



 足が止まっている隙にミカエルは動いていた。斥候数体と天使数体を率いて裏道を飛ぶ。

 敵攻撃陣から多少遠くても壁のスリットから覗ける場所であればいい。ミカエルが目視できれば<人物鑑定>は出来るのだから。


 そうして位置を確保し、ミカエルが覗き始めていたその時だ。――それは起こった。



「なっ……!?」



 私たちは敵攻撃陣の様子を画面で見ていた。

 ヴァンパイアのクイーンが隣を歩いていた黒衣の少女を突然持ち上げ、ミカエルが覗く壁のスリット目がけて……投げつけたのだ。


 <気配察知>で気付くにしても少々遠いとは思うがそれはどうでもいい。

 味方のはずの少女をまるで投擲武器かのように投げつける。その異様な行動に私たちは言葉を失くしたのだ。


 驚いたのはミカエルも同じ。恐ろしい速度で頭から突っ込んで来る少女の姿に、思わずミカエルは仰け反った。壁から離れたのだ。


 スリットは少女が通れるほどの幅などない。あの速さで頭から壁に激突すればいくら固有魔物でもただでは済まない。

 これではただの自殺行為ではないか。そう思った次の瞬間――。


 ビシャアンと少女の身体は潰れた。壁に激突したと思ったら水のように弾けたのだ。

 私は一瞬、少女が死んだのかと思った。身体が潰れるほどの衝撃だったのかと。


 しかしそうではないとすぐに判明する。

 潰れた少女は水のように広がったあと、ウネウネと動き、壁のスリットから裏道に入り込もうとしていたのだ。



『ッ!? スライムです! おそらくはスライムの最上位種! スキルもステータスも尋常ではありません! Sランク固有魔物です!』



 ミカエルの声は画面からも眷属伝達からも聞こえた。慌てている様子が窺える。

 スライムだと!? 人の形をとれるスライムなど聞いたことがない。困惑と混乱が頭の中を支配する。



「ミカエル、退けっ!」


『はい! お前たち、援護を!』



 私は咄嗟に退却命令を出した。

 その補助としてミカエルは座天使(スーロン)とロイヤルジェスターに攻撃命令を出した。攻撃を足止めとし、その隙に逃げられるように。


 スライムはスリットから裏道へと完全に入っていた。少女の姿はしていない。巨大なヘドロのようなモノがそこにはあった。

 天使は神聖魔法を、ロイヤルジェスターは投げナイフで攻撃をした……が、全ては黒いヘドロの中に消えていった。まるで効いた様子はない。


 お返しとばかりにスライムは幾本もの触手を伸ばす。

 おそらくそれで絡めとるつもりだったのだろうが……ミカエルたちの逃げ足のほうが速い。無事にその場から離れることに成功した。



『アズーリオ様、申し訳ありません』


「いや、無事であったならそれでいい。最低限の情報は得られたのだしな」



 敵攻撃陣の前線にいた数名は<人物鑑定>をすることは出来た。一先ずはそれだけでも収穫だ。


 ジータ、黄神騎士ランスロット、ナイトメアクイーン、そして……ヨグ=ソトース。

 すでに眷属伝達にてステータスとスキルも判明している。


 ジータは神定英雄(サンクリオ)の中でも最高峰と言えるほどの前衛剣士だった。しかしそれは想像通りだったので別段気にするところではない。


 問題は残り三体。その全てがおそらくSランク固有魔物であろう。

 まぁランスロットとナイトメアクイーンについては予想できる能力を有していたのだが……ヨグ=ソトースというスライムは一体何なのだ?

 ステータスとスキルを知った今でも、あの存在が理解できない。



「【世沸者】の固有魔物でしょうか……」


「スライムという時点でそれが濃厚だが……鑑定だけでは分からぬ不気味さがあるな。出来ればもう少し調べたいところだが」



 画面に映るスライムは裏道に留まったまま、また少女の姿に戻っていた。

 てっきりスリットを抜け敵攻撃陣に合流するかと思ったがその様子はない。

 どうやら単身で裏道を進むらしい。


 ミカエルがいると分かっているのに? なぜそんな危険な探索をさせる必要がある?

 まさかミカエルが相手であっても確実に勝てると思っているのか? だから単身で進ませようと?



