VS妖怪ハンガー隠し
「ない。ない。・・・ない!」
俺は家中を引っ掻き回していた。
「ハンガーが無ぇー!」
洗濯物を干すためのハンガーがどうしても足りないのだ。
いつもなら乾燥室か洗濯場にストックがある筈なのだが、今日に限ってどちらにもない。
「しょうがない、新しいのを出すか・・・」
家中を探し空きハンガーがないことを確認した俺は、さらなるストックを出すべく納戸を開けた。
「なん・・・だと?」
納戸の中を見た俺は驚愕した。
ストックしていた新品のハンガーが一つ残らず消えているのだ。
「まさか・・・」
俺はある男のことを思い出していた。先日、俺のボールペンを一つ残らず持ち去った妖怪ペン隠しとかいうクソジジイだ。
「野郎・・・!」
俺は直感的に普段使わない押入を開けた。
「うおぉ!?な、なんだぁ!?」
押入の中でペン隠しが驚く。
居た・・・。直感的に居そうな気がして、でも居たら嫌だなとか思いながら襖を開けたら居やがった・・・。
押入の中にはどこから持ってきたのかちゃぶ台が置かれ、その上には湯気の沸き立つお茶と新しい戦利品であろうボールペンが数本乗っていた。
やや虚脱状態だった俺だが、戦利品の中に最近買ったばかりのペンを見つけた瞬間、怒りが再燃焼し・・・
「テメェ、それ昨日買ったペンじゃねぇか!て言うかハンガー返しやがれ!あと人んちの押入に住み着いてんじゃねぇ!」
俺はペン隠しの胸ぐらを掴み一気にまくし立てた。
「・・・ち、ちょっと待て。ペンと押入はともかく、ハンガーは知らねぇよ!」
しばし唖然としていたペン隠しだったが、すぐに反論をした。
「じゃあ、なんで不自然なレベルでハンガーが無ぇんだよ!?」
「だから知らねぇって!」
「ほっほっほ、それは妾じゃ。」
背後から聞き慣れぬ声が響く。
ペン隠しを掴んだまま頭を向けると、十二単を着たやけに機嫌の良さそうな女が立っていた。
「あんたは?」
異様な雰囲気を放つ女に聞く。
「妾は妖怪ハンガー隠し。そなたのハンガーは妾が隠したのじゃ。」
「ほう・・・」
怒りの矛先が妖怪を名乗る十二単の女に向き始める。
「まあ、そう怒るでない。妾はそこのジジイと違って隠したら隠しっぱなしなどという事はせん。」
女が俺の心を見透かしたように言う。
「ハンガー一本を妾が貰い受け、残りはそなたに返そう。妾は満足じゃ。では・・・」
その瞬間、部屋中に行方不明になっていたハンガーが散らばり、妖怪ハンガー隠しは煙のように消えていった。
「一体何だったんだ・・・?」
散らかった部屋に残された俺は声を漏らす。
「あの、そろそろ降ろしてくんない?」
そう言うペン隠しは右手にずっとぶら下がったままだった。
「洗濯洗濯・・・」
後日。俺は洗濯をするため、洗濯場に入ろうとしていた。
「うおっと・・・!?」
ドアに手を伸ばした瞬間、ドアが勝手に開く。勿論、洗濯場のドアは自動ドアではない。
「なんじゃ?今しがた洗濯機は回しておいたぞ?」
目の前にはなぜかハンガー隠しが居る。その奥では洗濯機への注水音が聞こえる。
「・・・いやいやいや、なんで居んの?」
若干混乱したがすぐに復帰し聞く。
「ふむ、この家は中々居心地が良いのでな、しばらく厄介になることにしたのじゃ。」
「なんでだよ!?」
「おーい、二人ともお茶が入ったぞ。」
ペン隠しが廊下の奥にある台所から顔を出す。
「テメェもナチュラルに居座ってんじゃねぇよ!」
こうして奇妙な共同生活が幕を開けるのであった。




