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2日目:カリスマギャルな隣人(前編)

 


 柊木からログインボーナスの提案が出た翌日。切実に頼まれた以上、初日から遅刻するわけにはいかないので、朝に弱い俺にしては珍しく早く家を出る。


 そして早歩きで駅に着き、『ドリート』という名の呟きをネットに投稿できる、『イロドッター』というSNSを眺めながら学校近くの駅で降りると、遠くから手を振る親友の姿が見えた。


 彼の名前は宮下(みやした)光輝(こうき)。いつも明るくてムードメーカーな、爽やかスポーツマンである。


 きっと、中学からの友人でなければ話すこともなかっただろうと思うほど陽キャな彼は、今日も爽やかに軽い足取りで俺の元へ駆け寄ってきた。



「イチカ、おはよ! 今日マジで早いじゃん。天変地異か?」


「待って。普段の俺って、そこまでギリギリ登校だった?」


「俺の方が心配になるぐらいギリギリだったよ。いつもよくそんなギリギリに来るよな、俺だったらリカ様見るために1時間前からスタンバイするわ」



 またそれか、と呆れた目で横を見やると、光輝は目を見開いて俺の肩をバシバシと叩いてきた。痛い。



「お前、本当SNS弱すぎなんだよ!! 今、フォトスタグラムで1番有名な女の子なんだぞ!? 隣の席だからって気安く話しかけるんじゃねぇ、羨ましい!!!」


「理不尽だな!?」


「理不尽じゃねーよ!! もっかい説明してやるから聞け! いいか、『スキミー』はな!」



 …………そう言って語り始めた光輝の説明があまりに長く繰り返しばかりだったのでまとめると、どうやらフォトスタグラムという、オシャレな写真を投稿するSNSで、最近有名なアカウントがあるらしい。


『スキかもしれない、キミのこと』という名前である日突然始まったそのアカウントは、清楚系ギャルモデルのリカと新進気鋭のデザイナーのヒナの2人コンビで運営されていて、『スキミー』という愛称で有名だそうだ。


 その『スキミー』の『キミ』ことリカが、ヒナのプロデュースした様々な衣装を着こなしてフォロワーの『スキ』を集める、というコンセプトらしく、リカの圧倒的ビジュアルとヒナのハイセンスな衣装が女子高生の憧れの的だそうだ。


 そして、スキミーのオフィシャルサイトで売られている服は、「リカと同じ物が欲しい」と発売して30分で完売。


 それなのに、本人達の情報はほとんど不明というミステリアスさもフォロワーを引き寄せる要因の1つらしい。



「……なるほど」


「なるほど!? お前、本当に毎日リカ様の顔を見れる幸福さ理解してんのか!?」



 この会話でお分かりだろうが。その、カリスマギャルの"リカ様"こそ、俺の隣の席に座っている柊木梨花である。



「てか、マジでリカ様いいよな……。めちゃくちゃ顔はかわいいのにクールでカッコいい服装も似合うしさ。ギャルとかちょっと苦手だったけど、リカ様は圧倒的にありなんだよなぁ。あの、カリスマ的な人を寄せ付けない感じも最高だしさ」


「ソウデスネ」


「……なんか棒読みじゃないか?」


「ソンナコトナイヨ」



 俺は疑わしい目で見てくる光輝から目を逸らし、あらぬ方向を見ながら答えた。


 すごい、すごいぞ。本当にすごい。よくここまであの、少し毒舌で面倒くさくて、寂しがり屋な性格を隠してやってきている。というか、むしろ柊木の何を見たらクールだと思うんだ?


 まぁ、それだけSNSでのプロデュース力がすごいということなのだろう。


 そんなことを考えながら歩いていると学校に着いたので、学校の昇降口へ入り、靴を履き替えようとすると後ろから背中を叩かれた。地味に痛い。



「……あっ、チカく……っ、おはよ」


「おー、おはよ」



 柊木だった。ちょうど柊木の話をしていただけに、心臓がドクンと音を立てたので、なんとか落ちつこうと息を深く吸い込む。


 そんな俺を一瞥すると、柊木は横にいる光輝を見て躊躇うように視線を彷徨わせた後、靴を履き替えて教室へ向かっていった。


 なるほど。確かに、この校則の緩い学校でも珍しいミルクティー色の髪を綺麗に巻き、流行りのメイクをして着崩した制服の柊木はカリスマギャルみたいだ。


 俺が1人で頷いていると、横で見ていた光輝は「リカ様って挨拶とかするんだな!?」と叫んでいた。そりゃあ柊木だって人間なんだから挨拶ぐらいするだろう。



「お前は柊木を何だと思ってるんだ……」


「何って……そりゃあリカ様だろ」


「それはSNSの中の話であって、さっきここにいたのは柊木じゃん」



 だから、柊木に叩かれたところを撫でるのは気持ち悪いからやめてくれないだろうか。そんなことをしても間接リカ様にはならないだろう。


 そんな思いを込めて口を開くと、光輝がそこそこ強い力で背中を叩いてきた。痛い。



「あーもうマジで変わって欲しいわ……俺も文系にしたら良かった」


「そんな不純な動機あるか!?」


「あるわ! てか、それだけの理由がリカ様にはあるからな!! ……じゃ、また話そうな」


「おう」



 俺は恨みがましい目で見てくる光輝に手を振り、1人で教室に入った。光輝とは今年から文理選択でクラスが分かれたので、教室の階が違うのだ。


 そうして机に荷物を置き、疲れたとばかりに腰を下ろすと、教科書で顔を隠しながらニヤニヤとこっちを見て笑っている柊木が見えた。



「……なに」


「いやぁ、こんなに早く学校来るの珍しいなぁと思って。よしよし、早起きできて偉いね〜」


「大分俺に対するハードル低いな!?」



 昇降口で会った、あのクールな"リカ様"は一体何処にいってしまったんだ。



☆イロドッター→"ドリート"という名の呟きをネットに投稿することが出来るSNS。キャッチコピーは『人生に彩りを添えよう』。


☆フォトスタグラム→写真を投稿出来る"オシャレな"SNS。とにかくオシャレ。




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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱりログインボーナスがある、という気持ちだけでいつもより早く学校に行けるくらいちょっと特別感があっていいな。 SNSのリカ様、完全に偶像化が進んでいってる梨花。同級生の会話で普通に様…
[一言] 一人だけ、特別扱いなんだなあ。 ログボ、まだもらってないな。自動配布ではなく、ちゃんとボタン押さないともらえないタイプなのかな/w
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