創作活動
さてと、日記ですよ、日記。一日の終わりに心を落ち着かせて書くものですが、今日は違います。30日分を書かないと行けません。大変です。
最初の日は順調です。異空間に飛んだ日ですね。
アデリーナ様にあげたのに忘れやがった絵画がまだ私の部屋に有ります。存在感が凄いので、早く取りに来て欲しいです。凄く迷惑です。
完璧です。全くの自然体の私です。
「……どの様な絵か気になりますね」
タフトさん、興味があるのですね。諸国連邦の方のセンスには合うのかもしれません。差し上げましょう。私は喜んでそれを取って来て、見せてあげました。
「…………猫の死体とは斬新なテーマですね……」
「いや、私は火山かなと思っているんですよ。確かに猫の顔みたいなものが4分割にされてはいますが……。あっ、お持ち帰りお願いしますね」
「いえ、それはブラナン国王に献上されたものですから、私は受け取れません」
しまった!
アデリーナの名前を書かなければ、これを押し付けることが出来たのに!!
2日目。この日も学院は定休日でしたかね。
蝉さんは短命だと思い違いするかもしれませんが、実は土の中で長生きしています。死ぬ間際に地上に出て来るので、人間が勘違いするだけです。蝉さんは人間とは違い、若い体で長くを過ごし、老体になってから交尾をするのです。蛍さんも同様です。枯れた老後なんて存在しない、とても効率的な生き方だと思います。
だから、アデリーナ様も早く脱皮して、お外で交尾して死んでください。
「これ、日記ですか?」
うわっ、細かいなぁ。タフトさん、邪魔です。
「聖女決定戦の前日に生物図鑑とか読まれておりましたものね。ところで、メリナさん、最後の文章は後々の問題になりませんか?」
「えっ! 思いも寄らない指摘でした……。何か問題でも?」
「いえ、なら、良いです。私なら『アデリーナ様はお美しいので、例えるなら蝶なのですね。色々と、えぇ、色々と』で締めます」
……蝶だと? まさか、こいつ、蝶と蛾の話を知っているのか? モジャメリナはもう居ないと言うのに。
コリーか……。あのデュランの赤毛のコリーから、こいつに伝わっていたか。あいつも蝶でした。そして、あの時の私は蛾だったのです! スケスケ勝負パンツを穿いた姿がっ!!
「その話は良いです。すっごく不快です」
「あらぁ? 残念」
3日目は……学校か。
今日はいっぱい勉強しました。
あっ、これで7日目まで埋めてやろう。
「メリナさん、毎日同じ文章を連ねるのは大変によく有りません」
「そうですか? 私なら、一所懸命に学習していると思うのですが……」
「はい? そもそも、メリナさんは一度も授業をお受けになっておられませんよね? 教師陣の間では幻の生徒として有名ですよ。来年には学院七不思議の一つになっているのではと思います。亡霊生徒メリナとか」
「じゃあ、どう書けって言うんですか!?」
「メリナ殿、異空間での出来事を有りのままに書けば良いではありませぬか?」
異空間か……。ガランガドーさんと短時間の会話をするだけで、こっちでは1ヶ月経っていたのですよ? 30分割したら、何をしているのか分からなくなりますよ。
いや、行けるか?
4日目
乙女の純血占いは悪魔召喚の儀式と同じだと思いました。召喚されたのは私自身なので大違いですけどね。
「乙女の何とかは謎過ぎて逆に興味を引きませんが、メリナさんが召喚されたのなら悪魔召喚の儀式と変わり有りませんね」
「は? どういう意味ですか? 激しく喀血したいんですか、ショーメ先生?」
「ほら、悪魔みたいな事を言いますもの」
「次に行きましょう、メリナ殿。まだまだ日は残っていますから」
5日目
真っ暗だったので照明魔法を唱えた。何もなかった。
でも、心の中では聖竜様という希望が常に灯っているので安心です。
6日目
ガランガドーさんに呼び掛けるも来なかった。失望である。
7日目
ガランガドーさんの声が頭の中で響いた。
何だか私の頭に異物が入ってくるみたいなので勘弁してほしいのは秘密。
「うーん、インパクトが足りないですかね」
「それは要らないでしょう、ショーメ殿」
「タフトさんの言う通りですよ。あっ! しまった!」
「どうされました、メリナさん?」
「確か、ガランガドーさんは私が居なくなって3日後に来たと言っていました。だから、7日目じゃなくて、3日目に喋らないと嘘になっちゃいます!」
「大丈夫ですよ。そんなの誰にも分かりませんから」
「私もそう思います。メリナ殿の日記は既に嘘で塗れきっているのですから」
そうなんでしょうか……。私は不安ながらも皆さんの説得を受け入れます。
8日目を考えようとしたところで、ショーメ先生が欠伸をされました! もう一度、言いましょう。欠伸をされました!
