34:同盟戦の影響がそこかしこに出ています
■シルビア・アイスエッジ 21歳
■Aランク冒険者 パーティー【氷槍群刃】所属
「お前んとこ【女帝の塔】行ったんだって? どうだった?」
「いや厳しいぞあそこは。俺らは三階層まで行ったけどDランクの中でも上位なのは間違いねえ」
「やっぱりか。俺らも行こうとは思ってるんだけどな。三階層までの苦戦ぶりを聞くと四階層以降はどんだけだよ、って思っちまう」
「三階層はやたら蜘蛛系の魔物が強いんだよ。数も多いし連携みたいなことやってくる。行くんなら毒対策と火魔法推奨だな」
「ああ、ありがとよ。でもうちに火魔法使いいねえしなぁ……でも今一番熱い塔だしなぁ……悩ましい」
ギルドの中では【女帝の塔】の話があちらこちらで聞こえてくる。
あの塔に挑めるD・Eランクのヤツらだけではない。高ランクの連中からも注目されている。
それはそうだろう。あの【力の塔】を斃したのだ。
長年に渡り上位に君臨し続け【亜人の巣窟】とも称されていた【力の塔】。二十神秘に相応しい塔であったと思う。
それを新塔主である【女帝の塔】が斃した。
ルーキーによるベテラン殺し。DランクによるBランクへの下剋上。
為そうと思って為せるものでは決してない。すでに半分、英雄譚に足を掛けているようなものだ。
しかも同盟戦ということで合計五つもの塔が一気に消えた。
その塔を攻略しようと奮闘していた冒険者もいる。だからこそ余計に話が広まっているのだ。
七美徳である【忍耐の塔】、神定英雄を引いた【輝翼の塔】、どちらも新塔主としては異例な強さがあるのだろう。でなければ同盟戦で勝てるとは思えない。
しかし話に上がるのはいつも【女帝の塔】なのだ。
三塔の中で唯一のDランクというのもあるが、やはりプレオープンから噂になり続けたというのが大きいのだろう。
塔を全く創らず、神定英雄のメイド単騎で乗り切ったプレオープン。
そこから一気にDランクへの昇格。
【忍耐の塔】【輝翼の塔】と同盟を結んだことで【赤の塔】へ仕掛けるつもりかとも噂された。
ところが標的は【赤の塔】より上、Bランクの【力の塔】だった。
いや、【女帝の塔】から仕掛けたわけではないだろうが、そう見えてしまうという話だ。
実際、冒険者の中では【女帝】のことを【二十神秘殺し】と言っていたりもする。
とんだ異名だと思わなくもないが、今まで【女帝の塔】が行った塔主戦争が二回とも二十神秘を消すことに繋がっているのだから仕方ない。
そういったことが積み重なって挑戦者を増やし、さらに塔の難易度も高いということで皆がこぞって話題にする。
【女帝の塔】を攻略できれば間違いなく英雄視されるだろう。Dランクからすればありえない価値のある塔だ。
攻略できずとも最高到達点を更新すればギルド内で英雄となるのは間違いない。
今一番熱い塔。冒険者にそう言われるのもよく分かる。
しかし私としては当然アデル様の【赤の塔】に頑張って欲しい気持ちがある。
直接お会いできたわけではないが同郷であるし、失礼ながらお可哀想にも思えるのだ。
メルセドウ王国からは『神童なのだから英雄となって当然』といった目でも見られているだろう。
そのプレッシャーの中、慢心もせず情報を集め、見事な塔を創り上げ、成果を上げている。
それだけの事を為しているのに【女帝の塔】の影に隠れているようでもどかしいのだ。
【赤の塔】も新塔主としては間違いなくトップクラスの塔であるというのに。
まぁ私がアデル様のことをとやかく言える筋合いではないが。是非とも頑張って頂きたいものだ。
また調査依頼が来たら率先して受けるようにしよう。
■シャルロット 15歳
■第500期 Dランク【女帝の塔】塔主
『客足も伸びとるけども塔主戦争の申請がハンパないわ! こりゃ稼ぎ時やで!』
『うむ、これも策の一つではあったからのう。忙しいのはもう少し続くじゃろ』
「お二人とも気を付けて下さいね? くれぐれも油断しないように」
ドロシーさんの【忍耐の塔】とフゥさんの【輝翼の塔】。
同盟戦の結果が公表されてから侵入者も増えたそうですが、それ以上に塔主戦争の申請が多くなっているようです。
これはフゥさんから最初に提示された『TP不足を解消する方法』の一貫でもあります。
帝国関係者の高ランク同盟を塔主戦争で打ち破る。それにより多大なTPを得る。
さらにその後増えるであろう侵入者への対応と、塔主からの塔主戦争申請をこなすことでさらにTPを得ると。
最初からそうした流れを予想していたわけです。フゥさんは。
私の【女帝の塔】はどうかといいますと、侵入者の数が極端に増えています。ドロシーさんやフゥさんの比じゃないほど。
一方で塔主戦争の申請は皆無。
ここまで極端になるとは予想外でしたが、【女帝の塔】が代表者扱いになって有名になりすぎたのが原因なのでしょう。
塔主戦争を申請してくるのは九割以上が低ランクだと言います。
特に500期の新塔主は未だ塔の運営も安定せず、侵入者の対処に追われ、TP不足が続いている現状。
それをなんとかしようと塔主戦争に頼るわけですね。命を賭して。
そこで目をつけられたのが『高ランクと戦ったばかりで疲弊し、尚且つ報酬でTPをたくさん得ている』我々です。
しかも、『【女帝の塔】は代表だし何かと噂が絶えない塔だからきっと強いのだろう。
【忍耐の塔】と【輝翼の塔】はそのおこぼれに与っているにすぎない。だから狙うならその二塔だ』
そんな気風があると言います。
いや、【忍耐の塔】も【輝翼の塔】もプレオープンの実績があってランクアップしたのですから弱いわけないでしょうに。
しかし【女帝の塔】に比べればマシ、と思われるようです。
