29:決戦の時が近づいてきました
■シャルロット 15歳
■第500期 Dランク【女帝の塔】塔主
敵方の軍勢が【女帝の塔】六階層へと上がってきました。
その数は五四体にまで減りました。ここまでで百体ほどの魔物を斃しています。
七階層は【謁見の間】に私たちがいるだけ。
つまり六階層が最終防衛ラインのつもりでいます。
六階層の構成自体は何も変えていません。
階段を上って目の前には通路が伸びます。通路の左右には部屋が三つずつ並び、突き当りが大扉。その先が大ボスの部屋です。
大扉には『三角形・四角形・五角形・六角形・七角形・八角形』のくぼみがあります。
通路の途中の部屋、その扉にはそれぞれの図形が描かれており、対応する部屋の中ボスを斃せば『証』が手に入る。
その『証』を六つ集めて大扉にはめこめば、晴れて大ボスと戦える、という仕組みです。
これはいいアイデアだとドロシーさんもフゥさんもおっしゃってくれました。
真似するつもりでしょうか。全然いいですけど。
「よっしゃ! いよいよ大詰めやな! みんな頑張ってや!」
「応援するしかできぬのがもどかしいのう。ゼンガー爺よ、死ぬでないぞ」
「ヴィクトリアさん、パトラさん、皆さん、ご武運を」
そう送り出しました。もう皆さんを信じるしかできません。
相手側の陣容は
先頭に【鋼刃】の眷属であるレジェンダリスケルトンと、スケルトンナイトが十体。
斥候として【詩人】の神造従魔であるハミングバードと、ハープスワローが八羽。
中ほどに【力】の軍勢であるオークが十五体とオーガが十体。中央に隊長格のグレイオーガがいます。こちらは【力】の神造従魔ですね。
最後尾に【魔杖】のリビングローブが八体です。
彼らは急ぐようにして通路を歩き、まっすぐ大部屋に向かいます。罠の警戒などまったくなし。
おそらく【力】側が急がせているのでしょう。エメリーさんが迫っていますからね。
通路途中の部屋を無視して大扉に到着。しかし何をどうしても開きません。
そこで止まりました。
グレイオーガとハミングバードが何やら「ガウガウ」「ピィピィ」話しています。
【力】側の誰かが気付いたのでしょうか、大扉のくぼみに着目したようです。
通路に引き返しつつ、扉の模様を確認。
何やらグレイオーガが指示を出して、部隊を六つの扉の前に振り分けました。
「うわぁ、分かれてそれぞれ部屋に攻め入るつもりかい」
「相当焦っておるな。まぁこちらは戦いやすくはなるがのう」
ここまで来て戦力分散はどうなのかと、戦闘素人の私でさえ思います。
全員で一部屋ずつ攻略すべきだと。
しかしその時間も惜しいと思ったのでしょう。一刻も早く六階層を攻略したい。早く七階層へ、と。
「エメリーさん、こっちは六階層で残り五四体です。六部屋に分散して攻略を狙うようです」
『承知しました。プレッシャーになったようで幸いですね。こちらは今から十四階です。機を見て十五階に上がるとしましょう』
「気を付けて下さい。最後に残っているのは危険な魔物ばかりですから」
『お心遣いありがとうございます。侍女として精一杯務めさせて頂きます』
エメリーさんの言う『侍女』というのが日に日に分からなくなってきますが深く考えるのはやめましょう。
ともかく向こうも大詰め。
私は皆さんの無事を祈るのみです。
■ストルス・ガーナトン 40歳
■第485期 Bランク【力の塔】塔主
メイドの勢いはどうやっても止まらない。
俺の眷属は固有召喚したイスバザデン以外を除いて、全てやられた。
【鋼刃】ゲリッジのカルキノスも、【魔杖】ミネルバのメデューサもマンティコアも、【詩人】ティアニカのエンプーサも、【噴石】ヴォルカのラヴァタートルも火精霊もラヴァゴーレムも……全てがメイド一人にやられた。
画面に映る光景を誰も信じられない。
ただ認めたくないと騒ぐしかできないのだ。こんな事はありえないと。
そう思いたい気持ちは俺も同じだ。
いくら神定英雄だとは言え限度がある。
あの英雄ジータでさえ同じ真似ができるとは思えん。
とは言え愚痴っている暇などなく、なんとか足止めをしなければならないし、その隙になんとか【女帝の塔】を攻略しなければならない。
俺は矢継ぎ早にグレイオーガへと指示を出し、同時にこちらの体勢を整えようと、混乱する頭を振り絞って考える。
十四階層は【闘技場】だ。
ここまで上がってきた侵入者を【力の塔】として称える為の舞台。
そして確実に屠る為の最終決戦場でもある。
