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 ずっと夢を見ている。


 夢はままならない。人が掲げる壮大な妄想にしろ、睡眠中に見るものにしろそれは変わらない。

 前者に関しては、持ってしまうと否が応でも意識がそれに引っ張られる。はじめは、あらゆる場面でその存在を意識し自分の無能力さ認知し、さらなる研鑽に励むかもしれない。しかし、そのうち夢破れ「現実を見る」などという逃避にて社会に飲み込まれていく。それでもふとした瞬間に思い出したり、自身の夢を叶えた者を見たときに苦悩を感じるのだ。ゆえに夢はままならない。

 後者に関してはよくわからない。そもそも夢を見る原理がわかっていない。検索すると、記憶の整理のために脳内の映像を整理しているという話がトップに出てきた。以前は自身の欲求を表象したものといった話もあった。根拠はないが、自身の心象世界が投影されているというのが一番しっくりくるように感じる。トラウマを思い起こし、恐怖に追い立てられ、妄言を具象化し、鮮烈な印象を再現する。もしかしたら、自身の考えつかないような内心までもが投影されたりしているかもしれない。



 夢を見た。奇妙な場所だった。そこは一面草原で、草は短く生えそろっていた。霧がかかったように空が霞んでほぼ見えず、しかし霧の中にいるわけではないようで草原は果てが見えない。遠近感的があまり働かず、空が触れるほどに近く感じる。果ての見えない草原にも関わらず、棺桶に入れられたような窮屈感を覚える。

 一歩踏み出す。特に抵抗はなく足は進んだが、窮屈感は取れない。二歩目、三歩目と歩き続けてみるが窮屈感は変わらず、ついでに景色も何も変わらない。しばらく歩き続けて自分が進んでいるのかが曖昧になってきたころ、ようやく変化が訪れた。草原の果て木が生えているのが見えた、近づくほどにその周囲も見え始め、そこは鬱蒼とした森林であることがわかる。

 木々の先二、三メートルほどは見えるが、その奥は不自然な暗闇に覆われており、先を窺い知ることはできない。これまでの草原は見通せたせいか、その暗闇はより一層自身の原初的な恐怖を引き起こした。もしかしたらここで引き返すことはできるのかもしれない、しかし感じる恐怖心とは裏腹に、何かがその森を進むように駆り立てる。

 鉛のような足を進めようとしたとき、子守歌のように優しく心を落ち着かせるような音色が鳴り響き、景色はブラックアウトしていった。



 夢を見た。後ろには広大な草原、目の前には鬱蒼とした森林がある。木々の奥は窺い知れず、恐怖心が足を止める、しかし何かどうしようもないものが自身を駆り立てていき、鉛のような足を苦心しながら進ませる。

 光源のようなものがないため、少し進めば完全な闇に閉ざされるかといえばそうではなく、自身を中心に半径二メートルほどの範囲が多少暗いながらも見えるようだ。上を仰ぎ見れば、木の葉の間から少し空が見えるようだが、相変わらず遠近感が働かずのっぺりとした印象を受ける。鉛のようだった足は軽くなっており、今では多少のアンクルウェイトをつけているぐらいの重さになっている。

 木々は不規則に並んでおり、たまに大きく膨らんだ木の根によって転びそうになりながらも進み続ける。邪魔な木を避けながら進んでいるため、まっすぐ進めているかが不安になるが、駆り立てられるままに進み続ける。苦心しながらもしばらく進み続けると少し開けた空間があり、そこには何かが鎮座していた。

 猫がいた。その毛は深い黒で、その目は鋭くこちらを見つめている。自分を待つようにして座り込んでいた猫は、一メートルほどまでに近づくと立ち上がり、寄り添うようにして足に体をこすりつけながらこちらを見つめている。その目はとても優し気になっており、なんとも言えない安心感を感じさせる。

 その猫に連れたってさらに森を進んでいく。その道は徐々に険しくなっていき、木の根を越えるのにも苦労がかかるほどに大きくなり複雑になっていく。時々黒猫に先導されながらも進んでいき、木の根から予想するその木のサイズが数十メートルではきかないんじゃないかと思えるぐらいになる頃に、新たな変化が訪れる。

 登った巨大な木の根から降りて地面に着地したとき、徐々に視界が晴れていく。不自然な暗闇が取り払われていき、自身を取り巻く状況があらわになってきた。

 まず、目が奪われるのが目の前にそびえる巨大な壁である。それは直径が十センチほどであろう木の枝が絡まりあってできているようで、奥行きも、左右も、その頂上もみえず、そこに果ては存在しないように思える。自身が出てきた森を見やると、超巨大な木が幾本も立ちはだかっていた。その枝葉は遥か上空であり、輪郭がぼやけて少し白んでいるように見える。

