28:同盟戦も中盤といったところです
■ストルス・ガーナトン 40歳
■第485期 Bランク【力の塔】塔主
「くそっ! 俺の眷属が……俺の神造従魔があああ!!!」
ヴォルカが吠えた。気持ちは痛いほど分かる。
眷属となった魔物はリポップできない。新たに召喚してもそれは『同じ種族の別の魔物』だ。
特に神造従魔は神賜として最初に手に入れた眷属。思い入れもあろう。
負ければ終わりと分かってはいるが……割り切れるものではない。
同盟五塔から集めた眷属は、その塔の最高戦力だ。
万が一にも負けられないからこそ、こうして同盟戦に集められた。
しかしその運用には頭を悩ませた。
眷属が故に初期配置に縛られず自由に階層を移動できるのはそうなのだが、だからと言ってむやみに配置するわけにもいかない。
相手はほぼメイド一人なのだから、それさえ斃せば終わり。
とは言え、集めた眷属をまとめて当たらせるのは不可能なのだ。
例えば俺の戦力で言うと、神造従魔のグレイオーガは【女帝の塔】に攻め込んでいるからいいとして、残っている眷属は固有召喚の【イスバザデン】と、他には【トロールキング】【グレートコング】【アウルベア】がいる。
どれも巨体で近接物理攻撃が主な攻撃手段だ。
それがメイドの四方八方から殴りかかったとすれば……ほとんど同士討ちと変わらない。
これが相手も部隊を布いていて挑んで来るならばやりようはある。一体一体を広く布陣すればいい。
ただ相手が単騎となるとこちらが攻撃しにくいだけだ。
同様にゲリッジの【鋼刃の塔】は固有召喚の【アスラエッジ】の他に【カルキノス】が眷属として控えている。
ミネルバの【魔杖の塔】も同じだ。固有召喚の【フレアドレイク】に【マンティコア】【メデューサ】。
どれもこれも、多数の侵入者を相手取るなら適しているが、単騎の侵入者に多数で当たるのには向いていない。
皆、侵入者が自分の塔に攻めてくるのを想定しているのだから当然だ。それが塔主の心情というもの。
誰も『規格外の神定英雄が一人で攻めてくる』など想定していないのだ。
ともかくそういったわけで名立たる眷属たちはバラけて配置するしかない。
まずは十階層の【灼熱荒野】でヴォルカの眷属たちが陣を布いた。
ヴォルカは【噴石の塔】の塔主であり、その眷属も【ラヴァゴーレム】【火妖精】と火属性。
おまけに神造従魔のラヴァタートルは耐久力もあり時間を稼ぐのに適している。
そう思って十階層はヴォルカに任せたのだ。
それがどうだ。
鳥は風やら氷やらを使うから話は分かるが、メイドは汗一つかかずにこれまでと同じように走る。
そして驚くことに、黒いハルバードを振るったと思えば水魔法を放つではないか。
それによりラヴァゴーレムも火妖精も斃された。
ラヴァタートルは自慢の防御が意味を為さないかの如く、ハルバードで甲羅ごと斬られたのだ。
ヴォルカの眷属は何もできぬまま消えた。1分程度の足止めしかできていない。
「な、なんなのよ、あの武器……魔法が撃てる武器って神授宝具だけじゃないの!?」
「ありえねえよ! 神授宝具を持った神定英雄なんているわけねえだろ!」
「じゃああいつは何よ! 何なのよあのメイドは!」
考えられるのは誰かの神授宝具を借りているという場合だが……誰も自分の神授宝具を貸すような真似はしない。
同盟内で貸すにしても神授宝具を持っているのはあの中だと【忍耐】だけ。それも盾のはずだ。
じゃあどの塔主だ? 塔主が死ねば神授宝具は消えるから、現存する塔のはずだ。
しかしハルバード型の神授宝具など……さすがにパッとは思いつかん。
ともかくメイドは十一階に上がって来る。
何とか早く食い止めねば……!
