445:いよいよ神様の立ち会いです!
■シャルロット 17歳
■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主
『なるほどなるほど~。なかなかいいんじゃないかな~』
塔主総会から十日後。私たちは神様との立ち会いの日を迎えていました。
その間に行われた同盟戦の条文のやりとりは三回。
申請されるたびに会議をし、検討し、修正し……そう考えるととんでもない早さです。
【節制】同盟側が急いでいるというのは分かっていたことなのですが、それ以上にアデルさんやフゥさんの打つ手が早かったと思います。
まるで焦っているのはこちらだと言っているかのように……。
そうして出来上がった条文は『神賜禁止』『異世界アイテムの貸与禁止』『限定スキル禁止』などをそれぞれ削除して、『配置数制限』のみを残したような形になりました。
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・塔主戦争形式は同盟戦。
【節制】【戦車】【蒼刃】【魔霧】の同盟vs【赤】【女帝】【忍耐】【輝翼】【世沸者】【六花】の同盟。
・代表塔を【節制の塔】と【赤の塔】としての交塔戦とする。
同盟塔主は魔物を代表塔に集め、代表塔の最上階から指揮するものとする。
・【節制の塔】は六階層から二十階層までを使用する。
一階層から六階層までは転移魔法陣にて移動できるようにする。
・防衛陣として一つの階層に配置できる魔物は二百体までとする。
・攻撃陣として敵塔に侵入できる魔物は二百体までとする。
攻撃陣の補充として第二陣を侵入させる際も、敵塔に侵入している攻撃陣が合計二百体を超えてはならない。
補充は防衛用として配置されている魔物から行わなければならない。
・塔主戦争参加者以外は見ることが出来ない。(神以外)
・神との立ち会いから二日後、朝二の鐘から開始とし勝敗が決するまで継続する。
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これが全文です。アデルさんたちは勝算があるようです。
しかし私にはこの条文のどこに有利な部分があるのか、いまいち分かっていません。
そんな状態で承諾するのもどうかという話なのですが、そこは皆さんを信じていきたいと思っています。
『僕はこれでいいと思うよ。平等だと思うしね。何か確認したいトコとかあれば今のうちに聞いちゃって~』
『ではわたくしから』
『はい、アデルちゃんどーぞ』
『配置数制限の件ですが、まず連結階層も一つの階層……つまり配置出来るのは二百体までと考えてよろしいですわね?』
『もちろんです。こちらもそのつもりでおります』
『僕も賛成だね。連結階層が多い塔は魔物の総数が減ることになるけどそれが不平等だとは思わないよ』
これは聞いておいて正解ですね。
こちらが連結階層に二百体、向こうが四百体とか配置してたら「はあ!?」ってなっちゃいますよ。
『塔主戦争開始前に攻撃陣を一階層に布陣させた場合、それが一階層の配置数制限と干渉するということはございませんわよね?』
『もし【赤の塔】の一階層で攻撃陣から攻撃陣へと仕掛けられるのでしたら、当然それは″一階層に配置された魔物″としてカウントされるべきでしょう。私はそう考えております』
『僕もアズーリオくんに賛成だね。攻撃陣と別に一階層に二百体の魔物を配置するなら、攻撃陣は敵の塔に侵入することを優先させなきゃいけない。と、しておこうかな』
