284：大勢は決しましたがまだ序盤なんです！
■シャルロット 16歳
■第500期 Ｂランク【女帝の塔】塔主
ファモンさんたちの会話を拾った情報をまとめてフゥさんが教えてくれましたが、カラーダイスさんの＜白昼夢の空＞というのは「指定したエリアや階層にいる敵を″幻惑″状態にする」という効果だそうです。
塔構成や魔物を錯覚させるわけですね。
罠や魔物の存在に気付かせない。迷路の階層などに使っても非常に強力だと思います。
カラーダイスさんは最近取得したばかりとのこと。
Ｃランクで限定スキルを取得するのがそもそも大変なのでそれが遅いとは言いません。むしろ人気の出にくい『鳥の塔』でよくそこまで漕ぎつけたものだと思います。おそらく次の総会ではＢランクに上がっていたのではないでしょうか。
カラーダイスさんは侵入者を使ってスキルの使用感を試していたそうです。
そして手応えを得たからこそ私の塔主戦争申請に対して前向きだったのではないか、とフゥさんは言います。
交塔戦では限定スキルを使っても厳しいかもしれない。しかし三塔でかかればいけるだろうと。
しかしカラーダイスさんたちにはいくつか誤算がありました。
確かに＜白昼夢の空＞の効果は凶悪ですし、嵌れば例えＳランクパーティーの侵入者が来ても撃退できるかもしれません。
【空白の塔】に入る侵入者は最大でもＣランク。そのレベルの侵入者であれば百戦百勝で間違いないと思います。
でもそれは侵入者――人相手に限ったこと。
″幻惑″に対処するには神聖魔法による回復ではなく、斥候系スキルによる″察知″が必要なのだそうです。
視覚や聴覚、嗅覚は″幻惑″によってろくに働かなくなる。
それで正確な情報を得ようと思ったら＜気配察知＞や＜魔力察知＞といったスキルに頼るしかないと。
侵入者のパーティーには斥候役が一人しかいないのが普通ですし、その練度もＣランク程度ではたかが知れています。
カラーダイスさんはそうした相手へのスキルの使用感を見て「こんなにすごいスキルなら誰が相手でも勝てる」と思ったのでしょう。必勝への確信を得るほどのスキルだったと。
ですが塔主戦争となれば話は変わります。
まず俯瞰視点で画面を見ている敵塔主――私には＜白昼夢の空＞は掛かりません。当然ですが。
敵が迫っていることや地形の情報などは私が見たままを伝えることができるのです。
そして魔物の群れには察知系スキルを持つ者が多くいる。そこが人相手と塔主戦争の大きな違いです。
私の攻撃陣にはエメリーさんやバートリさんはもちろん、ハイフェアリーだって＜魔力探知＞を使えますし、ハーピィクイーンやマンティコアも相応のスキルを持っています。対処の手段は沢山あると。
向こうは″幻惑″状態の敵に対して魔物の群れをぶつけることで圧倒するつもりだったようです。
それも人相手には有効な手段でしょうが、こちらも魔物の群れである以上、広範囲魔法を斉射することで対応することはできます。
つまり、まず私がフゥさんから敵の状況を聞き、私が画面で見て敵が近づいてきたことを伝える。
察知系スキルを持っている魔物が敵の正確な位置を捕捉し、そこに向けて魔法を放つ。
それでも抜けてきた魔物はエメリーさんやバートリさんたちが直接対処すると、こういうわけです。
向こうはなぜ″幻惑″に掛かっていないのかと混乱していたようですが実際に″幻惑″には掛かっています。掛かった状態で戦える手段を持っていたというだけです。
『調査不足ですわね。適当な塔を相手に塔主戦争でも試していれば良かったですのに』
『そうは言うてもＦランクやＥランクの塔を相手にしても斥候系魔物と魔法系魔物を多く抱えてなどおらぬじゃろ。課題を見つける前に必勝の確信を得てしまったというわけじゃな』
『塔主戦争でもなければ魔物を相手にする機会などありませんからね……ましてや限定スキルなどどれも強力なのですから驕っても仕方ないかもしれません』
『せ、せめて″幻惑″を活かせる地形で戦えば勝機はあったのかもしれないですけどね……』
『平野のある一階層でっちゅうのは狙っとったけどな。【轟雷】が大部隊を布陣させるために何の障害物もないところを選んだのが間違いやな』
五百もの軍勢ですからね。それを迎撃のために布陣させようと思えば平野しかありえません。
これが森や迷路であれば、こちらの対処が限られます。
敵部隊が展開できなくなる迷路だったらエメリーさんとバートリさんだけをずっと働かせてしまうことになりますし、森だったらお二人だけでも対処はできなかったでしょう。こちらにもかなりの被害が出ていたはずです。
もともと私たちが一階層を戦場に選んだのは挟撃と各個撃破を狙ってのことです。
後続のターニアさん部隊と合流し、最初に【轟雷】の軍勢を斃してから【空白】の魔物に対処しようということですね。
