154:あっちもこっちも厳しすぎます!
■シャルロット 16歳
■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主
「なんやあれ! あんなんありか!?」
「ああああんなのエメリーさん潰されちゃいますよ!」
「これが大悪魔ルシファーですか……とんでもない能力ですわね……」
「エメリーの強さを見切ってのあのデカさということじゃろう。それほどエメリーが強いということじゃ」
私はそれを見ていて目口が開きっぱなしになっていました。
驚き、恐怖、そして悍ましさ。それらは一斉に襲い掛かり混乱してしまったのです。
ルシファーの身体が単に大きくなったというわけではありません。
様々な魔物が身体から生え、その魔物同士が融合し、ルシファーの身体を纏っていくのです。
出来上がったのはルシファーを中心とした魔物の集合体。手足の長い、とんでもない大きさの巨人です。
異形の悪魔――まさにそんな感じのモノでした。
エメリーさんはそれを受け、ドロシーさんの【返怨の大盾】を構えました。
受ける気ですか!? あんな巨人の攻撃を……!
……しかし少し離れた場所では皆さんが戦っています。おそらくそれを考慮したのでしょう。
そちらに被害を出さない為にもエメリーさんは動かずに戦おうと。
そしてその自信があるからこそ、魔剣でなく【返怨の大盾】を出したのでしょうから。
――ならば私がやるべきことは、エメリーさんを信じて他の眷属に指示を出すこと。
「ターニアさん! エメリーさんの方は任せて妖精たちのフォローと出来れば早めにあのトレントをお願いします!」
どこも厳しい戦況ですが、おそらく【死屍】の固有魔物であろう巨大トレントがほとんどフリーの状態です。
本当ならクルックーにお願いしたいのですが、クルックーはクルックーで飛行部隊の指揮をとりながら三つ首の獣と戦っているのです。あれもおそらくどこかの固有魔物でしょう。
『了解です~! ちょっと集中して燃やしてみますね~!』
「まだ外套とっちゃダメですからね! 最後の最後まで我慢ですよ!」
『はぁ~い』
これで良し。私の指示出しを聞いて皆さんもそれぞれの眷属に指示を出し始めました。
ルシファーに構っている暇なんてありません。
エメリーさんが戦えると態度で示しているのですから私たちはそれを汲むだけです。
『きゃあっ!』
くっ……! 防衛側のパトラさんがマズイですね。
パトラさんの部隊は一番機動力がありますが打たれ弱いですし得意の闇魔法もサジタリアナイトには相性が悪い。
ヴィクトリアさんとラージャさんは……フォローできる余裕はないですね。こちらも厳しい。
ならば――。
「ドロシーさん! キラリンに伝達して、アスラエッジがシルバーファングを斃し終わったらパトラさんのフォローに回るよう伝えてもらえませんか!」
「了解! キラリン聞こえるか――」
「パトラさん! アスラエッジがフォローに回るのでそれまで耐えて下さい!」
『了解っ! 申し訳ないですわっ、ねっ! この鎧野郎がっ!』
アスラエッジはAランク固有魔物。攻撃も防御もエメリーさん太鼓判の実力があります。
相手がAランクのサジタリアナイトでも問題ないはず。
目まぐるしく戦況が変わる攻撃側と防衛側の乱戦を、キョロキョロと確認しながらの指示が続きます。
しかし目が届かない、指示を出しても押し負ける部分もどうしても出てきてしまいます。
攻撃側のほうでも――
「くっ……! シィルとアグニがやられた!」
「えっ!? 負傷じゃなくて死亡ですか!?」
「ああ! おのれファイアドレイク……さすがはAランク亜竜じゃの。フェンリルの後ろにおったのに見事に狙われたわ」
一気に眷属が二体も……! 特にシィルは透明の状態で後衛から回復を担っていました。
それなのに狙われるだなんて……<魔力感知>か<嗅覚強化>か、ドレイクは持っているわけですね。
おまけにフェンリルの指令塔だったアグニもやられたということはフゥさんからフェンリルに指示が通りません。
一緒に戦っているのは私のマンティコアですが、こちらも眷属ではないので無理です。
じゃあ誰に指揮を……ゼンガーさんはリッチを相手にしているので無理。エメリーさん、ターニアさんは論外。クルックーもウリエルさんも厳しすぎます。
となれば――
「ノノアさん! フェンリルとマンティコアをジルの指揮下に置いて下さい!」
「ええっ!? わ、分かりました!」
「ボーンレオと合わせてファイアドレイク三体をお願いします! 回避重視の長期戦で!」
「は、はいっ! ジル!――」
Aランク二体とスライムたちで抑えるには荷が重すぎます。
どこかからフォローが入らないと厳しい。早く終わりそうなところは――
「チッ! こっちもノーミンがやられたわ! くそっ!」
今度は防衛側ですか! あっちもこっちも……!
