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戦場に立つ

 イルゼさんの転移魔法で、どこかの平原に出ました。フロンは昨日にアデリーナ様に付いてシャールに戻りましたので、私の横に立つのはガランガドーさんのみです。


 彼は大変に気落ちをしています。

 アデリーナ様に想い焦がれた挙げ句に人の形になったというのに、彼女からは特に感想も得られなかったのです。むしろ、竜のままの方が良かったと言われる始末です。つまり、人に成り損だったのです。



「主よ、何故に我は生きているのであろうな」


 こんな調子です。


「死んだら竜に戻れるかもしれませんよ。昨日も言いましたが、胴体を2つに分断してみますか? 私、協力しますよ」


「主の考えは怖いのである。分断すると言っても、股割きで体を2つにしそうである」


「ほら、痛みに耐える勇気もないのに、弱言(よわごと)を言ってるんじゃありませんよ。バーダも悲しむでしょ」


 そう言って、私は胸に抱く子竜を撫でます。それから、これからの戦場に目を遣るのです。


 戦場はなだらかな草原。木も少なく、辺り一面が見渡せます。向こうの低めの丘陵は旗がひしめき合っており、シャールを中心とするであろう大軍勢がはっきりと見えました。


 対して、こちらの諸国連邦軍も草原を挟んだ同じ様な高さの丘陵に陣を置いておりまして、馬に乗った伝令などが忙しなく、各軍団や部隊の間を駆け回っていました。



「お前、少しくらいは活躍しなさいよ。そうすれば、アデリーナ様も見直してくれるかもしれません」


 あの人、有能な者はどんな(やから)でも厚遇するとか昔に言っていた気がします。実際に、野蛮で頭の悪いアシュリンさんを大切にしていますし。


「良いですか? アデリーナ様を殺す気で行きなさい」


「殺してはおかしいではないか」


「バカヤロー。昨日で実感しなかったのですか? 今のお前では絶対にアデリーナに勝てませんよ。凶悪な竜の姿になってこそ、本領を発揮するのがお前でしょ! 今の姿で、口からデスビームを吐けるのですか!? 殺されても良いから、殺す気で行けと私はお前のためにアドバイスしてやっているのですよ。そもそも自称が死を運ぶ者のくせに何を躊躇うんですか」


「……しかし……」


「あー、もう! 『我の姿に震えるが良い、弱き者ども! この冥界を支配する我の真価を見せようぞ』とか、痛々しい言葉を吐くバカに戻れっつーてんのですよ」


「主よ……」


「もう行きますよ。お前は振られたんです。諦めなさい。今日は何もかも忘れて暴れて良いです」


「……うむ。そうであるな。主よ、厳しくも温かくもある庭訓、我に染み入る。有り難くお受けする」


 ガランガドーさん、その後、二回ほど大きな雄叫びを上げました。竜ではなく人の雄叫びですのですが、それでも、草原に響きます。あと、バーダも小さな口で可愛らしく鳴いておりましたので、ヨシヨシと頭を撫でて上げました。



「お二人とも気合いが入っておりますね」


 そうこうしていると、ショーメ先生が声を掛けてきました。

 服装は教師の時の淫らな服装ではなく、少しフリフリも付いたメイド服でして、もう諸国連邦の方々にデュラン出身であることを隠すことはお止めになっているみたいです。そもそも、クラス対抗戦でパットさんにあっさりと公にされていましたものね。


 レジス教官はどう思っているのでしょうか。影のあるショーメ先生は更に素敵だとか、ぬかすんでしょうね。


「デンジャラス様よりご招集の令が入りましたので、こちらにどうぞ」


 ショーメ先生に案内されて、本陣へと入りました。今日は人が多いので屋根付きの天幕ではなくて、広さを優先しておりまして、周りの視線を遮る程度の幕で囲まれた簡易のものです。その囲いの中に木の長机が四列ほど拵えられていて、ズラリと武装した方々が座っておられました。

 一番奥には別の机がありまして、その真ん中にサルヴァがデンと座っていました。一応は、この諸国連邦を率いる立場にあるからでしょう。

 そして、サルヴァの両脇にはデンジャラスさんとメンディスさんが位置します。彼らは私よりも先にイルゼさんの転移魔法でこちらに来ておりました。


 私とガランガドーさんは彼らに最も近いところに座らされます。この席も、所謂、お偉いさん席なのだと思いました。



 正面端っこにいたタフトさんが紙を大きな板に広げて貼ります。それを見ようと、皆さんが席をずらします。ザザッと地面が擦れる音はするものの、会話は一つもなくて緊張感のある雰囲気が漂っています。



「こちらが相手方の布陣になります」


 手に持った棒で示しながら、タフトさんが説明します。


「兵数につきましては、事前の予想と違い、我らが三倍程、優位にいます。ブラナン王国側は総力を上げている訳ではないと言えます。しかし、我らとしてはこれに油断することなく、諸国連邦の武威をこの地に刻み付けましょう」


 タフトさんの説明とは相反しますが、アデリーナ様がそんな手緩いことをするでしょうか。いきなり凄い疑問です。

 今は模擬戦となっていますが、昨日までは本気で戦争をする気だったんですよ。

 それに、大規模戦力で蹂躙とかが好きそうな性格してますし。



「次に、敵部隊について説明します。まず中央前面ですが、シャール伯爵軍が配置されています。騎馬を中心とした突撃部隊になります。左翼はシュリ侯爵軍で、こちらも騎馬が主体。一部は飼い慣らした魔獣に乗ってもいるそうです。右翼は混成軍でして、シャール守備隊、旧バンディール侯爵領の軍残党、シャールに雇われた冒険者達となっているそうです。最後方に控えるのは、魔法斉射部隊ですが、今回、彼らは模擬戦争には参加せず、負傷者への回復魔法に専念すると聞いています」