ですが【轟雷】が平野に布陣してくれたことで、より戦いやすくなったと。そういうことです。
敵は数こそ多いですが弱い魔物が多く、指揮系統もなにもありません。
こちらが魔法斉射で弾幕を張り、察知できるエメリーさんたちが前に出ればどうにかできます。
そうこうしているうちにターニアさん部隊とベアトリクスさん部隊が合流。こちらのほうが広範囲の殲滅はお得意ですね。
前から後ろからと怒涛の攻撃を受け、五百の魔物は見る見るうちにその数を減らしていきました。
もちろん時間は掛かりましたし、多少の被害も出ました。魔力もかなり消耗しました。
【轟雷】の五百の魔物だけでなく【空白】の主力部隊も来ましたからね。
固有魔物の天使を筆頭に権天使（Ｃ）の天使部隊。
ファントム（Ｂ）、レイス（Ｄ）などのゴースト部隊。
ミミックファング（Ａ）やクリアリンクス（Ｃ）の斥候暗殺部隊。
そしてフレスベルグ（Ａ）やエアロイーグル（Ｂ）、ホワイトオウル（Ｃ）などの鳥部隊。
とにかく速く救援に行かねばと思ったのでしょう。全軍まとまって来たわけではないのですが部隊単位ではまとまって来ていたと思います。
天使なんて九階層に配置していた大ボスですからね。
それを一階層まで急がせたのですからバラけて当然です。
カラーダイスさんからすれば斃さなきゃと思っていた反面、行かせたくはなかったでしょうね。
なにせ【轟雷】の軍勢がものすごい勢いでやられているのを見ていますし、その中心にはエメリーさん、バートリさん、ターニアさんがいます。ベアトリクスさんは後方からの魔法担当ですね。
それに加えてハルフゥさんの部隊も合流しましたし――ハルフゥさんには回復に回ってもらいましたが――Ｓランク固有魔物三体とそれ以上に強いエメリーさんが暴れているわけですから。
自身の最高戦力である固有魔物の天使にしても心許ないどころの騒ぎではないでしょう。
絶対に失いたくない。でも攻めないわけにはいかないと。心中お察しします。
遅れて【氷海】の援軍も来ましたが時すでに遅し。大勢はもう決まっていました。
結局、この【空白の塔】一階層での戦いで、三塔の戦力を七～八割削るまでに至りました。
それほどの魔物が次々に集結し、その悉くを打ち倒したということです。
こちらもＣランクとＤランクの魔物を合わせて四十体ほど喪いましたが大勝だったと思います。
残存戦力は【轟雷の塔】の十四階層にいる固有魔物のドラゴン。
【空白の塔】はＢランク以下の魔物のみ。
【氷海の塔】はＡランク固有魔物を中心に水棲魔物が多く残っています。
さて、これをどのように攻略すべきかと話し合いました。私の攻撃陣ほぼ全てが集まっていますので如何様にも振り分けられるのです。
例えばエメリーさんだけを【轟雷の塔】に送り込んで、他を二分割し【空白】【氷海】を落としてもらう。仮にドラゴンがＳランクでもエメリーさんお一人で斃せますからね。魔剣もありますし。
「――と悩んでいるのですがどう思いますか？」
『わたくしたちの目的は魔物の殲滅ですから、やはり数で当たるべきではないでしょうか。時間は掛かってしまいますが』
「ですよね。では働かせてばかりで申し訳ないのですが事前の通りの二分割で【空白】【氷海】を先に攻略お願いします」
『かしこまりました。念の為スキルの監視をお願いいたします』
「了解です」
という感じになりました。
ターニアさん、ベアトリクスさん、ハルフゥさんは再度【氷海の塔】の攻略へ。
エメリーさんとバートリさんで【空白の塔】の攻略をお願いします。
【空白の塔】に主戦力は残っていないのですが＜白昼夢の空＞と罠などを併用して仕掛けて来ることも考えられますからね。まだ警戒は必要です。
まぁフゥさんに見張ってもらうことしかできないのですが私はせめて油断せずにおきましょう。
しかし塔主戦争の序盤も序盤でこんなにも動き、こんなにも大勢を決するというのは初めてですね。
それが良かったとも思うのですが、ここから三塔を攻略しないといけませんから長期戦になりそうです。魔物も殲滅しないといけませんからね。
さすがにリスポーンする魔物まで狙うような真似はしませんが、とりあえず配置されている魔物は斃すよう皆さんにはお願いしています。
主力は軒並み斃していますので戦闘面では苦労しなさそうですが探索時間が長引きそうですからね……ずっと働かせて申し訳ないなぁという感じです。
……ファモンさんたちからすれば早々に主力を喪った上で、塔の魔物を殲滅させられ、長時間かけて攻略されると。
それは長く続く拷問のようにも思えますが……情けをかけてもいけないのですよね。私も【女帝】なのですから。
あとはもう流すだけですね。
面白そうだなと思ったら下の方にある【評価】や【ブックマークに追加】を是非とも宜しくお願いします。