■エメリー ??歳 多肢族
■【女帝の塔】塔主シャルロットの神定英雄
魔竜剣の情報はできるだけ渡したくなかったのですが……まぁ仕方ありませんね。相手が相手でしたから。
鳥たちに任せるのもアレですし。わたくしが斃した方が早いですからね。
低階層の迷路を抜け、しばらくしてからクリアパピオンはお役御免。飛んで帰っていきました。
そこから先は平野などの屋外構成ばかりなのでルートはまっすぐ進むのみです。
魔物は多少強くなっていますが、迷路よりも断然早く抜けられますから楽ですね。
『エメリーさん、十一階層に【力】の眷属が集まりだしています』
「おや、もうですか。早いですね。【力】は最後かと思っていましたが」
『固有魔物と思われるイスバザデンっていう巨人だけは残すみたいです。トロールキングとグレートコング、アウルベアですね』
なるほど。痺れをきらしたようにも見えますが、手元に保険は置いておきたいということでしょうか。
一気に向かってこられた方がこちらは厄介なのですけどね。
まぁ各個撃破できるならばそれに越したことはありません。
「そちらはどうですか?」
『今、五階層に入り始めました。隊列がバラけて順々にって感じですけど』
「分かりました。パトラには適当に手を抜くように言っておいて下さい。あくまで主戦場は六階層だと」
『はは……分かりました』
パトラが本気を出せば五階層で殲滅もありえそうですからね。
そうなるとヴィクトリアやドロシー様、フッツィル様の出番が削られてしまいます。
こちらも攻め込むタイミングを見計らう必要がありますかね。
あまり早く斃してしまうとあちらの魔物が消えてしまいますから。
いえ、油断は禁物ですか。
侍女たるもの仕事は完璧に遂行しなければなりません。
■シャルロット 15歳
■第500期 Dランク【女帝の塔】塔主
【女帝の塔】の五階層はダンスホールです。
階段を上って来て最初は小部屋が続き、後半は広々とした豪華なダンスホールがあります。
普段ですと、ここにはダンサーを模したように【サキュバス】【インキュバス】【フェアリー】を配置しています。
それに加え、今回はドロシーさんがゴーレム部隊を投入しています。
守りを固めつつ魔法攻撃という感じでしょうか。
そしてサキュバスクイーンのパトラさんを眷属とした今、サキュバスとインキュバスの能力は上がっている。
もしここにパトラさんが加わるとなると、さらに強力な陣になるのは目に見えています。
相手の残りは七〇体といった所でしょうか。パトラさんが加われば少なくとも半数は減るでしょう。
私はそれでもいいと思うのですが……エメリーさんが「六階層で」というのであればそれがいいのでしょう。
ということでパトラさんにも伝えます。
「えぇ~、オークとかオーガは狙い目だと思ったのですけどねぇ。六階層だと私のトコに来るか微妙ですしぃ」
「どうでしょうね。どういう感じで攻めてくるのか分かりませんよ。まとまって来るか、バラけて来るか」
「あのグレイオーガは私に下さいます? どんなものか試してみたいですわぁ」
グレイオーガは今回の攻め手の隊長格ですね。
オーガにしては小柄で細身。しかし腕が異常に太くて長い。そんな灰色のオーガです。
【力の塔】の神造従魔ですから相当強いと思います。
パトラさんは<誘惑>するつもりなんですかね。
はたして魔物相手に効くのかも分かりませんし、神造従魔相手に効くのかも分かりません。
まぁ「試す」と言うくらいですから実験的な意味合いもあるのでしょう。
これで神造従魔にも有効だと分かれば今後も有利になりますし。
私もパトラさんに期待したいところです。
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名前:パトラ
種族:サキュバスクイーン
職業:シャルロットの眷属
LV:40
筋力:C-
魔力:A-
体力:C+
敏捷:B+
器用:B-
スキル:誘惑、統率、闇魔法
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サキュバスクイーンもアラクネクイーンと同じくBランクです。眷属になって強化されていますが。
攻撃方法の偏りと明確な弱点があるのでBランク止まりという感じです。
今回シャルロットさんは溜めたTPのほとんどを使って四階層の改装とパトラ召喚・眷属化を行っています。
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