「ドロシーさん、指揮は大丈夫ですか!?」
「ああ! まだキラリンがおるから大丈夫や! ノーミンと組んでたんはゴーレム部隊やしな! あんのクソデーモン、【傲慢】の魔物やんな! 絶対に許さんで!」
「よしっ! チロチロとルールゥがデスリーパーをやりましたわ! ルールゥをキラリンのフォローに回しますわよ! チロチロはカーバンクルの方へ!」
「分かった、助かる! キラリン聞こえるか――」
良かった。やっと一つ有利なところが作れました。
デスリーパーは【死屍】のAランク眷属ですね。やはり強くなっているかも、という感じでしたがさすがにAランク眷属二体が相手では無理があったようです。
アデルさんはジータさんのことを完全に放置して、その分他の眷属へと指示を飛ばしています。
信頼ですね。私がエメリーさんに抱いているものと同じです。
そのおかげでアデルさんが指示出来る魔物が方々で生きている。本当に助かります。
あとはどこで有利な場所を作れるか……一応聞くだけ聞きましょうか。
「エメリーさん、一瞬だけ魔剣を出して斬るとか出来ませんか!」
『すでに試してみましたが効きませんね。おそらく纏っている魔物たちがまさしく鎧のようになっているのでしょう。腐食の魔力がルシファーまで届かないようです』
さすがに早く斃そうとはしてくれていたようです。しかしダメですか……。
魔剣の一撃が決まればあとは放置して死を待つだけとなっていたでしょうに。
『ですので鎧となっている魔物を魔竜斧槍で徐々に剥ぎ落していっています。元の魔物一体一体は弱いですからね。これを繰り返せばやがてルシファーにも届くかと』
「分かりました! そっちはお願いします!」
『ターニアにもこちらは心配無用とお伝えください。しかし少々時間がかかるとも』
「了解です!」
頼りになります。さすがエメリーさん。
では私もターニアさんに伝えておきましょう。
■ゼンガー・ダデンコート
■【輝翼の塔】塔主フッツィルの神定英雄
エメリー殿に割り振られた儂の担当は、リッチ(A)が二体、ギガントグール(B)が五体、グール(C)が三〇体。
創界教にいた頃は各地の戦場や墓地の浄化でグールの群れを相手にすることもありましたが……さすがにこれは厳しいですな。
いかに普段の【輝翼の塔】で侵入者相手に攻撃していても、これほどの強敵などおりませんし。
通常時の儂でしたらリッチ一体を相手するのがせいぜい。
時間をかければ他のアンデッドも、というくらいでしょうか。
グールはともかくギガントグールなどアンデッド化したトロールみたいなものですからな。非常にタフで困ります。
従ってこれほどの軍勢が相手となると儂はまずすべきことは――
「<聖なる閃光>!」
放たれるのは極太の閃光。神聖属性最大の攻撃魔法です。
これを使えるのは今の世では教皇様くらいではないでしょうか。大司教でも無理でしょう。
儂でさえここまでの魔法は日に一発がせいぜいといった所。魔力の七割程度が持っていかれます。
しかしその効果は絶大。相手がアンデッドであれば直線上の魔物をまとめて消滅させるほど。
ただ相手がリッチほどの強者となると……やはり残りますか。
禍々しい衣から硝煙を上げ、それでもリッチは尚健在。
<聖なる閃光>は直線で放たれるので広がった部隊をそのまま飲みこむといったことも出来ず、グールたちも六割ほど生き残っています。
通常であればあとはこのまま牽制程度の神聖魔法に終始し応援を待つしかできないのですが、今回に関してはエメリー殿から薬の支給を受けています。
魔力の回復薬を三本。これはターニア様とウリエル殿にも配給されています。いざという時には使えと。
これを飲めば<聖なる槍>が数発撃てる程度には回復できるでしょう。
ならばリッチたちを足止め、あわよくば壊滅まで追い込めるかもしれません。
というわけで失礼して頂きます――グビッ。
…………は? 魔力が……完全回復した!?
儂の魔力量を薬で回復しようと思えば、普通は十本くらいかかるものです。
それをこの一本で……まさかあの霊薬と同じような……!
これは……無駄遣いできません。そしてそれ以上に、儂が死ぬわけにはいきません。
受け取ったアイテムは儂が死んでもおそらくその場に残るでしょう。敵の手に渡ります。
それだけはいけません。このような薬、こちらの世界に広めるのは危険です。
ただ――今は全てを賭して戦う場。勿体ぶるのは愚の骨頂。ですので――
「<聖なる閃光>!」
さっさと仕留めることにしましょう。
儂はターニア様の援護に行かねばならないのですから。
エメリーさんは異世界から錬金術師と鍛冶師の侍女がくることを切に願っています。
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