10日目:無人島でも君となら
▽今後の更新について
少しリアルの事情が忙しくなってしまって、本作の更新の再開は5月頃になりそうです。お待たせしてしまって本当に申し訳ありません。2人を幸せにするまで書ききるつもりなので、もう少しだけお待ちいただけると嬉しいです。
【燈火:おはようございます。今日は早い電車に乗ることが出来ました。燈火です。】
今日の俺には使命がある。使命があるのだ。そのため、学校へ行くモチベーションが普段とはまるで違う。という訳で今日は、いつもよりも断然早い、柊木が乗ってくる電車と同じ電車に乗れました。すごい。やれば出来る子イチカくん。これでもう馬鹿にはされまい。
しかし、電車に揺られること数十分。大体柊木が乗ってくるまであと10分。つまり、俺の運命が決まるのもあと10分だというわけで。
「柊木って彼氏いたっけ?」
違うな。そもそも柊木とコイバナをしたことがない。する理由もないからな。はは……ボツ!
「そういや柊木、今年のクリスマスどうしてた?」
カップルはクリスマスにデートするのが当然だというのは偏見でしょうか。いやでも付き合ってなくてもデートとはいうもんな。はーい、ボツ!
「あーーー、あーあーー!!」
もう分からなくなってきた。どうしたらいいんだ。こういう時はネットだと聞いたので調べたんですけど、どのアイデアも上級者過ぎました!
「それが聞けるならこんなことで悩んでないやないかーい!」って俺の頭の中のツッコミ芸人が飛び出してくるレベルでした!!さよなら!
──そう、柊木に彼氏はいるのか。
ふと昨日いだいた疑問である。なんとか頭から振り払おうと光輝とゲームセンターへ行ったのだが(結果は俺の勝ち。アイス奢ってもらいました)、この疑問は頭から消えてくれることがなく今日になるまで残り続けてしまった。
おかげで寝不足ですし、なんなら徹夜です。授業中寝たら完全に柊木のせいだから、もし先生に当てられたら身代わりになって欲しいところだ。
これまでの会話から状況を整理してみたのだが、『カリスマクールギャルの柊木に彼氏がいない方がおかしいVS彼氏がいるなら俺にカップル間ドッキリはしなくない?』の2択で脳内が大戦争。寝ている場合じゃない。マジで。
だから今日、なんとか聞き出して頭のモヤモヤを取り除きたいところ……ですが!!
「コイバナをした経験が無さすぎてもうどうしていいのか分からない。なんなら俺のこと自身が一番分からない……」
ここで彼氏がいると言われたと仮定しよう。どうしたらいいんですか。どうもしませんけどね? ずっと友達のつもりですけどね??
「……はぁ」
「どしたの、チカくん。派手な溜息吐いちゃって〜!」
「ぅえッ!?」
俯いてブツブツ言いながら考えを整理していると、唐突にテンションの高い声に思考を貫かれた。勿論、柊木である。
ニコニコと天真爛漫な笑顔を浮かべた柊木は、すとん、と俺の隣に座って嬉しそうに口を開いた。
「なにー? たまたま早起きなの?? それとも、私に1秒でも早く会いたくて?」
「まぁ、……はい」
「はい!?」
「聞いといて驚かないでくれます!?」
「そちらの方こそ真顔で冗談言わないでもらえますか!?」
今日に限って冗談ではないのだが、普段の行いが悪いせいか疑われてしまった。無念。
しかし妙にテンション高いな。俺の早起きがそんなに嬉しいというのか。あー、そういや朝休みにスマホを見ながら1人でいる時間が嫌だって前に言ってたな。どれだけ寂しがり屋なんだ、こいつ。
俺の視線に不思議そうな顔をした柊木は、咳払いをして楽しげに口を開いた。
「……ごほん。学校に着くまではまだかかるじゃないですか」
「はい」
「実はですね、今日のログインボーナスとして心理テストを準備してきました!」
「し、心理テスト〜〜!?」
「何そのワザとらしいリアクション。別にそこまでの反応は求めてなかったんだけど」
求めてなかったらしい。ダメだ、心の中に「ところで彼氏いるんですか?」を抑え込んでいるせいで俺の調子も狂ってるな。さっきから妙に敬語を使ってしまうのもそのせいかもしれない。
「いやでも心理テストやるのなんて久しぶりだから、楽しみなのは本当だよ」
「えへへ、需要にコミットする柊木ログインボーナスカンパニーです。では、まずは定番のこれ! 無人島に持っていくなら何!!」
「それ本当に心理テストか!?」
どちらかというと思考テストじゃないか、という俺の意見を全面的に無視した柊木は、「とりあえず答えて!」とニコニコしている。あーあ、かわいいからもうなんでもいいや。
「えー、えーー?」
とりあえず水か? でも長期滞在を考えたらナイフだよな。いや待てよ、逃げ出すのもありなら────
「脱出ボートで」
「うわ〜〜、つまんなーーい」
「辛辣じゃん。しかも、心理テストなら結果が知りたいんだけど」
「あ、そうか。脱出器具を選んだあなたは、超堅実派! でも時には堅実過ぎて言いたいことも言えないかも!? そんな世の中ポイズン、だって」
「そのサイトすごいな!?」
主に作ってるやつのテンション的な意味で。しかし、現状から考えると否定できないのが事実である。くっ、めちゃくちゃ痛いところを突いてきたな……!!
