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2日目:カリスマギャルな隣人(後編)

 



「それを言う前に、チカくんは自分の普段の生活を振り返ってみるといいよ。本当に。チカくんが登校するまで、賑やかな教室の中、1人でスマホ見てるしかない私の気持ちになってみるといいんだよ!」



 さっきの怠そうな感じだと、まさに"リカ様"というイメージも湧くのだが。俺の見ている柊木はいつもこんな感じなので全くそんな感じがしないのである。


 だから、『SNSで人気のカリスマギャル』と言われても、俺のやっているSNSといえばゲームのガチャ結果報告や日常用に使っているイロドッターだけなので、キラキラとしたフォトスタグラムについていけないのだ。


 なんだろう、すごく不安になった。時代に取り残されている気がする。



「あ、そうだ。さっきはごめんね? 朝早く来てくれたの嬉しかったから、ついつい強めに挨拶しちゃった。叩いたとこ痛かった?」


「別に」


「そっか。なら良いんだけど」



 おそらく、声をかけようとしたはいいものの、光輝を見つけてクールな"リカ様"らしく挨拶しようとした結果があれなのだろう。


 SNSで大人気らしい"リカ様"が現実で人気がないわけがなく。


 勿論この学校でも1番の人気者なのだが、ネット上の『クールなカリスマギャル』というイメージから高嶺の花どころか雲の上の殿上人のように思われているせいで、まさかのぼっちなのである。本人は孤高だと言い張っているが。


 最初の頃は話しかけられることも多かったそうなのだが、クールにいようとして少しキャラを演じていたら、"話しかけるな"ということなのだと思われたらしい。そこまでいくと、イメージの力ってすごい。


 そして、素の性格は"リカ様"ではない柊木にはそんな生活が大分寂しかったらしく、席が隣になった1ヶ月前に、たまたま同じゲームをやっていることが判明してからは俺とよく話すようになったのだ。


 何故その唯一の話し相手に俺を選んだのかも聞いてみたのだが、元々"リカ様"としてのイメージが無く、光輝と別のクラスになったせいでクラス内にそこまで仲の良い人がいなかった俺は、相当都合の良い存在だったらしい。


 主に、イメージ崩壊対策をしながら友人を作るという意味で。


 それに、席が隣のおかげで、小声だったら目立つことなく会話ができる上に何かとフォローを入れて貰えるから、と。


 まぁ俺としても柊木と話すのは楽しいので、お互い暇な時にどうでもいい話をする関係として程々の距離感に満足していた……のだが。



「じゃじゃーん。ログイン2日目おめでとう! 今日のプレゼントはこれです!! ほら、早く手出して!」



 そんな俺達の関係に、昨日からログインボーナスが加わった。



「マジで用意してくれたんだ? ありがと、めっちゃ嬉しい」



 学校に来ただけでプレゼントが貰える生活って、素晴らしい。


 俺が手を受け皿のように広げると、柊木がその上で手を離して持っていた何かを落とした。手の上に、コロコロとかわいい包紙のキャラメルが転がる。



「これは最近イチオシのお菓子なんだけど、本当に美味しいの。だから布教の意味も込めて今日はこれなんだけど、キャラメル苦手じゃなかった?」


「いや、俺も好きだよ」


「……っ、そう?」



 自分のオススメした物が褒められて嬉しかったのか、サッと顔を背けた柊木を横目にキャラメルを口に放り込む。


 カリスマギャルの柊木がオススメするだけあって、確かに美味しい。普段はキャラメルなんて買う機会もないので味わいながら口の中で溶かしていく。



「ところでさ、柊木は『シンカナ』の新イベントもうやった?」


「……実はまだあんまり進められてないんだよね〜。なかなか時間取れなくて…………」



 そして、ようやくキャラメルを食べ終わった俺が、柊木もやっている『新海の彼方』こと『シンカナ』というソシャゲの話をふると、柊木は悔しそうにそう言って首を振った。


 確かに、学校に通いながらSNSに投稿する写真を撮る生活をしていたらゲームをする時間もないだろう。それに、シンカナは難易度が高いので、シングルプレイだとクリアするまでに時間がかかることが多い。



