170:世沸者の塔は今こんな感じです!
■ナリード 22歳
■Dランク冒険者 パーティー【旋風六花】所属
「これで次はどこに行けばいいんだ?」
「ほら、見て。こっちの扉に星型の穴が開いてる。これが鍵だね」
「星型のものなんて……第一衛兵室の絵画か? 関係してそうなのは」
「絵がヒント? 探しようがねえだろ、そんなの」
俺たちは今、【世沸者の塔】の探索を進めている。
三日に一度くらいの頻度だが、主戦場はこことは別の塔だ。こっちはあくまでオマケ。休日扱い。
その割に来る頻度が多くなっているのが最近の悩みの種だ。【世沸者の塔】では稼げないからな。
一応は稼ぎが見込める塔のほうを主体に置いている。
とは言え【世沸者の塔】で全く稼ぎが見込めないというわけでもない。
魔石ではなく『宝』という形だけどな。
魔物を斃すことで定期的な収入、というのは無理だが、頑張れば一気にドーンとお宝が手に入る……らしい。多分まだ手にしたヤツはいないと思う。
今期の塔主総会で【世沸者の塔】はFランクからDランクに上がった。
これはギルドでも予想していたヤツのほうが珍しかったと思う。一段飛ばしのランクアップというのは本当に稀だから。
しかし【世沸者】はDに上がり、ついでに【忍耐】と【輝翼】もCに上がった。こっちはまぁ予想通りだったな。
俺のパーティーはDランクだから、これで【彩糸の組紐】の五塔を全て挑戦できるようになったわけだ。
そういったわけでギルドで今一番盛り上がっているのは、新塔主に挑めるFランクか、【彩糸の組紐】に挑めるDランクに違いない。
今期もさっそくとばかりに【傲慢の塔】同盟なんて斃したもんだから余計にだ。Dランクは熱い。
それを受けて俺たちはどこに挑もうかと作戦を練った。
【女帝】や【赤】にも挑戦していたが今となってはCランクでも上位の難易度の高さと言っていいだろう。Cランクパーティーの数も多く、俺たちがそこで張り合えるとは思えない。
【忍耐】と【輝翼】もCランクに上がった影響で混んでいる。DランクCランクが入り乱れているな。
というわけで俺たちは【忍耐】と【輝翼】を少し、それと【純潔】を斃したことで脚光を浴びた【反逆】あたりをグルグルしようかと。
特に【反逆の塔】はCランクの割に難易度が低いのでDランクの俺たちでもまぁまぁ進むことができるのだ。
そしてDランクに上がって来た【世沸者の塔】にも挑まないわけにはいかない、となったわけだ。
噂はさんざん聞いている。こちらが調べずともどんな塔なのかは耳に入るからな。
Fランクの連中は「【世沸者】がDに上がったせいで挑めなくなった」と方々で嘆いていたが、そこまで言わせる塔なのかと俺たちも興味をそそられた。
訪れてみればこちらを煽るような立て看板がお出迎え。
さらにはドーンとガラスの箱に入ったお宝が正面に鎮座している。
銅貨、銀貨、金貨、誰かの見立てではおそらく五〇万スーアはあるんじゃないかという話だ。
おまけに噂じゃ二階層にも同様のお宝――それもミスリルソードなどの装備品があるらしい。
どれも俺たちのようなDランクパーティーにとっては夢のようなお宝に違いない。
おそらく同じように惹かれたのだろう、俺たち以外にもEランク、Dランクパーティーの多くで塔内は賑わっていた。
で、俺たちも入り浸るようになっちまったってわけだ。
謎解きってのは初めて経験したが「ああ、これはハマるわけだ」と思い知った次第だ。
パーティーの知恵を結集し、その繰り返しで攻略を進めるというのは、魔物を斃すのと同じようで違う快感がある。
ただまぁ実際にお宝が手に入るのはまだ先の話。ここに挑んでばかりでは生活ができない。
休みの日に徐々に攻略を進めて、いずれはお宝を手に入れられれば……。
と、俺たちは自制しつつ挑んでいるわけだが、中には【世沸者の塔】一本に攻略対象を絞り毎日挑み続ける猛者もいる。
貯蓄に余裕があるのか、一発逆転のお宝狙いなのかは分からん。
まぁDランクも大勢いるから中には金持ちがいてもおかしくはないんだが。ちくしょう。
そんな連中は当然、攻略最前線にいる。どこまで先に行っているのかは分からない。
はたして二階層まで辿り着いているのか。俺たちはいつ頃になればそこまで行けるのか――
――そんなことを考えている時だった。
「おい誰か! 助けてくれ! 毒の回復薬か神聖魔法を持っているやつはいないか!」
前方の通路から急いで戻って来たヤツがそう叫ぶ。おそらく最前線の連中だ。
そいつの後ろにはパーティーメンバーだろう連中もいるが、その中の一人が仲間に肩を持たれてかなり辛そうな状態だ。
毒の状態異常。さすがに見ればすぐに分かる。
俺たちは普段の探索から多少の薬は常備しているので、迫られた勢いのままに薬を渡した。
