294:忍耐の塔vs竜翼の塔、始まります!
■ドロシー 24歳 ドワーフ
■第500期 Cランク【忍耐の塔】塔主
「これホントに申請受理してええんか」
【竜翼の塔】からの塔主戦争申請。
それが来た時にも悩んだし、みんなに相談したあとも悩んだ。
みんなは「受けちゃえばいいじゃん」みたいに言うけどもやな、さすがに相手が悪いやろ。
相手は五年目のCランク65位。五竜王の一塔。
塔主はスルーツワイデの伯爵令嬢、ジュリエット・ローゼンダーツ。
塔の強さも塔主の肩書きも、何かと「戦いたくない」要素が満載や。
みんなが戦うことに肯定的な理由は大体想像がつく。
相手の魔物には竜がいるけども攻撃陣を形成するとなれば小柄な魔物しか使えんはずやし、そうなると限られた攻め手で【忍耐の塔】を攻略するなど不可能やと。
ウチの塔の防衛力を信じてくれとるわけや。それはウチもそう思う。
ただ攻め手が限られるのは向こうだけの話じゃなくて、ウチも同じやねん。
ウリエル(★S)、スフィンクス(A)、ウィッチクイーン(A)といるにはいるけども、【竜翼の塔】には竜がおる。
それはフゥにも確認してもらった。おそらくSランク固有魔物の飛竜や。
ウリエルは防御重視やし、スフィーは主に回復、フワリンは魔法攻撃主体やけど防御力が皆無に等しい。
それでSランクの竜と戦うというのはさすがに不安があるんよなあ。
「――っていうのが心配やねんけど」
『部隊で当たれば勝てるんじゃありませんの? まぁ心配になる気持ちは分かりますが』
『少なからず被害が出ますからね。私も勝てると思いますけど』
『ドロシー殿の策でどうにかできないのですか?』
『ぼ、防衛ならまだしも攻撃で策というのは……秘密兵器でもないと厳しいのでは……』
『ならば秘密の戦力を召喚しておけばよかろう。TPはあるのじゃろ?』
TPは溜めてあるけどもやな、限定スキルのためにとってあんねん。
でも急な塔主戦争になった時用の備えでもあったから、使うなら確かに今かなとは思う。
ただ召喚するにしても攻撃陣で使えて竜に対抗できそうなやつやろ?
ウチの塔で召喚できるのはデカイか遅いかって感じやし、思い当たるのは【魔術師】同盟戦で報酬になっとるゴースト系のスピリットレギオン(S)とかやけど、そうなるとウリエル部隊と相性が悪いし。
あとは【傲慢】同盟とか【打突】の巨人系とかもいるけど……攻撃陣には向かないし無理矢理使ったとしても竜相手には不足やろ。
悪魔系も論外やから、あとは鳥とかをまとめて召喚するしか……。
と、悩んどったらシャルちゃんが提案してくれた。
『ドロシーさん、だったら私の――』
『えっ、いいんか? それやったら助かるけども』
『その代わりに私のほうには――』
ウチはその案を飲んだ。シャルちゃんには感謝してもしきれんな。
これでようやくウチも【竜翼の塔】と戦う意思を持つことができたわけや。
この召喚代TPで赤字にならんよう、頑張って勝たなあかんな。
おそらく大丈夫やと思うけど……不安やわ。
■ジュリエット・ローゼンダーツ 22歳
■第497期 Cランク【竜翼の塔】塔主
【忍耐の塔】から申請受理の返答がきました。まぁ予想通りというところですわね。
これが普通のCランクであればわたくしからの申請など考慮するまでもなく却下したでしょう。
今の【竜翼の塔】はCランクでも最上位。
そもそも五竜王というだけで畏怖されるものですから。
弱点が明確な六元素や十色彩のほうがまだマシと考えられてもおかしくありませんわね。
五竜王を相手にするということは竜と戦うことが確定しているようなもの。
魔物の頂点である竜に目立った弱点などないわけで、それを斃さないことには勝利などありえないのですから。
しかし【忍耐の塔】は受けた。
つまりわたくしに勝てる見込みがあると。
その根幹にあるのは――忍耐の天使ウリエル(★S)で間違いありません。
おそらく【忍耐】はウリエルの力に絶対的な信頼を置いている。
今までの戦い――【傲慢】同盟戦や【魔術師】同盟戦でも確実に運用したはずですからね。
その戦いでも重用し、活躍したであろうウリエルならばCランクの【竜翼】など相手になるわけがない。そう思われても仕方ありません。
まぁありえないのですけれどね。
わたくしから言わせてもらえば浅慮という他ありません。
仮にウリエルが部隊を率いて戦ったとしてもわたくしの翼蛇竜アンピプテラ(★S)が九割方勝ちます。
ウリエルが大天使の中でも防御寄りの性能というのもありますが、それ以前に天使と竜とでは竜が有利なのですよ。
【傲慢】の悪魔や【魔術師】のアンデッドにはウリエルが有効だったでしょうが、それがそのまま竜に通用するわけもないですしね。
出来れば油断して頂いたままでわたくしと戦って欲しいものですわね。
わたくしは油断などいたしませんけれど。
わたくしが危惧すべきは二つ。
一つは【忍耐の塔】の罠ですわね。あの塔は凶悪な罠で有名ですから。
