12:メイドと侍女って何が違うんですか?
■エメリー ??歳 多肢族
■【女帝の塔】塔主シャルロットの神定英雄
二階層最後の『魔物部屋』はリザードマンが多め、戦力多めといった感じでしたが、特に問題なく突破する事ができました。
これはこれで良い階層だったと思うのですが、本気で侵入者の殲滅を狙うのであれば部屋で小分けにせずに大部屋で一気に襲わせる方がいいと思うのですが……。
スペースに対する魔物召喚数の制限があるのでしょうか。
お嬢様と塔の構成を練る時には確かめておいた方が良いかもしれません。
そんな事を思いながら階段を上ります。
おや? 全三階層ですか。Eランクに上がれば五階層にできるはずですが……昨日の今日ではできなかったという事ですかね。
もしくはこちらを舐めて強化せず、勝負が終わってから創るつもりだったのか。
まぁいずれにせよ好都合です。
「ひぃっ! き、来たっ! デュオ! あいつを殺せっ!」
三階層を見回せば構成自体は【女帝の塔】とあまり差はない様子。
前半半分が広くとられていて、そこが最後の戦場。
中央に玉座と宝珠。奥に生活スペースですか。……まぁわたくし共の住まいと比べて雑で汚らしいですが。
で、玉座で吠えているのが【正義】の塔主ですね。随分と怯えているご様子。
そこからのっしのっしと歩いてくるのが銀毛と牙が特徴的な巨躯の虎。これが神造従魔ですか。
せめて元いた世界と共通の魔物でしたら良かったのですが、おそらくこの世界特有の魔物でしょう。
さて、まずは侍女らしくご挨拶から。一礼しておきます。
「はじめまして【正義】の塔主様、並びに神造従魔の方。わたくし【女帝】の塔主シャルロット様にお仕えしております侍女のエメリーと申します」
「ガウ」
「念の為お聞きしますが、降参するおつもりはありますか? もしそのご意思があれば神造従魔の方にも塔主様にも攻撃をせず、ただ宝珠を割って終わらせて差し上げますが」
あれだけ総会でお嬢様を侮辱していたので許すつもりはありません。塔主戦争ですし勝敗はきっちりつけさせて貰います。
しかしきちんと謝罪するのであれば直接攻撃とせず、宝珠の破壊に留めておくのも吝かではありません。
特に従うだけの神造従魔に罪はないのですしね。
という事で一応お聞きしたのですが……。
「ふ、ふざけるなっ! メスガキのメイドなんぞデュオの敵ではないっ! やれっ! これを見ている【女帝】の前でメイドを喰っちまえ!」
「ガウ」
「なるほど。お聞きするまでもなかったですね。お望み通りしっかりとした勝敗をつけさせて頂きます」
虎は体高2m、体長4mほど。その巨体が跳ねるように襲い掛かってきました。
上位の獣、特有のしなやかな動き。
振り下ろす爪を、まずはハルバードを重ねて受け止めます。
――ガンッ!
ふむ、なかなかに重いですね。このスピードで尚且つこのパワー。
さすが神造従魔といった所でしょうか。
「は、ははっ! デュオをなめるなよ! 元々Bランクのシルバーファングが神造従魔となり、名付きとなった事でさらに強くなった! もはや確実にAランクだ! 貴様がいくら強かろうがたった一人でAランクの魔物に勝てるわけないだろうが! はははっ!」
そんな事を言っている塔主を余所に虎はわたくしに攻撃を仕掛けてきます。
爪だけでなく牙――こちらは何かスキルを使っているのかもしれません。爪よりも強力な攻撃に見えます。
さらには少し距離をとると吹雪のようなブレスも。
こちらの魔物は普通の魔物でも竜のようなブレスを吐くのですか。勉強になります。
もしかして神造従魔となって得た力なのかもしれませんが……これもお嬢様に確認いたしましょう。
そして塔主がご親切にもペラペラ喋るのでいくつか情報も得られました。
魔物に名前を付けると強くなる。
名前を付けるだけで強くなるのならば苦労しないのですが何かしら制約があるのでしょうか。これも要確認。
さらにこの虎の現在の力量はAランク相当だと。
……本当ですかね? 塔主のイメージでそう言っているだけですよね?
