385:【針葉樹の塔】に乗り込みます!
■ドロシー 25歳 ドワーフ
■第500期 Cランク【忍耐の塔】塔主
「じゃあそっちは任せたで」
『ハッ! お任せ下さい!』
ウチは【針葉樹の塔】へと向かう攻撃陣に声を掛けて見送った。
最後の最後まで悩んで決めた攻撃陣は以下の通り。
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忍耐の天使ウリエル(★S)1、主天使(A)5、力天使(B)20
スフィンクス(A)1、スフィンクス(A)2、ガーゴイル(B)20
ウィッチクイーン(A)1、ハイウィッチ(B)20
リザードキング(A)1、リザードジェネラル(B)5、リザードナイト(C)20、リザードスカウト(D)30
ヘルキマイラ(★S)1
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Sが2、Aが10、Bが65、Cが20、Dが30……計130体。
パルテア(★S)、クリスタルゴーレム(A)とその配下が玉座の間を守るという感じや。
アタランテと天使二体がウチの暗殺に来た場合、パルテアを中心とした約五十体の魔物で守る感じになる。
もしくはウチの攻撃陣と入れ違いで【忍耐の塔】に攻め込んで来た場合、今度こそ七・八階層の『大広間』で決戦やな。
ウリエル、スフィー、フワリンの部隊はおらんけど魔物をかき集めて対処するつもりでいる。
ただシュルクエールはアタランテを防衛で使うのでは、と高を括っている。
そのためにウリエルを攻撃陣に出したからな。それも天使部隊ほぼ総出で(守護天使(D)はおらんけど)。
シュルクエールはAランク固有魔物の天使を二体持っている……と思われる。
その配下はCランクの天使になるはずや。シャルちゃんとこもそんな感じやし。
そうなるとSランクのウリエルだけでなくAランクの主天使やBランクの力天使も欲しがるに違いない。
だったらある程度防衛に戦力を割いて、こちらの攻撃陣を削ってからでなければ【忍耐の塔】を攻略する旨味がないやろ。
苦労してウチと戦って、得たのがTPだけでしたっちゅうんは、シュルクエール自身が許せんとちゃうかな。
せっかく『天使の塔』と戦えたのなら天使の召喚権利を手に入れて、その上で勝ちたいと思うはずや。天使好きの変態なら。
つまり、ウチは『アタランテと天使はすでに【針葉樹の塔】にいる』と踏んでいる。
姿を隠して【忍耐の塔】に潜んでいる可能性は低いと。まぁ油断はせえへんけど。
理由の一つが「最大戦力であろうアタランテをいつまでも隠しておくのは勿体なさすぎる」ということ。
隠すのであればさっさとウリエルなり天使部隊なりウチなりを狙えばいい。
あの時、ウリエルは戻したけど天使部隊はまだ七・八階層で戦ってたし、主天使とかを狙うには最適やろ。
でもそれをしなかったということは、あの場にいなかったんじゃないかと思うわけや。
もう一つの理由は「なぜあんな攻撃陣で攻め入ってきたか」ということ。
アタランテと天使二体は最初から威力偵察が目的で、他の魔物は捨て駒だったんじゃないかと思うとる。
ピンチになったら眷属はすぐに戻す前提。だから数も少ないし、Aランクが一体しかいない弱い魔物で攻めてきたのではと。
そもそも【忍耐の塔】にSランク固有魔物は最低でも二体おるっちゅうつもりでいたはずや。Cランクにしては強すぎる戦力を有していると。
それは街の評判とか、今までの戦歴とかから判断できるやろ。
まぁ実際にはSランクが三体とAランク一体の固有魔物がおるんやけど。
そこをアタランテと天使二体だけで攻略しようなんて無理に決まっとる。
せやから第二陣が来ると思っとったのに結局それも来なかった。
攻略じゃなくて威力偵察が目的なら、そら来るわけないわな。
シュルクエールはアタランテを通して【忍耐の塔】の塔構成と魔物戦力を測ったわけや。
七・八階層までの塔構成と罠配置は全て把握。そして戦力も七・八階層に集めた大部隊を全て見せてもうた。
どう見ても『大広間での決戦』やったし、あれが【忍耐】の主力全てだと思ったに違いない。
シュルクエールの指示かアタランテの希望かは知らんが、すぐに帰らず、ウリエルとパルテアに一当たりすることも出来た。
これで力量も測れたというわけで、限定スキルを使って帰還……ちゅうことやと思う。
そしてウチはその策に踊らされて、未だに玉座の間を絶対防衛しとるわけや。
まだ警戒を解くわけにはいかんで。ウチの予想が合っている保証もないからな。
ただシュルクエールにしても誤算と思っているに違いない。
なにせ【針葉樹の塔】に乗り込んでいる攻撃陣に、七・八階層にもいなかった固有魔物が混じってるからな。
どう見ても主力を集めていたはずの『大広間の決戦』に参加していないヘルキマイラ。何やコイツと思ってることやろう。
すでにウリエルとパルテアと相対したアタランテから、その二体はSランク固有魔物やと確信を得ているはず。
ならヘルキマイラはAランク固有魔物か、と思うはずや。
スクイッシュドラゴン(★A)は見せてないし、ウチの固有魔物がSSSとは普通思わんやろ。せめてSSAやろと思うに違いない。
ヘルキマイラをAランクやと決めつけていれば、ウチの攻撃陣130体のうち、Sランクはウリエルただ一体となる。
これを逃すようなシュルクエールとちゃうやろ。
今度こそアタランテを当てて、ウリエルを斃そうとするに違いない。
ウチらはそこを突かなあかん。でも簡単にいく話でもない。