「すまん! 助かる!」そう言うとそいつは後ろにいた仲間に飲ませた。
どうやら一命はとりとめたらしい。
「本当に助かった。まさか毒のトラップがあるとは……完全に油断してたよ」
「毒のトラップだって? そういうのは二階層からじゃないのか?」
Fランクの連中がそう言っていた記憶がある。
仮にこいつらが二階層まで行っていてそこで毒をくらったのなら転移魔法陣で入口に戻るだけだ。
一階層の中ほどであるここに戻って来るってことは、こいつらは二階層まで行っていない。つまり毒のトラップは一階層にあると。
「俺らもそう思っていたんだ。だけどDランクに上がったことで多分難易度が上がっているんだと思う」
「なるほどな。まぁおかしい話じゃないな」
「薬の礼に情報提供するが、正解の扉を開けるとトラップが発動する場合がある。毒もそうだが矢が飛んでくる場合もあるぞ。運が悪けりゃ死ぬからな」
「まじかよ」
この【世沸者の塔】でダメージを負うことなどまずありえない。魔物との戦闘もない。
武力はいらず、知力を駆使して攻略するのが【世沸者の塔】なのだろうと。
そういう頭は少なからずある。謎解きにハマり集中しているのだから尚更だ。
ただいくら知力勝負の【世沸者の塔】とはいえ塔は塔。Dランクの塔なのだ。
トラップがあって当然だし、今後もしかしたら魔物が出て来るかもしれない。
というより確実に魔物はいるだろう。でなければ塔主戦争で勝てる意味が分からない。
まさか謎解きだけで勝てるわけがないだろうし。
なんにせよ、助けたことにより情報を得られて良かったな。
薬一本で得られたにしちゃ値千金。これで俺らも探索が捗る。
じゃあこれからは用心を重ねた上で探索しないと……え、明日は【反逆】に行く? ……そうか。
■ノノア 16歳 狐獣人
■第500期 Dランク【世沸者の塔】塔主
「あー、惜しかった。薬持ってる人がいたかぁ。まぁそれはそうですよねぇ……」
「プルプル」
「そうだね。あそこで毒になっても死んじゃう前に帰れちゃうか。薬を貰ってなくても討伐TPにはならなかったね。これは修正しないと」
一階層が広がったことで二階層にあったトラップを一部流用する形にしましたが、どうやら使い方が甘かったようです。
侵入してくるD・Eランクの方々はFランクの方々と全然違います。
薬の備えもそうですが、探索に取り組む姿勢と言いますか、パーティーで相談し合っている姿を見てその本気度が分かります。
【世沸者の塔】を攻略してやるぞ、という意気が感じられるのです。
それに対して私はFランク侵入者に対するそれとはあまり変わらない。若干トラップを増やした程度です。
これはいけません。油断できるほど私は強くないのですから。
気を引き締め直して塔構成を見直しましょう。
「カタカタ」
「なにディーゴ? ……うん、そうだね。もっと積極的に討伐TPを狙って行っていいかも。槍とかギロチンとかね」
「カタカタ」
「スケルトンを使うのは……どうかなぁ。一階層で使うのは勿体ないと思うんだけど……」
ディーゴには毎日召喚をしてもらい、ディーゴ直属のアンデッド部隊は一応出来上がりました。
リッチ(A)1、デスリーパー(A)1、レジェンダリスケルトン(B)5、スケルトンナイト(C)20
という感じです。報酬TPも結構使いました。
レジェンダリはドロシーさんに許可をとって召喚しました。ドロシーさんも召喚権利を貰っていますからね。
この他にエンジェルスライム(A)のスライム部隊もいますし、デザートアサシン(B)も斥候役として召喚済みです。
元々召喚していたウェアウルフ(C)が一体と、ハイコボルト(D)も二体います。
同盟の皆さんの塔に比べるとSランクはいませんし総数で言えば断トツで少ないのですが、それでも一応の形にはできたかなと。
あとは例えばギガントグール(B)などをディーゴの部隊に組み込んだり、別のリッチを召喚して部隊を創ったり、多様性のある強めのスライムを召喚するなどの手もあります。
ちなみに次の目標はハイウィッチ(B)の魔法部隊を創ることですがね。
それはこれから徐々に進めていくとしましょう。
塔構成のほうにもTPを使っていかないといけませんね。
先ほど出た問題点の改善もそうなのですが、三階層以降も徐々に創っていきませんと。
少し考えているものがあるのです。
この塔の最大の問題点は「数の暴力に弱い」ということです。
なので人数制限をしないと進めない順路や、それに伴った謎解きが出来ないかと思うんですよね。
ドロシーさんあたりと相談しながら考えてみますか。
まずは今あるトラップの修正からですね。
まだ道半ばというところですね。先は長いです。
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