26:同盟戦、始まります!
■シャルロット 15歳
■第500期 Dランク【女帝の塔】塔主
「ではエメリーさん、お気を付けて。ご武運を」
『かしこまりました。お任せください』
画面に映るエメリーさんは第一階層にいます。
塔主戦争として出現した、【力の塔】に乗り込むための転移門。
その前に立つエメリーさんの表情はいつもと変わりません。少し安心します。
「ドロシーさん、フゥさん、よろしくお願いします」
「こちらこそな! 二人に任せてまう部分が多いけどウチもやったるわ!」
「ドロシーもわしもこれが初塔主戦争じゃからのう。昂る気持ちは分かる。しかし仕事が多くてあまり余裕がなさそうじゃが」
「言い出しっぺはフゥなんやで! 戦力はシャルちゃんやし、戦略はウチや!」
「分かっておるわ! ちょっと言うてみただけじゃ!」
私の玉座の両隣にはお二人が座っています。自前の椅子と自前の宝珠を持ってきています。
画面が三人分、横にドドンと並び、普段以上の大迫力。
こうしたことができるのも同盟戦の特徴です。
普通は宝珠を別の塔に移動するとかできないでしょうし。
――カラァン――カラァン――
『はーい、準備はいいかなー! じゃあ始めるよー! 同盟戦! それぞれ代表者は【力の塔】と【女帝の塔】としての交塔戦だ! 塔主戦争スタートっ!』
神様の声と同時に転移門が開放されます。
こちらからはエメリーさんたちが、そしてこちら側に入ってきたのは――
「スケルトン、オーク、オーガ……リビングローブが少々と鳥もおるな。ま、予定通りや」
「先遣はさせないんですかね。これだけの数でまとまって来るつもりですか……」
「後続で第二陣があってもおかしくはないけども……第一陣にしちゃ多すぎやな。おそらく【女帝の塔】の三階層までは情報掴んでるんやろ」
三階層までは侵入者が入っていますからね。その情報は当然持っているはず。
でも、塔主戦争を受理した時点で何もいじってないはずがないと思わないんですかね?
◆
同盟を結んで最初に三人の顔見せを行った時、フゥさんは言いました。
TPと戦力補強を狙う手が『なくもない』と。
同盟を結ぶにあたり、フゥさんが最初に行ったのは『【女帝の塔】を敵視しているニーベルゲン帝国関係者の塔主は誰か』を調べるということだったそうです。
それを把握しておかないと同盟を結んでからも常に警戒することになる。
敵ははっきりさせておくのが一番だと。
そうして分かったのが【力の塔】というBランクの存在。十五年も続けている二十神秘の一塔です。
さらにその同盟には帝国関係者が他に四人。計五塔の同盟だと。
フゥさんが私と同盟を結べば、いずれそこと戦うのは目に見えている。だからこそ事前に調査しておく必要がある。
と、調べていった結果――
「やるなら早い方がよいのでは、と思うようになったのじゃ」
「えぇぇ……BCCDDの同盟やろ!? ウチらDEEやで!? 圧倒的不利やん!」
「それは向こうもそう思っているじゃろ。じゃからこそ油断しておるはず。付け入る隙はある。それに時間をかければこちらも強くはなるであろうが、向こうにも情報が入ることになるぞ? 今ならば情報戦で圧倒的に優位じゃ」
と言うのです。フゥさんがファムを使って集めた情報により相手のことは丸裸。
一方こちらの情報はほとんど渡っていない。
【女帝の塔】に関して言えば、エメリーさんが強いのと、三階層までの情報は流れているでしょう。
しかしヴィクトリアさんのことや、四階層以降の構成については知る由もないのです。
情報戦に劣ると嘆いていたのにフゥさんと出会っただけでここまで強くなれるとは……本当にフゥさんはすごいです。感謝しかありません。
「とは言え情報を集めたところでわしの戦力は弱い。ゼンガー爺を死ぬまで働かせることになる」
「妖精女王様と精霊王様にお目通りできるまで死んでも死にきれませんぞぉ!」
「分かっておるわ! だからこそシャルとドロシーの協力が必要じゃ。特にエメリーの力がのう」
フゥさんは相手の主戦力となる魔物を教えてくれました。
それをもってエメリーさんに確認。勝つ見込みはあるのかと。
「わたくしの世界にいなかった魔物も多いので何とも言えませんが、例えば【力の塔】の眷属となっているトロールキング。これがわたくしの世界のものと同種であると仮定しまして、わたくし一人で安全に勝つとなると……五体同時くらいですかね」
「んなっ!? トロールキングてAランクやで!? エメリーさん、ホンマ規格外やわぁ……異世界の侍女怖いわぁ……」
「わしの想定以上じゃな。とは言え同盟戦となればエメリーだけを戦わせるわけにもいかぬ。相手はBランク塔主の戦力を主とした同盟。戦力に偏りは見えるが普通に戦っても負けるだけじゃ。色々と策略を練らねばならん」
