312:黙って攻め込まれているわけじゃありません!
■シャルロット 17歳
■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主
塔主戦争が始まりました。
転移門から入って来るのは【影】の攻撃陣。まずはちゃんと侵入してきてくれたことにホッと胸を撫で下ろします。
【影の塔】は敵の魔物が戦いやすくこちらの魔物が戦いにくい典型的な塔ですから、自塔の防衛力を自信に全力で守りに入られるかも、と危惧していたのです。
そうなるとこちらも第二陣を急がせたり、せっかく用意した策が無駄になったりという感じだったので助かりました。
で、敵の攻撃陣に目を向けると……。
=====
おそらく固有魔物の黒いオーガ(不明)、デュラハン(C)40
デーモンナイト(A)5、デビルプリースト(B)10、デーモンキャスター(B)30
シャドウデーモン(A)5、シャドウデビル(C)50
ダークフェンリル(S)1、ダークガルム(A)5、ダークスコル(B)20
シャドウアサシン(C)30、アサシンリンクス(C)30
=====
Sが1、Aが15、Bが60、Cが150、不明が1。計227体。
想定よりもだいぶ弱いですね……しかしこちらをBランクに上がって来たばかりの二年目と見れば精強な攻撃陣と言えるかもしれません。
やはりと言うべきか斥候系の魔物が多いです。
シャドウアサシンやアサシンリンクスはもちろんですが、狼系や悪魔も察知スキルを持っているでしょうからね。斥候足り得ます。
あとは攻撃・防御・物理・魔法をバランス良く、飛行部隊が多めという感じでしょうか。
おそらく指揮官は黒いオーガだと思いますが、その魔物が有能という証拠でもあります。バランスの良い大部隊を一人で統率しているんですからね。
……と思っていたのですが、ターニアさんから眷属伝達が入りました。
『うふふ、オーガの影に隠れてますよ~』
「やはりですか。ターニア、ご苦労様です。引き続きそちらをお願いします」
『了解しました~』
「エメリーさん、どう見ます?」
「固有魔物でしょう。おそらくあのオーガと同等かそれ以上の魔物が潜んでいるはずです。シャドウアサシン程度では隠れる意味もありませんしね」
隠しておきたい強者がいると、そういうことですか。指揮官は二人なわけですね。
<影潜り>は以前に【強欲の塔】と戦った時、敵の神定英雄が使っていたスキルです。エメリーさんの元いらした世界でも使われていたスキルとのことでよくご存じでした。
今回の相手は【影の塔】ということで、そういった珍しいスキルを使って来ることも考慮はしていたのです。その対策についても話し合いましたし。
エメリーさん曰く、その<影潜り>というスキルは影に潜ることで姿を見せることもせず、気配もかなり希薄になるそうです。
影から影へと移動もできますし、非常に暗殺者向きのスキルなのだとか。
知らぬ間に近づかれて奇襲を受けるということですね。
しかし対抗策がいくつかあるそうで、その一つが<魔力感知>による発見なのだとか。
<気配察知>でも微妙に分からないこともないそうですが、どちらかと言えば<魔力感知>のほうがやや分かりやすいそうです。
とは言えハイフェアリー程度の<魔力感知>では気付けず、仮に違和感を見つけても潜っている影の持ち主――今回の場合で言うと黒いオーガ――の魔力と混在して発見には至らないだろうと。
でもターニアさんほどの<魔力感知>卓越者であれば見つけるのも容易いとエメリーさんは言います。
それもあって攻撃陣にはターニアさんを出し、塔主戦争開始時に互いの転移門を通り抜ける際に確認してもらったのですよ。ターニアさんは敵攻撃陣をチェックしてから最後に転移門をくぐって下さいと。
結果、<影潜り>している敵が発見できたということで一安心です。何よりです。
おそらく潜んでいるのはSランク固有魔物。黒いオーガがAランク固有魔物ですかね。
つまり【影の塔】で召喚できる固有魔物を二体とも攻撃陣に回しているということになります。
