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知ってる

「何だと、ゴラァッ!」


 本当に蛮族。

 私が無防備だからといって、甘く見たバカです。



 遅過ぎ。非力過ぎ。



 私は躱す価値もないと判断し、頬でその拳を受けます。同時に突き上げるように腹を殴り返しました。


 ガキッと私を打った拳が壊れます。更に、ゴフッと腹に入った私の拳が内部からダメージを与えます。


 少し足が浮いてから、一撃で落ちました。

 ダラリと静かに黄色い何かを嘔吐し、その後に血も吐きます。その汚物が寄ってきたので、足でランチボックスを動かしました。



「内臓を破壊しました。もうすぐ死ぬでしょう。謝罪をすれば、私が魔法で助けます」


 震えることも忘れて呆然とする彼らに一歩近付くと、慌てて退こうとします。が、覚束ない。

 殴ってこなかった方の取り巻きは転んで尻を打ちました。



 人間の雄は何故に急所が剥き出しなのでしょうか。不思議です。



 ベテランの竜の巫女であるケイトさんという知人がいます。彼女は知識が豊富でして、神殿の中でも切れ者揃いと評されている薬師処に所属しています。私が渋々メンバーに名を連ねている魔物駆除殲滅部も切れ者揃いと噂なのですが、それは陰口に近い物でして、薬師処と同じ意味ではないように感じています。頭の線が切れた連中と一括りにして、私を含めるのは酷いと思ったものです。


 話が逸れましたが、ある至上命題で、私は竜のチンチンについて調べた経験が有り、その時にケイトさんに相談しました。


 竜のチンチンは蛇と同じ仕組みで半陰茎と呼ばれます。そこまでは知っていました。


 しかし、どこにそれがあるのかガランガドーさんを観察しても分かりませんでした。私としては「もしや、こいつは雌なのか。使えないヤツめ」と思ったものですが、念のためにケイトさんに尋ねて良かったです。


 なんと、竜のチンチンは体内に収納されていて、事に至る際にニョロニョロ出てくるのです。何たる合理性の塊。大事な部分は隠しておかないといけませんものね。さすが、私が愛する聖竜様と同じ種族です。


 思いっきりガランガドーさんの肛門横を殴ると白いそれが飛び出してきました。気持ち悪かったです。

 あと、ガランガドーさんも仰向けになった状態で涙を溢しておられました。竜の涙、何だかロマンチックな宝石みたいな名前ですが、彼は「うぐ、うぐ。我、汚されちゃった……」って、よく分からない譫言(うわごと)を吐いておられました。


 まぁ、何の話かって言うと、雄人間の股間は潰しやすいということです。



 体をガタガタさせるそいつの股に足を踏み込む。小気味良い感触と音で、色々と破壊した事が分かります。慣れたものです。ここの部分を踏み潰す職業があるなら、私は第一人者になれるでしょう。経験豊富です。


 みるみると赤い血がズボンに広がって行きました。



「さあ、早く謝罪ください。大事な友人達が大変なことになりますよ」


「も、もう、なってるじゃねーか……」


 えっ、そうかも。うっかりです。


 私はサルヴァと呼ばれた男に微笑みます。この笑みは「どうでも良いです。もう決着が済みました。早くなさいませ。さぁ、皆が待つ平和な部屋に戻りますよ」という友好的なヤツで御座いまして、決して邪悪な物では御座いません。


「お、お前、退学になりたいのかっ!? 俺達をこんなにしてタダで済むと思うなっ!」


 無駄です。その脅しは私には怖くありません。


「そんなみみっちい事を考えているのですか? 私には通用しませんよ」


「な、なんで……。た、退学になったら、退学なんかになったら、人生の終わりじゃないか! バカの証明じゃないか!?」


 お前、口は慎みなさい。

 今のその言葉、物凄く私に響きましたよ。

 しかし、それを私は臆面にも出さない。だって、おバカじゃないから。



「お前こそ、退学になるでしょうが。何も悪いことをしていない上品な私をこんな辺鄙な場所に連れ出して、乳を出せと、頭が沸いてませんか? 退学どころか逮捕案件じゃないですか」


 見事な正論。しかし、そうこうしている間にも吐血していた者の体から魔力が抜けていくのが分かりました。これは生命維持に関わる魔力が逃げているのです。もう少しで死に至りますよ。


「早く謝罪なさい。いくら私でも死者を生き返らすことは出来ませんから」


 遂にサルヴァという男は私に頭を謝罪しました。それを受けて、私は倒れた二人に回復魔法。

 はい。服の汚れ以外、何事もなかったかの様です。


「な、なんだ……。それは魔法……なのか……」


「それ以外に何だと言うのですか?」


「くっ……」



 サルヴァは二人を去らせ、私と二人きりになることを望みました。しかし、私は彼らを引き留めます。身震いする彼らの目は、屠殺を感じ取った牛みたいに滲んでいました。


「まぁ、お怪我、大丈夫で御座いますか? 壮大にお転げになられたから、私、心配ですわ」


 他人にはそう言えという口止めですが、蛮族の彼らにこの機微が分かるでしょうか。


 うんうんと頷いているので良いかな。立ち去る許可を出します。彼らは血塗れの服のまま、ふらふらと歩き出しました。



「さて、サルヴァよ、どうしましたか?」


 ……まだ乳に拘っているのなら、処刑ですね。その様な変態は消滅させるのが人類のためです。


 この胸は私と聖竜様とのお子が吸うためにあるのです。問題は卵生の竜が乳を必要とするのかですが、それはきっと必要にするような魔法を掛ければ良いでしょう。私、乳飲み子が好きです。楽しみです。



「……お前、何て名前だ?」


「メリナです」


 本当の名前と言うか正式名と言ったら良いのか、クソ長い名前をアデリーナ様から過去に頂いてましたが、無視です。あんなの覚えるの不可能です。


「メリナよ、聞いてほしい」


「早く言いなさい」


 改めての真剣な顔です。


「俺、バカなんだ」


「知ってます」


 人払い不要でしょう。

 お前、自分のおっぱい発言を何だと思っているんですか。

 それに、クソ弱いくせに私に喧嘩を売ってきたんですよ。お前は自他の武力を評価できない無能のクズです。

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