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新米女帝の塔づくり!~異世界から最強侍女を喚んじゃいました~  作者: 藤原キリオ
第十章 女帝の塔の日常は何かと忙しい!
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198:同盟全員でバベリオの街に行きます!



■シルビア・アイスエッジ 22歳

■第501期 Eランク【六花の塔】塔主



 侵入者の数は相変わらず多く、嬉しい悲鳴を上げている。

 同時に同盟四塔にお邪魔しつつ、勉強しつつ、画面共有で相談しつつ、と慌ただしい毎日だったのだが休塔日を設ける運びとなった。


 私とすれば休んでいる暇などない気持ちなのだが、アデル様に「街に行きますわよ」と言われれば従わざるを得ない。



 集合はバベルの一階ということで新人らしく早めに待ってはいたが、朝は冒険者で混みあう時間帯。


 そこに「お待たせしましたわ、おはようございます」とやって来たのは塔主五名とエメリー殿だ。

 とんでもなく目立つ。

 周囲の冒険者が避けるように一定距離を空けて、まるで陸の孤島かのごとく私たちは集まった。



「うおっ! 【彩糸の組紐(ブライトブレイド)】じゃねえか!」

「とんでもねえ集団だな」

「あれが【六花】のシルビアか? 新しく加入したっていう」



 冒険者の中では有名だと思っていたのだがな。諸先輩方に比べるとまだまだらしい。

「では行きましょうか」と歩き出せば人波は勝手に割れていく。

 慣れた様子の先達に私も続いた。


 私の並びにはアデル様とシャルロット殿がいるが、そのシャルロット殿は普段と全く違う様子。

 ドレス、髪型、姿勢、表情、その全てが【女帝】そのもの。新年祭で見かけたお姿だ。ある意味こちらが私の中の『【女帝】シャルロット』である。


 まぁ今となっては【女帝の塔】や画面の中でも見せるお姿が″素″だと分かるのだがな。



「シャルロット殿の人前意識はすごいですね。御見それしました」


「元街娘であっても今は【女帝】ですから。それらしくしませんと皆さんに申し訳ないですもの」


「シルビアさんも意識なさってみては? 元冒険者であっても今は塔主なのですし」



 アデル様は茶化すようにそう仰る。

 しかし言わんとしていることは分かる。

 塔主とは民にとっての英雄。確かに民の前ではシャンとするべきなのかもしれないな。

 貴族らしさなどとうに忘れた私だが、今一度あの頃に立ち返るべきなのかもしれない。


 ただ前方を歩くドロシー殿、フッツィル殿、ノノア殿はわーわーと騒がしいのですが……いえ、何でもありません。



 そんな調子で大通りに行けば通行人からも注目の的だ。

 人波が割けるのは変わらないがそこかしこから声援が投げかけられる。


 それに手を振り返すのはドロシー殿くらいなのだが、改めてこの同盟の人気の高さを実感した。

 Aランク冒険者程度で有名人を気取っていた自分が恥ずかしい。



「しかしこれだけ注目を集めて危険はないのですか? 良からぬ者にも目をつけられそうですが」



 いくら塔主が英雄扱いだとしても一定数の反感は買うだろう。塔主にも敵は多い。

 それを変装もせず、ジータ殿も連れず、こうして歩くのが少し怖く思えた。



「エメリーさんがいますもの。何かあっても問題ありませんわよ」


「お任せください。賊の対処は慣れておりますので」



 どうやら最強のボディーガードでもあるらしい。異世界の侍女とはそんなに恐ろしいものなのか。

 やはり今度『訓練の間』で稽古をつけてもらうべきかもしれない。

 私も実戦からだいぶ遠のいているからな。一応今も剣は佩いてはいるが。



 大通りを抜けてバベリオの西部、鍛冶屋街へと足を運んだ。ここら辺は私も来慣れた場所だ。

 しかしいくつもある鍛冶屋の大店や武器屋には目もくれず、どんどんと奥地に入っていく。鍛冶屋街の端も端だ。


 やがて辿り着いたのは路地裏にあるボロ屋。一応看板らしきものには『鍛治スマイリー』と書かれてはいるが……ここが仰っていた専属鍛冶師の店なのか?


 こう言ってはなんだが英雄たる塔主の来るところではない。

 アデル様やシャルロット殿、エメリー殿などは場違いにもほどがある。


 そんな私の心境などお構いなしにドロシー殿は「こんちゃー」と軽く入っていった。

 外観に比べて店内は案外綺麗だがそれでも狭い。我ら七人だけでいっぱいだ。


 そうして奥から出てきたのは――ドワーフ!?