ぶっちゃけヘルキマイラはSランクやけど、アタランテと一対一で勝てるとは思えん。遠距離で矢を射られたらヘルキマイラも大きな的にすぎないしな。一撃で落とされない体力はあるけどさすがに厳しいやろ。
そこは眷属や部隊が上手い具合にフォローせなあかん。連携が鍵やな。
◆
【針葉樹の塔】はその名の通り森の階層が多い。
フゥんとこの『迷いの森』ほどではないけど、斥候が苦労する階層やな。罠は少ないけどないわけではないし、魔物も奇襲を仕掛けて来やすい構造をしとる。
ウチの攻撃陣は地上部隊をリザードマン部隊だけに絞った。あとは飛行系魔物だけや。
リザードアサシン(D)の<罠察知>でリザードマン部隊だけが回避できればそれでいい。
索敵に関しては天使もハイウィッチ(B)も<魔力感知>を持ってるし、処理は飛行系魔物で十分や。
侵入者の最高到達地点は十・十一階層ちゅうことでそこまでの情報も持っとる。
やっぱり連結階層が多いし、そういうところはウチにとっても攻略しやすいから助かるな。
逆に連結してない階層もいくつかあって、そこでは獣系魔物や植物系魔物ばかりが出て来る。
どちらにしても中層ではせいぜいBランクや。全く問題ない。
ただそこら辺まで来ると、そろそろヘルキマイラがSランク固有魔物やとバレてるやろうな、と思えてきた。
なにせウチの攻撃陣で明確な攻撃役となるとヘルキマイラとフワリンの部隊くらいしかおらん。
リザード部隊は斥候と壁役やし、ウリエルやスフィーは回復・サポートが主や。
最初こそヘルキマイラの出番を少なくしとこうと思っとったけど、魔物が強くなれば戦う機会も増えるわけで、いつまでも隠し通すのは無理やな、と思った次第や。
十階層以上の上層ともなるとAランクの魔物が出て来る。
ソーングリズリー(A)とマーダーグリズリー(B)の部隊とか、空貴精(A)と風精霊の部隊とか。
Bランクにしてもコニファートレント(B)とトレント(C)の群れとか、ニードルエルク(B)とニードルディア(C)の群れとか……そんなんばっかや。
地形重視の階層ばっかやから数としてはそこまで多いわけやないけど、その分魔物の質が高い印象。
やっぱりそこら辺も【輝翼の塔】と似ているなぁと思った。
どっちが難易度が高いかと聞かれれば百人中百人が【輝翼の塔】と答えるやろうけど。
攻略自体は順調なんやけど進んでいくにつれて嫌な予感も増してきた。
階層の最後が空っぽになってて、明らかに「ボスは最上層に移動させましたよ」ってな具合やし、これはもう毎度おなじみの光景が広がってるんやろうなぁと。
で、十二階層から階段を昇ってみれば案の定……十三・十四階層が決戦場になってたわけや。
階層の外周部には木々が密集していて、中心に向かうにつれ草原となっているような塔構成。
嫌でも中心部に集まって戦えよと促して来るようで気持ちが悪い。
そこには巨体の守護者――草原や森と一体化したような地竜、フォレストドラゴン(S)が待ち構えていた。
【針葉樹】が天使を狩る塔ならば竜はいるだろうと思っとった。想像してたんは飛竜やけどな。一応地竜はおったわけや。
となるとやっぱり天使討伐のメインはアタランテに任せてたってことやろな。地竜だけじゃさすがにキツイやろ。
で、そのフォレストドラゴン(S)の周りにはアクリス(S)とニードルエルク(B)の群れ。
さらに【針葉樹】の固有魔物らしき六尾の巨大熊とソーングリズリー(A)マーダーグリズリー(B)も見える。
その後方には空貴精(A)と風精霊(C)。一緒にアタランテの姿も見えた。
そして空には二体の天使と大天使(C)の部隊、ブライトイーグル(B)とかもおる。
ここでやっとウチは玉座の間の警戒を解いた。
数の上では互角といったところ。
ただ先手は当然のようにアタランテ。ヤツの攻撃範囲に敵うのなんかおらん。
先制攻撃の弓矢を放つと、それは一直線にヘルキマイラの頭を狙う。
やっぱヘルキマイラを一番の脅威と見たか。
本当に狙いたいのはウリエルやろうけどな。勝つ為にはヘルキマイラをどうにかするしかない。
その判断は正しい。でも――
――キキンッ!!
それくらいの予想はこっちでもついとる。
ヘルキマイラとアタランテの間にはウリエルの盾が立ちふさがった。
そのままヘルキマイラは空を飛び、炎のブレスで地上を焼き、ついでとばかりに上空の天使たちにまでブレスを薙ぎ払う。
牽制とか足止めとか壁のような役割を期待してのもんかもしれんが、それは敵にとって最も厄介な攻撃だったに違いない。
地上の魔物は獣とフォレストドラゴン(S)やから、もろに火が弱点。
天使にしたって固有魔物の二体はともかくCランクの大天使らは一撃死もありうる強烈な炎や。
完全にひるんだ敵防衛陣を見て、ヘルキマイラは自由に空を飛び、ブレスを放ち始めた。
フォレストドラゴン(S)も固有魔物の熊も地上から見上げることしか出来ない。天使かて近づけんやろ。
そうなると必然、ヘルキマイラを止められるのはアタランテ一人ちゅうことになる。
しかしアタランテの弓矢はウリエルによって全てを防がれていた。
飛び回るヘルキマイラとアタランテの間に常に入り込み、完全に守る姿勢のままヘルキマイラの近くを飛び続ける。
よくそんな動きながらヘルキマイラの巨体を守り抜けるもんやと感心したわ。
本当に守るのが巧いな……ウチの大天使様は。
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