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メリナの夢

「えー、今日は学校お休みなんですか?」


「はい、お嬢様。今日、明日と休日で御座います。ごゆっくり英気を養い下さいませ」


 ベセリン爺は朝食を終えた私にそう告げました。


 嬉しいですよ。嬉しいけど、それでは私の計画が乱れてしまいます。困りました。



 しかし、私は抗うことは出来ません。今、学校に行っても誰もいないのだから。

 ならば、ここは好きに休みを堪能すべきでしょう。



 私は館の庭に出て、適当な敷石を引っくり返します。あっ、外れでした。日当たりが良すぎたかな。もう少し湿気の有るところを。


 二個目にして大当り。

 蟻さんがうにょうにょいらっしゃいました。うふふ、大混乱ですね。白い卵を懸命に運んでおられたり、錯乱したかのように動き回ったりされています。


 これは私の心を解放してくれる。蟻さん観察です。一時期、化粧品を自作するために石砕きがマイブームだったのですが、その際に気付きました。

 蟻さんの家を覗くのは至高の喜びです。


 何をするわけではないです。ずっと見ているだけです。蟻さんがいなくなるまで見詰めて、次の石を引っくり返すだけなのです。


 でも、これだけで半日は潰せることが出来ます。蟻さんは働き者です。感じ入る物が御座います。青虫とか投入すると、皆で運ぶんです。蟻対青虫、興奮します。



「お嬢様、お客様で御座います」


「あら、どなたですか?」


 無心になっていたのをその客という名の不届き者に邪魔されて大変に不愉快です。


「学院の教師と名乗るレジス・ポーラン氏で御座います」


「分かりました。行きましょう」


 私は蟻さんの巣に再び蓋をしてあげてから、立ち上りました。



 応接間には既にレジスが待機しており、出された茶を静かに飲んでいました。


「おはようございます」


 ちゃんと挨拶する私、偉い。


「おはよう。突然に悪いな、メリナ」


「えぇ、私は優雅な休日のひとときを楽しんでいたので御座いますから。ところで、ご用は何でしょうか?」


 ベセリン爺が私のサイドにも茶を置いてくれました。そして、そのまま退出します。出来た執事ですね。


「早速だがな、メリナ、お前な、一回も授業を受けていないだろ。指導のためにやって来た」


 まぁ!

 なんて詰まらないことでいらっしゃったのでしょう!


「そうでしたか? 私の記憶にはないです」


「そうか? 出席簿に記録がないぞ」


 チッ。そんな帳簿があったのか。


「ないない尽くしですね。うふふ」


「お前な、テストの成績が悪いともう一度、1年生をしないといけなくなるぞ。サルヴァのように留年したいのか?」


 ……何ですかね、その嫌がらせみたいな制度は。訊けば、成績が悪い人は進級できずにまた一年間同じ勉強をするらしいです。


「落ちこぼれが更に落ちこぼれるじゃないですか」


「こっちも退学させたい訳ではないし、かと言って、出来の悪い者を卒業生として送り出すわけにもいかないからな。なお、サルヴァはもう5年も1年生だ。一般貴族ならさすがに退学だろうさ」


 おぅ…………。

 本当にバカだったんですね。あいつ、母親が云々とか言っていましたが、もう遅いですよ。そんなの絶対に友達できないです。


「という訳でな。メリナ、来週の月光の曜日はちゃんと授業を受けるんだぞ。放課後には俺が補習してやる。分かったな? テストはその翌日の火炎の曜日だから備えておこう」


 ふむ。レジス教官はきちんと教師をしていますね。私、感心します。参考になります。

 一応、尋ねておきますかね、科目を。


「お前、本当に物を知らないんだな……。この時期に編入してきたんだろ? ブラナン王国のエリートじゃないって言うのか……。まぁ、良い。貴族のほとんどは将来は土地を管理する。だから、地理と歴史は必須。土地の面積を算出する幾何と算術も同様。文法や作法は前の学校でやっているだろうから、範囲外だな。1年生はそんなもんだ。安心しろ。そんなに難しい訳ではない。来年になれば、法律、修辞が加わる。頑張ろうな」


 熱く語ってくれましたが、不愉快です。

 特に幾何と算術が気になります。


「私、入学したてなんですから、テストは無謀じゃないですかね?」


「ふむ、その通りだな。だから、ちゃんと配慮する」


 多少の点数加算はあるって事かな。いや、しかし、私は騙されませんよ。


「ショーメ先生もお前を気に掛けて来てくれたんだぞ。感謝するんだ」


 あいつは関係ないだろ。どれだけハニートラップに嵌まっているんですか。



 さてと、状況は分かりました。それでは本題を切り出しましょうかね。来週早々にテストかと思っていましたが、少し余裕が出来ましたし。



「レジス教官、私も教師になりたいと夢を持ちました」


「ん? そうか、そういう将来のことを考えるのは大事な事だぞ」


「はい。ありがとうございます。なので、そのテストが始まる火炎の曜日とかまでに私を学校の先生にしてください。テストを受ける側でなく出す側になりたいんです」


「……は? 正気か?」


「はい。正気でも狂気でも良いです。どうしたら良いですか?」


「厳しい採用試験があってだな。それは生徒が受けるテストよりも――」


「そういう御託は不要です。お願いします。採用認者は誰ですか? 教えて頂きたいのです」


 そいつに頼み込めば何とかなるでしょう。試験とかテストとか、点数でしか見れないなんて悲しいです。私はそんな枠に填まる人間では御座いませんし。私が持つ人としての魅力で教師となりましょう。


「いや、しかし、メリナ。無茶が過ぎ――」


 この私には分かっていましたよ。お前が渋ることを。強力なライバルが誕生する訳ですからね。

 しかし、私は取引材料を持っているのです。



「レジス教官。余計なお世話かもしれませんが、私、ショーメ先生との仲を取り持つことができますよ」


 私の言葉は鋭くレジスの心に刺さったようです。明らかに動揺しています。だから、畳み掛けるのです。


「ショーメ先生とレジス教官、お似合いだなぁって思います。いやぁ、お二人の子供見てみたいなぁ」


「いや、しかしだな、メリナ――」


「お隣のクラスのダグラス先生でも良いんですけどね」


「メリナ、学長と副学長だ。二人が判を押せば、それで教師だ。夢が叶うと良いな。俺は全力で応援しよう」


 ショーメよ、お前の乳当ての紐が役立ったようです。感謝致します。


メリナの日報

 蟻さんは一生を労働で費やします。

 私と同じ境遇で可哀想です。

 だから、応援します。


 あと、レジス教官が家に来た。

 

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