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サルヴァの出自

 馬車の中の長椅子に寝転んでいた為に、少し窮屈な朝でした。よく眠れましたが、馬車の屋根が無くなっていて眩しくて目覚めたのです。


 おかしい。昨晩まではちゃんとした箱馬車だったはずなのに。


 横壁もボッコボッコですね。私の首の高さくらいで無くなっていますし、所々に拳大の穴も開いていて、風通しが良くなったと無理矢理にでも誉めておきましょう。


 しかし、割れた酒瓶が転がっていて危険です。こればかりは弁解のしようが御座いません。全く……私がきれい好きで良かったですね。


 ポイポイと、道の脇へと酒瓶を投げ捨てました。


「おい、お前、まだ暴れ足りないのか? いい加減にしろ」


 メンディスさんの声でした。


「馬車の中がぐちゃぐちゃですので片付けているだけです」


「だから、その犯人がお前だろ」


 まぁ、今から諸国連邦を助けてあげようとしている私に向かって、何て言い種なんでしょう。意味が分からない絡み方をされましたよ。


「おい、タフト! 我らの巫女が目覚めたぞ。昨晩と違って酔っていない」


「それは良かったです。ドラゴンの輸送より気を遣いましたね」


 私のような淑女を前にして、森の中で猛り散らかす竜と一緒にするなんて酷い話です。もちろん、聖竜様はそんな野蛮なドラゴンとは別ですよ。ちゃんと悪態を付いていないことをアピールしておきましょう。もしかしたら、私の心を覗いておられるかもしれませんからね。



 喉が渇いていたので、掌を合わせた上に魔法で水を出します。それをゴクゴクと勢いよく頂きました。

 朝ごはんは見当たらなくて、街に着いてから頂けるのでしょう。



「メリナ殿、到着しました」


「ええ、見えていますよ」


 屋根がないので、よく確認できました。

 ここも昨日のハッシュカと同じで大きな建物が有りますが、お城と言うには粗末なものです。細く高い塔が一本だけです。見張り台ですかね。

 あとは、木を打ち立てた小屋がいっぱいです。王都で迫害されていた獣人の居住区みたいな感じです。


 これで一国なんですよね。確か、国名をクーリルとか言うのですが、かなりの小国です。私の王国なら代官が住むこともないような街です。



「巫女よ! こんな最前線にまで参られたのか!?」


 この汚れた響きの声には聞き覚えがあります。サルヴァです。

 崩れた馬車の横壁の隙間からも彼が見えました。


「お前こそ、こんな場所に何故いるのか疑問ですよ」


「俺は貴族学院からの志願兵だ。連邦を守るためであれば、俺の命など安い」


 サルヴァは大木の下に胡座をかいて、読書をしていたようです。その本を閉じながら、私に語り掛けてきました。


「巫女が参戦するならば、俺達の勝利に間違いないな! なぁ、兄者!」


「……あぁ、そうだな」


「どうした、兄者? 何か喉に引っ掛かったような口振りだが」


「いや、なんだ……。サルヴァ、お前が女にまともな口を聞いているのは久々だなと思ってな。すまん」


 メンディスさん、辛辣な言葉を吐きました。しかし、サルヴァは平気な顔です。


「グハハ、兄者。俺は巫女により生まれ変わったと言っただろ。しかし、すまんな、そろそろ出陣の準備に入る」


 サルヴァは本を片手に去っていきました。



「気になりますね」


 私は御者台にいるタフトさんに言います。


「何がですか、メリナ殿?」


「あいつ、頭が悪いくせに読書していました。私の想像では淫靡な本だと思うのですが、如何でしょうか?」


「……いや、別にそうであれば気にはならないですが……」


「いいえ、気にしましょうよ。戦場に出れば興奮します。傷付いていた女兵をあいつが見つけたら、すぐに本性を戻して、大変な毒牙に掛けますよ」


「……そこまで堕ちると、王家としてどうかと思いますね」


「でしょ? 手始めに、あいつから半殺しにしておきますか?」


「止めておけ。サルヴァは口だけだ」


 横からメンディスさんが言ってきました。


「あいつの母親は娼婦だったんだ。それを気に病んでか、自分の嫁も娼婦みたいな貴族を探しているらしい。その上で、悪態を吐かれるくらいなら、こちらから吐いてやる的な自暴自棄も感じられたな」


「意味分からないです」


「あぁ、俺も分からん。あいつはバカなんだ」


 ここでタフトさんが口を開きます。


「サルヴァ殿下の母上は聖娼だったのは事実です。しかし、蔑まれていたのはその職業の為でなく、ブラナン王国出身だったのが大きいでしょうね」


「聖娼?」


「簡単に言えば、ブラナン王国のナドナムの神殿に勤める遊女です。そこには愛の女神の神殿が御座いまして、聖娼と呼ばれる女性が何千人もいらっしゃるのです」


 ……完全なる邪教ですね。デュランのマイアさんとリンシャルを崇める宗教もどうかと思っていましたが、それ以上です。


「立派な方でしたよ。周りからは学がないと言われていましたが、あの人は知識をひけらかさないだけだったと記憶しています」


「あぁ、ブラナン王国で嫁げば良かったものにな。そうであれば、早死にすることはなかったであろうに」


 早死の単語が私の脳裏に毒殺という言葉を浮かばせました。有り得ない事ではないです。特に王国の影響力を排除しようとしているシュライドは、サブリナさんがそうだったみたいに毒の知識が豊富な気がします。

 


「何にしろ、その逆境を乗り越えられずに、今までのあいつがあった。お前の影響でまともになったとしても、これまでの悪行は記憶から消えん。あいつは、これからも蔑まれて、誰からも好かれることなく生きるしかなかろう」


 そうですよねぇ。同感です。

 ただ、メンディスさんの最後の所は修正しておきましょう。



「でも、あいつ、恋人が出来ましたよ」


「何っ!? ……誰だ?」


「学院の副学長です」


「「はぁ!?」」


 メンディスさんもタフトさんも大きな驚きの声を上げました。えぇ、私も最初に聞いた時は大変にビックリしましたもの。


「サンドラか!? 俺が学生の頃からクソババァだぞ!」

 

 いやぁ、メンディスさん、驚き過ぎてオブラートに包むのをお忘れですよ。


「いやぁ、懐かしいですね。メンディス殿下もよく叱られていましたが、そうですか、サンドラ・パーシ先生と……。世の中は不思議ですね」


「いや、タフト! サンドラが王家に入るんだぞ!」


「良いではないですか。女遊びばかりしていたメンディス殿下が悪いのです」


 詳しく聞くと、若かりしメンディスさんは何人もの女子生徒相手に浮き名を流していたそうで、それを副学長に何回も注意されていたのです。

 第二王子という身分もあって、呼び出されての説教だったのですが、同時に下級生10人と付き合っていた時は、流石に全校生徒に要注意人物として貼り出されたのです。


 未だに結婚できない理由だと、タフトさんは笑いながら言います。

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