反比例して私の塔には申請が全くこなくなると。
『わぁってるって! ウチだって調子にノっとる場合ちゃうし! ちゃんとフゥに調べてもらってから受理するから!』
『これで斃されようものなら笑い話では済まんぞ。わしとて勝てる戦い以外するつもりはない』
「だったらいいんですけど……私にはご武運をとしか言えません」
せめて同盟戦ならば協力できるのですが、交塔戦では応援することしかできません。
もどかしい気持ちもありますが、お二人を信じましょう。
そんな最中。
塔主戦争の申請は皆無なのですが、お便りが届きました。
宝珠を通しての手紙は同盟を結ばずとも送れるので、他の塔主の方からくることはままあります。
大体がろくでもないお手紙です。
ただの嫉妬や文句であったり、なんで同盟申請しているのに受理しないんだとか、この条件で塔主戦争しないかとか、あのメイドは何者なんだとか。
この日もそんなお手紙かとは思いましたが見ないわけにもいかずに一応目を進めます。
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私はシャクレイ・アゴディーノ。エルタート王国アゴディーノ伯爵家の長子である。
伯爵領の領都デティールアゴーと言えば平民である其方でも分かるだろう。
あの交易都市の領主が、我がアゴディーノ伯爵家である。
其方の【女帝の塔】に関しては噂には上っていたものの今まで情報が集まらなかった。
それもそうだ。其方はあの辺境領の小さな街に住む平民だというではないか。
カイルスの街など私は聞いたことさえなかったからな。
こうして連絡が遅くなったわけだ。許せ。
しかし我が国の民から二十神秘が出て、それが新進気鋭の活躍を見せているとなれば、私もエルタート貴族の一員として歓迎しないわけにもいかぬ。
それが平民の塔主で、亜人の神定英雄を連れていてもだ。
私はAランクの【傲慢の塔】の塔主である。かの有名な七大罪の一塔だ。
そして私の同盟『選ばれし精鋭』は皆、エルタート王国の者たちで固めている。
皆が皆、エルタート王国の誇りを持って戦っているのだ。
其方は平民ではあるが我々の同盟に参加する資格ありと見て、同盟を申請するつもりだ。
本来であれば其方の身分では言葉を交わすことさえ出来ぬ我々ではあるが、【女帝の塔】の奮闘ぶりを聞くにその価値もありと至ったのだ。光栄に思うがいい。
ただ亜人と同盟を結んでいるのは頂けない。
王国民でありながら亜人と協力するというのは私には理解できないが、それが平民ならではの思考なのか、それともやんごとなき事情があるのか。
ともあれ我々の同盟に入る前に、【忍耐の塔】とは同盟破棄をしてもらう。
もしくは【忍耐の塔】を侵入者に攻略させるよう情報を流すでもよい。
神定英雄の亜人に関しては仕方ないので視界に入れないに留めておくが、穴掘りチビなど見る価値もない。
其方もエルタート王国の一平民であるならば、弁えた行動をとるべきだ。
【忍耐の塔】の同盟が切れた時点で私から同盟申請をする。喜ばしく思うがいい。
エルタート王国に栄光あれ。
【傲慢の塔】塔主 シャクレイ・アゴディーノ
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うわぁ……これは……未だかつてない酷さですね……。
こんなもの、ドロシーさんにもエメリーさんにも見せるわけには――
「ふむ、なるほど。わたくしは亜人と見られるのですね」
「うわあっ!」
いつのまに背後にっ!?
いやエメリーさんなら私の背後をとるくらい造作もないでしょうけど。
「あ、あの、エメリーさん、怒らないんですか……?」
「いえ、わたくしのいた世界にも種族を差別する風潮はありましたので。多肢族がこの世界にいない以上、わたくしを『亜人』と罵るのも分かるのですが、ドロシー様も『亜人』扱いされるのですね」
ドワーフやエルフに比べて人間が多すぎるのです。
だからこそ人間主体の国が多くなり、その中には『人間至上主義』のような他種族を排他する思想も芽生える。
私が住んでいたカイルスの街にも人間以外はいませんでしたが、他種族を差別するような感じではなかったです。
でももしかしたら、王都や他の街では『人間至上主義』だったのかもしれません。
エルタート王国全体でのことなのか、貴族だけなのか、シャクレイさんという人の周りだけなのか……。
そう考えると私は王都の学校に行かないで正解かもしれません。
変な思想の教育を受けるはめになっていたかもしれませんし。
はぁ、と溜息を吐き、画面の手紙を速攻で閉じます。こんなもの破り捨てたいくらいです。
私がドロシーさんと同盟を切るなんてありえません。
フゥさんだってハイエルフってバレれば同じように言われるのでしょう。
そんなの……いくら私でも怒りますよ!
「ふふっ、お嬢様が差別主義者でなくて安心しました」
「当たり前ですっ! 同じ人じゃないですか! それを亜人だなんて……もうエルタート王国出身って言いたくないです!」
「そうは言いましても生まれが変わるわけでは……おや? もう一通お手紙が来ているようですが」
「今度はどこの誰なんです!」
私の怒りは収まりません。プンスカしながら次のお手紙を開くと――
「えっ……【赤の塔】のアデルさん……?」
――一気に冷静になりました。
あの【傲慢の塔】とかいうストレートすぎる七大罪の塔、なかなかやりおる。
おそらく相当のシャクレ野郎に違いない。
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