 再び壁に向き直り立ち尽くす中、一緒に森を抜けてきた黒猫は壁の根本で丸くなり睡眠の構えである。黒猫の元に座り込み、愛でることにする。その毛はなめらかで触れているだけで心地いい。しばらく触っていると、黒猫は寝ころびながらもこちらを見つめてきた。その目には様々な感情が込められているように感じる。一番最初の鋭い目のような気もするし、それ以上に優しくも感じる、かといえば深い悲しみの感情も感じる。その中でも強いと感じた感情は、慈しみだろうか。

 見つめあっていた眼を放し、黒猫は睡眠に入る。それ以降はいくら体を触ろうとも起きる気配はなかった。あぁ、もうこれ以上は共にいられないんだなと悟り、深い悲しみをたたえながらも壁に相対する。何かが自分を壁を上るように追い立てる。

 悲しみをたたえ、無気力にも壁に手をかけたとき、無機質な電子音が鳴り響く。景色が薄れ、黒く染まっていく。



 夢を見た。周りには、自分が別世界に来てしまったような、小人になってしまったのかと勘違いしてしまいそうなほどに大きい木、それを越えて果てが見えないほどに高い壁がそびえたっていた。壁は太い木の枝が絡みつくようににして成っていた。周囲には他に何もなく、一抹の寂しさを感じながらも、壁に向き直る。何かがどうしようもなく追い立てる。

 壁を登る。枝の間にはそれなりの隙間が空いており、そこに手足を引っ掛けながら登っていく。体重をかけると軋んだ感触がして不安になるが、折れることはなく順調に登り続けることができる。風はなく、体の重さのせいか疲労を感じながらも、無心になりひたすらに登る。遥か彼方に見えていた巨大樹の枝葉すらも超えて登り続ける。

 登って、登って、登った。巨大樹だったものを遥か下方に置き去りにし、それが小石と見紛うほどに小さくなる。壁を登る、登る、登る。感覚が衰えてきた。体が重くなっていく。

 登り続けて、もう何も感じなくなってきた。けたたましい音が鳴り響き、意識が引き延ばされるような感覚を覚える。視界は暗くなり、意識が途切れていく。



 夢を見た。壁を登っていた。壁は太い木の枝で出来ており所々隙間が空いているため、それに引っ掛けながら登り続ける。体は重く、感覚がなくなっていく。木の枝には心なしか色がなく、雨風にさらされ腐りきった木のような感触を覚える。登る、ひたすらに登る。進み続ける意味すらも分からなくなるが、どうしようもなく追い立てられる。止まることは許されない。登る、感情が削れていく気がする。登る。心が欠けていく音がする。情緒がなくなっていく。体は重く、動きは鈍い、それでも止まれず、登り続ける。

 まともな思考すらままならず、登り続けた。ついには、果てにたどり着き、頂上へ登りつく。そこは厚い霧に覆われていて、一メートルほど先がようやく見えるぐらいの場所だった。床は、登ってきた壁と同じように木の枝が絡まってできているようだが、枝は細めで隙間なく集まっているため歩くのに問題はない。

 もう駆り立てるものはなく、追い立てるものもない。末にたどり着いたのがここかと失望しながらも周りを調べてみるが、特に何もない。しばらく進むと、少しずつ霧が晴れてきた、そこは頂上の縁だった。そこからは今までと違い、空と太陽が見えた。時間は夕暮れ時で、淡いオレンジ色が空を染めている。縁に座り夕陽を見ていると、心が洗われていくような感覚を覚え、干からびた体に水が浸透するように、感傷に浸る。木が軋むような音がして、近くに何かが来ていることがわかる。

 黒猫である。壁のふもとで離別した黒猫である。黒猫は慈しみをたたえた目をしながら近づき、その体をこすりつけてくる。ひとしきり絡んだ後、ひざの上で丸くなった。その毛並みはいつかの感触と同じで、置き去りにしてきた感情を思い起こさせる。手のひらと膝の上に感じるその存在が体の感覚を取り戻させる。共にいる時間が心を満たしていく。猫を撫で、抱き着き、その存在を魂に刻むようにする。満たされていく心とは裏腹に言葉がこぼれる。


「ごめんなぁ」


 そうすると、堰を切ったように涙があふれだす。涙は止まらず、次から次へとあふれてくる。猫は静かに、寄り添うようにして膝の上でこちらに体を向けて丸くなる。時間が経ち涙が枯れつきた頃、このために今までの旅はあったんだなぁと悟る。

 膝の上に猫を抱きながら、夕陽を見つめる。景色が白くぼやけ始める。もう音は聞こえない。意識が消えていく中、自分は笑えていただろうか。


これは何の話だろうね。


個々で補完すればいいんじゃないかな、面白いかはわからないが。

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