148:先制攻撃は大事です!
■シシェート ??歳 異世界人
■【傲慢の塔】塔主シャクレイの神定英雄
おお、これはなんと素晴らしい街並み。外壁に城と風景が描かれた見事な階層だ。
これが噂の【女帝の塔】。なるほどこれは人気が出るわけだね。実に美しい。
っと、呑気に眺めているわけにもいかないな。私は今戦いにきているのだから。
「よし、じゃあ順番に転移門で五階層へGOだ。先頭はスケルトンナイトとガードナイト。隊列は事前に言ったとおりね。上ったら隊列し直してから進軍するよ」
『ォオォオオォ』
うーん、誰もしゃべらないから今一伝わっているのか分からないけど多分大丈夫だろう。
というかこの同盟で喋れる魔物なんてルシファーくらいしかいないからね。困ったもんだ。
ニャンダルさんとこのケットシーは割と伝わりやすいからまだマシだけど。ニャアニャアって。
さて、最前衛に斥候の猫部隊。それから骨と鎧部隊。後衛に悪魔部隊。上に鳥と虫部隊。
ざっとこんな感じ。僕は適当に前のほうだね。
そして五階層の様子は……情報通りに『庭園』だ。
左の森にユニコーン、右の庭園が順路のはず。じゃあそっちに行こうか。
私はみんなに指示し、進路を右へ。そして高めの生垣を越えたあたりでそれは聞こえた。
「<炎の破城矢>! <炎の破城矢>!」
途端に炎の槍が降り注いだ。それは固まっている私たちに向けて無作為に襲い掛かる。
(火魔法――【赤の塔】か!)
と思い、その魔法の出所を見た。はるか前方……そして天井近く。
(スフィンクス!? 【忍耐】の!? なんであんな魔法を連発……!)
すでに前衛の骨部隊や鎧部隊、上空の鳥部隊に若干の被害が出始めている。
スフィンクスの魔法はまだ留まることを知らない。
私が何とかしなければ――。
「<Enchant=HiWind>」
身体に風を纏い、体勢を低く突貫した。あの下まで行けば、今の私であればジャンプが届く。
奇襲のつもりだろうが私からすれば向こうの主力を一体斃せるチャンスだ。
しかしスフィンクスは私に気付いたのか即座に撃つのをやめて反転。階段の方へと飛ぼうとする。
逃がすか! ……と速度を上げて近づけば、そこに割り込んで来る人影があった。
――ガキンッ!
「わりぃが通さねえよ!」
「英雄ジータか! 出て来るのがちょっと早すぎじゃないかい!」
「おめえこそな! ったく異世界人の神定英雄ってのはとんでもねえな!」
鍔迫り合い。しかし想像をはるかに超える膂力だ。私の速度が完全に止められた。
スフィンクスはすでに階段だ。逃がしたか。
ただジータがここで出て来るのであればそれもまたチャンス。早々に退場願いt――。
「わりぃがおめえとやるのはもうちょっと後だ。<暴風の嵐>」
ジータは左手一本で特大剣を持ち、私と鍔迫り合いをしながら、右手でいつのまにか黒い短剣を握っていた。
そしてなぜか放たれる風魔法。
ほぼ密着した状態で巻き起こる風は私の自由を奪い去り、身体は後方へと吹き飛ばされたのだ。
「じゃあな!」と走り去るジータの姿が視界の端に見える。くそっ逃げられたか。
チラリと後方を見れば魔物同士で戦っているのが見えた。庭園に配置された防衛側と戦闘中だ。
仕方ない。私もそちらの処理を優先させるとしよう。
とは言え、スフィンクスの奇襲とジータのカバーの動きは見事だった。
Aランクの眷属と英雄をいきなり奇襲要因として使い、戦わさせずに逃げさせた。
誇りある強者の戦い方ではない。しかし生き残ることこそ強さの証明。全く厄介なものだね。
そんなことを思いながら薬で回復をして殲滅を行う。
スフィンクスにやられた者はごく僅か。隊列も乱れたが崩れたというほどでもない。
そして庭園に配置されている魔物は、植物系と蜂、ラミア、サキュバス系統、レッドキャップ、レッドリザードマン、ヘルハウンド、などなど。
その種類は多岐に渡り、数も異常なほどにいる。
どれも小隊単位で動いているようで、それがこちらの小隊とぶつかり合っている格好だね。
とは言えランク差が歴然。圧倒的にこちらが優勢には違いない。
私も遊撃として殲滅に参加し、そのことごとくを斬り捨てていった。
時間こそかかったが、やがて庭園の敵は全て消える。
被害は……猫部隊と骨部隊が狙われたようだね。しかし壊滅にはほど遠い。
私は隊列を組み直させ、六階層への階段へと向かわせる。
「六階層でも奇襲があるかもしれないよ! 注意して!」
と声を掛けつつ、私も階段へと向かった。
――しかし、危惧していた奇襲は別方向からやって来た。
『クルルルルォォォ!!!』
――ドォン! ドォン! ドォン!
その音に振り返ると……天井スレスレを飛ぶ鳥の群れだ。
一際大きいガルーダと名前も知らない真っ白の猛禽類。それらに率いられた鳥たちが上空から魔法の雨を降らせる。
(そうか……森に隠れていたのか! 今の今まで!)
スフィンクスとジータによる奇襲は前哨戦でしかなかった。
本命はこちらだ。六階層に向かう私たちを背後から狙うと。くそっ。
速度の乗った飛行。乱れ飛ぶ魔法。
それは階段に上る準備をしていた後衛の悪魔部隊と虫部隊に明らかな被害を与えていた。
しかもガルーダの魔法は神聖属性だ。悪魔部隊には特効となる。
どうする……今ここで斃しておくべきか、それとも……。
「急いで階段を上れ! 私が殿を受け持つ!」
そう指示した。部隊が全く整っていない状態で飛び回る鳥たちを相手に戦うことなど無謀すぎる。
私が風を纏ったところで全ての鳥を相手にできるわけもない。
進軍という名の逃走。これしかない。
鳥たちは規律正しく遠距離攻撃に終始していた。近づいてくれば斬ったものをその機会すら与えてはくれず。
なんとか部隊全員が階段に上るのを見届け、私もそれに続く。
やれやれ。やはり【女帝】同盟は今までの相手と一味違うね。
ランクは低くても戦略と連携でカバーしている間違いなく強者だ。
私も気を引き締めて臨まなければ痛い目を見ることに――
と、反省しつつ上った階段。眼前に広がらない六階層の光景……これは――
「……四階層じゃないか?」
あれほど使わないと言ったのに……オーパーツは。
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