飛行系魔物は問題ないでしょうがそれだけで攻撃陣を形成できるわけもありません。
地上部隊の<危険察知>程度では全ての罠を避けることなど不可能でしょう。
ある程度の被害は覚悟して弱い魔物を多く回すべきでしょうね。あとは指揮官である竜人将パルテア(★S)に期待しましょう。
もう一つはウリエル以外のSランク固有魔物をすでに召喚している可能性。
【忍耐の塔】の戦果を考えればすでに二体の固有魔物を両方とも召喚していることは十分に考えられます。わたくしもすでに召喚しているのですから。
七美徳の固有魔物はSランク二体で確定ですしね。
その分召喚コストは高いですが、召喚さえできれば非常に強力な戦力となるでしょう。
【忍耐】のドロシーがそれを狙うというのは常道とも言えます。
そのSランクは何か……【忍耐】の魔物の特色で考えれば物理防御寄りの魔物……巨体の地竜などが最初に思い浮かびますわね。
竜であるならば僥倖ですわ。パルテアは竜と相対せる竜人ですし。
少なくとも飛行系や魔法攻撃が得意な小柄な魔物というのはありえないでしょう。
【忍耐の塔】が二年目では過剰とも言える戦力を保持しているのは確実。
わたくしも五年目とすればかなり強い方だと自負しておりますが、そう大差はないでしょう。
戦力で見れば互角なのではないでしょうか。
しかし魔物の相性で見ればわたくしに分がある。
【忍耐】の魔物は防御寄りで、あとは天使程度。どちらも竜を相手するには不足です。
仮に想定以上の戦力を持っていたとしても、ランクの差を覆すだけの力が竜にはあるのです。
油断はしませんわよ?
わたくしは【竜翼の塔】の――五竜王の力を全て使って【忍耐の塔】を討ちますわ。
【彩糸の組紐】に楔を入れて差し上げましょう。
◆
『は~い、時間だよー! 二人とも準備はいいかなー!』
「はい」『はい!』
『じゃあ始めるよ! 交塔戦! 【竜翼の塔】対【忍耐の塔】! 始めっ!』
神様の号令で塔主戦争は始まりました。
まずは様子見。こちらは防衛を固めて敵攻撃陣を迎え討ちます。
【忍耐の塔】の戦力はかなりの偏りがある。それは歴史が証明しております。
一つは防御力重視の魔物。これは足が遅いですから攻撃では主に盾役でしか使えません。基本的には防衛戦力と見るべきです。
一つは状態異常系の魔物。毒や麻痺をばら撒く類のものですわね。
これは多種に渡りますがそれほど危険視するものではありません。
ただこちらの回復手段が限られているという点では防御力重視の魔物より厄介に思えます。
これらが【竜翼の塔】に乗り込んで来た場合は優先して斃す必要があるでしょう。
そして【忍耐の天使ウリエル】率いる天使部隊。やはりここが【忍耐】の目玉となります。
ウリエル自身は大天使の中でも守りに優れているという話ですから本来であれば防衛戦力で使いたいところでしょう。
しかし手駒が限られているであろう【忍耐】が攻撃役に使わないわけがありません。
こちらの最終防衛に竜がいるのは想定しているでしょうからね。それに打ち勝つ為にはウリエルを出さざるを得ないでしょう。
それはわたくしにとって幸いなこと。
【竜翼の塔】を上る道程で天使部隊を削れますし、その上で相性有利な竜vs天使という構図ができるのですから。願ったり叶ったりですわね。
さて【忍耐】はどう出て来るか、と画面で転移門の様子を見ていますが……敵攻撃陣は一向に入ってきません。
なるほど、考えていることは同じですか。
わたくしが先にウリエルを引き入れて斃したいように、向こうもわたくしの攻撃陣を先に斃したいということですわね。自分の塔で。
つまり、こちらに竜以外に攻撃陣の指揮官となる強力な魔物がいると踏んでいる。
それを確実に斃すためにウリエルを防衛で使いたい。その後、竜を斃すために攻撃陣でも使いたい。という思惑でしょう。
考え方は間違っていないのですが、それでは竜に対抗できる戦力がウリエルしかいないと吐露しているようなもの。
防衛戦力の要であろう『高ランクの防御力重視の魔物』がこちらの攻撃陣に対して不足していると【忍耐】側が感じている。
自慢の防御力も【竜翼】の攻撃力には負けるかもしれない。そう危惧していらっしゃるのですね。
非常に慎重で素晴らしい考え方だと思います。
これまで彼の同盟で連戦連勝、下剋上の連発ですから調子づいても良さそうなものですが、随分と冷静な判断をされるものだと感心いたしましたわ。
これで勢いのまま攻撃陣を厚くして一気呵成に仕掛けて来てくれるとありがたかったのですがね。少々残念です。
「敵もさる者、ですね。やはり【忍耐】は切れ者ですか」
「亜人のくせに生意気なものですわ。まぁ馬鹿にあれだけの戦果は出せませんけれどね」
さて、塔主戦争が始まったというのに互いに引き籠っている現状。こうなった場合に打つ手は――
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