「先生! 先生はもう飽きたんですか!? まだまだ日数は残っているんですよ!」
「すみません。よくよく考えたら、宿題は自分でしないと意味がありませんよね」
っ!?
どういうつもりですか、ショーメ先生!!
それなら、私にも考えが有りますよ!
8日目
フェリス・ショーメ先生はデュランからのスパイでしたが、首になったので、主人をアデリーナ女王に乗り換えました。
タフトさん、どちらにしろスパイですから斬った方が良いですよ。さぁ、早く。逃がさないで。
「何っ!?」
立ち上り、鋭い目でショーメ先生を睨み付けるタフトさんが面白かったです。でも、残念。良い魔剣をお持ちですが、貴方のお力では先生に勝てないと思うんですよね。
「まぁ、ザッフル卿。メリナさんのあからさまな嘘なんかに騙されてはいけませんよ。明らかにはっきりと、メリナさんがアデリーナ女王の手下ではありませんか」
「う、うむ。すまなかった……」
でも、私の内心の怒りを表に出した効果があったのか、ショーメ先生が本気になりました。なんと、9日目から最後まで先生が全てのネタを出してくれたのです。
私はそれを無心で筆記していくだけです。
結果として、私は内戦の雰囲気漂う街で生活する不安を感じながら、小さな幸せを探す乙女チックな女の子として描かれました。
例えば、22日目なんて、生きて帰って来ることを祈りながら、学徒出陣する学院の男子生徒達の列を眺めるのです。その帰り、朝は咲いていた道端の花が折れていて、私は心を痛めます。
「良いですね。さすが、ショーメ先生です」
「はい。ありがとうございます。これで完了ですね」
「……ショーメ殿、文才が素晴らしいです。このタフト、大変に感動致しました。この様な可憐な娘がいるのであれば、私は全力で守りたいです」
「いや、ここに居ますから。ほら、これ、モデルは私ですよ?」
自分の顔を指で示して、私はアピールします。
「いや、それは何て申して良いか複雑な心境です。メリナ殿なら、折れた花を更に踏み潰すのではと……」
「まぁ! 酷い! 私は花を踏むくらいなら、あなたの背骨を踏み砕きますからね!」
まぁ、しかし、本日の懸案は解決しました。ひと安心です。さて、今からゆっくり昼寝しましょうかね。
「むっ。これは……」
「どうしましたか、タフトさん?」
「いえ、些細な事です。今日の分まで書いてしまっていると気付きまして。本当に些細な事で申し訳ございません。それでは、メンディス殿下を――」
「えー! 本当ですね! えー、困りました」
今日は街を散歩しました。度重なった敗戦の影響は強く出ていて、街の活気は有りません。だけど、私は負けない。少しでも街を明るくしたい。そんな気持ちで街角で歌を歌いました。
恥ずかしかったけど、集まった皆の顔は明るくなりました。
「歌ですか……。このメリナの美声をナーシェルの街に響かせねばなりませんね」
「すみません、メリナさん。勢いが余って日付に気を遣っていませんでした」
「いえ、確かに私もこの辛気臭い街の雰囲気を気にしていました。私が一肌脱ぐことで協力できるなら、何としてもやりましょう!」
「メリナ殿、辛気臭いとは辛辣です。言い方を選んで欲しいと思うのですが……」
タフトさんは細かくてウザいです。
「それに、これは日報って表紙に有りますよ。日記じゃ良くないのでは有りませんか?」
「些細な事です。行きますよ」
私は率先して外へ行きました。さて、どの辺りで歌いましょうかね。