しかし、柊木は何を選んだのだろうか。十人十色な答えが出る質問であるため、ここは柊木の答えも気になる。
「じゃあ柊木は、もし無人島に飛ばされたら何を持ってく?」
「チカくんと一緒」
「よく俺のことつまんないって言いましたね」
ブーメランが刺さりまくってないか。
「私はいいんだもん。じゃあ次は人部門ね?」
「人部門!?」
「誰か1人だけ無人島に連れて行けるなら、誰と行く? あ、家族以外で!」
最早心理テストじゃないじゃん。絶対違うじゃん、と言いたいところなのだが、さっきのがわりとちゃんとした心理テストだっただけに何も言えない。
しかし人か。サバイバル専門家、と答えたいところだが、初対面だしな。それも少し怖い。それなら安定に光輝か?アイツになら肉体労働をさせてもあまり後悔しないし。
というか消去法なんだよな。そもそも知り合いが少ないせいで、友達かつ無人島に連れて行っても後悔しないという条件に引っかかるのが光輝しかいない。
「あー、柊木は多分知らないと思うけど、俺の友達の光輝って奴で」
「えーー!? なんで!?!?」
「そんな反応ある!?」
「あるよ!なんで私じゃないの!!私は迷わずチカくんを選んだのに!」
「逆に俺の何に期待して俺なんだよ?」
自慢じゃないがナイフを使ったこともなければサバイバル経験もないぞ。その中でなぜ俺なんだ。
「だって無人島でずっと2人なんでしょ?それなら、純粋に好きな人と一緒がいいじゃん。気が合う人じゃないとしんどいし、生き残るには協力が必須だし。たとえチカくんが何も出来なかったとしても、私はチカくんとがいいよ」
純粋に、好きな人と。
純粋に、好きな人と……??
もう無理俺のこと好きじゃん好きってことでいいじゃん好きってことにしてくれないなら逆に今から自主的に無人島行きますけどレベルの話じゃん!!!ねぇ!!!!!!
しかし、柊木の顔はさっきと変わらないニコニコ具合である。えっっ、「コンビニのシャケおにぎり好きだから無人島持ってきたいんだよね」ぐらいのテンションじゃないですか?
人とおにぎりは違うんですよ柊木さん、柊木さーん!! 死ぬかもしれないところに2人で行こうとしてるんですよーっ!!
いや分かってるけど! 友達代表として俺を選んだだけだろうけど!!
そんな柊木はというと、俺の脳内で繰り広げられている騒ぎとは裏腹にめちゃくちゃ冷静なままマイクを渡すような仕草をしてきた。
「はい、チカくんは?」
「え」
「さっきの答え、本当にファイナルアンサーですか? 私の回答を聞いて考え直してもいいんですよ〜?」
つまり、考え直せと???
「いや考え直しても光輝一択なんですけど」
「えー、悲しい。めちゃ即答じゃん!」
「そりゃ即答でしょ。光輝なら多少怪我しても「まぁいっか」ですむけど、柊木は怪我とかさせられないじゃん」
「……怪我しないもん」
「でも、柊木のことは危ないところに連れて行きたくないし」
だって柊木、どう考えても無人島で生き残れそうにないだろ。それに、普通に心配だし。
答えていて思ったのだが、多分俺と柊木の無人島への認識が違う。俺の想定では毒ヘビとかがガチでいるところだが、柊木の想定ではリゾートみたいなところなのではないだろうか。
じゃないと俺と行きたがる理由が薄すぎる。遊びに行く感覚だからあんなことが言えたのだ。というかそうやって理由をつけたい。つけないと、なんていうかこう、俺の心臓が破裂する。
「へぇ〜〜」
反応が怖くて俯いていると、妙に嬉しそうな声が聞こえたので顔を上げる。すると、少し顔を赤くして、ニヤけるのをこらえている柊木の姿があった。
「そっかそっか、へー……ふふ」
かわいい。すごくかわいい。何故ニヤけているのかも分からないが本当にかわいいな?
理由とかどうでもいいわ。そろそろ辞書のかわいいという言葉の説明に柊木の名前を載せた方が良いのではないだろうか。
「それなら私、日本でチカくんの帰りを待とうと思います。なんとか生き延びて、頑張って泳いで帰って来てね!」
「待って、泳ぎでの帰還を想定してんの!?」
しかもおそらく俺と同じ、海外の危険な無人島想定じゃねーか!!!
と、ここで俺の思考を遮るように電車のアナウンスが響いた。無機質な音声が、降りる一つ前の駅名を告げる。
マズい。落ちつけ。学校が迫ってきた。「ところで柊木って彼氏いるの?」がまだだぞ。まだ今日の主題を果たせていない。
しかし、急にその話題をふるには……あ。多少強引だがいけるか!? てか今いくしかないよな!?
「でもさ、あーー、えっと」
「えっと?」
「無人島、俺じゃなくて彼氏と行かなくていいの??」
名付けて、すっとぼけ作戦である。彼氏がいる前提で話を振り、その反応で彼氏の有無を確かめる高等テクニック。勿論、ネットから得た知識だ。
「私、彼氏いませんけど?」
「あー、そうなんだ」
彼氏いないってーーーー!!!!!!
「だって、チカくんがいるのに」
「……へ?」
「…………なんでもない」
「おー、そっか」
やばい、彼氏いないの5文字にテンションが上がり過ぎて聞き逃した。何を言ったのか気になるが、なんでもないと言われた以上諦めるしかない。
それから何かを話しかけられる空気でもなかったので、ぼんやりと窓を見ていると数分も経たずに下車駅へ着いた。
定期を出す瞬間も、電車を降りる瞬間も、「彼氏いないって!!」が何度も頭を過ぎる。柊木に会う前の沈んだ気分とは大違いだった。
今日はなんだか、いい1日になりそうだ。
心理テストを準備してきたのは、電車を待っている時にチカくんのドリートを見たからです。
柊木「……すきなひとって言ったとき、心臓破裂すると思った…………」
そして勿論、意識してシャケおにぎりぐらいの好きオーラを出していたのです。中身は緊張で死にかけでした。