防衛側の大ボスは他の塔の召喚報酬の魔物ですかね……ダークフェンリル(S)十体とかでもよさそうですけど。
「ともかく一応は作戦通りということでよろしいですか、シャルロット様」
「ですね。好都合なのは間違いないです。ハルフゥさんとベアトリクスさんはしばらく伝令等で忙しくなると思いますので承知しておいて下さい」
「かしこまりました」「ん」
今回の塔主戦争では敵攻撃陣になるべく侵入してもらうことを作戦の一つとしています。
それは今の【女帝の塔】の出来を確認したいというのも目的の一つなのですが、そうなると防衛に配置している魔物がかなりやられてしまうのですよね。
そこが私としては嫌だったのですが、ある程度は割り切っています。
ただなるべく無駄に斃させないで階層を進ませるために、魔物にはなるべくヒットアンドアウェイを心掛けさせたりだとか、五・六階層の『城裏の森』であればあまり平野部に顔を出させないようにだとか、そういった指示を魔物には出しています。
サンダーファング(A)とかミミックファング(A)とか斃されたら堪らないですからね。召喚可能数に限りがありますので。
そういった感じである程度は素通りさせつつ、かと言って本気で当たらないわけにもいかないと。
そこら辺の細かい指示をエメリーさんからハルフゥさんとベアトリクスさんを通じて魔物に伝達してもらうわけですよ。非常にバランスが難しいのです。
あとは斃されてしまう魔物たちの補填として敵の魔物を多く斃さなければなりません。
これは攻撃陣にお任せしましょう。まぁ殲滅戦とかは無理でしょうがね。Bランクの塔ですし。暗闇階層ばかりですし。
攻撃陣と言えば、エメリーさんが攻撃陣にいないのが初めてなのです。
それも色々と考えた末に防衛側に回ってもらうことになったのですが、代わりに攻撃側の指揮官をバートリさん、副官をターニアさんが務めることになりました。
バートリさんは気合十分でテンション上がりまくりだったのですが、エメリーさんはかなり心配なようです。
今も私のとなりで画面を見ながらバートリさんとターニアさんに眷属伝達しています。微妙な隊列のずれとかが気になるのでしょう。罠の対処も不安なようです。
まぁ防衛が片付いたらエメリーさんも敵陣に乗り込んでもらうつもりですし、その時は存分に暴れてもらう予定ではあります。
作戦通りに行けば……ですけどね。もちろん油断はできません。
私は防衛側をしっかり見ておきましょう。敵がどのように攻めて来るのか、どの程度守れるものなのか、ちゃんとチェックしておかなくては。
「やはり高ランクの塔が相手の塔主戦争ではただ蹂躙されるだけですね。遠距離魔法のヒットアンドアウェイくらいしか打つ手がないです」
「主目的をはっきりさせないといけませんね。こちらの魔物を消費しても削りに行くか、奇襲のみに絞るか、それとも素通りさせるか」
「それに見合った塔構成と魔物配置ですか。要検討ですね」
塔主戦争で【女帝の塔】に攻め込まれたのは【傲慢】同盟と戦った時にまでさかのぼらないとないんですよね。
ただその時はCランクでしたし、同盟戦でしたので皆さんの魔物がいましたし。
交塔戦では初めてじゃないですかね。【正義】は攻塔戦でしたし、【強欲】は神定英雄一人に入られただけ。【轟雷】同盟も一階層で敵攻撃陣を壊滅させましたから。
今の【女帝の塔】が高ランクの塔を相手にどれだけ守れるのか、それを計る意味でも今回の塔主戦争は重要です。
私にとって非常に大きな意義があります。欲張りにも多くの目的を持っていますので、同時に多くの課題を浮き彫りにする機会となるでしょう。
いえ、嘗めているわけではないですよ? ただの塔主戦争で終わらせるわけにはいかないという話です。
敵は【女帝の塔】を順調に攻略していきます。おそろしい速度で。
罠があっても過剰な斥候部隊のおかげで無傷。魔物をけしかけても鎧袖一触。
となればやはり塔主戦争時における″削り″の方法について再度見直さなければなりません。