しかしシルバーファングと呼ばれるこの魔物がBランクなのは確か。
わたくしにとって、これがこの世界での基準となります。
元いた世界では魔物のランク付けというのはされていませんでしたからね。
このシルバーファングがBランクだとすると……AランクやSランクはどの程度の強さなのでしょう。
火竜がAランクで炎岩竜がSランク? いえ、そうなるとシルバーファングと火竜の差が大きすぎます。
わたくしのステータスがこの世界では過大評価されていたのですから、相対的に考えてこの世界の魔物は――
と考えつつ、攻撃を避けつつ、【魔竜斧槍】で斬りつけてみます。
――ザクッ!
「ガアアアッ!!!」
ふむ、【魔竜斧槍】でこれですか。わたくしの主武器を出すまでもないですね。
従うだけの虎を相手にあまりいたぶるのも可哀想なので、検証もほどほどにさっさと終わらせましょう。
――ズバーッ!!!
「…………は?」
首を飛ばしました。なるべく苦しまないように配慮したのでどうぞご勘弁を。
さて、これで残すは塔主だけですね。
「そ、そんな……バカな……うそだろ……俺のデュオが……」
玉座からズルズルと落ちる塔主。わたくしはそれを見下ろすように近づきます。
「や、やめろっ! 来るなっ! お、俺を誰だと思ってる! ニーベルゲン帝国第三皇子だぞ! お前は帝国を敵に回すことになるんだぞ!」
「何と見苦しい……最期くらい塔主としての矜持を持たれてはどうですか?」
「ひぃっ! やめろっ! お、おい【女帝】! 見てるんだろ! このメイドを止めさせろ! さもなくば――」
「最期に一つ、訂正しておきましょう」
――ズバッ!!!
「わたくしは侍女であってメイドではありません」
◆
『はい終~~~了~~~! 【女帝の塔】の勝ち~~~! パチパチパチ、おめでと~~~!』
『エメリーさん、お疲れさまです。ご無事ですか?』
「はい、問題ありません。お嬢様こそお疲れさまです」
天から神様とお嬢様のお声が聞こえました。
わたくしは塔主が消えた後に残った正八面体の水晶を拾いつつ耳を傾けます。これがバベルジュエルですね。
『いやー強かったね! 分かっちゃいたけど!』
『やっぱり神様はエメリーさんの事、ご存じだったんですか?』
『そりゃ僕が直々に他の世界から見つけて来たんだもの。知ってて当然だよ』
なるほど、そういう事ですか。ランダムで選ばれたのではなく神様の御意思だったと。
わたくしとしてはお嬢様にお仕えできた事に感謝ですね。こうして若返らせてくれましたし。
『あの世界、あの時代のメイドさんって強いのが集まっててさ、その中でもエメリーちゃんは格別――』
「神様、メイドではなく侍女です」
『え……あー、それ気になってたんだけどさ、メイドと侍女って何が違うの?』
よろしい、お教えしましょう。神様相手でもこれに関しては譲れません。
コホンと咳払いを一つ。
「メイドとは仕事として主人に奉仕する者。そこに気配りがあろうと結局は仕事として考え動いているに過ぎません。そこに契約やお給金といったものがなければ気配りする事も奉仕する事もできないのです」
『あ、はい……』
「一方で侍女とは根本的に主人への忠誠、敬愛の精神を持った者。愛情をもって仕える、主人を支える、それが侍女という者です。愛情があるからこそ主人の為となる気配りや奉仕を可能とする。これが侍女です」
『は、はぁ……』
「わたくしはお嬢様に敬愛の精神をもって仕えております。故に侍女。こればかりは神様であっても誤解なきようお願いします。そもそも侍女というのは――」
『わーかった! 分かったから! うん! もう十分分かりましたよ! エメリーちゃんは侍女だ! うん!』
この世界にも「メイド≠侍女」の文化が普及しそうです。
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