440:世沸者と六花の戦力強化です!
■シルビア・アイスエッジ 23歳
■第501期 Cランク【六花の塔】塔主
【六花の塔】はCランクとしてオープンを迎えた。
すでに出来上がっている七階層までを拡張し、三階層までに配置していた弱い魔物を多少強くなるよう置き換えただけだ。
大改装と呼べるものではない。とりあえずオープン出来ればそれでいいのだ。今は。
新しく増えた三階層をどうするのかという案もすでにあるのだが、今しばらくは『無の階層』のままでいい。
それよりも優先しなければいけないことが多いのだからな。
言わずもがな【節制】同盟戦に向けた準備なのだが。
塔主総会の翌日、私はオープン前の改装作業と並行して、アデル様から送られてきた手紙をもとに自塔戦力の一覧を作った。
同盟戦力の把握というのは前々から話に出ていたし、これもその一環なのだなと思っていた。
そうして私は【六花】の魔物で小隊を作っていったわけだが……同盟戦で使える部隊となるとかなり少ない。
フレスベルグ(A)や氷貴精(A)、キングゴート(B)などは一応配下を従えることも出来るのだが、それを同盟における中隊の中の小隊長とするには不足に思える。
それならば眷属である分、ジャックフロスト(C)のほうがまだ小隊長たる資質はある。ということで一応はそれも載せてみた。
改めて、自塔戦力の脆弱さを痛感した次第だ。
氷獣ファーブニル(★S)を眷属化したことで少しは同盟の力になれると踏んでいたが、さすがに先達の壁は厚い。
戦力的にはすでにCランク上位ほどあるとは思っているものの、それを同盟の中で活かすとなると話は変わる。
今回、一覧として書き並べたことでそれを自認することが出来た。
前向きに考えれば、今改めることが出来て良かったと言えるだろう。
ところがその翌日、今度はフッツィル殿から手紙が来た。
どうやら提出した自塔戦力一覧が六塔分集まったらしく、それをその日に集計したらしい。
アデル様とドロシー殿も加わって統合したらしいが恐ろしい速さだな。それだけ重大なことであるという証拠でもある。
そしてその結果、「塔主戦争直前に予定していた魔物の召喚を前倒しして、事前に召喚しても良い」ということになった。
ただし「その魔物の部隊についても一覧で再提出し、何を召喚しどういう部隊になったのかは他言無用とするように」という注意勧告もあった。
ここまで来れば私にも理解できる。【節制】同盟から諜報されているのだなと。
つまりフッツィル殿の噂を市井に流したのも【節制】同盟が有力となるし、すでに相当な情報が敵に流れていると思ったほうが良い。
そして誰が諜報されているかと言われれば……集計に立ち会っていないシャルロット殿、ノノア殿、そして私――その誰かだろう。
可能性が高いのはどう見ても私だ。
エメリー殿がいる【女帝の塔】は探りづらいし、【世沸者の塔】は内部構造からして複雑。最上階まで侵入するタイプの諜報型を想定するならば、一番潜入しやすいのが【六花の塔】となる。
少なくとも私がシンフォニア伯の立場であれば【六花の塔】を狙うだろう。
なんと情けない……それに気付かんばかりか、同盟の皆に迷惑を掛けてしまっている。
そのせいで負けるようなら……いや、仮に勝てても被害が大きくなるだろうし、どこかの眷属が死ぬことも十分にありうる。
そうなったら私はなんと詫びればいいのだ。一気に心が重くなる。
だがそれを相談するわけにはいかない。余計な事を喋るわけにはいかない。それも分かっている。
アデル様たちは諜報されているという前提で策を練られているのだ。私がその前提を覆すわけにはいかない。
あくまで知らぬ存ぜぬを通す――それしかない。心苦しいにも程があるのだが……。
思えば最近の同盟会議でもアデル様の言葉や提案の中にいくつか引っ掛かる部分はあった。
もっと言えば【空城】同盟戦の前、申請を受けるかどうかという話し合いをしている時からだが、どこかアデル様らしくない言葉が目立つと思っていた。
しかしそれはアデル様がメルセドウを、そしてロージット家を思い、心配しているからこそ気が焦っているのだと思っていたのだ。
だから不利な条文であっても戦う事に前向きな姿勢を崩さず、同盟を巻き込んででも斃そうとする意志をお持ちなのだと感じていた。
提案し、説得するお姿はアデル様らしいと思う反面、この同盟においてはあまり見ないお姿でもあった。だから違和感を覚えていたのだ。
はたしてどこまでがアデル様の本心なのだ? ――私は時折そう考えていた。
ところがここへ来て、ある程度はその理由が見えた。
アデル様は諜報されている前提で話されていたのだと。
もっと言えば肝心なことは言わず、味方――シャルロット殿、ノノア殿、私の三人だけだろうが――をはぐらかすと同時に納得させ、何より敵を騙すつもりで喋っていたのだ。
よくそんな事を考えながらつらつらと喋れるものだ。
つくづく天才だなと思う反面、それを理解し同調しているドロシー殿とフッツィル殿にも驚かされる。
私には【大軍師】シュレクト・ササー以上にこちらの三軍師が恐ろしく思える。身近である分、余計にな。
ともあれ今の私に出来ることは、フッツィル殿からの依頼を逸早く完遂すること。
これ以上足を引っ張るわけにはいかない。
三軍師が練るであろう策の一助となるためにも、私は自塔戦力を確定させなければならないのだ。
先に作った自塔戦力の一覧で気になっていたことはいくつかある。
①ジャックフロスト(C)の部隊に氷貴精(A)二体しかいない。