侵入者相手であれば満足なのですがね……いっそのこと侵入者用の階層と塔主戦争用の階層ではっきり分けたほうがいいのかもしれません。
せいぜい足止めになりそうだったのは四階層の『トラップ回廊』くらいのものです。
罠は斥候部隊の前に無意味なのですが、道幅が狭いので行軍しにくいと。そうした邪魔程度ですかね。有効に思えたのは。
アシッドスライム(C)を大量に降らせるとかのほうがまだマシかもしれないです。メモしておきましょう。
そんな感じで七階層あたりまではほぼノンストップ。
七階層の『庭園』も空を飛ぶ魔物には塔構成自体が無意味でしたね。これも要検討。
まぁ下手に探索されて召喚数が限られている魔物を斃されたら困りましたので、それがなかっただけでも御の字でしょう。
で、八階層以降も敵攻撃陣は順調な攻略を続けていたのですが……。
「やはり情報を搾取されていますね」
「やっぱりですか。この前のナイフのアレですかね」
「それは分かりかねますが塔構成を熟知した上で攻めてきているのは間違いないです」
私も思ってはいたのですよ。あまりに順調すぎると。
いくらなんでも順路を進み過ぎているし、罠の回避は的確すぎるし、まだ侵入者が大して入っていない八階層でもこれですからね。
さすがに要領よく攻略しすぎだろうと。
「では迎撃は最低限にします。ハルフゥさん、ベアトリクスさん、主要な魔物の引き上げをお願いします」
「かしこまりました」「ん」
「お嬢様、ロイヤルシリーズはいかがなさいますか?」
「本当は無駄に斃されたくはないのですが……ロイヤル小隊が敵部隊に対してどれほど戦えるかというのも見る必要がありますので。とりあえずそこは動かしません」
「かしこまりました。ではそのように」
こちらの塔構成と魔物を把握している相手に試すことなど限られます。
だったら斃されないことを第一に、大物の魔物は隠したり、召喚数が少ない魔物は最上階に移動させたりしたほうがいいですね。
まぁこれも事前に立てていた作戦の一つなので問題はないです。
とは言え、全ての目的を放棄するわけにはいきません。
例えば『大書庫』ではベアトリクスさんなしで引き撃ちがどれほどできるか、ですとか。
それと『海の神殿』でハルフゥさんに実際に戦ってもらうことも試さなければなりません。
海中からの奇襲に留めてもらいますが、現状の少ない魔物の運用と、塔構成の出来、そしてご自身の戦闘も含めハルフゥさんに体験してもらわなければなりませんから。
結果、空や海からのヒットアンドアウェイは多少のダメージしか与えられず、しかしハルフゥさんの攻撃により一撃で十体ほどの魔物が海に落ちました。
海に落ちてしまえばそれでもう終わりですね。Bランクの魔物をCランクのスキュラが斃すことさえ可能です。
「やはり中央の神殿に足止め用の部隊が必要です。それだけでかなり戦果は変わってくるかと」
「なるほど。ハルフゥさんご自身はどうされます? 地上か水中か」
「神殿部隊の後方で指揮と回復を務めつつ、押し込まれた際には水中に逃げる、という感じでしょうか。わたくしも当たって良いのであれば部隊に残ったまま戦いますが……」
「それはダメです。ハルフゥさんが斃されるのが一番ダメです。その場合は水中深くに潜って下さい」
というやりとりを後に行いました。
やはり実際に『海の神殿』を戦場とし、ハルフゥさんご自身がそこで戦わないと色々分からないのですよ。
それが出来たことも一つ収穫です。
しかし神殿に置く部隊ですか……今のところウォルラスキング(A)とステラシールマン(C)の部隊くらいしか召喚できないのですが、どうしましょうかね。
サジタリアナイトとかテラーナイトとか水中に落ちても死ななければ使うのですが、どうなんでしょう……アーマー系でも溺死するのでしょうか……。
怖いのは攻撃陣が受けるかもしれない限定スキルだけということですね。だからあれこれ作戦を立てていると。
面白そうだなと思ったら下の方にある【評価】や【ブックマークに追加】を是非とも宜しくお願いします。