 ドワーフ鍛冶師がこのバベリオにいたのか。私も初めて知った。なるほどだからわざわざこの店に……。



 ドワーフの鍛治技術というのは世界的にも有名だが実際にその姿を見かけることは少ない。なにせ国にドワーフ自体がほとんどいないからな。


 しかし冒険者としては『ドワーフが打った武器』というものに憧れる気持ちもある。

 おそらくフッツィル殿が見つけたかドロシー殿との繋がりなのだろうが、確かに専属とするなら納得だな。



「うおっ!? なんや同盟全員そろってどうしたん……ん? そっちの嬢ちゃんはもしかすると新しく同盟に入れたっちゅう……」


「よお知っとるな、耳が早いやん」


「アホか、これでもお前らの専属やねんぞ。多少の情報くらい持っとるわ」


「紹介しますわ、スマイリーさん。こちら【六花の塔】のシルビアさん。わたくしの古くからの知己でして元バベリオのAランク冒険者ですの」



 アデル様のご紹介で私も挨拶した。どうやらスマイリー殿は本当に多少の情報しか持っていないようだった。

 冒険者のことや塔主のこともバベリオ住民にしては疎いほうだと思う。



「ほお、そらまたええ塔主を取り込んだのう。んで嬢ちゃんの神賜(ギフト)神授宝具(アーティファクト)なんか?」


「いえ、神造従魔(アニマ)です」


「そうか……それは残念やなぁ……」



 どうやらスマイリー殿は神授宝具(アーティファクト)の武具が好きらしい。

 しかし【彩糸の組紐(ブライトブレイド)】で神授宝具(アーティファクト)となるとドロシー殿くらいしか持っておらず、新加入した私も神造従魔(アニマ)だったということで見るからに残念そうだった。何と言うか申し訳なくなる。



「そんじゃ今日は顔見せと契約か? それともまた飾り盾でも作るんか?」


「話が早いですわね。さすがに予想していらっしゃいましたか」


「そらまぁ五人分の盾を作っておいて六人目に作らんわけないやろ。図案はあるんか?」


「はい、こちらなのですが……」



 私は手持ちの袋から図案画を取り出した。

 事前に考えたが私にはどうも不得手なようで、同盟の皆さんに相談した上、最終的にはシャルロット殿の眷属であるラミアクイーン(ラージャ)殿にデザインをまとめて頂いた。


 旗もすでにアラクネクイーン(ヴィクトリア)殿にお願いしているが、【女帝】の眷属が色々おかしすぎると最近思い始めている。


 皆さんが盾をベースにしていたので私もそれに倣ったのだが、中央には六枚の花弁のような雪の紋様を入れ、その周りに氷・剣・六色の輪をあしらったデザインとなった。

 全体的には水色・白・銀の色合いになっている。私の担当は水色らしいからな。



「ふむ、これなら問題ないな。【女帝の塔】とかよりよっぽど楽や」


「アハハ……私のはごちゃごちゃ詰め込んでますからね。ああ、その盾も修正したいのですが出来ますか? なんなら作り直しでもいいのですが」


「やっぱ六つの輪にするんか? 全部? はぁ、まぁ言われるかなとは思うとったけどな。修正で何とかするから今度持ってきてくれ」



 どうやら皆さんの飾り盾も手直しするらしい。

 旗はすでにヴィクトリア殿が織り始めている。全員分だ。


 私の分の代金はアデル様が支払って下さった。申し訳ないのでお断りしようと思ったのだが「歓迎も兼ねている」とのことでお言葉に甘えてしまった。

 しかしスマイリー殿との魔法契約は必要とのことで、これは私が行った。



「スマイリーさん、他の塔主から飾り盾の注文などはきまして?」


「いや、来とらんのう。でも商業ギルドにはそういう問い合わせが来とるらしいから、おそらく大店でも紹介されとるんちゃうか? うちみたいな弾かれ者のドワーフ鍛冶師のとこに来るんは物好きなお前らくらいのもんや」


「いくら腕を持ってても人間社会のドワーフは肩身が狭いっちゅうことやな。良かったなぁウチらが上客で」


「ホンマやで。足向けて寝られんわ」



 なんと。色々と苦労があるのだな。

 バベリオなどメルセドウに比べれば他種族の多い土地だと思うのだが、それでも差別めいたものがあるのか。

 だからこそ【彩糸の組紐(ブライトブレイド)】が声高に反差別を謳っているのかもしれん。身近な環境を守るために。



 一通りの注文を済ませ店を出る。

 そこから大通りへと出る途中、路地にある小さな商店が次の目的地だ。



「こんなところにありますの、あの商店は。よく見つけましたわね」


「わしも全くノーマークじゃったのう」



 どうやらシャルロット殿が懇意にしている雑貨屋らしい。エメリー殿考案の石鹸や髪油などを作り売っていると。


 私も【女帝の塔】で使わせて頂いたが確かにあれはすごかった。実家でも使っていないような高級品だと思う。

 アデル様たちも愛用しているらしいがシャルロット殿経由で購入しているようで、実際に店に来るのは初めてなんだとか。


 確かにこのような路地にある商店など普通は見かけても通り過ぎるだろうからな。シャルロット殿はよく見つけたものだ。

 先ほどの鍛冶屋といい、こちらの商店といい、隠れ家のような店が好きなのだろうか。



 エメリー殿が侍女の所作で扉を開け、シャルロット殿から店に入る。

 するとカウンターにいた店主が大層驚いた声を上げた。



「ええっ!? シャルロット様!? そ、それに……まさか同盟の皆さんですか!?」


「お邪魔します、ランゲロックさん。突然すみません。近くまで皆さんと来たもので」


「い、いえ、それは全然……ソフィア! 来てくれ! シャルロット様たちがお越しだ!」



 軽くパニックだ。何と言うか付き添いの私も申し訳なく思ってしまうな。




当然ですがバベリオの街に一番詳しいのはシルビアさん。飯屋に限定すればフゥさんが上かもしれません。


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