24:三塔同盟で戦力の把握をしておきます
■シャルロット 15歳
■第500期 Dランク【女帝の塔】塔主
「この度はフッツィル様と同盟を結んで頂きありがとうございます。何とも喜ばしい事。しかしてフッツィル様は可憐なる妖精とこの世で最も近しい可憐なるハイエルフの身。何者にも害されるわけには参りませぬ。儂も全力でお守り致しますが同盟の方々におきましても共にお守り頂きますようお願い申し上げます。ときにシャルロット殿は妖精女王様を召喚できるとか。今はまだ召喚できませぬか? 儂としてはなるべく早くお目通りしたいと――」
「ええい! 黙れこの変態爺が! シャルに近づくでないわ!」
同盟を結んで数日。フゥさんが神定英雄のご老人を連れて【女帝の塔】に来ました。
もちろんドロシーさんもご一緒です。
顔合わせとかもありますが、色々と打ち合わせしておこうと思っています。
で、自己紹介から始まったのですが、フゥさんの神定英雄の方は【ゼンガー・ダデンコート】さんというお名前だそうです。フゥさんに「変態爺」と呼ばれてましたけど。
私もドロシーさんも存じない方だったので詳しくお聞きしますと、まず異世界の方ではないようです。
この世界のかなり昔にいらした方だと。神定英雄として呼ばれたのも初らしいです。
無名の英雄――それはどのような方なのかと思えば、ゼンガーさんは『人間社会における精霊信仰の始祖』であると言います。
簡単に言えば精霊信仰とは自然と共にある精霊や妖精を守ろう、敬おうとする考えですが、主にエルフの信仰者が多いと聞きます。おそらくハイエルフのフゥさんも同様でしょう。
しかしエルフだけではなく、人間にも信仰者は少なからずいます。獣人やドワーフにもいるかもしれません。
ゼンガーさんは人間に精霊信仰を広めた、その第一人者だと言うのです。
教会で言ったら大司教様? 総司教様? ともかく一番偉い方です。
「元は創界教の司教だったらしいぞ? しかし妖精好きが高じてエルフと接触し、精霊信仰を唱えるに至ったんじゃと」
「いやそれ改宗ってレベルちゃうやん。ええのか、司教様がそんな事して」
「はははっ、創界神様はもちろん尊崇しておりますぞ? しかし精霊や妖精の素晴らしさを世に広める必要があると、儂はただそれだけです」
創界神様は世界を創ったとされる神様。おそらくバベルの神様とは別の御方です。
【神聖国家ペテルギア】という国がありまして、そこが世界に広がる【創界教】の総本山。一番大きな宗教でしょう。各国・各地に教会があるくらいです。
で、ゼンガーさんはそんな巨大宗教の司教様だったと。
随分位が高いのによく抜けられたものです。
ともかくそんなゼンガーさんもかなり昔の人で、創界教でも司教止まりだった事もあり名前が後世に残っているほどではないと言います。精霊信仰の方でも有名なのはおそらくエルフの方になるのでしょうしね。
じゃあ弱いのか、英雄としての力はないのか、と言うとそんな事もなく、神聖魔法の使い手としてはかなりのものだと。
逆になんでそれだけ神聖魔法が使えるのに司教止まりだったのかとフゥさんも疑問に思うほどだそうですが、答えとしては創界教内で精霊信仰を唱えた為に出世できなかった、という事らしいです。
色々あるのですねー、宗教の中には。
そんな妖精好き・精霊好きのゼンガーさんはフゥさんに対して過保護らしいです。
やはり精霊と一番近しいハイエルフですからね。ゼンガーさんは守って当然だと。
「そのわりにはフゥを一人で街に出歩かせてるやん」
「はぁ……儂もフッツィル様には塔から出ないよう、いつも忠言しているのですが、どうにも抜け出すのが上手く……」
「わしだって里に縛られてたんじゃぞ? 人の街並みを見たいと思うのは当然ではないか。せっかく塔主となったんじゃから、こんなチャンスはなかろう」
そうしてフゥさんはたびたび外に出て、ファムから情報を聞きつつ街巡りをしていたようです。
そんな時、たまたま出会ったのが私たちだと。すぐに私たちの周りにいたファムから情報を得たそうです。それが信用するきっかけになったとフゥさんは言いました。
私が妖精女王を固有召喚可能だと聞いてフゥさんも喜んでいました。精霊王と並ぶほどの存在なのだから、会えるものなら会いたいとおっしゃっていました。
妖精好きのゼンガーさんもそれを聞いておおはしゃぎだったようです。
フゥさんとゼンガーさんの話し合いなどないようなもので、すぐに同盟申請は受理されたと。
「しかし妖精女王に会うのも目的の一つであるならば、私が召喚したあとで塔主戦争を仕掛けても良かったのでは? そうすればフゥさんの眷属となるのでしょうし」
「お主、それはわしに妖精女王とエメリーを斃せと言うておるのか? 出来るか! どんだけ頑張っても無理に決まっておろう!」
「せやせや! シャルちゃん自分トコの戦力が無茶苦茶だって自覚がないんや! ほんま【女帝】とかズルいわ!」
えぇぇ……いやまぁエメリーさんが規格外だっていうのは自覚ありますよ?
