184:春風の塔がこき使われているみたいです!
■ザリィド 34歳
■第486期 Bランク【霧雨の塔】塔主
『ザ、ザリィド様、【六花の塔】から塔主戦争の申請が入りました』
『わ、私のところにも【春風の塔】から申請が……』
「はあ? なんだと?」
別に低ランク同士の塔主戦争なんざ珍しくもないもんだ。
特に前期は塔主戦争も多いしそのせいで新塔主は半分ほど消えるからな。
だから申請が来たって驚くこともないんだが……ただその相手が問題だな。
【泥沼の塔】のベックリーニんとこに【春風】が申請してきたってのはまぁ頷ける。
こないだ【煙水の塔】のファルタム・ズーロが斃されたからな。それに勝って意気揚々と同盟相手に報復ってわけだ。
戦力がこちらにバレていると知っていて尚申請してきたってのが不可解だが……同じEランクならいけるとでも思ったのか?
まぁこれはチャンスに違いない。
勝てばエルフの居場所が探れるし、負けても【泥沼】が消えるだけで俺に痛手はない。
「とりあえずベックリーニは受けろ。【春風】を許すわけにはいかねえからな」
『ええっ!? わ、私が戦うのですか!?』
「お前に申請してきているのに他の誰がヤれるってんだ。問題ない。こないだの塔主戦争で【春風】の底は知れてるんだ。お前なら負けねえよ」
『は、はぁ……』
ったく、どいつもこいつも塔運営ができねえばかりか塔主戦争もしたことがねえから困る。
俺の名前だけで生き延びているようなヤツらだ。本当に救いようがねえ。
せいぜい足掻いて最後まで俺の為に働けってんだ。
と、ベックリーニのほうはそれでいいがリープ・モイスの【死滅の塔】に【六花の塔】が申請してきたってのが悩みどころだな。
【六花の塔】は501期のトップ。すでに新米Fランクの二塔を斃している。
その勢いのまま今度は500期のFランクを狙ってきた……とは言えねえだろう。もしそういう狙いならわざわざ同盟を組んでいる【死滅】を狙う必要はねえ。まさか俺の同盟を知らねえってことはないだろうしな。
【六花】の塔主はシルビア・アイスエッジ。元Aランク冒険者だがその実態はメルセドウの侯爵令嬢だ。
アイスエッジ侯爵家は王国派、つまりロージット公爵派のはず。
となれば俺がゼノーティア公爵派に取り入ろうと動いているのを知られたか……?
それで独自に動いたか、アデル・ロージットからの指示で動いたか……【彩糸の組紐】に加入していなくてもその繋がりはあるだろう。
いや、考えすぎか?
もしそう動くのであれば、ゼノーティア公爵の趣味と俺の動き、その両方を知らなければ俺とメルセドウは繋がらない。
仮にどちらか一つを知ったとしても【六花】が【死滅】に仕掛ける理由にはならないだろう。
俺がエルフの塔に塔主戦争申請したのを知って、人種差別反対を唱える【彩糸の組紐】が【六花】を動かした、って線もあるか?
いや、エルフ塔主とやつらの繋がりが見えねえ。
エルフ塔主からやつらにすり寄って来たというのなら分かるが……確証がねえな。
最悪の事態を想定すれば【彩糸の組紐】が完全に敵となるわけだが……現状と変わらねえな。俺は貴族派を狙っているわけだし。
探れるのならば探っておくに越したことはない。
【六花】がヤツらと組んでいるかは分からないが、王国派で繋がっている以上、何かの足掛かりになるかもしれねえ。
まぁ【六花】は普通に調査対象なんだけどな。501期トップという実績だけで価値は十分だ。
向こうから塔構成やら戦力やら教えてくれるってんならその機会を逃すわけにはいかねえよ。
「リープ・モイスも【六花】の申請を受けろ」
『し、しかし、相手は新塔主のトップで神造従魔にフェンリルがいるとか……』
「フェンリルしかいない、だな。オープンしてまだ三月でしかも二回も塔主戦争をしたばかりだ。疲弊している上に戦力は揃っていない」
『ならばなぜ私に申請など……』
「それこそTPに困っている証拠だ。新塔主よりもTPを持っていそうな先輩の塔を適当に選んだだけだ。嘗めてんだよ」
さすがにリープ・モイスもフェンリルの情報は持っていたか。
そっちに頭を割くくらいなら自塔の方で知恵を絞れ。馬鹿が。
「501期トップの【六花】をヤれば名声を得られる。バベルジュエルも手に入るし、侵入者の数も数倍になるだろう。おそらく【死滅の塔】は後期にランクアップするだろうな」
『ほ、本当ですか……!』
「間違いねえ。今後の塔運営を見越せば受ける以外の選択肢はねえよ」
『わ、分かりました!』
さて、これで【六花の塔】の情報は得られるか。
出来れば四階層までの全貌くらいは知りたいところだが……その前にフェンリルに攻められれば終わりか。
まぁなるべく頑張ってくれとしか言えねえな。
どちらかと言えば【春風】のほうに注目だな。こちらは勝つ見込みがある。
勝てば一気に俺の計画が進むぞ。
エルフの里の情報を持って【魔術師】ケィヒル・ダウンノークに取り入る。
【青】のコパン・メルンゲムとも懇意になればメルセドウの表社会に顔が利くのも同じ。
さらにベルゲン・ゼノーティア公爵とも繋がれれば俺の未来は安泰だ。
二人ともせいぜい頑張ってくれ。俺のためにな。
■エレオノーラ・グリンプール 51歳 エルフ
■第498期 Eランク【春風の塔】塔主
「えっ、今度は【泥沼の塔】とバトるの!?」
【煙水の塔】との塔主戦争を終えた翌日、あたしはまたフッツィルに呼び出されて『会談の間』に来た。もちろんクラウディアさんもいる。
会いたくないとか言いながら会いすぎでしょう! 指図なら手紙だけでいいじゃない!