「……ミカエル、裏道に控えている魔物を集中させ、あのヨグ=ソトースとかいうスライムを攻撃させよ」


『持ち場を離れさせてよろしいのですか? 敵攻撃陣への攻撃は中止すると』


「ここでSランク固有魔物を一体でも削れるならば大きい。それが敵わなくてもスライムの情報は少しでも欲しいところだ」


『承知しました』


「くれぐれもお前が前に出るような真似はするなよ?」



 嫌な予感がしている。

 メイドが攻撃陣にいないのはこのヨグ=ソトースという魔物がいるからなのではないか。

 メイドに代わる特級の局所戦力……それがこのスライムなのではないかと。


 でなければ敵陣で単身探索などさせるわけがない。ミカエルの存在をその目で見ているのに。

 メイドならばそれもやりかねん。単身でミカエルを斃そうと動いても何らおかしくはない。

 それと同じようなことをあのスライムは行っているのだ。だからこそ危険に思える。



 私が六階層に配置した二百体のうち、百五十体は通路で足止めするための壁役だ。

 ロイヤルナイト(A)を指揮官としてジェネラルナイト(B)の群れを並べ、その後方からはロイヤルウィザード(B)が魔法を放つという部隊構成。

 通路を塞ぎ、足止めをし、そこを火炎放射や毒によって削る。そのための分厚い壁がこのロイヤル部隊となる。


 残りの五十体はミカエルたちを除き、スリットから魔法を放つための魔物。

 ロイヤルウィザード(B)、デビルキャスター(B)、ブリーズイーグル(B)といった魔物が裏道に潜んでいる。

 階層を巡る『罠の通路』は至る所が裏道と接し、どこからでも魔法を放てるようにしてあるのだ。今はそのスリットの傍でそれぞれ待機させている。



 ミカエルは私の指示のもと、それらの魔物を集め、五十体弱の部隊としてヨグ=ソトースに差し向けた。

 少女の姿となったスライムは未だ裏道をテクテク歩いている。まるで散歩でもしているかのように。その様子はとても探索と呼べるものではない。


 一体のみ。ただ歩いているだけならばチャンスに違いない。

 ミカエルもそう思ったのだろう、引き連れた魔物に魔法を放つよう指示を出した。



 こちらの部隊を視認したヨグ=ソトースは両手を伸ばし、それを長い触手に変えて部隊を狙う。

 しかしそんなことはおかまいなしに放たれる数々の魔法。

 それはまるで波のように少女へと襲い掛かった。


 仮にミカエルであってもただでは済まないであろう怒涛の魔法攻撃は止むことなく轟音を響かせる。

 メイドでも無事とはいくまい。そう思わせるには十分な攻撃であった。少なくとも我々にはそう見えた。


 だが――魔法の爆煙の中から幾本もの触手は飛び出し、まずは三体のデビルキャスターが捕らえられた。

 そのまま持ち上げられ、運ばれ、少女の身体に取り込まれて行く……ズブズブと沈んでいくのだ。まるで沼のように。


 いくら魔法を撃たれようが表情一つ変えず、体勢も崩さず、触手を動かし、次々に魔物を捕らえていく。

 それは私が今までに見たどの悪魔よりも恐ろしい、身の毛もよだつ光景だった。


 ミカエルはそれでも攻撃を止めさせなかった。

 まだ魔法無効と決まったわけではない。スライムだから表情が読めないだけで実際は効いている可能性もある。

 だからこそミカエル自身も加わって魔法を撃っていた。


 ロイヤルジェスターに直接攻撃もさせた。

 素早い斥候系魔物であれば触手を避けながら近づくことも可能だ。

 突貫させナイフによる近接攻撃を試みたのだが……これもまた何の痛痒も感じていないように見えた。

 ロイヤルジェスターはそのまま捕らえられ、取り込まれて終わりだ。



 Bランクの魔物もAランクの魔物も次々と消えていく。

 魔法も効かない、物理も効かない――そんなことはありえないとも思うのだが、実際に目にする光景は否定することを許さない。

 私がミカエルに撤退命令を出した時、五十体の魔物はわずか八体にまで減っていた。


 最高戦力であるミカエルが敗走した。

 それは私たちに暗い影を落とした。ミカエル自身も悔やんでいる様子が窺える。

 私は皆に向けて告げる。同盟を率いる者として。



「大丈夫だ。これでヨグ=ソトースという魔物が如何なものか大体分かった。何の問題もない」


「し、しかしアズーリオ様……」


「魔法も物理も効かない、何の弱点もない魔物などこの世に存在しない。そうだろう?」


「それはそうですが……」


「一つは十四・十五階層でどうなるかだ。これが有効かを見るのが一つ。その前に<蒼き鋭刃>と<魔導戦車>でどうなるかも見なければならないがな」


「なるほど……それはそうかもしれませんな」


「最終的には私の<制圧節義>を、メイドではなくあのスライムに使うことになるかもしれん。それを道中で探るとしよう」


「はい、分かりました」



 ヨグ=ソトースがメイドと同様の危険性を持つならば限定スキルの矛先をそちらに向けるだけ。

 対処出来ないという事はない。十分に戦える。

 出来ればミカエルには他の固有魔物も調べてもらいたいところだが……はたしてそのチャンスはあるものか。





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