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依頼と報酬

 ガランガドーさんが来るまで、私は木の上からナーシェルの街並みを見ていました。そこで、気付きました。ここはメリナ山の中腹です。

 だから、見慣れた風景でも有ります。


 ふむ、街に活気が有りません。

 あの辺りには露天市場があって買い物客が結構な人数がいたはずなのですが、まばらです。そもそも露店が少ないですし。

 街路を歩く人々も同様ですね。


 貴族学院の建物は健在です。しかし、魔力感知的には生徒はいません。今日は休日なのでしょうか。うーん、日付も分からなくて判断できないですね。



 そうこうしていると、ガランガドーさんが迎えに来てくれまして、私は彼の背中に乗って館に舞い降ります。


「お疲れ様でした、ガランガドーさん。あとは自由にしていなさい」


「承知した。では、日光を避けながら庭で寝ようぞ」


 竜は寝るのが生き甲斐なのでしょう。聖竜様もいつも寝ていました。懐かしく思いながら、私は許可します。



 さて、玄関を開けようとすると、鍵が掛かっていました。初めてのケースです。皆で留守にしているのでしょうか。

 ノックと共に館内を魔力感知で捜索します。



「お、お嬢様!」


 突然に背後から声を掛けられます。その嗄れた声はベセリン爺です。それには驚きの感情が乗せられていましたが、当然でございますかね。

 実感はないのですが、1ヶ月も姿を消してしまったのですから。うーん、悪いことをしました。



「爺は心配しておりましたぞ。うぅ、何者かに誘拐されたのかと、各方面に問い合わせもしていました」


 涙まで浮かべて……。この人は本当に良い人で御座います。

 私が感動にうち震えている間に、ベセリン爺が鍵で扉を開けてくれました。それから、入ってすぐの待合い用の椅子に対面で座ります。



 ベセリン爺は現在の情勢を教えてくれました。


 諸国連邦は内戦に突入したそうです。うん、メンディスさんの部屋を訪問した際に、どこかの国が兵を上げたと聞きましたね。

 あれから1ヶ月ですから、事態は進行していて当然です。


 何回かの会戦の結果、諸国連邦の中心国であるナーシェルは押し込まれた状態にあるそうです。相手はシュライド。諸国連邦の中でも小国なのですが、近年、力を蓄えた国とのことです。

 ナーシェル側からすると、彼らは反乱軍でした。しかし、ナーシェルの旗色が悪くなったことから、各国の多くはシュライド側に靡いておりまして、それぞれの陣営に所属する国数からすると連邦に逆らうのはナーシェルという図式になっています。


「出歩く人が少なかったのはその為だったのですね。皆さん、避難なされているのですか?」


「商人は兵の乱取りを恐れて他国へ行きました。諸国からナーシェルに来ていた人々も去りました」


 そっかぁ。サブリナさんも自分の国に帰ったのかなぁ。少し寂しいです。


「女中どもは今日もお嬢様を捜索するために街へと出ておりました。呼び戻して来ます」


「どうもすみません。宜しくお願いします」



 ベセリン爺が外へと去り、私も二度寝をしようかなと思って足を進み出したところで、豪快に玄関の扉が開きました。


「メリナ様! どこをほっつき歩いていたんですか!?」


 ショーメ先生でした。珍しく息を切らしています。


「すみません。ちょっとした事故で、異空間に飛ばされていました」


「は? ふぅ……。はいはい。何でも良いですよ。よく考えなくてもメリナ様はそういう方でした。こちらの意図通りには動いてくれないのですよね」


 いつもなら、この辺りでベセリン爺が茶を持って来てくれるのですが、残念ながら彼は出て行ったばかりで不在です。習慣みたいになっているので、私の喉は潤いを欲していますよ。

 それを遮断するためにもショーメ先生のご用件を訊きます。


「で、何の用ですか?」


「はい。内戦状態なのは知っていますか? 知らなくても良いです。メリナ様にシュライド軍を蹴散らかせて頂きたく存じます」


「えー、野蛮」


 特に面識のない人達を襲うなんて、魔物駆除殲滅部の他の方々なら可能でしょうが、常識人の私には無理ですよ。


「無論ですが、報酬を、いえ、心からのお礼を用意しています」


「その報酬は何でしょうか?」


 私は物で動かされるような浅はかな人物ではないのですがね。一応は訊いて差し上げましょう。


「諸国連邦甘味詰合せフェリス・ショーメセレクションです。あらゆる情報網を使い、名の知れた良品から、隠れた名品まで、私が選び抜いた逸品たちです。もちろん、竜の好みに合わせて、甘みが強めなのを集めました」


 ほう。素晴らしい。


「そして、そのまま贈ることも可能ですが、メリナ様がそこから更に取捨することにより、オリジナルの聖竜様だけへの贈り物と成り得ます」


 ……全くとんでもない人ですよ、ショーメ先生は。この私をここまでヤル気にさせるとは。


「承知致しました。その蛮族どもに都会の叡知を知らせましょう。どの辺りですか?」


「まずは、南の隣国ハッシュカの勢力をお願い致します」


 分かりました。

 ガランガドーさん、お仕事です。


『ふむ、何であるか? 我はうとうとしていたのであるが』


 南に敵の軍隊が居るらしいんで、適当に襲ってください。


『敵?』


 只の人間です。程々に蹂躙してきてください。


『グハハ、遂に死を運ぶ者の面目躍如であるか!? 良かろう、弱き者を悉く永遠の眠りに付けてやろう』


 ちょっとお待ちくださいね。


「ショーメ先生、ガランガドーさんが全ての人間を血祭りに上げる勢いなんですが、宜しいですか?」


「……それも有りでしょうが、負傷者を増やした方が相手の手間を掛けさせて戦争に有利です。魔力を死なない程度に吸収したりは可能ですか?」


「分かりました。訊いてみますね」


 ガランガドーさん、殺さずに瀕死にして欲しいみたいです。生命維持ギリギリまで魔力を吸収するって出来ますか?


『無論よ。では、主よ、我の本領をお見せしよう』


 はい。行ってらっしゃいませ。


 外で大きな羽音が聞こえ、ガランガドーさんが飛び立ったことが分かります。



「ショーメ先生、今日中にはミッションクリアで御座います」


「ありがとうございます。続きは明日ですね」


「えー、まだショーメセレクションは頂けないのですか?」


「はい。シュライドの名産品も有りますから、そこを占拠してからですね」


 むむむ。騙された気分です。


 私が不満を口に出そうとしたところで、また、扉がノックされました。

 爺が帰ってきたのでしょうか?

 私が表に出ると、そこには鎧に身を包んだタフトさんがいらっしゃいました。憤怒のお顔です。

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