私が【強欲の塔】戦でやったような「侵入して来た敵攻撃陣をすぐに迎撃」という作戦が使えないということですか。
それをやるなら一階層に魔物は配置するなと。
逆に意表を突くことも出来そうですけどね。
『それと攻撃陣に欠員が出た場合に防衛陣から補充をするというのは分かりましたが、防衛陣の補充のために攻撃陣を戻すという場合も同様の条件でよろしいですわよね?』
『一階層分の配置数が二百を下回った段階で敵塔から戻せるってことだね。そこは変わらないよ』
『では防衛陣の階層移動も同じ扱いですわよね?』
『それはそうだね。例えば二階層と三階層の魔物を入れ替えるとなっても、入れ替え時に二百体を超えるような移動は認められない』
ああ、配置数制限にはそのような抜け道もあるのですか。
初期配置で二百体の部隊を組んだら早々配置変更もしなさそうですけどね。
エメリーさんみたいな単体戦力でしたら有効に使えるかもしれません。
『その場合どこから″移動した″と認められますの? もしくは二階層、三階層どちらも二百体を配置していたら移動自体が不可能ということですの?』
『私としては一体ずつを同時に入れ替えるような移動であれば可能であると思っております』
『僕はどっちでもいいんだけど……アズーリオくんの意見を採用しようか。上階から下りる際は″階段に足を踏み入れた時″、下階から上る際は″上階に足を踏み入れた時″としよう。交わるようにすればそれで一体ずつ配置変更という形になるね』
『違反があった時は神様のほうで対処できますの?』
『大丈夫。配置数をオーバーするような移動は出来ないようにしとくから。透明な壁でも創ろうかな』
『であれば安心ですわね』
無茶苦茶ですね。さすが神様です。
つまり透明な壁に阻まれて移動が出来なくなるってことですよね。
一体ずつが交差するように移動すれば阻まれることはないと……何でも出来るんですね、神様って。
『他には何かあるかなー?』
『では私から』
『はい、アズーリオくんどーぞ』
『魔物の中には産卵、召喚、分裂する者がおります。そうして増えた魔物も配置数制限に含まれるという認識をしておりますがよろしいですかな?』
『そうだね。逆に言えば二百体に収まる範囲であれば産卵、召喚、分裂はしても良いってことだね。アデルちゃんもそれでいいかな』
『もちろんですわ。問題ありません』
うわぁ……アデルさん自信満々に答えてますけど、結構刺さりますよね。
産卵はうちのクイーンアント(B)とかですけどさすがに同盟戦では使いませんね。
召喚はリッチ(A)とかが該当しますね。まぁ塔主戦争中に召喚することはないですか。
分裂はヨグ=ソトース(★S)がアウトですね。
ミニヨギィを使った偵察は出来ないということですから、斥候はスカアハさんかエメリーさんにお任せする感じになりそうです。
代表塔が【赤の塔】ですからアデルさんの魔物が結構占めるかもしれません。そこら辺は後ほど確認しておきましょう。
『他には何かあるかな? なければ終えちゃうけども』
『私のほうは特にありませぬ』
『ではわたくしから最後に一つだけ。条文の確認ではございませんが』
『いいよー、アデルちゃんどーぞ』
『【節制】同盟の皆様、随分と余裕のありそうな表情をされているのを見るに、スーロン侯がすでに捕らえられたことはご存じでないようですわね』
『『!?』』
えっ!? スーロン侯って中立派筆頭の方ですよね!?
捕まったのですか!? いつの間に!?
連絡がとれないって聞いてたんですけどとれたんですか!?