 本当の戦争なら、魔力に優れた者が圧倒的に少ない諸国連邦は遠くからの魔法攻撃で大混乱になっていたかもしれませんね。


 タフトさんは続けます。


「両翼の後方には小規模の軍団が配置されています。左翼の後ろはブラナン王国の都であるタブラナルの守備隊、彼らはシャールで演習中でして、今回の模擬戦に参集されたそうです」


 あれか……。ここに剣王がいると見た。私が育ったノノン村に滞在して、そこから深い森で王都から来た人達と修行するのだとアデリーナ様から聞いた為です。あの森は亡霊がうじゃうじゃいますので、あのくそ生意気な男も精神が磨り減っていることでしょう。


「右翼後方は冒険者達。前方の混成軍に入りきらず、前線を任すには力量が足りないと判断された者達です」

 

 金に釣られた人達ですね。性格も質も良くないのでしょう。

 私が巫女見習い時代に少し冒険者の方々ともコンタクトしたことがありますが、一部の友人や知人を除き、荒くれ者どもが多かったと記憶しておます。夜の食堂で楽しくお食事していただけなのに、知らない冒険者に襲われた事も有りました。でも、基本は弱っちくて諸国連邦の人達でも良い勝負が出来るでしょう。



「本陣については周りをシャールの正規軍で厚く固めていますね。こじ開けるには気合いが要りそうですので、頑張りましょう。敵布陣については以上です。さて、これより作戦をお伝えします。我らは敵左翼と中央に全力で当たります。但し、突撃はせず、数的有利を利用して戦陣を維持することを最優先とします。その間に、別動隊が右翼を破壊し、最終的には囲んでの降伏勧告まで持っていきたいと考えております」


 ここで誰かが挙手しました。あっ、メンディスさんとサルヴァの妹であるブリセイダさんですね。


「3つ質問がある。一つ、何故に左翼に我らの主力が当たるのか。柔いと推測される敵右翼に向かうべきだと私は思う。二つ、ここには諸国連邦の軍しかいない。デュランの軍が会戦に参加しない理由を聞きたい。三つ、メリナ殿はどこの国の部隊に所属するのか。四つ、模擬戦などと今更言われても納得が行かない。もしも勝てば、シャールまで攻めても良いか」


 まぁ、欲張りですね。最初に言った数よりも多く質問されましたよ。


「ここは俺が答えよう」


 メンディスさんが座ったまま、妹に語り掛けます。


「質問の順番通りではないが、メリナは敵右翼に向かう別動隊だ。と言うよりも、メリナとそこの浅黒い男の2名だけが別動隊だ。お前もメリナの化け物過ぎる戦闘力を目の当たりにしているから異存はないな。そこの男も説明は省くが大概だ。それから、俺達の最大戦力であるメリナを敵主力に向かわせないのは、罠を警戒したものだ。信じ難い事にメリナは竜特化捕縛魔法に極めて弱いらしい。メリナで敵主力を叩くのがセオリーなのかもしれないが、それは相手にも読まれているだろうという結論だ」


 ん? 私、何も聞いてないんですけど、大変な仕事を任されていませんか?

 素朴な疑問を私は抱きましたが、関係なくメンディスさんはブリセイダさんに続けます。



「デュランの軍についてはナドナム軍とまだ対峙しており、ここには間に合わなかった」


「それについて深く謝罪致します」


 デンジャラスさんが頭を下げました。頭に太陽が反射して眩しいです。


「代わりに、私とそこのフェリスが、メリナさんに負けぬ程に尽力致します。良いですか、ブリセイダ? 私の力はご存じでしょう」


 あっ、そっか。学院ではブリセイダさんはデンジャラスさんの生徒でしたね。


「師が言うならば。しかし、今日の勝利は諸国連邦だけのものとなりましょう」


「意気込みは買いましょう」


「そうだな、ブリセイダ。勝ったからと言ってシャールまで攻めるとなると諸国連邦から遠過ぎる。後は俺の交渉に任せろ」


「兄様が戦意に狂う兵を制御できますか?」


 ブリセイダさんも遠慮しませんねぇ。

 もっと賢い人だと思っていましたよ。


「兄者もプリセイダも、大将は俺だ。退くも進むも、俺が全てを決める! 良いか、皆! 今日は記念すべき日になる! 負けても勝ってもだ! 俺達の戦いは必ず歴史に残るのだからな! だから、絶対に恥ずべきことはするなっ! 拳王たる俺の背中に付いてこい!!」


 いきなり立ち上がったサルヴァが熱弁を振るいました。


「拳王サルヴァに剣を捧げよ! 」


 サルヴァが自分で掛け声を上げると、諸国連邦の全員が立ち上がり、剣を抜き、空に掲げます。

 それから、


「「ダー、ファムデジカエウグディオ!!」」


 と、戦闘前の誓いの言葉らしき物を一斉に発しました。



 私とガランガドーさんは座ったままですけどね。


「主よ……アデリーナが敵陣に入った」


「分かるのですか?」


「うむ。聖女の転移である。竜神殿の戦闘要員を運んだようである」


 イルゼめ、お前、模擬戦と謂えど敵を増やしてどうするんですか! あっ……神殿の戦闘要員?


「もしかして巫女長も……?」


「来ておるな……」


 ヤッベー!! あの人はヤバイ。

 死人が続出するかもしれない。巫女長は悪気なく、あっさりと、躊躇いもなく殺人を犯せる性格だと思うんです。お淑やかな私とは対局にいる人です。


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