「それならさ、俺が今回のイベント手伝おっか。ログインボーナス貰うのに登校するだけじゃ、やっぱなんか良心痛むしさ」


「……へっ!?」


「いやまぁ、もし良かったらの話なんだけど」


「い、良いに決まってるじゃん!? ありがとう〜!! チカくんもたまには良いこと言うね!」


「たまには!?」


「ふふ。"いつも"、の聞き間違いだよ。それなら明日から手伝って貰っちゃおうかな〜」



 どう考えても、"たまには"って言ってましたけど?


 そんな俺の不満げな視線から目を逸らした柊木は、満面の笑みで笑ってルンルンとスマホをいじり出した。そこまで嬉しそうな顔をされると、何を言われても「まぁいいか」と思えてくるから恐ろしい。



「……じゃあ明日の放課後空けとくわ」



 俺は基本的に暇なので、空けとくも何もないのだが。そう思いながら口を開くと、『ピロン』とスマホから通知音が聞こえた。



【ヒイナ: シンカナの新イベント、Cくんに手伝って貰えることになった〜!! マジで有り難いし助かるし、何より最近距離が近くなった気がして超嬉しい〜っ!】



 スマホに、俺のゲーム友達であるヒイナさんのドリートが表示される。前からヒイナさんのドリートによく登場するCくんは、ヒイナさんの片想い相手なのだ。


 ほぼ唯一と言っていいネット友達の嬉しいお知らせに、何だか俺まで嬉しくなる。



「それは良かった、と」



 ヒイナさんは、俺のどうでもいいドリートにも反応してくれる、めちゃくちゃコミュ力が高くて優しい良い人なのである。このように、ネットコミュ症の俺でも気安く話しかけられるぐらいには。


 俺が口に出しながら何とか文字を打つと、横から視線を感じたのでそちらを向く。すると、柊木がまたニヤニヤと俺の方を見て笑っていた。



「……なんだよ」


「口に出しながら文字打つのはおじいちゃんすぎだよ。ネット弱すぎでしょ」


「それ友達にも朝言われたわ」



 そう言いながら送信ボタンを押すと、俺の言葉にクスクスと笑っていた柊木のスマホが震えた。どうやら、誰かから連絡が来たらしい。柊木は俺の100倍ほど早い操作でスマホを操作し、何かしらを打ち込んでいる。



「うわっ!」


「ふふ。ほんと、チカくんてばネット弱すぎ」



 ヒイナさんからの返信で、また急に震えたスマホに驚いた俺を見て柊木が悪戯っぽく笑った。その笑顔はとても綺麗だったのに、何故か少し悲しそうにも見えたことが不思議だった。



【ヒイナ: うん、良かった〜! しかも今隣の席で、毎日話せるから最高なのっ!】




☆『新海の彼方』とは


→ 3年前にリリースされたアクションゲーム。略して『シンカナ』。汚染された地上を追われ、深海に逃げた人類が海底都市である"新海"を発展させながら地上を取り戻すために戦うというストーリーである。


ダークファンタジー風なメインストーリーと、人気声優を使った美麗なキャラが受けて人気に。しかし、攻略難易度が全体的に高いため、ユーザーはガチ勢が多く、共闘しないと倒せない敵も多い。




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― 新着の感想 ―
[一言] 新海の彼方普通にそのまま小説として出していい感じのストーリーだと思いますw もしかしたら恋愛ものだけではなくてVRゲームものの才能もあるんじゃないですか
[良い点] 梨花ちゃんめっちゃかわいい チカくんのネットに弱いとことかイイ感じ [一言] 連載始めてたんですね!! 毎日楽しみにログボ待っときます〜
[良い点] 梨花は最初はちゃんと話しかけられてたのか。イメージを壊さないようにとクールを演じた結果ぼっ、孤高になっちゃたのか。 超ナチュラルに告白してる、ように見えるチカくん。これはログインボーナス…
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