それに頼った運営になっちゃっているのも。でも総合の戦力はどうなんですかね?
他の同期の方々より手に入れたTPとか使っているTPは多いとは思いますが。
せっかく同盟を結んだので、お互いの戦力を確かめておいた方がいいのでは。
そんな話になりまして、色々とお聞きする事が出来ました。まぁドロシーさんとはお互いに知っている部分も多いのですが。フゥさんの【輝翼の塔】は全く知りませんしね。
「まずウチの【忍耐の塔】やけど、基本的には探索時間を引き延ばす。それと罠による討伐TP獲得を狙う。こんな感じやな」
「プレオープンではわしのトコより上位だったからのう。やはり討伐TPの差が大きかったのかのう」
「侵入者の数が元々違うのでは? 【輝翼の塔】は初出で、【忍耐の塔】は七美徳ですから知名度が違いますよ」
「なるほどのう。という事はわしも健闘した方か」
「大健闘やろ。ま、【輝翼の塔】の事はあとで聞くわ。んでウチの特徴としては――」
【忍耐の塔】はEランクで全五階層。
内装は石壁、鉱山といった屋内型が三層。一層は沼地で、最上階は大ボス用の部屋と住居エリアだそうです。
召喚できる魔物としてはまず防御力の高い魔物が多い。
亀・甲虫・ゴーレム系などが召喚しやすい。物理攻撃不可のウィスプやゴースト系はいないそうです。
魔法防御が高い魔物もいるそうですが、そっちは全体的に高額だそうで、今のところ物理防御が高い魔物を主に使っているそうです。
それと状態異常、特に麻痺や毒を扱う魔物が多い。
だからアラクネが召喚可能だったのですね。罠に関しても状態異常系の罠が充実しているようです。
「迷路とか沼とか地形で探索を遅らせて、討伐に時間のかかる魔物でまた遅らせて、焦れてきたトコで罠にはめて殺す。毒とかも焦らす意味でつこうてるな。毒だけでジリジリ殺すのもアリやけど」
「「うわぁ……」」
「ま、状態異常に関しては低ランクだから効いてるってトコもあるで。高ランクなら薬とか常備してるやろうしな」
なるほど。毒と一言に言っても使い方が重要なのですね。勉強になります。
解毒される前提で罠を考える必要があると。難しいですね。
「課題は色々とあるけど、やっぱ瞬間的な攻撃力やろか。強い魔法で一気に殲滅できるような手段なり魔物なり。ゴーレム系は強いけど遅いからなー。殲滅力となるとちょっとちゃうねん」
「ふーむ、わしのトコとは対照的じゃな」
「そっちはどうなん?」
「こっちはそもそも【輝翼の塔】という時点でハンデを背負ってるようなもんじゃ」
「「あー」」
塔を運営する上で『使いづらい』と言われるのは鳥系の魔物です。
どうしても塔の狭さ・低さが問題となって、鳥でなくても飛行する魔物は嫌厭される傾向にあります。
私も妖精などは使っていても、ペガサス、グリフォン、ハーピィなどは召喚していません。
使われないからこそそれに特化している高ランクの塔もあるそうです。
侵入者からすれば滅多に戦わない鳥系の魔物ですから苦戦は必至。
やり方によっては好成績を生むという事でしょう。
【輝翼の塔】はEランクですから一階層の広さが直径600m、天井高が6mです。
仮に平原や森を創っても、鳥を自由に飛ばして攻撃させるとなると不十分。特に高さが厳しいです。
屋内構造の場合はもっと無理。迷路や洞窟で鳥を飛ばすわけにもいきませんし。
「召喚できる魔物は鳥・妖精・虫の一部、あとはペガサスなども可能じゃが基本的に翼のないものは召喚できぬ」
「厳しいなー。虫は翅でも翼扱いなんか」
「種類によるのう。蝶や蛾などは大丈夫らしい。甲虫系は無理じゃな」
「それでよくプレオープン四位になれたもんやで」