②フェンリル(A)の配下にアイスウルフ(C)などしかいない。
③氷獣ファーブニル(★S)に指揮能力はなく、単体戦力でしか運用できない。
④フロージアクイーン(A)の部隊はある程度整っているが眷属ではない。
⑤クロセル(A)の部隊が一番整っているがヘル(S)を召喚したほうが強くはなる。
このようなところだ。つまりどの部隊にしても不備があると思っている。
当初は強力な固有魔物を召喚しそれに配下をつけた新しい部隊を作ろうと考えていたのだが、こうして見ると、既存の部隊を修正・強化するような魔物を召喚すべきなのではと思えてきた。
例えば①のために氷貴精(A)を十体召喚しようだとか、②のためにフェンリル(A)を十体召喚しようだとか。
③のためにペロをシルバの配下にするというのもアリだろう。その分、部隊は一つ減ることになるのだが。
ちなみにCランクに上がり眷属枠も一つ余ってはいるのだがフロージアクイーンを眷属化することは考えていない。
眷属化しなくてもフロージアジェネラル(B)、フロージアナイト(C)、フロージア(D)と、計三十体ほどを統率できるためそれで十分だと思っている。眷属伝達は出来ないがな。
フロージアクイーン自体を増やし部隊数を増やすというのならアリかもしれない。それは要検討だ。
その日、私はCランク侵入者の様子を見ながら延々と考えていた。
どの魔物を召喚すべきかとずっと悩んでいたのだ。
営業終了後、私はようやく結論を出した。
私が新たに召喚したのは――氷貴精(A)五体、フェンリル(A)五体、ヘル(S)一体。以上だ。
これで【空城】同盟の報酬が全て吹き飛ぶことになる。
本音を言えば【空城】の報酬である【震牙虎ドゥーナァ】(★S)や【息吹】の報酬であるストームグリフォン(★A)を召喚したくはあったが、現存の部隊を強化するほうを優先させた。
【六花】のリストに元々ある魔物だというのもある。
強敵である【節制】同盟と戦うにあたっては斃されることも考慮しなければならない。だからこそ自塔の魔物を優先させたというわけだ。
ともかくこれでシルバ、ジャック、クロウの部隊が強化されたこととなる。
ペロに関してはシルバの部隊に入れるか単体で配置するか微妙なところだ。
これは塔主戦争直前の配置決めで皆の意見を聞きながら判断すべきだろう。
さて、これを見ているであろう【節制】同盟の者たちはどう思うか。
たかがAランク十体、たかがSランク一体、固有魔物でもない普通の魔物だ。
警戒する必要などないだろう? そう侮ってくれるならば僥倖だ。
私を覗き見した罪は必ず裁いてやる。覚悟しておけよ。
■ノノア 17歳 狐獣人
■第500期 Cランク【世沸者の塔】塔主
「先に召喚と部隊編成を済ましておく、ですか……」
悩ましいですね。というのも昨日フゥさんにお送りした戦力リストを見ていたら、色々と考えさせられたのです。
私の部隊は【節制】同盟戦で使えるのかと。
ヨギィは指揮能力がないですから単体で使うしかありませんし、ペコとパルクは配下にスライムしかいませんし、ディーゴの部隊は【節制】の天使部隊と相性が悪いのです。
まぁヨギィはどこかの部隊に編入させて頂くとして、結局スライムが弱いですからねぇ。
高ランクのものもいるのですが弱点は残りますし、同じランクの他の魔物と比べるとやはり劣る印象があります。
そこは数と連携で補う感じになるのですが……同盟の皆さんと並べる戦力かと言われるとどうかと……。
というわけで新たに召喚する魔物は今回の同盟戦で必ず役に立てる魔物・部隊でなければなりません。
【夢幻】の報酬である霊主ザムエラ(★S)のゴースト部隊とかかなり強いのですがね……敵に天使部隊がいると考えれば召喚しないほうがいいでしょう。
つまり【魔導書】の報酬である六道魔導オルフェウス(★S)一択になります。
魔法使い部隊ですね。これなら攻撃・防衛どちらでも使えます。
問題は配下ですね。
【魔導書の塔】で見たオルフェウスの配下はブラッディウォーロック(B)、デビルキャスター(B)などの悪魔系とリッチ(A)、ネクロマンサー(B)といったアンデッド。あとはウィッチクイーン(A)の部隊などもいました。
大部隊の総指揮官となっていたのがオルフェウスだったわけです。
しかし悪魔もアンデッドも天使には相性が悪い。
必然的にウィッチクイーン(A)やハイウィッチ(B)などの亜人系が残るわけですが……オルフェウスは飛べないんですよね。
ウィッチクイーンたちを地上部隊として扱うことも出来るのですが、何となく勿体ない感じもします。
どうしたものかと延々と悩み、ディーゴと相談を重ね、結局はウィッチ部隊を配下にすると決めました。
数も一番多いですし【世沸者の塔】での部隊編成を意識した時、前衛がヨギィ、中衛がディーゴ部隊、後衛がオルフェウス部隊と出来るからです。
ディーゴのスケルトンナイトたちが盾となり疑似的な前衛となる。その後方または上方からオルフェウス部隊が魔法を撃てると、そういう構図です。
六道魔導オルフェウス(★S)を召喚した上で眷属化。
配下としてウィッチクイーン(A)五体、ハイウィッチ(B)四十体。
合計で三十万TPほどの散財です。ここで負けたら意味ないですからね。一気に使いますよ。
眷属枠も早速埋まりましたし、限定スキルをとれるほどのTPもありません。
これが私の今の全力です。
新たにオルフェウス部隊を〔地上後衛部隊〕に追記しまして……フゥさんに送っておきましょう。
これで少しでも同盟戦のお役に立てればいいのですがね……。