『そちらが勝とうがすでに未来などないのですし、足掻くだけ無駄だと思いますけれどね。まぁせいぜいわたくしたちの糧になって下さいまし。シンフォニア家、パッツォ家、カルトーレ家、マーティム家の皆様にはお悔やみ申し上げますわ。神様、わたくしからは以上です。お耳汚し失礼しました』
『ハハッ! オーケー、オーケー! じゃあみんな二日後頑張ってねー!』
ブツンと画面が消えました。残ったのは私たちだけです。
【魔術師】同盟の時と同じですね。最後に捨て台詞で煽ってそのまま立ち会いが終わってしまうという……。
神様はイキイキしていましたけど、【節制】同盟の皆さんは渋い表情だったり驚いていたりと様々でしたよ。
「ア、アデルさん、あれって……」
『その話は後にしましょう。時間がありませんわ。皆さん【輝翼の塔】に集合して下さい』
「えっ、今からですか?」
『フッツィルさんの所で作戦会議とします。申し訳ありませんけれどご足労願いますわ』
「わ、分かりました」
いつものように画面を繋いで作戦会議ではないのですね。
ああ、同盟の戦力をまとめたのがフゥさんのところにあるということですか。それを元に作戦を練ると。
そういうことなら急いで向かいましょう。時間もないのですし。
■アズーリオ・シンフォニア 42歳
■第487期 Aランク【節制の塔】塔主
『ア、アズーリオ様! スーロン侯が捕らえられたというのは本当なのですか!』
『中立派が……我々の家もすでに危機的状況にあると!?』
いきなり立ち会いが終わったと思ったらクァンタとゾロアが早速喚きだした。
デルトーニは渋い表情のまま考えこんでいる。
「落ち着け、あれはアデルの策だ。こちらを動揺させるための虚言に過ぎん」
私はそう言うしかない。
神が決定した今となっては「調べるから数日待ってくれ」とも言えん。
真実か嘘かなど分かるものではないし、どちらであっても二日後に塔主戦争を行うという事実は変わらんのだから。
「私が方々に手を尽くしているのに情報が入らんのだ。この状況でアデルのみに情報が入るということはありえない。従ってアデルの言は嘘だと断じることが出来る」
『し、しかしアデルは王国派ですしもしかしたらロージット公から何かしらの情報を……』
『私はアズーリオ様の言が正しいと思います』
『デルトーニ殿……?』
『仮にアデルが知っていればシルビアに伝えないはずがありません。アイスエッジ家も同じく王国派なのですから。しかし延々とシルビアを観察していてもそのような素振りを見せたことはない。だからこそアデルはあの場で嘘を言ったのだと思います』
デルトーニに助けられたな。クァンタもゾロアも多少溜飲を下げたようだ。
デルトーニも思っているはずだ。アデルの言を100%嘘だと断じることなど出来ないと――。
それでも嘘だと断じることで混乱を防いだ。
二日後には塔主戦争なのだ。ここで時間を浪費するわけにはいかない。
本音を言えば、私に情報が入らずアデルに情報が入るということは十分にありえる。
仕掛けているのが国王陛下であり王国派なのだから、当然情報が入るのも早いだろうし、中核となっているロージット公から内密に連絡が入ることもあるだろう。
おそらくはメルセドウ全体で情報封鎖が行われているとは思っているが、ロージット公ならばアデルに手紙を出すくらいわけないはずだ。
それとヤツらの限定スキルで知るという可能性もある。
メルセドウの内情を知れるような諜報型限定スキル。それならば一方的に情報を得ることも可能だ。
アデルでなくても、【忍耐】や【輝翼】あたりが取得していればいい。それで同じ状況が作れる。
まだヤツらの限定スキルを詳しく知っているわけではないのだ。可能性はあるだろう。
【節制の塔】は限定スキルの諜報対策も出来ているが……これからも用心は欠かせんな。
また、アデルならばシルビアにわざと情報を与えないということもありうる。シルビアが諜報されていることを考慮して。
そうなるとデルトーニが嘘と断じる根拠も消えるのだが、デルトーニもそれを承知の上で言っているのだろう。
クァンタとゾロアを落ち着けるため。
そして二日後の塔主戦争で勝つためだ。
「デルトーニ、シルビアの様子はどうだ」
『少々お待ちを。今から確認…………っ!? アズーリオ様! シルビアが玉座から離れ移動を始めました! どこかの塔に集まるようです!』
「チッ! ……なるほど、やはり感付いた上で泳がせていたか」
おそらく塔主戦争前の最終打ち合わせだろうが、わざわざ会って話す必要はないはずだ。
なのに集合するということは、諜報の手から逃れるためと見て間違いない。
全く……どこまで厄介なのだ、あの【神童】は。
一刻も早く斃さねばならん。私の未来のためにもな――。