基本的にはヒットアンドウェイの戦法らしく、森などにしても死角からの襲撃を徹底させたと言います。暗殺的とも言えます。
そうして木の上に注意を払わせておいて地面に罠を置く。
地面を見ていれば上から奇襲と。
また隠れてフゥさんとゼンガーさんも出撃していたようで、フゥさんの風・水魔法、ゼンガーさんの神聖魔法を使って、攻撃や魔物の回復などを行っていたそうです。
「塔主自ら出陣かい。よおやるわ」
「そうでもしなければ手数が足りんわ。特にプレオープンはのう。今はだいぶマシじゃが」
今は五階層のうち、二階層と三階層を繋げて一層分にしているそうです。二階層の天井と三階層の床がないと。
これも高ランクの塔主がよく使う手らしいですね。
鳥系はもちろんですが、それこそ竜などの場合、高さと広さが必須になりますので、広さはともかく総階数を減らしてでも高さを確保する事があると。
逆に言えば、そこまでやって初めて鳥系の強みが活きる。
今の【輝翼の塔】はやっとそういった階層を創れるようになった段階という事です。
「わしんトコの場合は敏捷特化。魔法攻撃も多めじゃな。しかし防御力がないし、物理攻撃一発で屠るといった真似はできん」
「ウチと逆言うてたのがよお分かるわ」
「結局はTPをかけてそういった魔物を召喚するしかないんじゃが……本当はそれこそグリフォンとか欲しいんじゃがのう。さすがにTPが足りぬわ」
「TP長者のシャルちゃんはどうなん? バランスは良さそうな塔に見えるけども」
「うちはそうですね――」
【女帝の塔】の特色は、やはり制限が厳しいという事に尽きるのではないでしょうか。
構成は城ばかりで屋外構成は街くらい。森なども一応創れますが非常に高い。
魔物にしても城に関連した魔物か、クイーン系統の魔物にほぼ限られます。
レパートリーで言ったら三人の中で一番少ないのではないでしょうか。
しかしクイーンのコストは高いものの、召喚できれば配下を創らせたり、統率して強化できたりもします。
クイーン自体も普通に考えればボスクラスの強さでしょうから、一体召喚すればボスとその群れをまとめて自軍に入れるも同じ。
そういう意味では『TPさえあれば』戦力を強化しやすい塔、と言えるのではないでしょうか。
「せやな。シャルちゃんトコは群れ! 軍隊! とかそんな感じやし」
「様々な魔物を嗾けて対処を困らせるのも手じゃが、同種の群れが統率されていればそれは脅威じゃな。弱点はないのか?」
「TPが掛かる、種類が少ない以外ですと、種類が限られているが故に対処をされやすいというのも弱点かと」
例えば【女帝の塔】の三階層で言えば、人面蜘蛛・アラクネ・スライムしか出ません。
スライムはともかく蜘蛛系は火に弱く、毒と糸の対処さえすれば斃しやすいと思います。
これに例えば火に強い魔物を同時に戦わせる、といった事がうちの場合は難しいのです。
「なるほどなー。どこも一長一短なんやな」
「それもやはりTPがあれば解決できる問題だとは思いますけれどね」
「いい感じの魔物が欲しい、TPが足りない、かぁ~っ! 貧乏は辛いなぁ! 新塔主なんてそんなもんやろうけど」
三人とも悩みどころは同じようなもので。
でもそれがどの塔主にも言える悩みでもあるわけです。
すんなり解決できるわけがありません。
しかしフゥさんがこう切り出しました。
「そこで相談があるんじゃが――皆の悩みを改善する方法がなくもない」
「「?」」
三塔それぞれに強みはありますが三人とも「ぼっち」だったんですよね。
色々と補える関係性になればいいなと思います。
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