7日目:俺だけのレアキャラ
今回はリカ視点のお話になります!
リカ>おはよ
リカ>今、何してる?
「いやいやいやいやいや……」
リカ>ゴマフビロードウミウシだもん
リカ>かわいいでしょ?
「いやいやいや!?!? おかしいでしょ!?」
昨日の私はきっと、本当に本当にどうかしていた。だって、急にチカくんが電話をかけてくるから。それが、なんか死ぬほど嬉しかったから。テンションが上がってふわふわしたまま、落ち込んだチカくんに笑って欲しくて────
「だからってコスプレはなくない!? 自分からかわいい宣言はなくない!?!?」
あぁ、神様。もしも私のことを見てくれているのならば、昨日に戻してくれませんか。後生です。
連絡先を交換しただけになるのが嫌で、誰にでも送っている風を装って連絡をしました。日向にすら、おはようなんて送ったことないです。ごめんなさい。
返信来ないかなぁ、と思いながらトーク画面を開いていたせいで秒で既読をつけました。ごめんなさい。
本当は日向と撮影中だったのに抜け出して電話して、挙げ句の果てにウミウシちゃんの衣装提供を頼んでしまってごめんなさい。
懺悔しますので、どうか許してください。
でも、1番ずるいのは。
斉藤壱果>そうだな
斉藤壱果>かわいい
「自分から強要した、かわいいに死ぬほど喜んじゃってごめんなさいぃいい……」
違うんですよ。自分から「かわいいでしょ?」って言わないとチカくんは何も感想とか言ってくれなさそうだなぁ、とか。ぶっちゃけ自分でも渾身の出来だったから調子に乗ったとか。
でもでも。あながち、あながち強要じゃないかもしれないんですよ!?
喉から溢れそうな言い訳に蓋をして、昨日の夜イロドッターで見たせいで眠れなくなった、チカくんのドリートをもう一度眺めた。
【燈火:ウミウシちゃん、かわいかったからマジで実装されないかな】
ねぇ!! 私、優勝では!?!?!?
チカくんは、私がヒイナであることを知らない。ということは、本心でなければ、イロドッターでこんなことを言う必要はないのだ。つまり、このかわいいは。
チカくんが本当に、私のことをかわいいと思ったから呟いているわけで!!!!
「ダメだ……。自分の失態を簡単に上回るぐらい幸せ…………」
神様、さっきのは無しでお願いします。やっぱり、この世界線で生きていきます。チカくんがかわいいって言ってくれた、今日を生きていきたいと思います。
「…………よし」
それから私は、すぐにその画面をスクショして待ち受けにした。勿論、バレないように中の方の。なんなら印刷して部屋に貼りたいくらいだけど、流石に気持ち悪い自信があるのでやめておく。
そうだ。こんなことをしている場合じゃない。チカくんの爆死ドリートにリプライを送らなければならない。
だってヒイナは、燈火くんと仲が良いフォロワーで、友人で。燈火くんが爆死したことを、今初めて知ったはずなのだから。
【燈火:3年目ガチャ、見事に爆死】
⤷つよく…つよく生きて……
【燈火:でも、友達が慰めてくれたからいいや】
⤷まじ!?ならよかったー!
【燈火:ウミウシちゃん、かわいかったからマジで実装されないかな】
⤷ウミウシちゃんとは!?
よし。よしよし。これなら、ヒイナが私だということにはバレないだろう。少しばかり白々しいが、そこは勘弁して欲しい。私にはこれ以上の語彙力は無かった。
それから、足にネイルを塗ったり、意味が分からないぐらい出た課題を終わらせたりと、日常をこなして、チカくんこと燈火くんの返信をそわそわと待って。
しばらくした頃に、『ピロン』と。
イロドッターの通知を告げる、愛しい愛しい音がスマホから響いてきた。
「チカく……ッじゃなーーい!!」
普通に別の人からの通知だった。スマホめ、騙しやがって。さっきのは間違いだ。さっきの音は、少しも愛おしくない。
「……数学やるか」
瞬時に思い直した私は、スマホを布団に放り投げて課題に戻る。それなのに、1問目を解いた時点でまた、ピロン、という音が聞こえた。
「あーーもう! 通知切り忘れ!!」
私のバカ。今は、月曜日にチカくんに課題をやったか聞かれたときの話題作りに忙しいんですよ!
しかし、今通知を切らないと、また勉強の邪魔をされるかもしれない。そう思って渋々スマホを取りに行くと、画面にはチカくんこと燈火くんからの返信が表示されていた。
【燈火:3年目ガチャ、見事に爆死】
⤷つよく…つよく生きて……
⤷ありがとう
【燈火:でも、友達が慰めてくれたからいいや】
⤷まじ!?ならよかったー!
⤷友達、本当いい奴すぎてビックリする時ある。
【燈火:ウミウシちゃん、かわいかったからマジで実装されないかな】
⤷ウミウシちゃんとは!?
⤷友達がコスプレしてくれたオリキャラ。いやでも、よく考えたら実装はされなくていいかも。
「……なんで?」
ニコニコと返信を眺めていた私の手が、画面のスクロールをやめた。よく見たら、実装して欲しいクオリティでもなかったということだろうか。なんだか悲しい。
⤷えー、なんで?
だから、無邪気を装って返信をした。この程度の探究心ならば、ネット友達という距離で許されるだろうと自分に言い訳をして。
あーあ、ずるいな。本当に。これがずるいということは、完全に分かっているのだけど。
チカくんは、私がヒイナだと知ったら幻滅するだろうか。もう話してくれなくなるだろうか。それでもヒイナをやめることが出来ない私は、重症らしい。
あの何処か無頓着で、でもちゃんとあたたかいチカくんのことが想像以上に好きらしい。
だから仕方ないって、いつまで自分に言い続けられるだろうか。いつか燈火として、【好きな人がいる】だなんて呟かれてしまっても、ヒイナとして応援が出来るだろうか。
ダメだな。なんか、泣けてきた。
『ピロン』
「…………あ」
勉強なんて手につかないのでとっくにやめて、少し病んだことを考えていると、チカくんから返信が返ってきた。"あの"チカくんのわりに、返信が早い。
私は、急いでスマホのロックを解き、イロドッターのアプリへ飛ぶ。
⤷だって友達、マジでかわいいし。あのクオリティをシンカナが超えられるか分からないから……っていうのもあるけど、俺だけのレアキャラでいて欲しいのもある
マジでかわいい、俺だけのレアキャラ。
「えーーーーっと……?」
これは、えっと、どうしたら。
⤷そうなんだ。えー、余計気になる。
そんな、心にもない文字を打ち込みながら、指が震えた。
これは反則。反則ですよ、チカくん。早く取り締まるべきですよ。瞬間風速500kmのトキメキが私を駆け抜け続けている。
こんなことを言われて、喜ばないでいられるわけがない。
「これは逮捕だ……逮捕だよぉ……」
早く捕まえてくれないと、焦がれすぎて死んでしまいそうだ。チカくんのせいで、本当にこれ以上数学なんてやっている場合ではなくなってしまった。
「あーーもう、好き!! 大好き!! ばか!」
私はそう叫んでから、布団を深く被った。これだから、もうこれだからチカくんは。
ヒイナからの返信を見たチカくんの呟き
「ヒイナさん、いつもフレンドリーに話しかけてくれるの優しすぎるんだよなぁ……。女神か?」