簡単に勝てるわけがない。
しかし勝てれば五塔が保有しているバベルジュエルが手に入り、多くのTPを得る事ができる。
さらに相手側の魔物を斃せば、その召喚権利を得られます。フゥさんはそれが狙いのようです。鳥ばかりだと嘆いていましたからね。
TPの獲得と戦力増強、さらに『敵対するニーベルゲン帝国関係者』を排除するという一石三鳥を狙う機会。
それを為す為に、私たちは時間をかけて作戦を練りました。情報を探りつつ。
そうして情報通りに相手側から申請が来ました。
私たちはすぐに【女帝の塔】のちょっとした改装と配置替えをし、お二人と共にTPを使い切るつもりで魔物を召喚し、戦力と戦略を整え、翌日すぐに受理の返答をしたのです。
油断したまま戦ってもらう為、相手の準備期間を与えない為、こちらの情報を探らせない為、色々と理由はあります。
ともかくそうして同盟戦を迎えたのです。
私はエメリーさんの代わりに後ろに立つ、二人の女性に話しかけます。
「頼みますね、ヴィクトリアさん、パトラさん」
「ええ、初実戦ですからね。これで負けるわけには参りません」
「楽しめればいいのですけどねぇ。相手が人でないのが残念ですわ」
眷属のお二人。アラクネクイーンのヴィクトリアさん。
そしてここぞとばかりにTPを消費して召喚した【サキュバスクイーン】のパトラさん。
召喚したばかりのパトラさんはもちろん、ヴィクトリアさんも戦うのは初めてです。
相手の強さを考えればお二人が戦うことになるのは確実。
私は【女帝】としてそれを見守るしかできません。心を乱すことのないように。
■ストルス・ガーナトン 40歳
■第485期 Bランク【力の塔】塔主
「さて、始めるぞ」
「「「「はい」」」」
用意した戦力は主に俺の塔の魔物だが、もちろん他の四塔からもかき集めた。
しかし条件にあった『総計千体』というのが邪魔だったな。もっと多く提示しておくべきだった。
俺の塔だけでも千体は超えるのだ。
そこを削って他の塔の戦力を入れる必要があった。
まぁその分、魔物に多様性は出たし、各塔の眷属を集めることができたわけだが。
特に俺の塔とゲリッジの【鋼刃の塔】、ミネルバの【魔杖の塔】は古参の上位ランクということもあり、固有召喚の魔物を一体ずつ手に入れている。
どれもその塔でしか召喚できない強大な戦力だ。それが一堂に会する。
相手がDEEの同盟であることを考えれば過剰戦力かもしれないが、向こうには神定英雄が二人もいるからな。油断はできん。
しかも一人は異常に強いと噂の四本腕のメイドで、もう一人は誰も正体を知らない老人。
有名な英雄でない分、情報を得られない恐ろしさがある。まぁ英雄級の実力があるのは間違いないだろう。
『はーい、準備はいいかなー! じゃあ始めるよー! 同盟戦! それぞれ代表者は【力の塔】と【女帝の塔】としての交塔戦だ! 塔主戦争スタートっ!』
そうこう言っているうちに始まったようだ。
こちらから【女帝の塔】攻略に向かうのは、俺のオーク・オーガ部隊。
【鋼刃】の眷属である【レジェンダリスケルトン】が率いるスケルトン部隊。
魔法要員として【魔杖】のリビングローブが少々。
斥候役に【詩人】の神造従魔である【ハミングバード】と鳥系の魔物たち。
攻撃を指揮する隊長格は俺の神造従魔である【グレイオーガ】だ。
【女帝の塔】は三階層までしか判明していない。
しかしどの階層も『狭い』のだ。そうなると俺の手持ちで言うとオーガが精一杯。トロールなどは攻略に不利となる。
とは言え数を厳選した上で過剰な戦力にできたとも思う。
本来なら神造従魔は手元に置いておきたいところだがな。同盟を率いる手前、先頭に立たないわけにもいかない。
対して【女帝の塔】から攻め込んできたのは――
「……は? メイドと鳥が十羽……だけか?」
「先遣隊にしても神定英雄のメイドを投入する意味がねえだろ」
「じゃああれが本隊!? あれだけで【力の塔】を攻略するつもりだとでも!?」
「何考えてるのよ、あっちの同盟は……」
こっちは十五年も侵入者を防ぎ続けてきた塔だぞ? 二十神秘に相応しい実力と実績だと自負している。
それを神定英雄とはいえ、実質メイド一人で攻めさせて攻略できると思っているのか?
……嘗めやがって! 捻り潰してやるよ!
エメリー無双は今回が最後になるんじゃないですかね。分からないですけど。
いつまでも単騎で突っ込ませるわけにいかないですし本来シャルを守る立場ですから。
まぁ今回は相手が強いので仕方ないです。
面白そうだなと思ったら下の方にある【評価】や【ブックマークに追加】を是非とも宜しくお願いします。