残されたのは俺とゲリッジとミネルバの固有魔物のみ。
巨人の老王【イスバザデン】、六腕の鎧剣士【アスラエッジ】、翼なき火竜【フレアドレイク】。
本来なら単騎で戦わせたいところだが、ここまでくればそうも言ってられん。
この強力な三体を同時にメイドにぶつける。
誰が相手であっても確実に勝つ。それだけの自信はある。
これでもしメイドに負けるようであれば――
■エメリー ??歳 多肢族
■【女帝の塔】塔主シャルロットの神定英雄
「エアリアルクロウとアイスバードは階段で待機していて下さい。この先は危険ですから」
さすがに相手の陣容を見るに、警戒しないわけにもいきません。
特にフレアドレイクですか、あれは火のブレスを吐くそうですし、下手すれば鳥たちを巻き込みます。
戦い終わるまで控えてもらっていたほうが良いでしょう。
闘技場、ですか。
最後の試練として創ったものでしょうか。
【力の塔】の最高戦力は神造従魔のグレイオーガにせよ、固有召喚のイスバザデンにせよ、単騎で戦うのが似合いそうですしね。闘技場というのは非常にそれっぽい。
しかし今、目の前には三体のボス。
イスバザデンは4mほどの老巨人。マントを靡かせ、手に持つ特大剣は3m以上ありそうです。
さすがにこれほどの大きさの剣士とは戦ったことがありません。
アスラエッジは2m少々でしょうか。三体の中では小さめ。
しかし見たことのない全身鎧。腕は六本あり、その手には六本の刀。
まさかこの世界で刀を見るとは思いませんでした。これは要注意。
フレアドレイクはわたくしの世界にいるファイアドレイクを想像していましたが、やはりだいぶ違いますね。
赤い鱗の四足地竜というのは変わりませんが、そもそも体長が10m以上ありますし姿形も違います。
翼がない分、戦いやすくはあるのですが……さてどうしたものか。
とりあえず様子見で攻めるしかありません。
はたしてどれほどの強さか。
後者二体はAランクらしいですが、イスバザデンはSランク相当らしいですからね。
この世界におけるSランクの魔物とはどの程度のものか。確かめさせてもらいましょう。
■ヴィクトリア ??歳 アラクネクイーン
■【女帝の塔】塔主シャルロットの眷属
今回の塔主戦争、私の役目は主に二つです。
一つは私の配下である人面蜘蛛やアラクネを準備段階から召喚し、通常の【女帝の塔】よりも多めに配置すること。
TPはパトラさんや四階層の改装にかなり使いましたからね。節約も兼ねてです。
塔主戦争の場合、リポップを考える必要があまりないので私の<配下召喚>でも問題ないと。
もう一つが六階層での迎撃。最終防衛線の一角として。
私は『四角形の部屋』に陣取っています。すでにアラクネを十体ほど召喚済み。
魔力はかなり使いましたが、今回の戦闘では近接攻撃を多用するつもりなので問題ないでしょう。
『皆さん、相手側はバラけました。各部屋に分かれて入るようです』
なるほど。それは好都合ですね。
相手が固まって一つの部屋に向かうようでしたら、私とパトラさん、ゼンガーさんが後からその部屋に押し入って背後から強襲するつもりでした。狭い戦場で戦うはめになったでしょう。
それが分かれてくれたとなれば戦いやすい。アラクネも召喚したかいがあります。
待つこと数秒、警戒もなにもせず、部屋の扉は開かれました。
入ってきたのはスケルトンナイトが数体。
そして――レジェンダリスケルトンですか。
【鋼刃の塔】の眷属。ランクは私と同じBだそうです。
配下を従えるのも同じ。スケルトン対アラクネの部隊戦ですか。
『ヴィクトリアさん、そっちが終わったら六角形の部屋をお願いします!』
「かしこまりました」
シャルロット様の慌てぶりを聞くに、他の部屋にも強敵が向かったのでしょう。
だから私も早く斃して救援に向かえと。
レジェンダリスケルトンなど苦戦するに値しないと、そう仰っているのです。
ならば私はそのご期待に沿うよう――
「参ります!」
今こそエメリーさんとの訓練の成果を示す時。
両手にお借りした【魔竜槍】を構え、私はアラクネたちと共に飛び込んだのです。
今さら言うのも何ですけど相手は相当強いですよ? 弱いっぽく書いてますが。
Bランク、アルカナ、十五年の経験、そういったものを十全に有した相手だと思います。
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