……いや、教えてもらってる立場ですいません、ホントに。
で、てっきり塔主戦争報酬に関するあれこれかと思っていたら、次の塔主戦争の準備だと言う。
【煙水の塔】の同盟塔に今度はこっちから仕掛けると。
マジで!? あたし申請とかしたことないんだけど!?
「エレオノーラ、お主報酬のTPを使い切ったとか言わないじゃろうな」
「いやぁ言われた通りに斃された魔物の補充だけに留めてるわよ。使っていいなら使いたかったけど」
「残りのTPは?」
「今は……一万弱ね」
TPが一万もある状況というのは塔主になって初めてだ。若干緊張する。
一方でドバーッと使いたい気持ちもあるんだけど、それは先んじてフッツィルに止められていた。使い道があるからやたら使うなって。
「召喚リストは持ってきたか?」
「これよ。書き出すのすっごい大変だったんだから」
今回の会議に持って来いと言われて、あたしが召喚できる魔物を全部紙に書き出してきた。
かなりの量だから紙が何枚にもなったわよ。ホント苦労したわ。
「どれどれ……クラウディア、お主はどう見る」
「そうですね……私ならグリフォン(B)とヒポグリフ(C)で部隊を組みます。高さが不十分かもしれませんが【春風の塔】でも使いやすいですし」
えっ、BランクとCランクですよ!? そんな強いのいきなり召喚するんですか!?
グリフォン一体とヒポグリフ五体でも8,000TPくらいかかるんですけど!?
「うーむ、わしならばこれじゃな」
「アイアタルですか。それはまた珍しい魔物を、よくご存じでしたね」
「図書館で散々調べたからのう」
アイアタル? どれどれ……Aランク!? 9,000TP!?
あたしの塔、Bランクもいないんですけど!? なのにいきなりAランク!?
「え、ど、どんな魔物なんですかそれは」
「女性型の悪魔じゃな。身体を蛇の姿に変えられるという」
「悪魔!?」
「うむ、いわゆる″森の悪魔″というヤツらしい。【春風の塔】にも合うじゃろ」
いやぁ……うちの塔は涼し気で爽やかな雰囲気だと思うんですけど……そこに悪魔はちょっと……。
まぁ【春風の塔】の召喚リストにいるんだから合うには合うんでしょうけどね……。
「それに人語を介せるかもしれんじゃろ? そこまでは知らぬが」
「確か大丈夫なはずです。指揮をとることも可能かと」
「ならば益々問題あるまい」
「ただ悪魔は悪魔ですから人格に癖があるかもしれません。最悪エレオノーラの言う事を聞かずに好き勝手動く可能性もあります」
えっ、悪魔ってそんなんなんですか!? 怖いんですけど!?
「であれば将来的な眷属化は考えずにボス部屋にでも置けばよい。【泥沼の塔】には単独で突っ込ませてもいいしのう」
「それもそうですね」
「それかわしの知り合いに魔物に言う事を聞かせるのが上手いヤツがおるからそいつに協力してもらうという手もある」
「<指揮>に特化した魔物……ひょっとしてウリエルですか? であれば悪魔とは相性が……」
「違う違う。天使や悪魔より恐ろしいヤツじゃ。まぁその時になったら紹介するわい」
えぇぇ……つまりフッツィルの同盟にはそんな凶悪な眷属を抱えた塔主がいるってこと?
やっぱり【女帝】か【赤】かしら。
フッツィルでさえ色々とおかしいのにこの同盟はホント訳分からないわね。
「アイアタルならば単独で【泥沼の塔】も攻略できるし――伝達の為に眷属は別に連れて行く必要はあるが――悪魔じゃから空も飛べる。つまり地面にスイッチがあるタイプの罠ならば気にする必要もない」
「そうですね」
「人型じゃから天井高を気にしなくてよいし、あわよくば指揮もとれると。これならば如何様にも使えそうではないか?」
「Eランクの【春風の塔】には分不相応かと思いますが先行投資と考えれば申し分ないかと」
えっ、決定なんですか!? そうですか……また極貧生活になるわね、これは……。
塔主戦争報酬が入ることを祈るしかないわ……。
「で、今のうちに【泥沼の塔】の戦略を練ろうと思うが、まずはこれが地図でこれが向こうの戦力じゃ」
なんでまたポンポンそんな情報出すのよ! どうなってんのよあんたの情報網は!
春風の塔はCランクの風精霊を眷属化しています。それが最高戦力。Bランクが一体もいないのにいきなりAランクを召喚するのは暴挙ですね。
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